MENU
カテゴリー

「まずは土俵に上がってから」~2022.4.6 J1 第7節 ジュビロ磐田×川崎フロンターレ レビュー

目次

レビュー

■武器をつなぐものがない

 川崎が今季苦しんでいるのは前線からのプレッシングが強烈なチーム。自陣でCBが時間を奪われるような守備の仕方をしてくるチームが苦手である。今季ここまでの磐田の戦い方を見ると、彼らは相手のバックラインに強気のプレッシングを仕掛けてくるチームではない。

 よって、川崎にとってはこれまでとは少し違う課題が求められることになる。強気でプレッシングを仕掛けてくるチームには、バックラインは時間がない中で相手の守備ブロックの穴を突くプレーが求められるが、プレスにそこまで出てこないチームに対しては、与えられた時間で相手に穴を開けることを求められる。

 よって川崎は相手をずらしながら後方からのボール運びができるかどうか?というのがこの試合のポイントとなっていた。が、はっきり言ってこの試合ではそのポイントをクリアすることができなかったと言っていいだろう。

 攻略の糸口がなかったわけではない。前線には相手のバックラインに対して優位を取れる選手はいる。例えば左サイドのマルシーニョ。スピード不足の磐田のバックラインに対しては、マルシーニョのスピードは武器になる。磐田は突破されてもカバーが効く伊藤を中央に置くことで対応していたが、それでもこちらのサイドの突破には手を焼いていた。

 もう一つ武器になったのは知念のポストプレー。ピッチの中央で体を張ってボールをキープできる知念の存在によって川崎はボールを収める起点を作ることができていた。

 だが、こうした武器を川崎が存分に生かすことができていたかは疑問である。なぜならば、川崎はこうした武器を活用するための舞台をうまく整えることができなかったからである。マルシーニョに関して言えば、側から見て『もう明らかに裏のマルシーニョに出すしかないだろうな』っていう状況での裏抜け活用が多く、磐田のバックラインもある程度準備ができていた。

 知念に関しても同様。周辺のサポートをうまく使える場面が少なく、ポストを活用して前進できる場面は非常に限られていた。時折、脇坂が落としを受けにくるのだけど、脇坂自身がボールに寄り過ぎてしまう+その他の周りの選手がポジションを上げる準備ができていないため、次の展開が準備できない。

 そもそも2人のプレーは川崎にとってどういう立ち位置のものなのか。ざっくりいうと、知念のポストは深さを作りつつ、周りの選手に前を向かせるための準備になっていて、マルシーニョの裏抜けはアタッキングサードの侵入になることが多く、より仕上げに近い武器。うまく組み合わせれば、ポストで前を向く選手を作り、マルシーニョへの裏抜けを出して一気にアタッキングサードに進むことができる。なのだが、この日の川崎にはこの2つの武器の間に入ることができる選手がいなかった。

 間を取り持つ選手がいない分、川崎はそれぞれのパーツがバラバラになってしまっている感があった。17分のように背中で背負う知念→マルシーニョのポストプレーからチャンスが生まれる場面はあったが、これもできれば間に前を向く選手を作ることができれば、よりチャンスを作りやすくなる。

 ポストを受けた選手がドリブルをしながら、マルシーニョにパスを出すタイミングを伺ったり、あるいは現れた他の選択肢を精査することができるからである。守備側もその選択肢に悩まされることになる。逆にマルシーニョしか選択肢がない場合はDFラインは決め打ちでそこのパスコースをカットすればいいのだから簡単だ。

17分のシーンの課題
17分のシーンの改善案。選択肢を作る

 この日の川崎は逆サイドにおいてもDFラインの駆け引きで勝負できる小林がいたが、この一呼吸を入れることができないことでうまく活用ができなかった感がある。物理的な速さがあるマルシーニョ以外の裏抜けが活用できなかったのは下準備ができなかったからである。

 裏抜けだけではなく、この日はサイド攻撃においても同じ。いつもの川崎だったらトライアングルを使いながらDFラインの奥をとり、相手のブロックを抉るように攻撃を仕掛ける。だけども、この日はサイドの壊し方も3人ではなく2人のことが多く、これでは相手を自分たちの手の中で動かすことはできない。

 30分を過ぎてようやく出てきた遠野の抜け出しのような動きがなければチャンスを作ることはできない。逆に言えばチャンスメイクに30分かかったということ。前節のC大阪のようにプレッシャーが強いわけではない相手に対して、自分たちで動きをつけながら形を作ることがそもそもできなかったのが苦戦の大きな要因だ。

■前後が噛み合わないプレス

 そうなってしまった要因は中盤より後ろのサポートに苦しんだことにある。特に脇坂と橘田はいつも通りの動きができなかったように思う。

 脇坂はいつもに比べるとサイドの攻撃参加を放棄してエリアの突撃を目指すことが多かった。これにより、右サイドのサポート不足に加えて、エリア内でのポジションかぶりによる渋滞が発生してしまい、敵陣にボールを運んでからエリア内侵入のフェーズというIHの主な働きどころで存在感を発揮できなかった。たとえば、ハーフスペースの裏抜けのように汚れ仕事をこなしながら、味方の輝くスペースを作る動きはもっと見たかったところである。

 橘田はビルドアップにおいてやたらボールサイドに寄ってしまうという前節の流れを踏襲。13分のようなサイドに出て行っての強引なドリブルからのボールロストはアンカーとしては絶対やってはいけないプレーである。

 橘田は元々、止まるというよりも動きながらゲームメイクするタイプではあるけども、中断明けからは極端にサイドに寄ったり、あるいはIHを追い越して前線に攻撃参加したりなど、ちょっと空回りしている感じがする。守備においてもサイドに出ていく判断がリスクをとりがちになったり、IHを追い越すような強引なプレスの参加で自陣に穴を開けるシーンが目立つようになってしまっている。

 チーム全体のプレスにおいても中盤と前線の関係性がかなり悪かったように思う。左サイドでマルシーニョが左サイドのWG切りプレスに失敗し、カバーに走る遠野が大忙し!というのは日常の光景であるが、気掛かりなのは右サイド。

 家長、マルシーニョ以外のWGが起用される場合は非保持においては外切りハイプレスではなく、シンプルにラインを下げる形で2列目の守備に加わる機会が多い。この日の小林もグラッサと小川の中間くらいのポジションを取ることが多かったのだが、後方の脇坂や橘田、山根が前のめりで小林を追い越す勢いだった。

 前方が前のめりで、後方がついてこなくて間延び!というのは割とよく見るパターンなのだけど、逆のパターンはあまり見ないような感じ。前線が積極的ではない分、ホルダーにはプレスをかけきれない形が多かった川崎にとっては磐田のビルドアップを引っ掛けるのはやや難しかったように思う。

 川崎にとって助かったのは磐田のボール保持のクオリティである。川崎の1列目のとの駆け引きは十分に磐田はできていたし、降りてくる大森やバックラインの数的優位を活用しながら前を向く選手を作ることはできていた。しかし、そこから前線に繋ぐまでのパスにスムーズさを欠いている。

 23分付近においては右サイドを軸に磐田にもチャンスの場面が訪れていたが、明らかに磐田のペースと言えるのは前半においてはこの時間帯くらい。川崎は磐田の精度の低さに助けられた部分も大いにあった。

■アタッキングサードにおける課題は据え置き

 後半になって川崎のサイド攻撃はやや改善されたように思う。立ち上がりの右サイドの動きを見ると、前半よりはサイド攻撃への人数の掛け方は十分になった。

 加えて、プレッシングからのチャンスメイクも。前線と中盤のプレッシングが噛み合い、磐田のバックラインを捕まえ、敵陣から脱出を許さない。

 いつもならば、このまま問題なく攻略し切る流れ。だが、エリア内のラストパスの精度、そして動きがかぶることによってかけた人数ほどのサイドの崩しの効力を発揮できないというジレンマに陥ることになる。

 さらに、磐田が落ち着いて徐々に川崎のプレスに対して脱出口を見つけることができるようになってきたのも大きかった。右サイドを中心に川崎のWGを引きつけながらWBで川崎のSBを引っ張り出し、SB-CBの間から裏のスペースを使いながら相手を押し下げていく。ジャーメインのようなスピード系の選手が入ったこともこの傾向に拍車をかけた。

 70分前後くらいからこの流れを作ることに成功した磐田はCKの流れから先制点をゲット。エリア内からの脱出はできた川崎だったが、小塚の不用意なドリブルでボールをロスト。サイドを破られて中央に侵入した大森へのクロスを阻害することができなかった。

 失点シーンの佐々木は大森へのクロス以外に警戒することがなかっただけに、この対応は悔やまれるところ。このシーン以外にもサイドからも簡単に裏を取られる場面が目立ってしまい、佐々木にとっては課題の多い試合となった。

 小塚、家長の投入で収めどころとなる2人でIHを一新したことにより、ビハインド後も敵陣でのプレータイムは得ることができた川崎だが、オフザボールの動きの悪さ、かぶり、そしてラストパスの精度がどれをとってもいつもの水準には戻らない。

 それでも、クロスから相手のミスに助けられてなんとか同点には追いつくことができた。三浦にとっては痛恨のミスだったが、その後迎えたピンチを飛び出して防いでいたのを見ると非常にタフな選手なのだなと敵ながら思う。

 後半追加タイムのGKのミスでドローのアウェイゲーム。川崎にとってはちょうど1ヶ月前に起きた出来事を思い出さずにはいられないだろう。苦しい内容のアウェイゲームでなんとか勝ち点をもぎ取った。

あとがき

■出力のピーキングはしたい

 あと一歩のところで勝利に漕ぎ着けることができた!と思えば惜しいのかもしれないが、磐田は内容的には苦しい場面が多かった。川崎が自陣まで押し上げられない時間帯をもう少し効率的に使うことができなかったのは力不足な感が否めない。

 この日の川崎の出来を考えれば、前半の内に先制点は欲しかったはず。相手の悪い時間に畳み掛ける馬力のなさはやや不安が残る。型がしっかりしているだけに、出力のピーキングの掛け方が身につけば面白いチームになる感じはするのだが。

まずは自分たちから

 プレビューで『いつも通りを取り戻す』という目標を掲げたが、大失敗と言っていいだろう。苦しいアウェイゲームに、GKのミスが最後の最後で同点を呼ぶという点でパナスタでのG大阪との試合と並べる人もいるだろうが、あの試合の後半は5バックを左右に振り回すことができており、クオリティで言えばこの日とは比べ物にならない。

 大敗したC大阪戦でのプレーと比べても改善したかは微妙で、橘田や脇坂のような一部の選手に関してはさらにコンディションが低下したと言っても過言ではないだろう。サポートの動きが少なく、これだけ味方を使うための選択肢が少なくなってしまえば、どんなチームが相手であっても勝てない。

 次の相手は調子のいい柏であり、もちろん戦い方を意識しなければ勝てない相手ではある。だが、それ以前に自分たちがやるべきことをやらないと土俵にすら上がることが出来ない。自分たちばかり見てどうする!というかもしれないけど、相手を見るのは自分たちならどこで勝負すべきでどこで勝負を避けるべきなのかを精査するため。勝負できるポイントが自分たちになければ話にならない。

 まずは自分たちのやるべきことをきっちり思い出すこと。そこから始めなければいけないほど今のチーム状態はよろしくない。セットプレーに助けられてばかりの川崎ではもうだめなのだ。

試合結果
2022.4.6
J1 第7節
ジュビロ磐田 1-1 川崎フロンターレ
ヤマハスタジアム
【得点者】
磐田:77′ 大森晃太郎
川崎:90+3′ 知念慶
主審:上田益也

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次