10月の前回対戦時とは異なる監督でエミレーツに乗り込むことになったフルハム。新たに監督に就任したのはクラウディオ・ラニエリ。ラニエリといえばレスター!ってイメージがあるが、それ以前は壊れたチームを修繕するスキルに長けている監督という印象が強い。それゆえ途中登板での監督就任の機会が多い。今回も途中登板。就任後、失点数が徐々に減ってきており、若干ではあるが勝ち点は上向きになっている様子は見える。ラニエリ自身、一度も勝ったことがないアーセナルに対して、5-1で敗れたクレイブン・コテージでのリベンジを果たしたいところ。
「5-1」というスコアを今のアーセナルファンが見たときに、クレイブン・コテージでの勝利を思い出すのは、よほどポジティブな人間か、かなり奇特な人間といわざるを得ない。ほとんどのアーセナルファンは、同じスコアで敗れた直近のアンフィールドでの大敗を思い浮かべるだろう。「5-1」を払しょくしなければいけないのは、フルハムだけでなくアーセナルもまた同じ。エジルやベジェリン、モンレアルの欠場は続き、相変わらず苦しい台所事情ではあるものの、ホームで降格圏を迎える試合で3試合ぶりの勝利を逃すことは許されない。
スタメンはこちら。
【前半】
高いリスクを結果で回収
フルハムは前節から4人のメンバー変更。特にチェンバースが契約条項で欠場したボランチはセリも控えに回し、今季初スタメンのシセを登用した。アーセナルも3-4-3ということでお互いにがっちり組み合う陣形となる。アーセナルの前線はイウォビ、ラカゼット、オーバメヤン。一応横並びで表記したが、ポジションは流動的で、よりリンクマン的にふるまうイウォビとストライカータスクのラカゼットとオーバメヤンが位置を入れ替えながら、それぞれの任務を遂行していた。
フルハムのプレスは前線から噛み合わせて捕まえに行くというシンプルなもの。アーセナルのCB陣は、それぞれが捕まえられることになるのだが、若干マークが緩かったのはコシエルニーのところ。対面するセセニョンは、左側に落ちてくるMF(主にジャカ)との距離を近くに保つことを優先していた可能性がある。単にサボり癖があっただけかもしれないけど。というわけでアーセナルはコシエルニーから左サイドへの供給から前進。主に縦パスを受けていたイウォビは、前を走るコラシナツを使ったり、縦パスが入ることで空いたジャカに落としたりすることで攻撃のスイッチ役として機能していた。
前方で人を捕まえられていても、イウォビやラカゼットなど体の使い方がうまい選手からチャンスメイクをするアーセナル。では試合運びが完璧だったかというとそういうわけでもない。ボールロスト後のプレスは散発的。加えてアーセナルは取りどころが定まっておらず、縦方向も横方向も割と間延びした陣形だった。特にボランチコンビは間を通されたり、脇を通されたり、そもそも攻め上がりでそこにいなかったりとフィルターとして機能していなかった。というわけで通りまくるミトロビッチへの楔。そこにはソクラティスががっつりついてくるので、今度は最終ラインの裏のケアが怪しくなるという事案が発生するアーセナル。ミトロビッチのハイボール以外にも前進の手段を得たフルハムは、裏を狙うセセニョンを中心に決定的なチャンスも作り出すことに。
例としてはクロスが跳ね返されたシーンが挙げられる。こぼれ球を拾ったシュールレにゲンドゥージがつく。近くでフリーのシセが受ける。ピッチ後方から寄せていこうとするのはジャカ。縦のミトロビッチへ楔。ソクラティスがあたりに行く。ケアニーがフリーで受けれる状態。ミトロビッチからケアニーへダイレクトで。このあとセセニョンにボールは渡る。
フルハムから見れば簡単にカウンターが発動できた場面だろう。ボールホルダーにプレッシャーをかけるのは常に1人。アーセナルの周囲の選手は寄せることもパスコースを切ることもなく、普通に空いている選手にパスをつなぐだけでフルハムはチャンスにつなげることができた場面。アーセナルのプレスはタイミングもスペースも整理されていなかった。前節はフィルミーノやシャキリなどのリバプールの2列目によって、対応を迫られてこじ開けられた感のあるアーセナルの中盤中央だが、この試合では特に何もせずに開いていたというのが、私の感想だ。
アーセナルはボールロスト時にボランチが持ち場にいないことがある、と述べたがそれはジャカとゲンドゥージが積極的にエリア内に侵入するシーンが多かったから。この辺りはエメリの指示である可能性はある。リスクは高いが先制点という果実は得たこの戦法。エリア内にスルスル入っていくジャカをフルハムは抑えることができなかった。イウォビのクロスも美しく、プレーを完結させなければ致死性のカウンターを食らう可能性もあったことから、称賛されるべきアシストといえる。
スペースを管理できずカウンターのチャンスを与え続けていたアーセナルだったが、フルハムも厳し目のマンマークをしても2人目3人目の動きに対応できない状況が続く。互いに守備の脆さを露呈しながら、リードを得てハーフタイムを迎えたのはアーセナルだった。
【後半】
まるでアーセナル
もはやおなじみとなったエメリの後半頭の選手交代。最近のトレンドは後ろの選手を代えること。この試合でもムスタフィ→トレイラという交代が行われる。フォーメーションは4-3-3に移行だ。
トレイラはコンディション的にはイマイチで、体のキレやプレスに行くタイミングは、シーズン序盤と比べて鋭さを欠くここ数試合。ただこの試合ではボール奪取能力に長けるトレイラを投入し、スリーセンターに移行することで前半は簡単に破られていた中盤の中央のプロテクトに成功する。中盤での選手の距離感も狭まっているので、複数人での囲い込みやパスコースの制限は、前半に比べるとみられるようになった。
困ったのはフルハム。明らかに人を基準にする守備をしていたので、かみ合わせを外されると基準がなくなる形になる。プレスも序盤とは違い、フリーで持っているアーセナルの選手に時間差で捕まえに行くように。前線の3枚は4枚で組み立てるアーセナルに対して、どう捕まえていいか最後まで悩んでいたようだったし、中盤もスリーセンターに対して2枚で見る形の数的不利。まるで前半のアーセナルを見ているような後手の踏み方だった。典型的だったのは2点目のシーンで、フルハムの守備陣の個々の判断がアーセナルの選手のフリーランに追いつかなかったといえるだろう。急所をついたコラシナツのフリーランはケアニーが追うのをやめた後は誰もマークにつくことはなかった。ケアニーついていけばよかったのに。
【後半】-(2)
セリの登場で流れが変わる
アーセナルが盤面を支配し追加点を決める。完勝の流れになりそうなものだが、フルハムにとって悪い流れを変えたのは交代選手。特にセリの支配力はかなり効いていた。対面するゲンドゥージは普通にぽっかり空けてチャンスメイクされることもあれば、寄せていってかわされることもあった。同じく交代で入り、フルハムの右サイドで高い位置を取ったフォス=メンサーを起点にボールを前に進める場面が増えていった。反撃の狼煙を上げる1点も、セリがトレイラにチェックをかけてから。トレイラはうまく体を入れてファウルをもらったようにも見えたが、トラップしたボールがやや体から離れているのが悪印象だっただろうか。フィニッシュを決めたのも交代で入ったカマラ。こちらは前節の愚行(ミトロビッチが蹴るはずのPKを奪い取り、決められない)を払しょくするゴールになった。
サイド攻撃においてアーセナルが狙いたいのはコラシナツがいる自軍の左だろう。フルハムは自軍の右サイドにフレッシュな交代選手がいるため、狙いたいサイドは一緒。必然的にこのサイドは上下動が激しくなっていった。そして2点目に続いて、ストロングサイドからの攻撃で追加点を得たのがアーセナル。フルハムとしては2失点目と同じく、エリア内に侵入するコラシナツのランを止めることができなかった。この日のコラシナツはアーセナルのサイド攻撃のほとんどを担っていたといっていいだろう。
その後セットプレーからオーバメヤンが追加点を決めたアーセナル。4失点目のクリアミスは追撃弾の起点になったセリのもの。ともに隙を見せながらも最終局面の精度とシュート数の差でアーセナルが新年初勝利を飾った。
まとめ
アウェイでの初勝利と対アーセナルの初勝利がともにお預けになってしまったラニエリ。セリやカマラなど交代選手は結果を出したものの、人に行く守備は特に中盤以降後手に回る場面が目立つことに。引いた時の守備のスペース管理の改善は必須。またボール奪取からのカウンターを整備することで前線の得点増加を狙い、降格圏脱出を狙いたいところだ。
勝利はしたものの課題は多かったアーセナル。過密日程と怪我人の影響もあるとはいえ、序盤のプレッシングはほとんど機能する場面はなく、前半を無失点で終えたのは非常に幸運だったといわざるを得ない。2試合遠ざかっていた白星を挙げることができたのはポジティブではあるものの、相手がフルハムではなければより厳しい戦いになっていたことは間違いない。FA杯を挟むと1週間の休息がある。プレッシングの精度改善とスペース管理のリスク調整は必須。リスクを顧みず皆が皆PA内に突っ込んでいく様は、まるで晩年のヴェンゲル・アーセナルを見ているようで、とてもなつかしく危ういバランスの上の成り立った勝利であると感じた。結果的に勝利はしたものの内容的には難がかなり見えた試合といわざるを得ない。次節もロンドンダービー。4位追撃のためにも、内容を改善したうえで連勝を狙いたいところだ。
試合結果
プレミアリーグ 第21節
アーセナル 4-1 フルハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 25′ ジャカ, 56′ ラカゼット, 79′ ラムジー, 83′ オーバメヤン
FUL: 69′ カマラ
主審: グラハム・スコット