①ウェールズ×オーストリア
■柔軟性×千両役者で王手
自分自身がスウェーデンとチェコという、バリカタの試合を見た後に見たからかもしれないが、この両チームの対戦は互いの攻撃における持ち味を全面に押し出しているスタンスを見ることができたように思う。
先手を打ったのはオーストリア。ウェールズの5バックはミドルゾーンに構えながら、隙あらばラインを上げてのプレッシングを狙っていた。そのため、オーストリアとしてはバックラインの裏側を突くようなフリーランが有効。トップのアルナウトビッチの左に流れる動きと、トップに入り込む左サイドのバウムガルトナーの動きを組み合わせることでチャンスを生み出せるように。
斜め方向の動きの多さがこの日のオーストリアの攻撃の特徴。ロングボールでの展開は多いが、前線が動きながら受けることでウェールズの対応を困難なものにしていた。
一方のウェールズはバックラインからの繋ぎでオーストリアのSHを吊り出すところからスタートする。オーストリアはSH、SB共にプレッシングの前向きの矢印は強かったので、その動きを利用して最終ラインの裏をサイドから狙う形でハマった。
とりわけ、ジェームズのフリーランはオーストリアにとっては厄介。リーズに移籍したことで、今年のジェームズはよりプレーに責任感が出てきた感じだ。彼に加えてIHのウィルソン、ラムジー等が前に出ていき、サイドの裏をつく形でラインを押し下げる。
ウェールズのボール保持はオーストリアに比べると柔軟だった。オーストリアのバックラインが同サイドにスライドすると見るや、逆サイドに素早く展開。奥がダメなら幅という形でサイドを入れ替えながら、オーストリアの薄いサイドを作りながら壊すという形で試合を優位に進めるように。薄いサイドを作った後、単騎で突破できるネコ・ウィリアムズの存在も大きかった。
縦ではなく、横の変化をつけられるウェールズの対応にオーストリアは苦慮。たまらず犯したファウルを生かし、ベイルが超絶FKを叩き込む。さすがの大舞台の強さである。
オーストリアは時間が経つとともにロングボールに対して前線の足が止まるようになる。これにより、ピッチを広く攻めるウェールズとの対比が鮮明に。オーストリアの保持に迷いが出て、甘いマイナスのボールをつけると、ウェールズはそれを見逃さずに深追いし、カウンターに打って出る。オーストリアの保持でも徐々にウェールズは存在感を見せていた。
後半、そうしたバックラインへの強いプレッシングを起点とした形で得たCKでウェールズが追加点。決めたのはまたしてもベイルだった。
オーストリアはミドルゾーンからのスピードアップに苦しみ、なかなか攻勢に出ることができない。それでも、右サイドのコンビネーションを起点に押し込む隙をザビッツァーのミドルをなんとかねじ込み1点差まで詰め寄る。2点目をとってもプレスの手を緩めなかったウェールズに苦慮しつつ、終盤は敵陣のゴールに迫る機会を得たオーストリア。
だが、オーストリアが喉から手が出るほど欲しかった同点弾は手にすることができず。後半追加タイムのウェールズのピンチはデイビスがシュートブロック。追撃弾における失点時にコースを変えてしまった無念を晴らす格好になった。なんとか凌いだウェールズはワールドカップ出場に王手をかけた。
試合結果
2022.3.24
カタールW杯欧州予選 プレーオフ 準決勝
ウェールズ 2-1 オーストリア
カーディフ・シティ・スタジアム
【得点者】
WAL:25′ 51′ ベイル
AUS:64′ ザビッツァー
主審:シモン・マルチニャク
②スウェーデン×チェコ
■我慢比べを制したスウェーデン
ナショナルチームは何か創造的なものを創出するというよりは、手元にあるリソースを活かしながら、どのようにボロが出ないかに注力するチームが増えた!というのが昨年のEUROを見た感想である。
スウェーデン×チェコは特にそうしたナショナルチームの傾向が強く出た試合だったように思う。その中でも手堅さを見せたのはスウェーデン。WBを高く上げるチェコの3-4-3のスタイルに対して、2トップは中盤を封鎖。SHはワイドのCBとWBを両睨みしながら監視。チェコのバックラインに積極的にプレッシャーをかけることはしないが、ミドルゾーンから先に行かせない!という形で中盤に防波堤を築く。
チェコはミドルゾーンでスウェーデンの壁にぶち当たり、むしろスウェーデンのショートカウンターからピンチを迎えてしまうという困難に。
というわけでチェコはロングボールを使いながらプレッシングを回避する選択をする。EUROを見る限り、シックがいない中で長いボールを収めるというのはチェコにとっては難題だった。それでも、スウェーデンに得をさせては意味がない。少なくともスウェーデンの中盤の包囲網が物理的に届かないロングボールならば、スウェーデンのショートカウンターのチャンスは摘み取ることができる。
このチェコの振る舞いのように自分達がうまくできるかは別として、相手が得する状況を回避するというのはEUROで感じた代表チームらしいアプローチ。そして、試合展開に沿って色を変えることができていたチェコらしいアプローチであった。
そして、スウェーデンは意外とこの対応に苦しんだ。セットプレーでの危機も含めて、PA内に押し込まれた状況においては意外とチェコには得点のチャンスはあったように思う。それ以外の形ではチャンスを見出せていなかったけども。
スウェーデンの保持はEUROや今予選でおなじみだった3-2-5に変形する形。シャドーに入ったフォルスベリは元々フリーマンとして動くことが多く、自由に任せられていた感があったが、この試合ではより一層行動範囲が広がった感じ。バックラインまで下がってビルドアップに関与することも多かった。
スウェーデンの狙い目はチェコのバックラインをフォルスベリで手前に引き寄せること。フォルスベリの引く動きに合わせて、他の前線が裏を狙う動きを組み合わせることで、左のハーフスペースの背後をつく形でチェコを追い込んでいく。チェコは5-4-1での撤退守備で裏へのラインを消すことでこれに対応する。
前半に引き続き、後半も非常に手堅い展開が続く。より攻勢に出たのはチェコ。サイドから3人目の裏抜けの形を使いながら敵陣に迫っていく。チェコに比べれば、スウェーデンは極端にラインを下げてPA内に人数をかける形を採用しなかったので、チェコにはPA内にスペースがないこともなかった。
だが、数回迎えたチェコの決定機はことごとく枠内にシュートが飛ばない。抜け出したクフタや、ファーサイドでクロスをフリーで待ち受けたハヴェルなど、ここで少なくとも枠には欲しい!というところでのガッカリシュートが目につく。
スウェーデンはチェコの撤退守備の対策として、クルゼフスキをサイドに移す形で対応。チームで最も横に入り込む動きをうまく活用できるクルゼフスキのサイドからのカットインはチェコのブロックを脅かす数少ない手段。右のクルゼフスキからのチャンスメイクで、ファーに構えるイサクにクロスを当てる形を狙っていく。
後半はどちらかといえばチェコペースだったが、延長に入るとスウェーデンがペースを取り返す。やはり、先導役となったのはクルゼフスキ。トッテナムでのプレータイムはかさんでも、使い減りがしないのも魅力。プレーの強度を落とさずにプレーを続けて、スウェーデンのチャンスを作る。
流れを握ったスウェーデンは交代選手でさらに追い立てる。カールストロームの配球から、イサクに縦パスを入れてクアイソンとの連携でチェコの中央を一気にぶち破った。スバンベリの縦へのフリーランも含めて、スウェーデンの攻撃陣の画がうまく重なった得点となった。
チェコはワイドのCBの攻め上がりを見せるなど、終盤まで粘りを見せたものの、延長戦での先制点にやり返す気力はなし。リードした展開で向き合いたくないチームとしては世界屈指のスウェーデンのブロックを越えることができず。試合はそのまま終了し、スウェーデンがポーランドの待つ決勝に駒を進めることに成功した。
試合結果
2022.3.24
カタールW杯欧州予選 プレーオフ 準決勝
スウェーデン 1-0 チェコ
フレンズ・アレナ
【得点者】
SWE:110′ クアイソン
主審:マイケル・オリバー
③イタリア×北マケドニア
■悲劇の引き金はアタッキングサードの精度
スイスに首位の座を譲り、プレーオフに回ることになった欧州王者のイタリア。初戦の相手は英雄・パンデフと昨年のEUROで別れ、新しいスタートでワールドカップ予選に望むことになった北マケドニアである。
そもそものチーム力に加えて、北マケドニアは主軸のエルマズが不在となれば、イタリアとの力関係の差は明らかである。というわけでボール保持の時間を長くしながらこの試合を戦ったのはイタリアの方だった。左サイドの大外高い位置をエメルソンが取る片上げ形の3バックへのシフトで敵陣に迫っていくイタリアだった。
攻め上がってくるエメルソンに対して、北マケドニアはチュルリノフを低い位置まで下げる。5レーンを埋める形で北マケドニアは対応していく。北マケドニアの振る舞いとして特徴的だったのは基本的には後方に人を揃えながらも要人に対してはマンマークベースでの警戒を強く持っていたことである。
北マケドニアが最も大きな警戒を持って当たっていたのがジョルジーニョ。撤退守備に対峙した時にわずかなタイミングを逃さずに針の糸を通すパスを入れてくる彼の存在は北マケドニアのブロック守備を脅かす存在である。バルディがブロック守備を意に介さずにマンマークを続けるのも納得。一発芸を持っている飛び道具に対しては、ブロック守備の人数を変えてでも対応するやり方は個人的には良かったように思う。フロレンツィ、ヴェラッティもジョルジーニョほどではないが、人ベースでの警戒を持って当たられていた選手だった。
30分になると徐々にイタリアがプレッシングでペースを握るように。立ち上がりから積極的な守備を見せてきたIHに加えて、WGも高い位置からのプレスに参加。低い位置からのビルドアップで自分達の保持の時間を作ろうとする北マケドニアに対して、ボール奪取からのショートカウンターを仕掛ける。
だが、フィニッシュの精度が伴わないイタリア。ベラルディ、インモービレなど決定機を迎えたストライカーのシュートがことごとく枠を捉えられない。
イタリアのツッコミどころは崩しの過程においても。ファーに選手を待ち構えさせてのクロスの精度や、サイドチェンジのロングボールがズレたりなど、ここぞというときのボールが刺さらない。
後半になってもこの課題はイタリアの足枷になっていた感じ。左のエメルソンだけでなく、右のフロレンツィの攻撃参加を増やし、バレッラとの右サイドのコンビで攻勢を強めるイタリアだが、仕上げの部分の詰めの甘さは変わらず。
北マケドニアのマンマーク担当者の疲れや、アシュコフスキのような攻撃な選手をIHに置いたことにより、試合はオープンになり、イタリアのチャンスの数自体は増えた。だが、ペッレグリーニ、ラスパドーリ、ジョアン・ペドロなど前線のメンバーを総入れ替えしても決め手に欠くという状況は変わることはなかった。
攻めあぐねているうちに『その時』がやってきてしまう。我慢を続けてきた北マケドニアがイタリアに牙を向いたのが92分。ゴールの香りがしないところから右足を振り抜いたトライコフスキがイタリアの望みを打ち砕く一撃を放つ。
イタリアは内容的には支配してはいたが、アタッキングサードの精度に不満が残ったのは確か。大外での優位、ラストパス、そしてフィニッシュの精度の低さを手数で補いきれなかったイタリアは北マケドニア相手に思いもよらぬ代償を支払うことになった。
試合結果
2022.3.24
カタールW杯欧州予選 プレーオフ 準決勝
イタリア 0-1 北マケドニア
スタディオ・レンツォ・ベルバラ
【得点者】
MKD:90+2′ トライコフスキ
主審:クレマン・トゥルパン
④ポルトガル×トルコ
■間延びする中盤を制したのは?
失意のEUROから立ち直るべく、快調に欧州予選を進めていたポルトガル。だが、最後の最後に立ちはだかったセルビアのミトロビッチに突き落とされて、プレーオフに回ることになった。対するはEUROでグループステージ敗退だったトルコ。ポルトガルにとってはここは確実に乗り越えておきたい相手である。
ボール保持の時間が長かったのはホームのポルトガル。トルコはまずはトップのユルマズがアンカーのモウチーニョを監視するように引きながらの守備を行い、ポルトガルにボールを持たせるようなアプローチで試合に入った。EUROでは見た覚えがない3-4-3だったが、Tanaさんによると予選でも見せていない奇襲パターンらしい。
トルコはシャドーの守備も絞り気味。中央に多くの人を配置する陣形になるポルトガルの4-3-1-2に対して、中央で不利にならないような工夫を施す。
中央にパスを付けにくくなったポルトガルは前線の動きで変化をつけるアプローチに。降りたりサイドに流れたりなどの動きでトルコの守備網の切れ目に顔を出していたのがブルーノ・フェルナンデス。そして、前線に流れるのがロナウドとジョッタである。
ポルトガルはこの前線の動きを活用して先制。サイドに流れるロナウドを起点にオタビオが先手を奪う。このオタビオは2点目のシーンも大活躍。ライン間に入り込み、対角のジョッタにクロスを送るという得点を演出してみせた。
順調に得点を重ねていったポルトガルだったが、試合を落ち着かせられたかどうかは別問題。トルコはプレッシャーの薄いサイドからボールを持ち運べており、中央でもコクチュやチャルハノールがポルトガルのバックスとのデュエルに負けずに中に切り込んでいく。アンカーのモウチーニョの脇も含めて、ポルトガルの中盤は中央のプロテクトの観点からは物足りなさがあったといわざるを得ない。
ただし、ミドルゾーンからの撤退が遅いトルコは一度ボールをひっかけてしまうとカウンターのピンチになってしまう。そういう意味では一進一退の攻防となっていた。
後半はビハインドのトルコが前線からのプレスを強化したことで、テンポが速くより間延びした展開となる。ポルトガルもスムーズに進めることはできていたが、この時間帯における強度はトルコの方が上、中盤の間延びしたスペースをうまく使って前進する。ポルトガルはホルダー近くの選手以外があまりに守備のポジション修正に無頓着で、トルコのパスワークに後手を踏むことが多かった。
後ろが重くなったポルトガルに対して、トルコはユルマズが追撃弾。直後も抜け出しのチャンスを迎えるなど、この時間帯は圧倒的にトルコペースだった。
その中で迎えた最大の決定機はもちろんPK。フォンテのファウルで得たPKを決めることができれば、同点に追いつくことができたトルコだったが、これをユルマズが失敗してしまう。
同点の最大の機会を逸したトルコに対して、ポルトガルは交代選手が躍動。抜群のキープ力で間延びしている中盤を支配するようになったラファエル・レオンの登場で再び流れはポルトガルに。このレオンからヌニェスの追加点が決まり、試合は完全に決着。冷や汗をかいたポルトガルだったが、終わってみれば快勝だったといっていいだろう。
試合結果
2022.3.24
カタールW杯欧州予選 プレーオフ 準決勝
ポルトガル 3-1 トルコ
エスタディオ・ド・ドラゴン
【得点者】
POR:15′ オタビオ, 42′ ジョッタ, 90′ ヌニェス
TUR:65′ ユルマズ
主審:ダニエル・シーベルト