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「逃したきっかけの懸念」~2023.12.5 プレミアリーグ 第15節 ルートン・タウン×アーセナル レビュー

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レビュー

様子が違うアーセナルのビルドアップ

 中2日でのゲームが続くアーセナル。今節の相手はこちらも中2日でリーグ戦を迎えるルートン。ホームスタジアムの改修が間に合わない関係でミッドウィークにねじ込まれた第2節延期分以来、およそ2か月ぶりの中2日でのリーグ戦連戦ということになる。

 というわけで両チームは部分的にターンオーバーを実施。変更部分は対照的だった両チーム。オグベネとモリスをベンチに置いたルートンは前線を入れ替え。アデバヨと連続ゴール中のブラウンを先発に起用する。

 一方のアーセナルは3枚の変更。ジンチェンコと試合後に負傷離脱がアルテタの口から発表された冨安に代わって、キヴィオルとホワイトが先発で起用。トロサールに代わってハヴァーツが入ったが、前線の3枚はキープ。こちらは後ろの入れ替えが中心となった。

 人を変えてもプランに大きな変化が見られなかったのはホームのルートンの方。アーセナルのバックラインへのプレスはそこそこだが、ミドルゾーンにがっつりと食いついていくプレスはここまでのルートンの戦い方を踏襲しているといえるだろう。

 これに対するアーセナルの構えは少しいつもと様子が違った。もっともわかりやすい変化はSBがインサイドに絞る動きを見せなかったこと。キヴィオルもホワイトもライスの隣に立つ様子はなく、基本的には外に張ることが優先事項となっていた。個人的にはここ1年くらいのアルテタは起用する選手にその素養があるかないかにかかわらず、レフトバックには絞るアクションを求めていた。そのため、キヴィオルがインサイドでプレーするそぶりを見せなかったのは意外だった。

 ライスの脇に立つ役割を果たしていたのはIHの両人。ウーデゴールとハヴァーツである。このうち、ハヴァーツは前線に張ってロングボールのターゲットとなる役割も課されている。というわけで相対的に降りるアクションが多いのはウーデゴール。いつもよりもウーデゴールが低い位置で降りる頻度が多かったのはSBを絞らせないプランとIHの相棒が高い位置に出ていくという2つの理由によるものである。

 3-2-5ではなく2-3-5という形を組んだアーセナル。5バックの相手に2-3-5を組むのはブレントフォードやウルブスとの試合で見られた部分なので一見同じ文脈のように思える。だが、この試合ではその2戦と異なりビルドアップの局面でこの形が見られたこと、さらにはライスの脇に立つ役がSBではなくIHになっていることなどの変化がみられており、個人的には別の文脈でのプランと受け取っておきたいところである。

前提を破ったサカ

 しかしながら、このアーセナルのビルドアップのプランはあまりうまく機能しなかったといっていいだろう。4-3-3をベースポジションとして考えた時、2-3-5への変形はIHが列を降りる形になる。この降りるアクションに対するルートンの対応は非常にはっきりしていた。降りる選手に対しては最終ラインから飛び出すことになってもがっちり捕まえることである。

 そのため、アーセナルは縦パスの受け手が常に相手を背負っている状況でボールを受けに来ることになる。受けた選手に対するサポートもあまり豊かではなく、アーセナルは降りてきたルートンの選手が空けたスペースを利用して前進することができない。

 結局は前線へのロングボールが増えることになる。そういう意味ではIHにハヴァーツを起用し、高めの位置に取らせる形は後方でズレが作れない保険を作っていたともいえる。が、今季のアーセナルは後方のビルドアップブロックの流動性を高めながら相手のプレスをいなすアプローチが得意なチーム。詰まった状態を放置したまま長いボールに逃げるというのは少しらしくないように思える。

 ルートンの守備のアプローチは基本的には降りていく選手を離さないという方向性が軸なので、SBがインサイドに入ればどうなるか?というアレンジは個人的にはズレを作れるのではないかと思った。が、実際には前半にはやらなかったのでルートンからすれば自分たちのプランが遂行しやすい状況だったはずだ。こうしたプランを発動しなかったのはジンチェンコもしくは冨安のようにビルドアップで寄与できるSBの不在が大きいのかはアルテタのみぞ知るといったところだろう。

 というわけで思ったよりもボールを持ち倒すという感じにはならなかったアーセナル。非保持に回ってもルートンのバックラインに無理にプレスをかけることはせず、ルートンはサイドからボールを運ぶことができた。非保持に対するアプローチが穏やかなものだったこともアーセナルのペースに流れなかった要因である。しかしながら、サイドの守備はその分きっちりと枚数をあわせており、アーセナル陣内まで運ばれてもルートンに自在に攻撃をやらせることはなかった。

 アーセナルの方がボールを持ちながらもなかなか試合を動かせない展開が続く。そうした中で少ないチャンスを生かしてアーセナルは先制。ルートンのバックラインのパスワークの乱れを見逃さなかったジェズスが素早いリスタートを敢行。サカ→マルティネッリと繋ぎ、あっさりと先制ゴールを奪う。

 ルートンが陣形を組むのが間に合っていないことを見抜いたジェズスのリスタートが良かった部分の1つ、サカのインサイドの入り込みに対するマルティネッリのマイナスの位置取りが良かったのも得点につながった大きな要素だろう。

 しかしながら、ルートンは5分後に追いつくことに成功。セットプレーからオショーがこの日初めてのルートンのシュートをゴールに結びつける。マルティネッリがマークを外してしまい、アーセナルは5分でタイスコアに戻されることになる。

 ルートンに対してアーセナルはその後もなかなか前を向かせてくれずに苦戦。シュートを打つことができてはいたが、いずれの攻撃も単発感が否めずゴールに近づいている時間とはいえなかった。

 そうした中で徐々に別格感を見せていたのはサカ。前を向く機会さえできれば1on1でやり切ることができてしまう。降りていく選手についていくルートンの基本方針は前を向く手前の状況でなんとかする!である。仮に前を向かれてしまうと前傾姿勢のプレスの分、サカにダブルチームをつくのが遅れてしまう。瞬間的な隙からサカは優位を作り出す。10月に比べれば、この1ヵ月のサカは明らかにコンディションを挙げており、非常に頼もしい存在といえるだろう。

 もちろん、ルートンの前を向く前になんとかする方向性がうまくいくこともある。サカに対してダウティーがボールを奪ってカウンターでチャンスになった場面などは代表例である。ルートンの中でもダウティーとカボレの両WBは個人的にお気に入りの選手。ダウティーのボール奪取からのカウンターは彼の持ち味の一端を見ることができた場面である。

 しかしながら、アーセナルはその前を向いたサカから勝ち越しゴールをゲット。ようやく見られた右サイドの定点攻撃からホワイトがジェズスにラストパスを送り、前半追加タイムに勝ち越し。前半はほぼ封じられていたアーセナルらしい攻撃から得点を奪い、ハーフタイムをリードで迎えることとなった。

ジンチェンコの投入が分水嶺に

 後半の入りは明らかにルートンのペースだった。アーセナルは前からのプレスの意識を強めた入りに見えたが、逆にライスの脇を空けてしまうことでルートンに縦パスを入れる余地を許してしまうことに。

 この縦パスの流れにバタついたのか、今度はパスワークの流れの中でキーマンであるバークリーをフリーにするシーンが目立つようになる。前半もアーセナル陣内に押し込むシーンは少なくない頻度で見られた試合だったが、ダウティーが入りこむ深さは明らかに前半よりも鋭いものになっていた。

 そうしたルートンペースの流れから同点ゴールは生まれることになる。CKからのコーナーキック、ライスを振り切ったアデバヨの打点の高さは確かに素晴らしいものではあったが、ラヤはゴールマウスから出ていくのであれば確実に触らなければいけないシチュエーション。触れなかった結果、アデバヨのシュートは無人のゴールにすっぽり入ることとなった。

 3失点目もラヤが止めきれなかった印象のように思う人もいるかもしれないが、あまりにもシューターをオープンにし過ぎているところは明らかにフィールドが責任を負うべき部分。この場面はむしろ責任を感じるべきはホワイトだろう。シュートシーンにおいて間合いを簡単に作らせてしまったことはもちろん、その直前にミドルゾーンで簡単に交わされてしまい、サイドの対応が後手になる要因を作ってしまっている。2回交わされてしまったホワイトもこの失点に絡んでいる1人である。

 バークリーのゴールによりこの試合はじめてビハインドに陥ったアーセナルだが、すぐさま同点に追いつく。浮いたボールの処理を相手に体を預けながらうまくコントロールしたジェズスがまずは芸術的。そのうえで、浮き球にあわせて走りこんだハヴァーツがアーセナルにあっという間の同点ゴールをもたらす。ハヴァーツは流れの中での推進力のなさも徐々に改善されており、チームへのフィットは順調に進んでいるといえそうだ。

 アーセナルはトロサール、ジンチェンコを投入。軽量級の面々を入れることは長いボールが多い展開においてはリスクもあるが、それでも後半頭の入りの悪さをふまえれば、自陣でのボール保持の部分の改善は必要という判断になったということだろう。ショートパスでの組み立ての落ち着きはラヤの長所の1つなので、この部分を生かすという意味でもいい変更のように思う。

 特にジンチェンコの投入は効いていた。テンプレ化していた中盤の陣形に幅ができたことで、アーセナルは少しずつオープンな形で縦パスを入れることができるように。ルートンは60分を境にレギュラー組を中心に前線の3枚をガラッと代えていたため、前からのプレスの強度は落ちていなかった。が、その反面、ルートンの中盤のスライドが徐々に遅れだしてきた時間帯でもあったので、ジンチェンコの投入は追い打ちをかける意味で非常に効果的だったといえるだろう。逆にこのまま動かなければ、ロングボールのアバウトな展開は最後まで続くことになったかもしれない。

 ジンチェンコの登場により、アーセナルは残り15分を敵陣で過ごす時間を増やす形で試合を運ぶことに成功する。ルートンはプレスバックが激しいチョンや単騎でボールを運び、独力でロングカウンターへの道を開拓できるオグベネはアーセナルにとっては厄介な存在であり続けた。

 最後まで集中を切らさなかったルートンだが、アーセナルはラストプレーで決勝点。左サイドのクロスをライスが仕留めて土壇場で勝ち点3を拾うことに。ユナイテッド戦に続き、今季2回目の後半追加タイムでの決勝点を生み出したライス。見事なクラッチシューターぶりに助けられたアーセナルは中2日のリーグ戦連戦を連勝で乗り切ることに成功した。

あとがき

 SBがインサイドに立ち上がりから絞っていればもっと簡単に運べた試合だと思うが、冨安が離脱しているのならばなおさらジンチェンコのプレータイム管理にはシビアになる必要があるので、頭から使えば!という指摘をするのは難しい。

 ジェズスとハヴァーツの2トップのような振る舞い自体は後方でズレを作れないこの日の事情を踏まえてもとてもよかったと思う。だが、ルートンに対してはサイドの裏に流れるロングボールみたいな動きも効果的だったように思うので、エンケティアが出ていればどうなったのかは気になる部分である。個人的にはここをきっかけに状態を上げてほしかったので、機会を逃してしまったなという思いは強い。何もアクシデントがなければしばらくスターターはジェズスになっちゃうのかなという感じである。

 もちろん、勝ったことは喜ばしいことではあるし、アルテタのプレータイム管理やこの試合の采配には全く異論はない。だが、ネルソンやエンケティアは得点が欲しい状況にも関わらず最後の最後までベンチを温めていたことを考えると、少しずつアタッカー陣の序列が定まりつつあるのかなというのは先を見据えると小さい懸念になるのかなという印象もまたある。PSV戦がそういった面々にとって吹っ切れるきっかけになればいいのだが。

試合結果

2023.12.5
プレミアリーグ 第15節
ルートン・タウン 3-4 アーセナル
ケニルワース・ロード
【得点者】
LUT:25‘ オショー, 49’ アデバヨ, 57‘ バークリー
ARS:20’ マルティネッリ, 45‘ ジェズス, 60’ ハヴァーツ, 90+7‘ ライス
主審:サム・バロット

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