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「いる前提の設計図」~2022.2.18 J1 第1節 川崎フロンターレ×FC東京 レビュー

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目次

レビュー

より有効活用した優位の時間帯

 スーパーカップでの浦和戦からのホームでの多摩川クラシコでの開幕。ここからの先の対戦相手も含めて、スタートダッシュに失敗し、3連覇チャレンジを達成できなかった2019年と酷似している状況。川崎にとってはまずは開幕戦で勝利を決めて、あの年とは違うことを証明したいところだ。

 立ち上がり、主導権を握ったのはホームの川崎。狙い目になったのはFC東京の右サイドだった。FC東京の布陣は4-3-3なのだが、右のWGのレアンドロは実質フリーマンのような形で前残り。SBの登里にプレッシングをかける役割はIHの松木が担う歪な形での右サイドの守備。

 やらなくていいよと言われているのか、サボっているのかはわからないが守備でのタスクが重くないレアンドロの存在で、FC東京の右サイドは恒常的に数的不利に。ここに川崎はチャナティップが降りてくるので、アンカーの青木がそれについてくるように。

 FC東京はブロック守備においては途中から明確に4-4-2に変えてきたけど、そもそも立ち上がりから4-4-2的なテイストは含んでいたということである。大島が割と左にはっきり流れることもあり、FC東京は青木が降りてきてもなお数で言えば劣勢。プレスは効かずにフリーマンを作ることを許す。

 フリーマンを作った川崎が狙ったのはマルシーニョと渡邊のマッチアップ。ホルダーがフリーで前を向いた状態を作ると裏に走り込むマルシーニョに合わせる形。マルシーニョと渡邊のマッチアップならば圧倒的に優勢なのはマルシーニョ。走り合いになっている時点で劣勢になるのは目に見えている。

 浦和戦のレビューやFC東京戦のプレビューでマルシーニョの裏抜けに頼ることは縦への早い展開を誘発する可能性が高いと述べたけども、これだけクリーンな形でマルシーニョが抜け出せるならば、川崎の攻撃は完結させやすくFC東京が対応するとしてもクリーンに繋げるシーンはほぼなかったので、縦に間延びした川崎の陣形を利用される機会は少なかった。

 では、マルシーニョの抜け出しからのチャンスメイクが川崎にとって完璧だったかというとそこは微妙なところ。もちろん悪い形ではなかったが、縦に一気にいく形は味方を押し上げられないという部分も。DFにとってはダミアンに的を絞ればラストパスのコースを予測してカットしやすい状況が多かった。

 その状況を避けるためには全体を押し上げながらの前進が必要だったように思う。その前進を実現させるために必要だったのは、青木の後方、DFラインの前方に人を置くことである。

 ここに人を置くことができればフリーになった大島はライン間のパスと裏へのパスを選択することができる。仮に大島がマルシーニョへの裏へのパスを選んだとしても、抜け出したマルシーニョにとってはマイナスのパスという選択肢が増える。

 逆サイドの脇坂や家長がこの位置を取ってもよかったが、個人的にはチャナティップを1列前においた状態で相手を手前に引き出すのが理想。これならば、チャナティップに縦パスが入った状態で逆サイドという選択肢も見えてくる。

 チャナティップを下りなければ後方は同数でのビルドアップになるが、レアンドロの守備タスクの軽さを考えれば、青木を引っ張り出すことは不可能ではないはず。チャナティップを一つ奥で受けさせられるメカニズムを作れれば、川崎はこの序盤の優位な時間帯をより有効に活用することができたはずである。

不確実な攻撃の出口に対する違和感

 注目が集まるのはFC東京のボール保持。バックラインからの組み立てにトライする姿勢は立ち上がりから見せていた。スウォヴィクは確かにミドルパスのスキルは高くなかったが、WG裏に通せば川崎のプレスは壊せる!ということはわかっていたようで、狙う場所は非常に的確だった。心はジンヒョン!みたいな。

 ただし、ビルドアップはまだ建築中というのが正直なところ。CBから中盤への縦パスは噛み合っている川崎のプレスに簡単に捕まっていたし、一度サイドに逃してフォローに出てきた中盤が空けたスペースを使おうとしても、トラップが流れたり、パスがずれたりすることで川崎にボールを奪われてしまう。

 川崎の序盤のチャンスの半分はこのFC東京のビルドアップのミス起因のものと言っていいだろう。FC東京のボールロストからのマルシーニョの裏抜けは先ほど紹介したよりもより直線的にゴールに迎える形。抜け出して即1on1で勝負できるシチュエーションをボール奪取から作ることができた。

 川崎は保持でのズレもあったし、プレスで相手のポゼッションもチャンスに変えることができていた。だが、徐々に風向きがFC東京側に流れていく。個人的に考える理由は2つある。

 1つは川崎がボールを奪った後のプレー選択である。マルシーニョ×渡邊のマッチアップはすでに述べたとおり、明らかに裏抜けの対応において前者が優位だった。だが、川崎はこのマッチアップ以外でもかなり積極的にロングボールを活用してくるようになる。例えば、家長はキープ力はあるが、裏へのスピードで競り合うボールを収めるのに優位が取れるタイプではない。けどフィフティー目のボールを蹴り込んでいく。

 10分のシーン、レアンドロの気まぐれプレスから右サイドにボールを流してプレスを脱出してから、山根が自由にボールを持てた場面。中央では大島が簡単に前を向いてボールを持てる状態だったのに、縦の家長へのスルーパスを選択していた。作り上げたクリーンな状況に対して、前進の選択肢の確実性がかなり低いように思う。特に、今年のこれまでの記事でも述べたように、川崎は中盤のフィジカル的な強度で優位を取りやすいスカッドではない。それだけに不確実なロストは避けたいはずである。

 だが、22分に大島がフリーでボールを持った時に結局不確実な裏へのボールを選択しているので、おそらくチームとしての方針がこの日は多少不確実でも裏に蹴るということなのだろうと思う。そういう意味では先述の山根のプレー選択がこの日の川崎の中で浮いているということはなかった。メンバーに対しての違和感は拭えなかったが。

 相手を押し込んでの崩しにおけるプレー選択も少し不思議。この日の川崎はダミアン以外はハイタワー系がいないのだけども、サイドでボールを持った時にとりあえずハイクロスを上げる場面がやたら多かった。木本とトレヴィザンなら、それは跳ね返されてしまうだろうと思う。右サイドからの細々としてパス交換からゴール前で家長がシュートをふかしたシーンを除けば、割と単純なプレー選択をするせいで川崎の保持を途切れさせたことはFC東京の保持の機会を増やしてしまったように思う。

アバウトならばオリベイラ

 もう1つ、FC東京にペースが流れた理由はFC東京側の保持のプレーの方針だった。立ち上がりはGKから直接WG裏を狙っているという話をしたけども、FC東京は徐々に直接じゃなくてもサイドにボールを回せば、そのうち守備に戻れなくなる川崎のWGが穴を開けて中盤を引っ張り出せることに気づいたこと。

 結局、WG裏に直接ボールを送ることのメリットはWGを守備から外して4-3の陣形に取り掛かれることなので、WGをクリーンに追い越せるならば、特に頭をこさなくても問題ない。CBがボールを持って、WGをボールに引き寄せることができれば簡単にその状況は作れる。

 中盤がサイドに引っ張られる機会が増えたため、守備の負荷が増えたのはCFのダミアン。昨季はプラスアルファだったプレスバックでの挟み込みが、もはやサボるとマイナスという収支まできてしまっている。

 すでに述べたとおり、中盤の移動が増えていくと徐々に川崎はこの展開に耐えることができなくなる。特に大島が運動量の面で、そしてチャナティップが規律の面で穴を開けることが増えて、徐々にFC東京はサイド経由で中央に前を向けるスペースを作り出せるように。

 FC東京の保持の方針でもう一つ変化があったのはアバウトなボールをつけるならば、相手も背負っても収めてくれるディエゴ・オリベイラに受け手を絞ったこと。彼が谷口を引きつけながら背負ってくれれば最高の状況。これを松木や永井がフォローし、最後は裏に抜けたレアンドロに届ける形。

 ジェジエウがいない最終ラインならば、谷口をどかせばFC東京としては大いに勝負できる部分。オリベイラの降りる動きで、川崎を手前に引き出し、その奥行きを使う下準備をすることで奥行きのある攻撃を実現できていた。ソンリョンがレアンドロの間合いを掴めていなければ、前半のうちにアウェイチームに先制点が入っていてもおかしくはなかった。

 序盤は川崎が掴んだペースだったが、どちらのチームの保持の局面においても流れがFC東京に向かうプレーが増えたことで主導権は時間が経つにつれてFC東京側に転がっていった印象だった。

展開を変えるというよりは沿う

 というわけで後半に川崎がまず気をつけるべきはボールの捨て方を考えることである。ところが、後半は谷口から裏へ狙うボールが出てきたり、ゴールキックへのリスタートがロングキックだったりなど、前半に輪をかけてFC東京にペースが流れるプレー選択が目立った。

 それも前半に優位を取るために行われたマルシーニョへの裏抜け狙いは極端にへり、ダミアンへの放り込みの比重が増える。このメンツでアバウトなボールを増やせば、当然セカンドボールはFC東京側が優勢になる。

 個人的には裏への動き出しがないサッカーは大嫌いだし、ロングボールを使ったやり方もスカッドにあっていればなんとも思わない。特に好きなスタイルもないので、別にボールを持たなければ川崎のサッカーではない!なんていう高尚なことを言うつもりなんて毛頭ない。

 けども、この試合の川崎は繋ぎの機会を放棄し、アバウトな攻撃の出口を選択することによって自らスカッドの弱みを露呈するような戦い方をする羽目になっているように見えた。正直試合を見ていて疑問に思う部分だったと言える。

 まぁ、取材で『スピードアップ』と言う言葉がちょいちょい聞かれることを考えると、保持で自分達の弱みが見えないように制御すると言うやり方はそもそも今季の川崎の設計図の先にないのかなとも思う。スピードアップっていうイメージとは少し違うし。

 というわけで後半もFC東京のペースが続く。中盤が戻りきれない時間帯が増えた川崎は前半以上に厳しいカウンター対応が続くことになる。川崎は選手交代で知念と塚川を投入する。展開を変えるというよりは、展開に沿うような人を入れた形。特に知念は長友のオーバーラップで攻め上がることが増えたサイドの守備と、ロングボールでのミスマッチでの陣地回復役として大きな役割を果たすことができた。

 長友と紺野を入れて右サイドの攻撃を強化したFC東京と、遠野の投入で4-2-3-1に変化したことでサイド守備の人員を増やした川崎とのサイドの激しいマッチアップは終盤におけるこの試合の大きな見どころとなっていた。

 高さを増したことで前進のチャンスを得た川崎。なんとなくロングボールも正当化できた感。塚川と知念を入れたことで前半よりも期待が持てるのはセットプレーである。というわけでワクワクしながら見ていた80分のCK。決めたのはニアで触ったダミアンだった。これまで好守を見せてきたスウォヴィクもこれにはノーチャンス。80分にしてセットプレーからようやく試合が動く。

 その後はFC東京の猛攻をひたすら川崎が耐える時間が続く。川崎は車屋の負傷と塚川と山根がやたらバタバタしたせいで、保持で落ち着く時間を作れなかったのが誤算だった。

 川崎側のPA内をフラフラするトレヴィザンに嫌な予感がよぎったのはここだけの話だが、この日はなんとか最後までシャットアウト。守護神のソンリョンのスーパーセーブと最終ラインの奮闘で虎の子の1点を守り切った川崎が開幕戦の勝利を飾った。

あとがき

■サポーターはワクワク感を抱ける

 FC東京はこれからのチーム。後方からのビルドアップはまだまだ仕上がりがかかりそうだが、中盤に強度があることを証明したのは頼もしい限り。最近のJ1を見る限り、保持のメカニズムだけでなくデュエルの強度がなければ厳しい感があるので、その素養がありそうなのはポジティブなことだと思う。開幕戦に必要な『次の試合を楽しみに待つ気持ち』を植え付けられた初陣にすることができたと言っていいだろう。

■メンバーに沿ったアプローチができれば

 本人が試合後コメントで自身の低調ぶりに自ら触れている山根を除けば特別コンディションが悪かった選手はいないと思う。だが、それでいてこれだけ多くの隙を見せてしまうのは率直に難しいシーズンの立ち上がりになったなという感想。浦和や横浜FMが勝てなかった中で、勝てば良かろうという意見もわからないではないが、この出来ではここからの4試合は許してもらえないと思う。

 やはり、個人的には設計図の完成形が出ているメンバーの特性とあっていないという違和感を覚える。橘田やジェジエウがいればなんとかなる!という意見はそのとおりなのだが、橘田とジェジエウがいない中で彼らがいる前提でうまくいく仕組みを組むのは微妙な感じ。やりようがないならまだしも、個人的には軽量級のメンバーを組んだなら組んだなりのアプローチももう少しあるように思うのだけども。

 後半にだいぶ色が変わった選手起用をして、スカッドを有効活用しようとする柔軟さやセットプレーで粘り勝ちできる勝負強さはプラス材料。メンバー選考の柔軟さに変化させたアプローチを掛け合わせることができれば、支配力をより高めることができる気がするのだが。

試合結果
2022.2.18
J1 第1節
川崎フロンターレ 1-0 FC東京
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:80′ レアンドロ・ダミアン
主審:木村博之

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