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レビュー
■2ステップをスムーズに踏んでサイド攻略
この試合を分けるポイントは2つ。まずはブレントフォードの立ち振る舞いである。プレビューでも紹介したように、基本的には強気に打って出るスタンスが彼らの持ち味。マンチェスター・シティ戦を除けばラインを上げながらハイプレスでボールを取り切ろうというスタンスを全面に押し出していくアグレッシブなスタイルである。
だが、前節のクリスタル・パレス戦では5バックを基調とした慎重なスタンスに終始。まずは引いてパレスの5レーン型のアタックをがっちり迎え撃つことに重きを置いていた。
その背景を読み解くと、やはり嵩んでいる失点だろう。パレス戦までは11試合連続失点中で5連敗。ハイプレスを志向しているのは高い位置で相手を食い止めないと、後方のDFラインが晒される機会が増えてしまうからだと思っていた。
だけど、もしプレスで相手を逃してしまうと、スピード不足のDFラインが背走させられるというより苦しい状況になる。プレスが噛み合わないところがあるとそうした機会が増えてしまう。ラインを下げてPA内で跳ね返すことに専念したパレス戦ではスコアレスドローと守備面の立て直しにはとりあえず成功した格好である。
そういう中でアーセナルという相手にどういうスタンスで臨むのか?どこまで本来のスタンスを維持しようとするのかが見どころとなる。結論から言えば、傾向はクリスタル・パレス戦と同様。撤退第一のスタンスでアーセナルにある程度ボールを持たせようとする立ち上がりのスタイルだった。
一方のアーセナルはこれに対してどのように立ち向かうかである。より具体的にポイントを述べるならば、前節のウルブス戦で発生した5バックに対して手前で受けようとしすぎて、奥行きを使えなかった問題を解決できるかどうかである。
整理すると、ブレントフォードの守備の布陣は5バック。ブレントフォードのWBはアーセナルのWGを監視する形である。それより前の事案は3センターがスライドしながら対応するのがベースとなる。
これに対してアーセナルがズレを作れるかである。特に前節重さがあったのはアーセナルの右サイド側ではスムーズに攻撃ができるかが気になるところ。こちらも結論から言えばかなりスムーズにできたように思う。大外、最終ラインのハーフスペース、3センター脇の3カ所をポジションを入れ替えながらなめらかなポゼッションを行なっていく。
序盤から保持で目立ったのはセドリック。サカにピン留めされるWBを基準に追い越すことでブレントフォードのラインを下げる。これによって前節のような停滞感はなかった。
セドリックは試合を追うごとにアーセナルのビルドアップに馴染んできたように思う。この試合においてもサカやウーデゴールとの関係性は良好だった。それに加えて、逆サイドからのパスの引き取り役としても機能しており、サイドを変えて攻める際の先導役も務めた。
さらにはセドリックが出し手として逆サイドへの一発のサイドチェンジを行うこともできる。非保持面で強度を試される場面が少なかったことは気にしなければいけないが、この試合のパフォーマンスは上々だったと言えるだろう。同じサイドチェンジの話で言うと、ブレントフォードはFW-MFのライン間がルーズなので、この位置にいるトーマスは比較的ノープレッシャーでサイドを変えることができていた。
アーセナルの攻撃はブレントフォードの3センターをどかせるためのサイドチェンジがうまくいくかはポイントの一つ。先ほども述べたようにアーセナルは大外、最終ラインのハーフスペース、3センター脇に3人の選手を置いてサイドを壊していく。相手の3センターのスライドが間に合わなければより簡単に相手を壊すことができる。
よって、アーセナルはサイドをスムーズに変える、変えた後に3人の関係性で崩し切るという相手を壊すための2つのステップをきっちり踏むことができていた。サイドから押し込むことでブレントフォードにぎりぎりの対応を強いて、距離の出ないクリアを拾っての波状攻撃や、CKでのセットプレーの機会を重ねてブレントフォードを追い詰めるアーセナルだった。
個人のパフォーマンスで見ればサカ、ウーデゴール、トーマスをはじめ基本的にみんな上々だったように思うが、意識が変わったなと思ったのはラカゼット。ここ数試合で手前の仕事が増えたせいでゴールの前にいられないという批判を受けることがあったが、この試合ではボールを背負って受けた後、ターンして自らゴール方向に向かう動きが多かった。
そもそもパスを受ける位置もPA内などゴールに近い位置にいることが多く、狭いエリアでのボールコントロールも含めて非常に際立っていた。いつもとは異なる形で上手さを見せたラカゼットはとても印象的だった。
一方のブレントフォードの攻撃は、なかなか押し込まれた状態を打開できる手段を見つけられず。ムベウモへのロングボールは収まらず、ダ・シルバのタメを活用するには全体の位置が低すぎる。WBへのロングボールもアーセナルはスライドして跳ね返してしまい、前進する手段が全くと言っていいほどない状況。
と言うわけで前半はアーセナルがいつ点を取るか?と言う展開。前半の終盤はブレントフォードが固める中央をこじ開けることにややこだわりすぎてしまったり、サカへのダブルチームに対して裏抜けへのサポートが減ったことで大外からの攻撃がやや停滞したりなど、序盤ほど快調とはいかなかった。それでも主導権は明らかにアーセナル。点が入らないままハーフタイムを迎えたことはブレントフォードにとっては幸運だったはずだ。
■ブレントフォードの変化への対応
ただ、このままではいくらなんでも埒が明かない!となったブレントフォード。押し込まれた深い位置からの陣地回復ができないのならば、プレスで前に出ていくしかない。立ち上がりからプレッシングに出るブレントフォードに対して、アーセナルが対応する後半の立ち上がりとなった。
序盤の数プレーこそ、やや慌ててブレントフォードのプレスに引っかかってしまったアーセナルだったがすぐに適応。ここでも存在感があったのはラカゼット。前半はゴール側へ意識が向かうプレーが増えたと述べたが、ブレントフォードがプレスの圧力を高めたと見るや、低い位置まで降りてライン間でボールを引き出す役割にスイッチする。
展開に合わせて、このように自らの役割を変えることができる賢さはいかにもラカゼットと言う感じ。アーセナルが後半初めに迎えたチャンスは一つ引いた位置で受けたラカゼットからだった。逆サイドに展開して、受けたスミス・ロウがドリブルで進むと、外を追い越すティアニーを囮に内にカットイン。アーセナルファンにはもはやおなじみのグラウンダーの軌道で前半には届かなかった先制ゴールを決める。
ブレントフォードからすると、アイエルとカノスの間を割られてしまったのは痛恨。2人で挟むような形にはなりかけただけに、ここでもう一伸びをスミス・ロウに許してしまった時点でだいぶ厳しい形になってしまった。高いラインでのDFの対応に難があるというハイライン時の懸念がこの試合でもあっさりと露見した格好だ。
アーセナルは先制点を得たが、ブレントフォードの仕掛けたオープンなやり方には乗っかるスタンスは継続。おそらく、アタッカー陣の質では十分に勝てるという算段だったのだろう。目論み通り、アーセナルの方がチャンスの量も質も高かったが、前半のようにブレントフォードの攻撃の機会を制限すると言う様相はやや薄まる分、反撃のチャンスも生まれた。
ブレントフォードの理想的なパターンは降りてくるウィサにボールを当てて、アーセナルのCBを1枚手前に引っ張った後、手薄になったバックラインをムベウモの裏抜けでつく形。間延びした中盤ならば、ムベウモへのアバウトなロングボールを蹴ることはそこまで難しいことではない。アーセナルの高いラインを強襲し、ゴールに迫る場面は前半よりかは多く生み出すことができていた。
アーセナルはペペの投入で右サイドからの定点攻撃を復活。縦に急ぎすぎる展開の中で、外に起点を作ることで保持の落ち付け所を作ることで、再度支配力を高めようとする。久しぶりの出場となったペペだが、AFCONを経て試合勘が戻ってきたか、安定したパフォーマンスを披露。今後のフィットの可能性に期待が持てる内容だった。
そんな展開の中で、追加点をゲットしたのはやはりチャンスの質と量で勝っていたアーセナル。前に2つの選択肢を持ったままフリーで持ち上がるトーマスからラストパスを受けたのは左側に陣取ったサカ。後半は仕事が増えて、ファインセーブも多かったラヤだったが、この場面のサカの鋭いシュートには流石にお手上げという形だった。
終盤にはセットプレーの混戦から開幕戦でも点を決めたノアゴールがなんとか1点を返すが反撃もここまで。開幕戦のリベンジをエミレーツで達成したアーセナルが連勝に成功した。
あとがき
■展開への適応力に好感
トニーがいない分、前進の手段が乏しかったことは織り込まないといけないが、前半の完封ぶりは見事。前節の攻撃に対する改善策も提示できており、0点とは言え内容は上々。後半は結果を出して試合全体を正当化することに成功した。本文中では前後半のラカゼットのプレーが変わったところに焦点を当てた話をしたが、展開が変わった後半にチーム全体でうまく適応できたのも好材料だ。
セドリック、ペペとここまでプレータイムが少ない選手が上向きの兆しが見えたのは朗報。いくら少数精鋭とはいえ、交代選手でギアアップできるに越したことはない。そうした中でレギュラーと異なる持ち味の彼らには期待がかかるところ。エンケティアやロコンガもこの波に乗れるといいのだが。
試合結果
2022.2.19
プレミアリーグ 第26節
アーセナル 2-1 ブレントフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:48′ スミス・ロウ, 79′ サカ
BRE:90’+3 ノアゴール
主審:ジョナサン・モス