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「免罪符はいつまで持つか」~2022.3.19 J1 第5節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■機会の問題とその後の問題

 現段階での広島と川崎と見た時に、この試合に臨むスタンスがより読み取りやすいのは広島の方だろう。前から川崎のビルドアップを阻害し、時間を奪ってくるアプローチを取るというのは非常に想像がしやすい。

 川崎はこうした時間を奪ってくるマンマークのプレッシングへの対応はあまりうまくはない。その中でも山村はボールを運びながらコースを作るのがうまいし、山根は結構動き直しながら受ける位置を調整しているので、右サイドは比較的できてきている部分なのかなとは思う。けども、チーム全体で見ればなかなかビルドアップにおけるプレス回避術というのはあまり浸透していないとするのが妥当だろう。

 なので、川崎は時間を奪い取るプレッシングをしてくるとわかっている広島に対してどこでどのようにいなすかを考えなければいけなかった。プレビューで指摘したのはプレス回避の手段としてレアンドロ・ダミアンへのロングボールに傾倒しすぎることへの警鐘である。

 広島のバックラインの3枚は対人守備にはめっぽう強く、とりわけ自分の前側へのアプローチには自信を持ってプレーができている。前節対戦したFC東京のディエゴ・オリベイラがロングボールを収めることができなかったことを考えれば、ダミアンに同じことが起こってもおかしくないからである。

 こうした事前の予想は当たったと言っていいのではないだろうか。1本目のロングボールこそ上手く収めたダミアンだったが、2本目以降は荒木をはじめとするバックラインに非常に手こずることに。川崎もFC東京と同じようにトップでボールを収めることができなかった。広島はこの日もロングボールに対しては上手く対応を続けたと言っていいだろう。

 それでも川崎はダミアンへのロングボールを放り込み続けていた。ダミアンもやり方は工夫をしていたように思う。例えば、ガッツリ収めるのではなく、フリックで落とすとか。それならば比較的身体的なデュエルの側面はフィーチャーされにくくなる。

 小塚が前方の落としを意識したポジションをとっていたのも大きい。ダミアンに限らず、家長の落としたボールをそのまま左サイドに叩いて、大きな展開を受けたマルシーニョが輝く!みたいな場面はパターン化して何回か見られた。前半の川崎が最も意図通りうまくいった攻撃の形と言えるだろう。

 その一方で、川崎のビルドアップにおける他の手段が見つからないことには不満だったと言わざるを得ない。確かに広島の守備はマンマークの基調が強い形ではあったが、中央でジュニオール・サントスがCBにプレスに行くか、アンカーを消すかを迷っていたように、マークマンを決めて特定の選手を捕まえながら突撃する形ではない。

 よって、広島のプレスは中央にはズレが発生しやすかっただけにうまく活用すれば脱出の手助けになっていたはず。例えば、25分のソンリョンを活用したプレス回避。彼がボール循環の中で受けたこととで縦への橘田へのコースが空く。

 こうした形はもう少し使いたかったはず。小塚は時折、一つ奥で受ける意識は見せていた。個人的には家長の降りる動きはこうした食いついてくる相手にこそ大きいように思うのだけど、この日の前半はやや控えめに思えた。

 マルシーニョに対しては野上が粘り強く対応していたように思う。裏への動き出しは体を早めに当てて加速をさせなかったし、それでいてライン間に入る選手も潰すということで川崎の左サイドは時間の経過とともにライン間も裏も使うことが難しくなっていった。

 この日の川崎は前線にクリーンにボールが渡った後もピリッとしなかった。プレー選択と精度がそもそも課題のマルシーニョはさておくとしても、家長、ダミアンがこれだけ敵陣で細かいパスをミスしているようだと厳しくなるのは当然と言えるだろう。

 川崎は自陣を脱出して敵陣に運ぶ手段が少ないという問題と、敵陣でのプレーの精度が伴っていないという問題をそれぞれに抱えていたことになる。

■予想以上だった広島のユニットは・・・

 一方の広島はボール保持の局面においては事前のチームの印象以上にうまくいっていたように思う。自陣からのボールの繋ぎで川崎に対してクリーンなチャンスを作ることができるようになっていた。

 特に川崎が手を焼いていたのは広島の左サイドを中心に動く森島。前へのオフザボールの動きに特徴のある選手が多い広島のスカッドの中で、唯一マイナス方向に降りる動きが得意な選手と言っていいだろう。この動きに交わることで手強さを見せたのは野津田と塩谷。

 野津田は塩谷や森島と縦の関係を作りながら、より前方に移動する動きを見せる。この動きに対して川崎のIHはどこまでついて行けばいいのかを非常に悩んでいたように見えた。結果的に川崎はマークマンがついていくのをやめたものの、受け渡しがうまくいかずにフリーで侵入を許す!という流れが多かった。37分少し手前の森島と野津田の連携から右サイドへの展開までの流れは敵ながらあっぱれというべきスムーズなものだった。ちょっと図では表現しにくいので、直接見てください。

 森島が降りる動きで自由を享受したのは塩谷。川崎のIHは森島が降りてくると、マークマンの数が足りなくなる。降りてくる森島を捕まえようとした時に浮くのは塩谷。結果的に空いた塩谷からサイドへの大きな展開が出ることで川崎のプレスを空転させることに成功していた。

 川崎のIHはこの日はWGの背後のスペースも気にしなくては行けないし、守りてくる森島や上がっていく野津田にも注意を払わなければならない。川崎のプレスを壊すのならば、IHのタスクをオーバーフローさせればいい!というお決まりのやつを忠実に実行していた。

 サイドにおける守備は微妙な力関係で均衡する。進境著しい右の藤井は1人でも勝負できるタイプではある。だが、体を当ててくる佐々木旭にはだいぶ手を焼いた感じ。中央でフリーマンを作り、左右に自由に展開する広島を制御できない川崎にとっては佐々木が藤井にやられてしまっていたら致命傷になる。そういう意味では川崎が決壊しない最後の砦だった。

 一方で、川崎の左サイドは連携面に難があったのも確か。例として14分、満田があわやゴールラインを越えるシュートを放ったシーンを少し巻き戻してみる。この場面においては佐々木が藤井に裏を取られたところから危うい場面になっている。

 佐々木が裏を取られる前の動きを見てみると、外にいる藤井に寄るような動きを見せている。おそらくこれは内寄りに立っているマルシーニョを見て、ボールを外に誘導していると判断したのだろう。ならば、藤井にボールが渡ったときに体を寄せられるように外に出て行っておくというのが佐々木の考えだと推測する。

 だが、実際はマルシーニョは内側へのコースを消せておらず、インサイドにパスを許した結果、ボールは佐々木が開けたCB-SBのルートを通り、右サイドをえぐりあわや失点のシーンを作り出すことになった。

 このように特に左サイドはどこにボールを追い込んで、どこで追い詰めるのか?という狙いがバラバラ。そこを広島につけ込まれるシーンが多かった。佐々木が最後の砦というのは裏を返せば、彼が左サイドで藤井に体を寄せられなかったり、あるいは左サイドを空けた状態で攻撃を喰らって仕舞えば致命傷になるということでもある。

■青天の霹靂にきっかけがあるとすれば

 なんとか前半を0点に抑えてハーフタイムを迎えた川崎。ただし、後半になっても状況は好転しない。スキッベ監督が試合後コメントで『75分までの間、サッカーをしていたのは広島だけだった』と述べていたように、優勢に試合を進めていたのは前半に引き続き広島で変わりがなかった。

 ダミアンへの長いボールへの対応もマルシーニョへの裏抜けに対しても既にある程度見切れるようになっているため、川崎が新しい策を提示できなければ当然苦しくなる。

 川崎が後半に見せた修正は中盤のマーカーを割とはっきりさせたこと。例えば、降りていく森島には山根がついて行って自由を奪う。これによりIHも自身の担当がはっきりし、前半ほどは相手に好き放題やらせることが少なくなった。

 もう一つは自らが多く動きながら、ズレを作るための動きを作ることである。マンマークに対する対策の一つは大きく移動しながら、相手がどこまでついてくるかを見極めることである。前半の広島のようにそれで相手のマークを振り切ることができれば、上がっていく選手はフリーになれる。

 得点シーンは広島にとっては青天の霹靂だっただろうが、川崎側の動きに先制点につながる工夫を見出すとすれば、高い位置で受けるためにバイタルに入り込む橘田を広島が捕まえられなかったことか。これがきっかけで迎えたコーナーキックから川崎は先制することになる。

 ここから先は試合は川崎のペースに。最も大きかったのは川崎の交代選手がスムーズに試合に入れたことだろう。体を当てては離すなど駆け引きしながらポストを行っていた知念は、正面衝突を繰り返していたダミアンよりは器用に広島のバックラインと対峙することができていた。宮城は先制点以降はまずは守備というリード時の振る舞いにスムーズに移行し、裏抜けから決定機も作り出した。先制点のオウンゴールを誘発するCKを蹴ったのは大島だったし、小林にも決定機はあった。

 そして、2点目のきっかけになったのは右サイドに流れてボールをなんとか残した遠野。山根、知念の連携から最後はこぼれ球を山根が押し込んで試合を決定づける。

 逆に広島は交代選手の役割がぼやけてしまった感じはあった。特に住吉をわざわざ最前線に上げた采配をしたにも関わらず、バックラインからショートパスでビルドアップを行っていたのは不可解だった。

 結局試合はそのまま終了。70分超の劣勢を最後の15分で帳消しにした川崎が終盤でリードを奪い勝利。広島はまたしても勝利を挙げることができなかった。

あとがき

■仕上げの精度向上が中断期間の課題

 個人的には広島は予習した試合で見たよりもパフォーマンスは良かったように思う。3CBの強靭さや藤井の1on1など、知っている武器も多かったが、保持における森島+2CHの連携の部分はかなり良かったように思う。

 スキッベ監督がいう通り、物足りなさを感じるのはPA付近でのプレー精度だろう。フィニッシュもさることながら、サイドでの崩しもまだ磨く余地はあるはず。代表ウィーク中に仕上げの部分を向上させ、なんとかチームを上昇気流に乗せたいところだが。

■『悪くても勝てる』だけではだめ

 川崎は『勝ちながら修正』ができるチームであるし、今季は特に選手が内容に危機感を持っているのも伝わってくるのは理解はしている。その上で、やはりこの日の広島戦の内容はなかなか重たいものだった。広島のプレッシングは勢いはある一方で、連携の部分が甘く、前線と中央が連動しきれない部分はあった。だけども、その部分を川崎は突くことができなかった。

 そして、前進した後の丁寧さにもかけていた。広島のバックスは押し込んで人数をかければ、判断に迷いフリーズすることがある。そうした広島の弱みに漬け込んだ形で得点を得るのには結局89分かかっているのである。

 バックスの奮闘を考えれば、勝利がたまたまなんて口が裂けても言うことはできない。けども、もう少し敵陣にボールを運びシュートを打つ機会を増やし、自軍が守備にさらされる機会を減らす内容にシフトしなければ、ここから先のリーグ戦は更なる困難にぶち当たることになる。

 選手たちが苦しい展開にもかかわらずふてぶてしくプレーしているのは頼もしい限りだが『内容は悪くても勝つのが王者』の『内容は悪くても』に目を向けないといけないように感じた試合だった。リーグ戦序盤の過密日程という困難は乗り切ったが、次はACLという更なる厳しいスケジュールが待ち受けている。

 過密日程で内容の改善と結果の両立は簡単なものではないが、あえて言うのならばそれを両立させるのが王者である。クリーンシートでの勝利にケチをつけるのは贅沢かもしれないが、『内容は悪くても勝てる』の免罪符にいつまでも頼ることはできないのだ。

試合結果
2022.3.19
J1 第5節
サンフレッチェ広島 0-2 川崎フロンターレ
エディオンスタジアム広島
【得点者】
川崎:73′ 野上結貴(OG), 88′ 山根視来
主審:岡部拓人

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