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「結局は自分たち次第」~2022.3.2 J1 第10節 川崎フロンターレ×浦和レッズ レビュー

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レビュー

■ビビらせることに失敗する川崎

 個人的にこの試合のポイントになると予想していたのは時間の奪い合いである。ACL組特有の過酷なスケジュールの中で、相手のバックラインに対してどれだけ時間を奪いに行くアプローチが出来るのか、また相手が時間を奪いに来た時にそれを回避することができるのかである。

 立ち上がり。予想通り、川崎は高い位置からプレッシングに出る。ダミアンと家長はバックラインにプレッシングをかけて前から。左のWGに入った遠野はSBを監視できる位置に入りつつCBも視野に入れる形。最近の川崎でおなじみの左右非対称の形でのプレッシングだった。

 浦和のここ数試合の課題は相手がバックラインにプレスに来た時に、前に時間を送れるようなつなぎができるかである。アバウトなロングボールに頼りすぎてしまうと、そこは浦和の得意な土俵ではないことはここまでのリーグ戦で証明されている。司令塔の岩尾なしでそうしたビルドアップ隊の胆力があるかが試される状況である。

 結論から言えば、浦和は川崎のプレッシングに余裕をもって対抗できたといえるだろう。浦和のバックラインはCBのショルツと岩波が幅を取り、時折CHの伊藤が中央に降りてくる。横に幅を取る形でビルドアップを行うことで川崎のプレスを横に揺さぶる形で隙を探る。

 ビルドアップの狙いとしてあるのは2つのパターン。1つ目は遠野をおびき寄せて頭を超す形で酒井まで持って行くこと。浦和はショルツからビルドアップを始めることが多かったので、まずはこちら側に相手を引き寄せる。引き寄せられた遠野が頭を越されると川崎としては逆を突かれた形になる。WGの間に合わない逆サイドのカバーは基本的にはIHの仕事である。よって、チャナティップがスライドしながら対応する。となるとアンカーの橘田も当然同サイドにスライドする。

 ここから浦和はもう一段階手を持っていた。この日の左SHに入っていた小泉である。小泉は川崎のIHがスライドして間延びした切れ目でボールを受ける役割を担う。ここで前を向ければ浦和の攻撃はスイッチが入る。

 このように左右に振りながら進めるところで加速を狙うのが浦和の流儀だった。小泉の役割はもう1つあって、ショルツから縦パスを受けること。これが浦和のもう1つの前進である。横に振るプランを基本に持っておきつつ、縦の選択肢も併せ持っておきたい。柴戸と伊藤が離れたところで縦パスを受けることでショルツにサイドチェンジ以外の展開を持たせる。これが小泉のこの試合の役割の1つだ。

 左サイドは小泉が内側、馬渡が外側のレーンという棲み分け。左に流れがちな明本へのロングボールを拾うのも彼らの役割であった。

 というわけで浦和は川崎のプレスに十分に対抗する術を持っていた。立ち上がりの川崎の狙いである鹿島戦の再現である『ボールを握ることをビビらせる』という目的は失敗したということである。

■背中を見せてプレスを誘発

 川崎の立ち上がりのボール保持の局面、浦和は逆に思ったよりもプレスに来なかった。スーパーカップでプレスがうまくいったのは浦和の2トップがCBにプレスをかけるのと同時に、中盤から川崎のアンカーに襲い掛かる柴戸が飛び出してきて、縦パスのつけるところがなくなる!という流れから。なおスーパーカップではSH(伊藤)は出ていったCH(柴戸)のスペースを埋める役割だった。

 だが、この試合は2トップの制限に対して中盤が呼応して押し上げる形はなかった。2トップに続いて3枚目として前線のプレス隊に加わるのはCHではなくSHの小泉。守備においても絞り気味の立ち位置で橘田を見るために中央を浮遊していた。

 序盤の川崎が右サイドからスルスル進むことが出来たのはSHの小泉が内側に絞ることが多く、SBの山根への対応が後手になることが多かったから。家長が対面の馬渡を引きだす動きも絡めて、IHを組み合わせた3人ないしは4人で馬渡と小泉を置いていく形で右サイドを縦に進んでいく。

 ショルツは万能だが、浦和のCBは鹿島のバックラインと異なり横にスライドしながら広く守ることを好まない。SB-CBラインは狙い目である。右サイドは持ち運びながらの組み立ての得意な山村もいるため、川崎はこちらからの前進を狙う。

 ダミアンへのロングボールも川崎は前進のルートとして許容。落としを受けて、もう一度裏に蹴りだす形で縦に速い攻撃を仕掛ける形も残していた。

 浦和はこうした川崎の攻撃に対して、比較的早くリトリートを行い撤退守備モードに切り替えることが多かった。そのため、序盤の川崎は浦和のブロック攻略に注力するシーンが多かった。

 だが、徐々に川崎にパスワークの中で簡便なミスが出るようになる。過密日程の中で浦和に必要だったのは『今ならプレスに行ける!』という意識だったように思う。4分、川崎のスローインのミスから小泉のシュートがポストに阻まれたシーンもそうだけど、川崎が背中を見せれば浦和はプレスで追いかけてくる。

 前半の中盤の時間帯は川崎のパスミスが増えてきたことと、この試合では序盤に相手を剥がすドリブルもみせていた登里の負傷で、『練習でもやったことがない』と試合後に本人が話すほどの緊急対応だった塚川がSBに入ったことで『行ける!』という浦和の共通認識が高まった時間帯でもあった。

 この時間帯の浦和はスーパーカップのようにバックラインが押し上げ、中盤が深追いして川崎を追い込むことが出来た時間帯。川崎は塚川周りを中心にバックラインが保持で慌て、全体が押し上げる準備ができていないのに安易に前線に蹴ってはボールを失うという流れのくりかえしだった。

 一気に攻勢に出た浦和は川崎を自陣に釘付けにするとCKから先制点を奪う。ギアを上げた浦和の狙い通りに時間を進め、狙い通りの時間で先制点を奪うという理想的な展開だった。

■塚川に与えられた好機

 前半の追加タイムに少し気になったのは浦和がスローインでのリスタートをあまり急いでいなかったこと。川崎としてはなんとか1点差にとどめてハーフタイムまでたどり着きたいと思っていた時間帯なので、浦和がこの攻撃の機会を急がないでくれたのは正直ありがたかった。些細なプレーではあるが、個人的には浦和も相当キツイ中でギアを上げたんだろうなと感じさせるワンシーンだった。

 序盤に見られたミドルブロックにおける守備の脆さは先制点を浦和が手にした以降も健在だったし、スローインでもう一プレー急げないところも踏まえると、リードはされたもののスーパーカップに比べれば両チームの出来の差は縮まっていると感じた前半戦でもあった。

 川崎が試合をひっくり返すにはまず、ミドルゾーンにボールを運ぶことを邪魔してくる相手のプレス隊を何とかしたい。彼らに『プレスに行ける!』ではなく『無理かも!』と思わせて撤退を優先させなければいけない。

 この試合の後半で浦和にそう思わせるための糸口になったのが前半に苦しんだ塚川のサイドである。現象としては塚川と関根の距離が遠くなり、塚川にプレッシャーがかからない状態で正面を向いてプレーする時間が与えられるようになった。

 浦和は後半の頭はより積極的なプレスに出てくることが出来たことを考えれば、撤退して圧縮したミドルブロックを組むことが優先になっているようには思えない。となると、何かの理由でプレスに行けなくなっていると考えるのが自然だ。

 真っ先に挙げられる原因は体力だろう。浦和の中盤や前線はプレータイムが嵩んでいる選手(江坂、関根、伊藤、柴戸)か復帰明けの選手(小泉)ばかり。コンディションが整わず、塚川に少し時間を与えて周りを取り囲む形を維持するミス待ちの姿勢になってもおかしくはない。

 もう1つは川崎側のアプローチの都合である。前半と後半における川崎のビルドアップ隊の大きな変化はCBがより積極的にサイドに顔を出してパス回しに参加するようになったこと。前半よりもワイドな位置を取りながら塚川を後方支援する選手を置いたことである。

 中央から離れた立ち位置を取ることで、対面のマーカーはプレスに来れない。前半もそうだったが、浦和のプレスはまずはCBを捕まえて苦しいパスが出た先を連鎖的につぶしていくことで相手からボールを奪いきる姿勢が強い。

 なので、川崎のCBがサイドに流れるとまず浦和のCFが深追いしきれなくなる。するとプレスのフォロワーである中盤の出足が鈍る。加えて、無理に追っても後方に安心できる預けどころがあるので、関根は塚川相手に飛び込むのも難しい!という状況になったのではないか。

 川崎がCBの配置を後半に入れ替えた(鬼木監督は試合後に選手たちの判断と述べていた)のは後半の保持の主戦場になった左サイドによりパスワークで光る山村を置き、CBが開くことによって増大する被カウンター時のリスクを右の谷口にカバーしてもらうという構図を作りたかったからと推察する。

 72分のようなスピードが必要なカウンター対応はやはり山村より谷口の方が得意。この場面はリスクヘッジとしてCBを左右に入れ替えた効果が出ていたように思う。

 川崎の攻撃での変化は後方だけでなく前方にも。遠野とチャナティップのオフザボールの動きにも改善が見られた。低めの位置を取る塚川の前方では遠野がやや低めのワイドの位置を取る。その動きに合わせてチャナティップが裏に抜け出す。

 前半も言ったが、浦和はCBの横スライドでの守備を奨励していないため、SB-CBのスペースは比較的空く。コンディションがいい時はCHが埋めるけど、今はそれは無理である。川崎の複数人の選手のコメントから『ニアサイドを狙う』という言葉が出て来たようにここのオフザボールの動きはハーフタイム以降の修正が狙い通りに実った形だろう。この形なら最大の難敵である酒井宏樹も飛ばすことができる。

 それにしても塚川である。前半は失点のきっかけとなるファウルを犯した上に、そのプレーで警告を受けていたので本人としては難しい入りになってしまった。正直、自分は昨年の浦和戦で明本へのレイトタックルで警告を受けて以降何もできなくなってしまったイサカ・ゼインを思い出してしまったので、かなり心配だった。

 それだけに後半持ち直してくれたのは大きかった。いくらオフザボールの動きが優れていても動き出しに合うボールがでてこなければ意味がない。関根との空いた間合いを活かすことができたのは塚川本人の功績である。

 ワイドを使いながら崩すのは難しいかな?と思った遠野とチャナティップのコンビもも問題なくレーンを棲み分けながら、質の高いサイド攻撃を見せた。中央でスペースがある状態でCFのサポート役などいいパフォーマンスの際は使い方が限定されるイメージだった遠野だが、この試合では器用に大外の仕事をして見せた。チャナティップも狭いスペースでのコンビネーションや動き出しの精度もアップ。チームがギアを入れた際にはアンカーまで戻って相手をつぶすなど守備面でも貢献があった日であった。

■ボールをもって主導権を握りたいが・・・

 そうした左サイドから生まれた関係性で浦和を押し込んでいく川崎。セットプレーから家長のゴールで追いつくと、2分後には一気に逆転。左サイドで相手を剥がした塚川から中央の脇坂にボールを受ける。脇坂はターンで柴戸を剥がす。このデュエルもスーパーカップなら浦和がほぼ全勝していた局面である。

 反転した脇坂は粘りながらも右サイドの山根にラストパス。実況の下田さんが家長と見間違えるような左足での綺麗な弾道のミドルシュートで逆転弾をつかみ取る。

 一気に畳みかけたい川崎だったが、脇坂が中央でボールロストしてからはまた試合が川崎の手を離れてしまった感じ。川崎がプレータイムの少ない小塚、浦和がコンディション面で不安がある平野をそれぞれ入れたのは、個人的にはこの試合はボールを持つことに強気でいたい!という両チームの姿勢の表れのように思えた。

 そんな両チームの思惑とは裏腹に川崎の逆転以降の試合の主導権はやや宙ぶらりんという感じ。お互いボールは持ちたいけども、浦和はボールを持った後に前半のような丁寧さが欠けていたし、川崎は全体を押し上げるような時間を作ったり、あるいはプレスでラインを上げるような余裕もなかった。

 どちらかといえばファウルからセットプレーの好機を与えてしまった川崎の方がピンチが多い終盤戦だったが、山村、谷口、塚川というバックラインに対しては普通のハイクロスでは攻略は難しいだろう。

 一番怖かったのは江坂のアンカー脇で受けてのスピードアップ。SHにおいた小泉を絞らせながら活用していたことも踏まえれば、やはりアンカー脇からのスピードアップは浦和の狙い目ということだろう。

 最後はユンカーまで投入した浦和だったが、こじ開けることは出来ず。2分間の逆転劇で逃げ切った川崎が浦和にスーパーカップのリベンジを果たした。

あとがき

■結果に内容が引っ張られるのだけは避けたい

 過去の3試合のリーグ戦と比べれば浦和のこの試合の内容は比較的良かったように思う。保持でやり直しながら時間を作って相手陣に迫ることはできていたし、その流れの中で得点を掴むこともできた。小泉をSHで起用した手法も川崎相手に仕掛けを作ってくるリカルド・ロドリゲスらしいやり方で面白かった。

 やはり大きかったのはコンディション面での制約か。後半での塚川へのプレスの威力ダウンもそうだが、スーパーカップのように前半からCHが川崎のアンカーをつぶすアプローチをかけることができていれば主導権をより強く握れたかもしれない。

 後半頭の明本の決定機を防いだソンリョンや、終盤に川崎のPA内に立ちはだかったハイタワーたちなどもう一押し欲しいところで川崎に流れを阻まれた印象もある。ここのあたりはユンカーの復帰が後押しになる可能性は大いにある。

 いずれにしても最も避けたいのは結果に引きずられる形でパフォーマンスや試合の向き合い方が悪くなっていくこと。内容は悪くないけど、勝てないことによって狂ってしまったチームはいくらでも見てきた。結果が出ない中でもサポーターや選手が積み上げられていける部分に目を向けることができるか。序盤戦にして早くもここが踏ん張りどころである。

■自分たちが引き寄せた勝利

 アクセルを踏んだ時間での出力で相手を圧倒するという日産でやられたことを浦和にやり返す形で逆転勝利をもぎ取った川崎。後半に見られる調整による改善はこの試合も健在で、コンディション面に不安を抱えるチームらしく過度にトラジッションを増やさない形でギアを上げられたのは理想的な改善だったといえるだろう。本文中にも述べたが、特に初めてのユニットを組んだ遠野、塚川、チャナティップはバックラインと共にこの試合の功労者だ。

 一方で試合後コメントで家長が警鐘を鳴らしている通り、左サイドのユニット発掘以外のところで内容面でとびぬけていいものがあるかといわれるとそこは難しい。

『アクシデントもあったなかで粘って勝つことができた。それはいい点。でも、試合内容は何ともいえない。これでは優勝するのは無理だと感じている。改善したり修正するのは当たり前の話で、それは先のこと。この1試合に関して言えば、これで優勝するのは難しい。そこは声を大にして言いたい。』

https://www.frontale.co.jp/goto_game/2022/j_league1/10.html

 今年のJ1はどのチームも不安定なので、ジリジリと勝ち点を積むことが出来ているのはポジティブ。だが、今の川崎が安定して勝ち点を積めるようなやり方で勝利を掴んでいるかといわれれば首を縦に振りづらい部分はある。

 それでも、この試合においては後半に見せた浦和の隙を自らつかみ取ることが出来たことはチームとして大きい。相手にとって狙い目だったサイドから猶予をもらい試合をひっくり返した。ボールを怖がらない能動的なチャレンジで試合を動かして得た勝利である。

 与えられた少しの隙をどう使うか?という命題に取り組み、自分たちのプレーで展開を変えることができた。接戦が増えるであろう今年の川崎にとってはこうした自信の積み重ねも重要なファクターになるはずだ。

試合結果
2022.3.2
J1 第10節
川崎フロンターレ 2-1 浦和レッズ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:62′ 家長昭博, 64’ 山根視来
浦和:33‘ 岩波拓也
主審:佐藤隆治

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