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「決勝戦ではなかった」~2022.3.6 プレミアリーグ 第28節 ワトフォード×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■右サイドに定めた狙い目

 残留に向けてもう1試合も無駄にできないワトフォード。だが、この試合ではキング、サールという前線の主力が2枚も欠場という厳しい状況。ホジソン就任以降、ここまでの試合においては守備は改善が見られてはいるものの『ホジソン政権下の6試合で得点を決めたのは2試合のみ』というデータもあり、攻撃面では課題は積み残し中。

 他の残留争いのチームの勢いを考えれば欲しいのは3ポイント。そういう中で2人の攻撃的なタレントの欠場は非常に痛い。それだけにこの試合はワトフォードにとっては1点が大事になるゲームになるはずだった。

 しかし、そのワトフォードの狙いとは裏腹に試合は早々にアーセナルが先制する。狙いとして定めたのは右サイド。サカ、ウーデゴールの2人であっさりとワトフォードの左のユニットを壊す。ウーデゴールとのワンツーで抜け出したサカはラストパスで再び斜めに走り込んだウーデゴールを活用。ウーデゴールはファーに綺麗にグラウンダーで流し込んだ。

 いきなり先制パンチを喰らわせたアーセナル。この日のアーセナルはこの右サイドの連携が見事だった。動きの部分では特にウーデゴールが秀でており、彼が一度サイドに開くことで同サイドのIHのクレヴァリーを外に引っ張ることができる。得点シーンのようにここは自身が走り込んでもOKだし、セドリックが内側のサイドに入り込んでもOK。ニアを空ける形から走り込むコースを作り、ゴールまでの導線を作ることができていた。

■ワトフォードの狙い×アーセナルの甘さ

 だが、ワトフォードもすぐに反撃。11分にクチョ・エルナンデスのゴールですぐに同点に追いつく。前後の場面まで踏まえて考えると、この得点はパンチが偶然入ったというよりは、アーセナルの守備をどう動かすかを考えながらワトフォードが狙い通りに攻略したと言っていい場面だろう。

 ワトフォードはアーセナルに対して彼らの左サイドを狙い撃ちにしていた。同点ゴールのシーンも左の大外でマルティネッリがワトフォードの選手2人に対して、1人で対応することになり、自由でクロスを上げさせてしまった形であった。

 この試合では大外をティアニーがきっちり守れる場面が少ないのが気になったところ。理由はいくつかあるように思う。1つはシンプルにティアニーが攻め上がっている場面をひっくり返されているから。トランジッションでいなくなった左サイドのカバーにマルティネッリやジャカが引っ張り出されてしまうことが多くなっていた。

 もう1つはワトフォード側のオフザボールの動きである。一例としては、同サイドのWGがメインポジションになったクチョ・エルナンデスが内側に入り込むようなフリーランでティアニーを内側に連れていったり。先制点を奪った場面もクチョ・エルナンデスが点を決めたのは左サイドよりのポジションだった。その外から内に入る動きと逆にトップのデニスが右に開きながらアーセナルの左サイドの裏に抜けるような場面もあった。

 ワトフォードの前線はこうした内外のレーンの使い分けが非常にうまかった。加えて、攻めに出てくるシソコなどのIHが最終ラインに突っ掛けてくることも。こうした攻撃におけるバリエーションはおそらく放っておいても右サイドから独力でチャンスを作ることが出来るサールの不在がもたらした副産物と言っていいだろう。強烈な個がいない分、こうしたオフザボールの動きから相手の最終ラインの穴を作ろうとする流れはこれまでのワトフォードにはなかった攻撃である。

 入れ替わり立ち替わりでサイドを使う選手を変えつつ、PAで飛び込むことが出来る選手を確保する。こうしてサイドに穴を開けることができたからこそ、ワトフォードは同点に追いつくことができた。

 非保持でのアーセナルは前からのボールホルダーへのチェックが甘い場面が多かった。前線のプレスバックからショートカウンターに移行する場面(アーセナルの2点目もそうだった)もあったが、マーカーの正面で正対する選手の距離が遠く、ホルダーにフリーで時間を与えてしまうことが多かった。

 ワトフォードが前線のレーンを有効活用することができていたのは、アーセナルのこのホルダーへの寄せが甘いことも一因である。ここでホルダーにある程度タイトな寄せを見せることができていれば、レーンの入れ替えを活用する後方からの大きな展開は見せることができていなかったように思う。ワトフォードのレーン分けを許したのはアーセナルの脇の甘さでもある。

■前線はイケイケ

 イケイケのアーセナルではあったが、前半はアーセナルの左サイドは右ほど機能しなかったという懸念も。ここがカウンターの温床にもなっていた。左サイドは幅を取れていないわけではなかったが、奥に抜けるようなフリーランがないぶん、スペースを作ることができていなかった。

 そのため、大外からマイナス方向へのパスがカットされることも。右サイドでいうセドリックのような走ってくれるフォロー役がいなかったのが痛手となっていた。マルティネッリはこの試合ではやや内側に入り込むタイミングが早かった印象。ややシュートが引っかかる場面が多く、外から内に入り込むランをいつもよりも上手く活用できていなかったように思う。

 それでもそんな構造的な多少の不具合くらいならば吹き飛ばすことが出来るくらいこの日のアーセナルのアタッカー陣は調子が良かった。攻撃における滑らかさで言えば今季の中でもトップクラスと言っていいだろう。ワトフォードのプレスを交わして1枚剥がし、少ないタッチで正確なパスを繋いでいく。これをアタッキングサードでバシバシと決めていく。

 精度で言うとサカとウーデゴールの右サイドが異次元。自身のプレスバックきっかけのショートカウンターから2点目を奪ったサカは一時期、フィニッシュワークが課題と言われていたのが嘘のよう。造作もなく得点を決めてしまう姿にはここ数年のアーセナルのアタッカー陣の中でもトップと言っていいくらいの凄みすら感じた。

 非保持では危うさもあったアーセナルだったが、攻撃においては前半を通して質の高さを見せ続ける。サイドのフォローに回ることが多いワトフォードの中盤に放って置かれたトーマス、相手を背負いながらも自在に味方を前に向かせることができたラカゼットという2人の中央の軸がしっかりしていたことも大きかった。

■ノリゆえに落ち着きがない

 迎えた後半もアーセナルのアタッカー陣の好調さは継続。3点目のマルティネッリの得点までの一連の流れはアーセナルの今季のゴール・オブ・ザ・シーズンと言ってもいい滑らかさ。素早いリスタートからセドリック、ウーデゴール、ラカゼット、マルティネッリと流れるような攻撃で大きな追加点を挙げてみせる。

 ただ、ここから先の展開においてはちょっとこの調子の良さが邪魔をした感も否めない。これだけ綺麗にいろんなものが決まったことで、前線の選手からすると『もっと!もっと!』と言う感じで攻撃がテンポアップしてしまったり、難しい選択肢を選びがちになってしまったりするようになってきた。ちょっとハイになっているというか。

 2点差リードと言うことで、本来でいえば試合を掌握する方向性に向かってもいいはずなのだが、ハイになっている分そう言う方向性で試合を落ち着かせようとする動きを見せることができなかった。

 そうなるとワトフォード側にもチャンスが出るようになる。前半にも述べた通りこの日のアーセナルは守備における寄せが甘く、ワトフォードにチャンスを与えていた。

 前半に比べればアーセナルはジャカが大外に開いたりなど、左サイドの内外のレーン分けを意識していた分、このサイドで詰まることは減っていた。だが、逆にワトフォードはアーセナルのイケイケの右サイド側からカウンターを発動する機会を増やすように。オーバーラップしたカマラがシュートしたシーンなどはプレー選択に助けられたが、アーセナルとしては肝を冷やした場面であった。

 前線がそうしたイケイケ感があるのならば、バックラインが引き締めたいところだが、この日はバックラインもピリッとしない。ガブリエウはラインコントロールが怪しく、裏を取られる場面が多かったし、ラムズデールは2回も危険な形で相手にボールを渡し、ピンチを招いた。ラムズデールに関してはもちろんギリギリを狙う故のリスクではあるが、1つのミスで試合が台無しになる可能性があるポジションである以上、1試合で2回の繋ぎのミスでは高評価は難しいところではある。

 バックラインの中では比較的安定していたホワイトも、シソコのゴールの場面では入れ替わられてしまい、最後の壁になることができず。安定感をやや欠いてしまった。

 終盤は慌ただしい展開になったアーセナル。追い縋られる展開になりながらもなんとか逃げ切りを決めて4連勝。久々の4位浮上を果たすこととなった。

あとがき

■CLの舞台に胸を張って挑める出来に

 エレガントな攻撃面の数々のプレーに関してはレビューでは語り尽くせないほど上質なものだったし、3点目はこれからの未来で過去に決めたビューティフルゴールとして繰り返し振り返ることになるだろう。

 攻撃陣のコンディションの良さは非常にポジティブなものだった。この試合のいいところにケチなんてつけられるわけがない。アーセナルファンならば誰もが虜になるような美しいエレガントなプレーが満載だった。そこには疑いの余地はない。

 一方で、ここまで重ねてきた連勝のような緊張感に欠けていたのも事実。『全試合が決勝戦』と言うアルテタが掲げてきたフレーズをこの日のピッチが体現できていたかと言われると、それには『No』と言わざるを得ない。

 確かにワトフォードの前線のレーンの入れ替えは巧みであったし、今季ここまであまり見せてこなかったスタイルではあるから戸惑いがあっても不思議ではない。だが、ホルダーへの寄せの甘さとか、終盤におけるバックラインの軽微なミスとかそうした盤面とは異なるところで緩さが目立ったのは気掛かりである。

 もちろん、CL出場権の確保が最優先ではある。それであれば勝てば良い。だけども、個人的には今のアーセナルはワンランク上のチームになれるかどうかの非常に重要な時期を過ごしているように思う。それには1試合1試合にウルブス戦のような緊張感のある展開で経験値を得ることが大事である。今季は国内、欧州においていずれもトーナメントの機会はもうない。緊張感のある試合は自ら作っていかないとチームの成長の妨げになる。

 アルテタも試合後には『試合をコントロールしないといけない』と反省の弁を述べている。危うい勝利や見どころのない敗戦でも会見でポジティブな声かけに終始することが多かったアルテタのコメントが、勝ったにも関わらず課題を口にするように変質しているのは個人的にはチームが先の段階に進んでいる証拠のように思う。

 勝って気を引き締める意識を持ち直せる機会は貴重。次の試合はエレガントさに緻密さを添えて『このチームこそCLの舞台に相応しい』とファンが胸を張れる内容での勝利を期待したいところだ。

試合結果
2022.3.6
プレミアリーグ 第28節
ワトフォード 2-3 アーセナル
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
WAT:11′ エルナンデス, 87′ シソコ
ARS:5′ ウーデゴール, 30′ サカ, 52′ マルティネッリ
主審:クレイグ・ポーソン

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