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「叩き続けた扉」~2022.2.24 プレミアリーグ 第20節 アーセナル×ウォルバーハンプトン レビュー

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目次

レビュー

■困る出し手たち

 およそ、2週間ぶりとなるウルブスとの再戦。前回の対戦ではセットプレーで得た先制点を10人になりながらもアーセナルがなんとか守り切ったと言う内容の一戦だった。

 ウルブスのフォーメーションはこの日と同じく3-4-3。直近では3センターの試合の方がやや多かったのだが、アーセナルには前回対戦と同じ布陣でぶつかってきた。

 その理由はおそらく守備面だろう。アーセナルのボール保持に対しては、3トップ型の方が守りやすいと言うのがブルーノ・ラージの判断だ。アーセナルのビルドアップの肝はトーマス、ガブリエウ、そしてホワイト。この3人をいかに抑えるかである。なので3トップがそれぞれをマンマークで抑える!と言いたいところだが、この日のウルブスのプレスはマンマークとは少し違った。

 3トップはいずれも人を見るよりも選手の間の中間ポジションを取ることが多かった。中央のヒメネスはアンカーのトーマスを消すのを優先しつつ、アーセナルのCBが幅を取らなければトーマスを消した状態でプレッシングにもいく。WGのポデンスとヒチャンの2人はSBとCBを共に監視できる状況を維持。3トップはいずれも出し手を厳しく制限すると言うよりは持ち場を離れずに余計な選択肢をアーセナルに与えないように注力していたように見えた。

 その分、厳しく制限していたのはビルドアップ隊からパスを受ける側へのチェック。高い位置をとるSBにはWBが出ていくし、CHの2枚はジャカとウーデゴールを追いかけ回す。ラカゼットが低い位置を取ればコーディがついていく。受け手を厳しくチェックすることで、出し手がなかなかいい出しどころを見つけられずに戸惑う場面があった。

 後方のプレスに関してはやや仮説。カメラ的にアーセナルのバックスがボールを持っている時の前線の配置が見えないので。やや想像の部分はあるのだけど、アーセナルのバックラインが出しどころに困るようなプレスをウルブスがかけることができていたところまでは事実。特にガブリエウはボールの出しどころに困りながらいつもよりも長くボールを持つことが多かった。

 このガブリエウへのチェイシングを実らせたウルブス。10分、自陣低い位置でコントロールに迷うガブリエウ。ヒメネスの寄せが効いているうちにバックパスのコースを切りに行ったヒチャンにガブリエウが気づくことはできず。バックパスのミスからウルブスが先制する。

 このプレーの直後はやや落ち着かない状況を引きずってしまったガブリエウ。失点直後の12分、自身の内側を通されるパスからの決定機をヒメネスが決めていたら、この日の勝ち点3は難しくなってしまっていたはず。なんとか、このプレーの後は目を覚ますことができたので、ウルブスがこの1回を逃してくれたことは幸運だったように思う。

■コーディから逃げられないラカゼット

 とはいえ、ボール保持でなんとかしないことにはアーセナルには逆転のチャンスはない。そういう意味ではまずはビルドアップの難点を解消しなかればいけない。ウルブスという堅いチームに先制点を与えるという重い十字架を背負ってしまったアーセナルはここから反撃に挑む。

 まずは長いボールでチャンスを伺っていく。とはいえ、ハイボールをただただ放り込んでも跳ね返されるだけ。できれば揺さぶるように長いボールを使いたい。その点でポイントになったのはアーセナルのSBである。先に述べた通り、この日のアーセナルのSBに対してのウルブス側のプレスの担当はCBとSBの中間にいるシャドー、もしくは大外に貼るWGを気にしながら出ていかなければいけないWBである。

 普段だったらウルブスは相手SBへのケアは中盤がスライドして行うのだが、3センターを採用しなかったことと2CHはジャカとウーデゴールをケアをすることを優先。サイドはサイドで解決しろや!がこの日のウルブスの守備のスタンスだった。というわけでSBがシャドーのプレスが届かないところで受けてWBを引き出すことができれば、アーセナルの両WGは裏の長いボールで比較的スペースがある状態で対峙できる。

 もちろん、長いボール一辺倒では攻略は難しい。ウルブスの堅い守備の攻略に関してはショートパスも併用して壊したいところ。そのためにはトーマスに前を向かせる状況を作ることが大事である。ゲームの立ち上がりはあわよくばでウルブスのアタッカー陣が強気にCBにプレスをかけにきたことを利用し、空いたFW-MF間のスペースで比較的簡単に前を向くことができたのだが、リードをしてからはウルブスが無理にCBにプレスに行くことが減ったのでアーセナルとしては工夫が必要だった。

 というわけでトーマスに前を向かせるルートとしては主に2つ。ウーデゴールが中盤で動き回りながらポストできる隙を作り縦パスを受ける。もしくはSBから横方向にパスを受ける。

 WGが縦に勝負できるスペースを作るという意味でもSBはビルドアップにおいて重要な役割を担った試合だと思うのだが、特にセドリックはこの難しい役割をうまく遂行したと思う。縦へのスペースメイクはもちろん、横パスでトーマスを前に向かせたり、20分のようなバイタル付近への斜めのパスからチャンスを演出したりなど、徐々にできることが増えてきた印象である。サカへのサポートも段々と板についてきた印象。

 大外のサカも好調を維持。対面の相手がフォローに来たシャドーとかだったらほぼ間違いなく置いていく。相手からするとできれば2枚つけたい相手であることは変わりない。アーセナルの右サイドはウルブスのプレスと駆け引きしながら前進をすることができていた。

 それでもアーセナルがPA内でチャンスを作れていたか?というとそれはまた別の話。アーセナルはゴールに向かうことはできたが、肝心のシュートがブロックに入られたり、ラストパスが通らないことでチャンスにならなかったりなど苦戦する。

 前節のブレントフォード戦のように決定機を作りまくる展開に至らなかったのはやはり、ウルブスが簡単に左右の横断を許さなかったからだろう。相手を横に揺さぶることができれば、薄いサイドから攻めることができる。

 だが、ウルブスはブレントフォードほどホルダーに時間を与えてくれなかったし、ホルダーから横パスを受けられる周りの選手を塞ぐのも早い。スムーズにサイドを変えながら攻撃ができたのは、限られた回数のみ。そして、仮にサイドを変えることができたとしても、素早く攻撃を完結できなければ撤退が早いウルブスは前方から人を戻してスペースを埋めてくる。アーセナルはPAに侵入できたとしても人垣に覆われた状態でプレーすることを強いられる。

 象徴的だったのはラカゼットのプレーだろう。彼がPA内でプレーするときはほとんどが背中にコーディを背負った状態だった。周りにも挟めるウルブスのDF陣がいる中で、ラカゼットが独力で反転してシュートまで持っていくというのはなかなかしんどい。

 アーセナルがそもそもウルブスを左右に振ることができれば、中央をもう少し空けることはできたはず。ラカゼットがコーディを背負った状態でプレーすることが目立ったのは、アーセナルがウルブスの重心を左右に揺さぶることができないままプレーしていた証拠と言える。というわけで物理的な位置としてはゴールに迫るアーセナルだが、人垣の外からゴールまでが遠かった。

 一方のウルブスはカウンターからチャンスを伺う。アーセナルのバックラインは失点の前からプレッシングは比較的強気。WBにはSBがスライドして出ていき、同サイドのCBもそれに合わせてスライドする。

 アーセナルとしては一番怖かったのは大きな逆サイドへの展開。特に素早く展開されるライン間のポデンスに自由を与えて反転させると、ウルブスは薄いサイドからクロスを上げてゴールに迫ることができていた。

 だが、時間が経つとアーセナルは早い段階でプレスを引っ掛ける頻度が増加。強気のDFラインのスライドの収支がプラスになるくらいには、ウルブスのアタッカー陣を前に向かせないままボール奪取を成功。同じサイドで閉じ込めたままウルブスの攻撃を終わらせ、アーセナルの攻撃に素早く転じることができていた。ショートカウンターでもウルブスの帰陣は間に合っており、アーセナルの攻撃はなかなかウルブスの盾を貫くことはできなかったのだけども。

■2トップに課された役割

 後半、アーセナルがボールを持って攻め、ウルブスは受けてカウンターという流れは変わらず。早々に決定機を掴んだのはウルブス。ここ数戦、ポジトラで抜群の動き出しの良さを見せているセメドの大外のフリーランを活用したポデンスがヒチャンにラストパス。後半早々にアーセナルは肝を冷やす。ヒチャンのシュートが枠をとらえなかったことは、前半のヒメネスの決定機に続いてアーセナルにとってこの日2回目の幸運だった。

 アーセナルの後半のマイナーチェンジはラカゼットが低い位置で触ろうとする意識が増えたこと、そしてそれに伴いジャカが高い位置を取る機会が増えたことである。

 この動きにどこまで狙いを見出すかは難しいが、仮に狙いがあるとすれば中央に縦パスを受ける起点を増やして、サイドの深い位置で勝負するための動線を作りたかった!とかだろうか。後半は左サイドからの攻めも増えていたので、ラカゼットが降りるのとセットでジャカが高い位置をとる意味も出てくる。

 いずれにしてもウルブスは60分を過ぎたあたりから、シャドーのプレスバックとロングカウンターの出足が鈍っていたので、アーセナルがサイドを前半以上に人数をかけて崩しましょう!となるのは自然な流れ。終盤はさらにアーセナルがウルブス陣内でプレーする時間が増えた。

 アーセナルにとって分水嶺になったのは2枚目の交代だろう。セドリック→エンケティアで4-2-3-1から3-4-1-2のような形に変化したことである。この交代は賭けと言っていい。なにせ、直前のウルブスの交代はヒチャン→ネト。強固に逃げ切るためにはデンドンケルを投入して5-3-2への変化という選択肢もあっただけに、この交代はカウンターから2点目を奪えというラージ監督からの明確なメッセージである。

 ネトは長期離脱からの復帰明けとはいえ、アタッカーをフレッシュにしたウルブス相手に最終ラインを1枚削ったのはかなり勇気がある決断。そして、前回のウルブスとの対戦時、マルティネッリの退場に伴い、ホールディングを入れて5バックに即座に移行したのと真逆の超攻撃的な決断を下したと言っていいだろう。実際、ペペをWBにおいたアーセナルの右サイドからウルブスはチャンスを作り出していたし、展開がどちらに転がってもおかしくはないリスクのある決断だった。

 アーセナル視点でこの交代のポイントは2つ。ペペを右の大外に置いたことと、ラカゼットを残した状態でエンケティアを入れて2トップに移行したことである。この試合のアーセナルの攻撃の問題点は最終的にインサイドの密集に突っ込む形が多く、侵入してもシュートがブロックに引っかかってしまうことだった。

 アーセナルのアタッカーは外→内に入り込む斜めのランはこの試合で数多く見せていたが、内→外のランで相手を外に広げる動きはあまり多くはなかった。2トップになればCFは1トップ時よりも気楽に外に流れることができる。そして、こうした細かいパス交換で外に流れる選手と入れ替わるようにぬるっと内側に入っていくのがぺぺは非常にうまい。

 同点ゴールの場面はこの交代の理屈が詰まった場面。外に相手を引っ張ったエンケティアのフリーランから内に入り込んだぺぺがラストパスをターンしながらフィニッシュ。ここまで、アーセナルのシュートをことごとくブロックしてきたコーディがエンケティアに釣られて外に流れていたことだけでもエンケティアのフリーランの効果は一目瞭然である。

 そして、決勝ゴールも右サイドから。今度はアシスト役に入ったぺぺから抜け出したラカゼットが逆転のネットを揺らすシュートを放つ。右サイドからの斜めのカットインからようやくウルブスをこじ開けて逆転まで持っていったアーセナル。苦労はしたが、最後は勝ち点3を掴むことに成功する。

 モリニューと同じく、強いメッセージの采配でチームを導いたアルテタに対して、選手は終盤に最高のパフォーマンスで応えた。10日前以上の劇的な展開で奪ったこの日の勝利はチームを勢いづかせる大きな原動力になることを予感させるものだった。

あとがき

■叩き続けた勝利の扉

 これだけ堅いウルブスに対して逆転まで持っていくことができるというだけ、今のアーセナルは非常に力のあるチームと言えるだろう。ウルブスの守備は今季非常に安定しているし、この試合でもそうだった。

 確かに前半はウルブスの守備がアーセナルの攻撃を上回っており、クリティカルなチャンスを作ることはできなかった。それでもアーセナルがウルブスを攻略するためにあーだこーだやっていたのは確かだったし、それを90分続けた結果が最後に勝利というご褒美として帰ってきたという感じだろうか。

 自分の好きな倉敷保雄さんの言葉の中に『シュートは勝利への扉を叩いているノックのようなもの』というものがある。この試合のアーセナルは間違いなく90分間勝利への扉を叩き続けることができた。残り14試合、どれだけ勝利の扉を叩き続けることができるだろうか。全てが決勝戦という厳しい残りの日程の中で、長い時間扉を叩き続けたこの試合の成功体験は若い選手たちの大きな糧になるはずだ。

試合結果
2022.2.23
プレミアリーグ 第20節
アーセナル 2-1 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:82′ ペペ, 90’+5 ジョゼ・サ(OG)
WOL:10′ ヒチャン
主審:マーティン・アトキンソン

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