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「ハヴァーツがいるつもり」~2023.12.28 プレミアリーグ 第19節 アーセナル×ウェストハム レビュー

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レビュー

ハヴァーツがいない影響は?

 アーセナルにとっては得意のホームゲーム、得意のロンドンダービー、そして得意のモイーズと好相性の要素が揃った一戦。前半の最後の一戦は6位のウェストハムをエミレーツに迎えてのゲームである。

 アーセナルは非常にオーソドックスな入りを見せた。高い位置からのボールダッシュで押し込んで行き、サイドに展開して勝負を仕掛けるというお馴染みの形から腕試しである。この日のアーセナルの主戦場は右サイド。サカ、ウーデゴール、ホワイトを軸に攻めていく。

 ウェストハムは基本的に同数で受けていたが、パケタがサカのフォローを気にしている分、サイドでアーセナルはズレを作ることができる立ち上がり。このズレを作るところからエリア内への侵入は見えていたアーセナルだった。

 序盤のアーセナルは即時奪回も機能。しかしながら誤算だったのはウェストハムがアーセナルのプレッシングに慣れることが早かったことである。特に降りてくる前線をボールの預けどころにする形は機能していた。ボーウェン、クドゥスなど前線の選手たちが降りてワンタッチで戻し、陣形を整える時間を作る。一気に前進までは難しくてもアーセナルの即時奪回の圧力は十分に逃すことができる。

 特にこの点で効いていたのはパケタ。カウンターの起点としての存在感はさすがであり、ボールの収めどころとしてのパフォーマンスは圧巻だった。ということでアーセナルの押し込む→奪回というサイクルによる立ち上がりのずっと俺のターン感は時間経過と共に薄れていくことになる。

 もう一つ、アーセナルにとって誤算だったのは左サイドのボールを動かすところが機能しなかったこと。IHに入ったトロサールはほぼボール回しに絡まず、マルティネッリとジンチェンコの二人称での崩しが主流になっていた。時折、ワイドにトロサールが入ることもなくはないのだが、かなり頻度は少ない。

その上、大外の選手に対してはマルティネッリだろうがトロサールだろうが、クドゥスがクファルのヘルプをする形でカバーに入っており、大外を見事に分離していた。ダブルチームは必ず他のどこかを空けてしまうという点で諸刃の剣の作戦ではあるのだけど、この日のアーセナルの左サイドに対するウェストハムのダブルチームは明らかに収支がプラスだった。

 アーセナルは途中からジェズスが左サイドのユニットに入り乱数を増やす試みを見せていたが、インサイドに入るのがトロサールであればクロスのターゲットとしては少し計算しにくい。この辺りは入れ替わった時にクロスのターゲットの役割を担える出場停止のハヴァーツの影響は感じる部分だろう。

 ハヴァーツ不在の影響はビルドアップにも見られた。普段はハヴァーツがストライカータスクを担う分、ウーデゴールは低い位置でボールを触ることが増えることが多かったのが昨今のアーセナルなのだが、降りて受ける傾向が強いトロサールがIHに入ってもウーデゴールは降りて受ける機会を調節できなかった。

 その結果何が起きるか。11分の攻撃などが典型なのだが、ボールだけが前に行ってしまい人が前に遅れていない状況ができてしまう。ボールと人が一緒に進まずにボールだけが前に進む。もちろん、相手を自陣側に引きつけてるなど数人で完結できる場面であればそれでもいい。だが、この試合ではウェストハムを引きつけられないままボールだけ前に行くシーンが頻発していた。これもまたハヴァーツがいない影響の一端と言えるだろう。

ウェストハムのCHが背負う過負荷のわけ

 さらにアーセナルにとってまずかったのはウェストハムが先制点を手にしてしまったことである。きっかけとなったのはウェストハムの左サイドの攻め手。ウェストハムはパケタでホワイトを釣り出すところから歪みを作りにいく。

 その左サイドからのクロス対応でジンチェンコとガブリエウがかぶる形になり、アーセナルは失点を喫する。誰に責任があるかの判断は難しい場面ではあるが、被ることを避けることができるのはボールとガブリエウを同一視野に入れることができたジンチェンコの方ではあるだろう。

 アーセナルはサイドにサリバが引き出された格好になったが、サリバがRSBでライスがRCBという形でなんとか陣形は維持できている。一般論としてサイドに出ていったCBにはクロスを上げることを許してほしくはないが、クロス対応自体はジンチェンコとガブリエウが相手選手に対して2対1を作れていたことを考えれば、動かされたこと自体が失点に直結するエラーとするのは違う感じがする。ホワイトに関してもサリバと同様の感想である。

 先制されたことでアーセナルはウェストハムをプレスに引き出すことはかなり難しくなった。ウェストハムのCHの左右へのスライドは非常に見事。ボールサイドのCHがアーセナルのサイドの崩しのヘルプに行き、もう一人の選手がアンカーポジションにスライドする。もしくはトップ下に入ったウォード=プラウズが2CHに一角にスライドする形でカバーに入る。

 わざわざ中盤に過負荷を強いているのはこの日のウェストハムのCBに主力が不在だからだろう。オグボンナとマヴロパノスにはきっちりとボックス内の跳ね返しに集中してもらう。そのため、WGとCHが自陣に戻りサイドの深い位置を埋める。それがこの日のウェストハムの方針である。41分にアーセナルの左サイドにカバーに降りたソーチェクのようにハーフスペースを埋めるのもウェストハムのCHの役割。逆サイドはアルバレスがこの役割を担当していた。

 アーセナルがサイドを変える横断のようなパスワークが少なく、どちらかといえば同サイドへのオーバーロード的な攻撃が多かったのもウェストハムにとっては助けになっただろう。スライドが多発すればウェストハムの中盤はこのメカニズムを90分持たせるのは難しかったかもしれない。36分のシーンは横断を使ったアーセナルの攻め手の好例である。こういう攻めの場面ではウェストハムが大量失点したフラム戦のような後手に回っている感があった。

 30分過ぎのパケタの負傷はボールの預けどころを失ったという点でウェストハムのカウンター以降への不安定性を誘発。この時間帯はアーセナルが勢いよく攻めていた。マヴロパノスのプレゼントパスなど、アーセナルとしてはこの時間に追いついておきたかったところだろう。この試合のウェストハムとしては珍しく後方の陣形が整う前にアーセナルの侵入をあっさりと許してしまった時間帯となっていた。

 トロサールのミドルのシーンに代表されるようにアーセナルのストライカー陣のプレーセレクションは少し淡白な感じがした。もう一工夫欲しいところでシュートで終わることが優先されてしまった感があったシーンはちらほら。そういう意味ではいい時間帯においても攻めのクオリティには不満が残るものだったと言えるだろう。

3バック変更で直ったところ、直らなかったところ

 後半のアーセナルは前半の立ち上がりを焼き直す形で積極的な攻めを見せる悪くない立ち上がり。特にSBの攻撃のフォローが早く、左サイドはハーフスペースのジンチェンコ、右サイドは大外のホワイトが早い段階でサポートに入っていた。ボックス内に前半よりももう一歩深く踏み込むことができていたことを考えるとサイドのサポートは効果があったと言えるだろう。

 しかしながらウェストハムはセットプレーから追加点。ウォード=プラウズのCKはスペースを狙ったもの。ファーサイドから絞るようにそのスペースに入り込んだマヴロパノスのヘッドは素晴らしく綺麗にデザインされたものだった。

 このCKを奪ったシーンのように後半のウェストハムはクドゥスがカウンターの収めどころとして機能。ハーフタイムを挟んでこの点は明確に整理された感があった。ジンチェンコは加速を止めることはできていなかったが、ここでのマッチアップである程度後手を踏むのは仕方ない。今のクドゥスを1人であっさり止められるガブリエウが異常だと思う。今のジンチェンコの問題はそこではなく、バックパスミスが多いこと。それが相手の位置関係を認知できていないように見えることである。

 ウェストハムは前半以上にバックラインのプロテクトに注力。カウンターの目が薄くなってもSHとCHを自陣に投入できるのは2点リードの賜物だろう。個人的にはベンチにCB不在でもどこかでモイーズはSBを入れて5バックにしてもいいのかなと思ったが、そうしたやり方はとらなかった。これはCHのボールサイドへのスライドと最終ラインの枚数調整が後半も十分に機能しているという自信の裏付けだろう。

 アーセナルは60分の選手交代で3-5-2に移行。前半のパケタ負傷直後と同じく、アーセナルはこの時間にも得点のチャンスがあった。右サイドから飛んできたクロスに対してウェストハムはターゲットの増えたエリア内の守備対応が混乱している時間帯。ネルソンがジェズスがこれを決めていれば少し試合の流れは変わっただろう。

 正直に言えば大外の攻撃の機能性は変わっていなかったように思うので、クロスの入り方の部分での修正を機能させる形でなんとかシステム変更を正当化したかったところ。終盤はシュートコースの創出は2人を引きつけながら時間を作るウーデゴールのひらめき頼みになっており、外からクロスを綺麗に上げる形を作ることにアーセナルは苦労していた。

 最後はライスのPK献上というプレミアリーグという脚本家がいかにも書きそうな結末が待っていたが、悪い連鎖をラヤがカト。ラストプレーで一握りの意地を見せたものの、アーセナルはモイーズ、ロンドンダービー、ホームリーグ戦における無敗記録を手放す手痛い一敗を喫することとなった。

あとがき

 昨季はロンドンスタジアムだったけども、リバプール→ウェストハムの終盤戦のドロー連打の流れで一気に失速感が出たアーセナル。正直、強くなった証明はいくらあってもいいと思うのでここは乗り越えて欲しかったところ。本当に悔しい。

 プレーとしてはジェズスのサイドに流れる部分とか、ウーデゴールのビルドアップの低い位置とかハヴァーツがいるテイストで組まれているところが気になった。ブライトン戦で見られた絶妙なポジションバランスが崩れてしまったのはこの試合の敗戦の大きな一因だろう。

 ポケットをとってのハーフスペースからのマイナスクロスが少し減っている感があるし、サカやホワイトが終盤へばっていることも見られるので個人的には右のトロサール起用がオススメなのだけど。裏取るの上手いし、クロスも正確だし、右足でこねる癖もエンドライン側に持ち込まれることが多いので、ロストした時のカウンターの危険性も下がる。今見てみたいコンバートがあるとすればこれかなという感じ。

試合結果

2023.12.28
プレミアリーグ 第19節
アーセナル 0-2 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
WHU:13’ ソーチェク, 55′ マヴロパノス
主審:マイケル・オリバー

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