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レビュー
■SHを動かして生む選択肢
リーグ戦は4連勝と徐々に調子を上げるアーセナル。この試合においてもいつも通りの11人、そしていつも通りのベンチのメンバーが揃う。負傷欠場が長引いている冨安を除けば、今季は基本はこのメンバーで行くのだろうというのは固まってきている印象である。
その一方、負傷者の回復具合とECLに挟まれる過密日程になったこの試合のレスター。その上、ジャスティンのように長期の負傷明けで調整が難しい選手も多い。選手個々のコンディションはシビアだろう。この試合でもリカルド・ペレイラはなんとか間に合いはしたが、ヴァーディは再び数週間の離脱になってしまった。
レスターのプレスは4-4-2型が基本。トップからバックラインまでコンパクトに維持する形。2トップはアンカーを受け渡しながら最終ラインにプレッシングをかけていく。ひとまずは中盤の数を合わせるというのがレスター側のアプローチである。
人は捕まえられてそう、そしてライン間はコンパクトというレスターの守備に相対するアーセナル。ショートパスでのやり直しで相手の様子を探った結果、まずはこれを解きほぐさないといけないという方針に。というわけで裏へのボールを蹴りながら様子見をする立ち上がりのアーセナル。
大きな展開以外にアーセナルが見つけた前進の手段はSBを経由するもの。低い位置で触ろうとアーセナルのSBがラインを降りるとレスターのSHがついてくる。このレスターのSHが空けたスペースに関してはかなり意識して使おうする姿勢が見えたこの日のアーセナル。IHタスクの選手(ウーデゴールorジャカ)がそのSHが空けたスペースに入り込む。これに合わせてアンカーのトーマスはボールサイドに寄るし、WGは裏を狙う。
アーセナルの保持はホルダーに選択肢を複数提示できている。図で言えば少なくともジャカについていく選手のマーカー(図中のトーマス)にはティアニーは落ち着いてパスを出すことができる。レスターがSBがラインを上げる形で追えば裏が空くし、CHがスライドしてカバーする(レスターの対応はこちらの方が多かった)形で追えば中央が比較的余裕がある形で受けることができる。この事象に限らず、アーセナルは非常にスムーズにホルダーに選択肢を複数示せる機会が増えたように思う。
敵陣まで押し込む機会が増えたアーセナルはセットプレーからあっさりと先制。ニアに入り込んだトーマスがマッチアップ相手であるルーク・トーマスを外してネットを揺らす。今季のアーセナルのセットプレーはニアの選手を囮にファーで仕留める形が主流だったが、ここはニアの選手がそのままシンプルに仕留めた形だった。
■押し込まれた後の振る舞いは?
先制されたということでプレスでボールを取り返したいレスター。少しプレスの頻度を上げながらボール回収を試みるのだが、アーセナルはプレスには屈せずに前進することができた。
最近のアーセナルはピッチ中央でトーマスとウーデゴールを軸にして、少ないタッチによるパス交換で前向きの選手を作り一気にスピードアップするのが特徴である。自分は普段からCLやプレミアの試合を結構見ている方だと思うけど、こうした形で攻撃のスイッチを入れるチームはあまり思い当たらない。
もちろん、幅を使った攻撃で薄いサイドを作ったり、サイドにおけるトライアングルから相手を崩したりなど、アーセナルは昨今のボール保持型のチームとしてオーソドックスな崩しも行う。だが、今のアーセナルのビルドアップの中で最も特徴があるのは、中央での少ないタッチを繰り返しながらスピードアップして一気に敵陣に迫るスタイルと言っていいだろう。
このスタイルがどこまでのレベルに通用するのかは現段階ではわからないが、仮に今のアーセナルがこのスタイルの延長線上で大きな成果を勝ち得たとしたら、このハイコンテクストな相互理解をベースにした近い距離感でのプレス回避はアルテタアーセナルの大きな特徴として捉えられるように思う。
話がそれました。この試合のアーセナルは押し込んだ後の出来も前節よりは上だった。前節の課題である左サイドの連携も良好だった。前節の左サイドの課題は大きく分けて2つ。1つは裏に抜ける動きが少なく、相手にパスコースを読まれやすくなってしまい、パスを引っ掛けてカウンターのキッカケを作ってしまったこと。ここに関してはジャカ、ティアニー、マルティネッリの役割の棲み分けがうまくいっており、裏に抜けることで奥行きをもたらすことができていた。
もう1つはマルティネッリの内側に入るタイミングが早く、左サイドの攻撃の最大の武器と言っていいWGの外→内へのカットインの動きが消えてしまったことである。今節はこの動きも復活。オフサイドにはなってしまったが、8分のシーンのようにフィニッシュにつながるような動きを流れの中で組み込むことができていた。
左サイドではティアニーは前節よりもパフォーマンスが良かったように思う。28分のように隙あらば自分自身で持ち上がって切り込んでいく動きはこれまであまりなかったもの。少し時間軸は前後するが、後半は守備面でも貢献度が高かった。
右サイドもセドリックのフォローのランが引き続き好調。1人で何人も剥がせるサカのコンディションも相変わらず高止まりで、サイドの崩しのメカニズムは左サイドと同等かそれ以上に機能しているという状況である。
こんな調子なので先制点の後もペースを握ったのはアーセナルである。先に示したレスターのSHをズラした動きを起点とする形と、よりダイレクトなロングボールを組み合わせることでスムーズな前進を続ける。
前半の途中、レスターの中盤がアーセナルの対応に慣れてきてむやみやたらに追いかけなくなったところから、徐々に試合の主導権はレスターに流れていく。レスターはビルドアップでアーセナルをずらしたりなどの特徴的な動きを見せることはあまりなかったが、同数でも優位を取れる左サイドのバーンズを中心に前進のキッカケをつかむ。
対面するセドリックだけでなく、周りのアーセナルの選手を引きつけることができるバーンズ。加えて、空いたスペースに漬け込むことができるデューズバリー=ホールとルーク・トーマスにアーセナルは手を焼いていた。
正直、アーセナルからするとこのサイドからある程度チャンスを作られることは仕方ない部分もあると思う。バーンズを切込隊長とするレスターの左サイドであれば、これくらいはチャンスは作られてしまう力関係ではあるだろう。
むしろ、押し込まれた時間帯のアーセナルにとって考えるべきはボールを奪った後の時間の過ごし方。ラムズデールのリスタートや、中盤の少ないタッチでのパスワークは展開を落ち着かせるためのものではなく、どちらかといえばうまく行っている時間帯と同じように振る舞っているように見えた。
この時間帯の選択肢としては、もう少しバックパスを多用しながらレスターの攻撃機会を取り上げるというやり方もあったはず。そうした中であえて強気に状況をひっくり返すファストブレイクを狙い続けたアーセナル。そして、前半はその判断が裏目になりレスターに攻撃の機会を与え続けることになった。
早いテンポで展開を取り戻すことに苦労したアーセナルだったが、前半はリードを守っての折り返しとなった。
■前半の課題は後半に解決
後半、追いかけるレスターはよりプレッシングの強度を上げてアップテンポな展開でアーセナルに追いつこうと試みる。レスターが最もゴールに迫ったのは65分、やはり左のバーンズを軸とした攻撃。左の大外のバーンズからCB間に入り込むイヘアナチョへのパスを刺し、自らも斜めに入り込みながらリターンを受けての決定機だった。
このように惜しいシーンを作ることもできたレスターだったが、基本的には後半もペースを握ったのはアーセナル。やはり、ビハインドのレスターが仕掛けた早いテンポでの展開においてはアーセナルに一日の長があると言っていいだろう。
特に人を捕まえるプレスに対しての対応はアーセナルはかなり手慣れていた。アーセナルは足元ではなくスペースにパスを出しながらプレスを回避するゆえに、プレスで追いかけるチームにとっては厳しいのだろう。
60分にアーセナルは追加点。FKからのリスタートからの波状攻撃の流れでソユンクがハンドを犯してPK。VAR側の映像で繰り返し見てようやくわかるくらいわずかしか触っていなかったのに、即座にハンドアピールをしたホワイトとラカゼットはすげー目がいい。PKはラカゼットが超絶コースに決めてシュマイケルにはノーチャンス。アーセナルは後半にリードを広げる。
70分以降は前半の反省を活かしてか、アーセナルは最終ラインでのパス回しを活用しながら時間を潰す。終盤はほとんどレスターにはチャンスを与えずに試合をコントロールしたアーセナル。ワンランク上の試合運びを見せて、リーグ戦の連勝を5に伸ばした。
あとがき
■エミレーツでは譲りたくない
前半から相手の出方を見ながら攻略法を探ることができたり、後半はボールを保持しながら試合を締めたりなど、アーセナルはここにきて戦い方にかなり幅が出てきた印象である。4位争いの主導権は引き続き手中に収めることができている。
ここから中2日が2セット続くのはかなり日程としては厳しいが、リバプールとの一戦は今の調子であれば非常に楽しみ。同じく、ワクワクして迎えた昨年秋のアンフィールドでは返り討ちにあってしまったが、今回の舞台はエミレーツということもあり期待は高まる。
今季の大目標に向けて、そして来季以降のアーセナルを見据える中で、こうした強豪との一戦は非常に大事なベンチマークとなる。ここまでの5連勝で積み上げてきた内容を自信として、リバプールに全力でぶつかっていきたいところだ。
試合結果
2022.3.13
プレミアリーグ 第29節
アーセナル 2-0 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:11′ トーマス, 60′(PK) ラカゼット
主審:アンソニー・テイラー