MENU
カテゴリー

「必然だった決勝点」~2019.1.12 プレミアリーグ 第22節 ウェストハム×アーセナル レビュー

 新監督での下、2連敗同士という対戦となったのは第3節のこと。当時はまさに地獄のようなシチュエーションだった。この試合で連敗を止められなかったウェストハムだったが、5節目に初勝利を挙げた後、徐々に復調。4連勝も決めるなどして、チームは中位に浮上している。前回のアーセナルとの対戦では、前線のタレントの殴り合い対決の様相を呈していたように、もともとのタレント力は十分。主砲のアルナウトビッチの中国移籍を食い止めることができれば、まだまだ上位を狙うことができそうだ。個人的には中国でアルナウトビッチが(いろんな意味で)大暴れとか、めっちゃ見てみたい。

 一方で8月の対戦で勝利を収めたアーセナルはこの試合を皮切りに連勝街道をまっしぐら。クリスタルパレス戦まで公式戦で11の連勝を重ね、12月のサウサンプトン戦で敗れるまで22試合連続で無敗を続けることになった。いわば快進撃の足がかりになったウェストハム戦の勝利だったといえる。しかし、無敗が止まってからまだ1ヶ月しか経っていないにも関わらず、アーセナルは元気がない。怪我人の続出という不運はあったものの、最終ラインに怪我人が帰ってきても成績は上向きにならず。リバプールに負けるのは仕方のないことだろうが、サウサンプトンやブライトン相手のパフォーマンスを見ると、エメリの采配の空振りや選手個々のパフォーマンス低下も見られるようになってきた。いつの間にか遠くに行ってしまった4位を追撃するためには、これ以上勝ち点は離されたくないところ。この試合では6人のけが人が復帰。対戦成績で見ればお得意様のウェストハムに勝利を収め、次節のシックスポインターに臨みたいところだ。

 スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
アーセナルが明け渡したスペース

 ビルドアップはウェストハムは両CBが開く形、アーセナルは3CBを中心にボールを回す形。両チームのプレスはウェストハムが2トップを軸とした4-4-2、アーセナルはラカゼットを中央に置きつつ、イウォビとオーバメヤンはウェストハムのサイドバックを注視するという形が多かった。両チームとも積極的なプレスはそこまで。ミドルゾーンを埋める陣形をとっていた。

 アーセナルがボールを前進させられたのは3バックと2トップの数的優位のところから。コシエルニーからウェストハムのSHとCHの間を通す楔は特に序盤によく見られた。間で受けるスキルが高いイウォビやラカゼットを起点にここから前進するパターン。ホールディング不在で発生した最終ライン左側からのビルドアップという課題は、徐々に解決の糸口が見えてきたように思える。

画像2

 というわけで割と前進は何とかなっていたアーセナル。じゃあいい感じで試合が進んでいたかといえば、そういうわけではない。気になったのはDAZNの中継にて紹介された開始10分で敵陣PA内でボールタッチがないというアーセナルのデータ。PA内に侵入できていないということは、恐らくこれは攻撃が割と早い段階で頓挫していることの証明。3-4-3のアーセナルは攻撃の最終局面においてWBへの依存度が特に高い。前節のフルハム戦で左サイドからの攻撃が40%を超え、得点の起点になりつづけたように、特にコラシナツのサイドはストロングサイド。ということでガンガン攻め上がる。しかし、攻撃は完結させられない。となると当然飛んでくるのはカウンター。アーセナルは両WBを上げているので、戻りが遅れたら後方は3-2ブロックで迎え撃つ。ウェストハムはアントニオを軸としてコラシナツの裏を攻める。アーセナルはボランチの片方がアントニオを迎撃に向かうため、今度はDFラインの前のスペースが今度はあくようになる。その位置でウェストハムの選手が前を向いてボールを受けて、さらにアーセナルのラインを下げるパスを出したり、シュートで終わったりなど。5分のシーンが典型。

画像3

 WBの戻りが遅れるとCHやCBがスライドして対応する。そうなると今度は中央が空くのだが、アーセナルのWBはCHやCBが空けた中央を埋める動きはないので、中央の人口密度でアーセナルは後手に回る。ウェストハムはナスリとアルナウトビッチが自由にポジショニング。中央に固定というよりはサイドやハーフスペースに顔を出して数的優位でサイドを打開。そこからDF手前の中央のスペースをウェストハムのCHで前を向くという展開が目立った。

アーセナルとしては「とりあえず戻る」という動きは見せるものの、誰がどこに戻るのかがあまり整理されていないように見えた。とりあえず陣形を引くけど、スペースは埋められていない。ボールを取り返せても、選手が戻ってきてしまっているので、低い位置からやり直し。という悪循環に陥っていた。

 アーセナルはボールから遠いサイドのスペースを空けているうえに、ボールホルダーにあまり厳しくチェックに行かないので、ウェストハムは裏と幅はかなり使えていた。フリーでボールを持たせると躍動するのはナスリ。彼を起点にウェストハムはスペースを使った攻撃を繰り出していく。繰り返しになるが、アーセナルは押し下げられた後に、自陣に残っている選手の数にかかわらずPA手前のスペースを埋められていないのは気になった。

 アーセナルがまずは楔を主体に進めるも、徐々にウェストハムが盛り返す。アーセナルの守備の粗が目立った前半となった。

【後半】
クリアミスというよりも

 後半早々アーセナルは失点をする。CKの流れからの守備での失点だ。ジャカのクリアミスをナスリが拾い、最後はライスがネットを揺らした。「『Squwka』が数えているゴールに直結するジャカのミスはこれで昨季から通算で5つ目で、プレミアのフィールドプレイヤーとしては最多だからジャカを獲得したのは間違いだ。」みたいなどこぞのニュースサイトみたいな話がしたいわけではない。クリアミスはクリアミスだが、これはチーム全体の問題である。

 この場面ではPA内にはアーセナルの選手が8人に対してウェストハムの選手が6人いる。ペナルティスポットの付近ではウェストハムの選手3人がフリーになっている。直線に並んでいる6人の選手は結果的にこのシーンでは役に立たなかった。。もっと言えば、クロスを上げたアンデルソンとマッチアップしていたのはFWが本職のラカゼット。誰もカバーに行かなければ、抜き去られるのは必然だろう。じゃあ一番近くにいたゲンドゥージが悪いかといえばそれだけではない。

 ゲンドゥージが持ち場を離れてカバーにいけば、ニアサイドにより広大なスペースが広がることになる。最終ラインがジャカに合わせて、ラインを下げることを決めた時点でPA周辺でウェストハムにスペースを与えることは決まっていたようなもの。クリアミスという一言で片づけてしまうのはあまりに雑だ。前半から明け渡していた、自陣深い位置でのDFラインの前のスペースをこのシーンもケアできなかったに過ぎない。危険なスペースを与え続ければ、ミスも生かしやすいだろう。アシストしたナスリもゴールを決めたライスもクロスを上げたアンデルソンもフリー。ジャカはこのシーンで率先してラインを下げているので、クリアミス以外にも責任は大いにあるが、そもそもチーム全体としての守備の約束事の方を疑いたくなるようなシーンであった。クリアミスはたまたま。しかし、それをゴールに結び付けられたのは、再現性のあるスペース管理からであるといえよう。

 ここからアーセナルはラムジーとトレイラを投入し4バックに移行。ウェストハムはプレスの枚数を調整し、ナスリはアーセナルの中盤のマークに注力するようになった。ここからはアーセナルがややペースを盛り返す。ピッチの空いているスペースに顔を出しまくるラムジーがよく効いており、ボール回しはやや円滑になった印象。しかし、ゴールまでは遠い。

 ウェストハムは最後にキャロルを投入するというおなじみのいやがらせを披露。試合の終盤には危ういシーンもあったものの、きっちりオフサイドを取って決定機を防いだ。そのまま逃げ切りを決めたウェストハム。苦手としていたアーセナルを下すことに成功した。

まとめ

 勝利を決めたウェストハム。最終ラインは若干危うい対応も見られたが、アーセナルに比べればしっかりしていたし、前線の連携面でいえばアーセナルを上回ったといえる。ヤルモレンコ、チチャリート、バルブエナ、ウィルシャー、ランシーニ、サンチェス、リード、フリードリヒなど負傷者を大量に抱えていたにも関わらず、アーセナルに対して地力の差を見せつけた格好になった勝利。この試合でリーグ戦デビューとなったナスリの補強はチームにとってもプラスになりそうで、まえがきにて述べたアルナウトビッチの去就さえ定まれば、多少不安な守備陣をカバーできる前線の陣容が揃いそうだ。

 お得意様のウェストハムとペジェグリーニ相手に勝利をつかめなかったアーセナル。シーズン序盤に見られた勢いのいいプレスは鳴りを潜める上に、自陣に引いて人数をかけても守り切れず。パフォーマンスが徐々に低下している証拠だろう。以前から指摘しているように守備がこれだけ不安定では勝ち点を積み重ねることは難しい。現状のスタメンにおいてもコラシナツやゲンドゥージは確実に守備の穴になってはいるものの、違う盤面では重要な役割を果たしているのは事実。前者は最終局面の攻略に必要不可欠な存在だし、後者は積極的なプレスで数少ないポジトラの起点になった。粗さは目立つが、使わないと攻撃が回らないという悪循環に陥っているように見える。交代でいい流れを引き寄せたラムジーもチームを去ることが決まっている選手だ。サウサンプトン戦で無敗が止まってから、チームを取り巻く雰囲気は怪しくなり始めている。ピッチ外の話題も不穏なものばかりだ。年末年始を経てアーセナルを取り囲む空気はエメリ就任後最悪と言っていい状態に。不安は大きくなりながら、次節のビックロンドンダービーを迎えることになってしまった。

試合結果
プレミアリーグ 第22節
ウェストハム 1-0 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
48′ ライス
主審:ジョナサン・モス

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次