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「Catch up Premier League」~Match week 24~ 2022.2.8-2.10 etc

目次

①ブライトン【9位】×チェルシー【3位】

■足音が聞こえてくる引き分け

 まず、目についたのはチェルシーのフォーメーションである。メンバーを見た時はいつもの並びかなと思ったのだけど、蓋を開けてみれば4-4-2というのが正しいだろう。

 狙いはおそらく縦に速い攻撃の強化だと思う。ルカクに速い段階で縦パスをつけたときのフォローを2トップの相方(この日はハドソン=オドイ)にやってもらう。前節でルカクを孤立させてしまったことの手当てではないだろうか。事実、この日のチェルシーはブライトンと比べて直線的に縦に進むパターンが多かった。

 だが、理想通りにいったかは微妙なところ。バックラインの押し上げは早くなく、全体が間延びした攻撃になることが多かったし、速い攻撃で完結させられるほどカウンターはスピード感のあるものではない。数の論理を最大限に生かしたチェルシーの3バックを活用したビルドアップも見られなくなっていることもあり、フォーメーションを変更してまでルカクのフォローを入れた収支はマイナスに触れているように見えた。

 強いていれば崩せそうだったのはリュディガーに行くか、アロンソに行くかの判断がやたら多かったランプティのところ。最終ラインのこの部分のズレを利用し、敵陣までを運べる機会はチェルシーにもあった。ただ、ブライトンはアンカーとCFを軸に中央で待ち構え、チェルシーからサイドをスムーズに変える機会は取り上げた。なのでチェルシーは同サイドを壊し切る必要があった。制限付きのポゼッションである。

 チェルシーが膠着を打ち破ったのは外からのミドル。なぜか本人は大喜びをしていない状況だったが、それなりに機能していたブライトンのブロックを打ち抜くツィエクのゴールは貴重だった。

 チェルシーは守備においてはハドソン=オドイをSHに下げる形で4-5-1で受ける形に変形。中盤も3枚で受ける形にしつつ、場合によっては2列目の4人からプレス隊が出ていく形で守る。だが、ここはブライトンが一枚上手。相手のフォーメーションに寄ってビルドアップの人数を調整するのは彼らの得意分野。チェルシーの守備の狙いは綺麗にはハマらない。

 WBがいない分、大外のフォローが甘くなることが多く、SBの攻め上がりには弱さを見せる場面もあったチェルシー。ブライトンは前進はできるものの、そこからアタッキングサードの侵入が少し物足りず決定機を作るところまでには至らなかった。

 後半は両チームとも修正しての立ち上がり。ブライトンはモデルとウェルベックの入れ替えを断行、チェルシーは4-2-3-1へ切り替えた。ペースを握ったのは1点を追うブライトン。左サイドのククレジャが1列前に入ってボールを引き出す機会が増えたことでサイドからの侵入が増えた。

 だけども前半と同じくなかなかフィニッシュまで至らない。チェルシーは前半にこの状況をミドルで解決したが、ブライトンはセットプレーで解決。見事に設計されたCKで同点に。1人だけ走り込む方向を変えたウェブスターがきれいにフリーになり、完全に狙い通りに同点弾を叩き込んで見せた。

 ブライトンは直後にモペイ、トロサールが交代で入れて流れはさらに引き寄せる。モペイのポストからトロサールが前を向く形を作り、左サイドで攻めるパターンが出来てくる。逆サイドはランプティがアロンソに勝てるのでスペースを空けておけばOKである。

 だけども、今度はブライトンお馴染みの決定力不足問題が立ちはだかる。この日はモペイへのパスがみんな異常に厳しくて、モペイがトラップミスしまくるというパターンもあった。

 後半のチェルシーの攻撃はレーンわけを意識したポゼッションでの攻略に目を向けたものだったとは思うけど、パスの精度の部分で時間を使ってしまい、ズレをうまく前線に送れない。パスワークで前に時間を送ることに関してはブライトンの方が明らかによかった。それでも馬力に関して言えばチェルシーなのだろうけど、ルカクを下げてしまったことでその部分の強みも消滅。

 交代で入ってきた選手も起爆剤にならず、ホームと同じくブライトン戦は1-1で終了。これでここ4試合のリーグ戦で得た勝ち点は3。そろそろ前よりも後ろの足音の方が気になってくる頃だろう。

試合結果
2022.1.18
プレミアリーグ 第24節
ブライトン 1-1 チェルシー
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRI:60′ ウェブスター
CHE:28′ ツィエク
主審:ケビン・フレンド

②ニューカッスル【19位】×エバートン【16位】

■再スタートに成功したのは?

 FA杯でのランパードの初陣はまだチェックをしていないのだが、どうやら保持で違いを見せる展開だったよう。確かにこの試合でもエバートンは自陣深い位置からショートパスでじっくりと繋いでいくスタンスを見せてはいた。

 だが、この日のニューカッスルは高いプレッシングの意欲でエバートンのショートパス攻勢を潰していく。特に3トップである程度進む方向を制限しつつ、IHの運動量で取り切るという仕組み。エバートンはボールを持つ機会こそ多かったが、中盤より前に進む機会は少なくニューカッスルのプレス網を脱出することができなかった。

 それでもなんとか前進した機会を活かしてエバートンはセットプレーで先制。跳ね返りを押し込もうとするホルゲイトのシュートをラッセルズが防ぎきれずオウンゴールを許してしまう。しかし、1分後には全く逆の現象が。ニューカッスルのCKからラッセルズがシュート、そしてオウンゴールを許すのがホルゲイトという構図で同点に追いつく。たまにこういうことはあるんですよね。不思議。。

 同点というスコアだが、苦しいのはエバートン。ボールを持つ意識は高いが、1人の選手が他の選手のために時間を作るような連携構築まで進んでいないため、前を向くには独力でなんとかしなければいけない場面が多い。かつ、一番その役割がこのチームでできるグレイが負傷交代。最終ラインではミナも負傷交代し、2枚の枠を前半で使ってしまったこともランパードにとっては痛かった。

 前半の終了間際にはエバートンは落ち着いてボールを持てるようにはなってはいたが、後半は再びニューカッスルがプレスで勢いを取り戻す。プレスの餌食になったのはグレイと交代で入ったデレ・アリ。ニューカッスルは奪取から素早く逆サイドに展開して、サン=マクシマンが仕上げてファーのフレイザーが押し込む。

 逆転を許したエバートン。前線ではリシャルリソンやアリが奮闘するも、やはり連携不足は否めず。パスの意図がズレたりするなど、即席ユニットの弱みを感じる。ファン・デ・ベークも適正ポジションの一列後ろでの起用で持ち味は出にくく、展開的にはむしろ広範囲をカバーできるドゥクレの不在を嘆くような内容だった。

 サン=マクシマンが存在感を増して、勢いが出てきたニューカッスルは80分にトリッピアーが追加点をゲット。試合を決定づける。あとは撤退してブロックを組んでロングカウンターでワンチャンスを狙う形でOK。攻めあぐねるエバートンよりも多くのチャンスを生み出して見せた。

 冬に多くの補強を行い、降格圏から少しでも離れたい両チームの対戦だったが、プレスから主導権を握る新境地を見せたニューカッスルとは対照的に苦しい内容に終始したエバートン。追ってくる後続の影を1日も早く断ち切りたいところだが。

試合結果
2022.2.8
プレミアリーグ 第24節
ニューカッスル 3-1 エバートン
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:37′ ホルゲイト(OG), 56′ フレイザー, 80′ トリッピアー
EVE:36′ ラッセルズ(OG)
主審:アンソニー・テイラー

③ウェストハム【5位】×ワトフォード【18位】

■リターンは十分なSHの用兵

 前節は攻撃面での乏しさに気を取られてきつめの記事を書いてしまったが、言われてみれば超久しぶりにクリーンシートを達成したワトフォード。プレミアの舞台では1年以上ぶりの無失点を記録し、ホジソンは第一歩を踏み出した。

 ホジソンとしてはとりあえず立て直すのは守備からという発想なのだろう。非保持ではCBには無理にプレスに行かず迎え撃つやり方を選択する。やはりというか予想通りというかスタメンで出場したズマにはボールを持つたびにブーイングである。

 ワトフォードの撤退守備でこれまで問題になっていたのは守備ができるSHがいないということである。ホジソンがたどり着いた答えは守備のできるCHをSHにコンバートするというもの。前節RSHで先発したクツカの継続起用はもちろん、左サイドにはクレバリーを置き、今節は両サイドともSHには守備色の強い用兵となった。

 ウェストハムはライスをワトフォードの2トップの間におき、SBやソーチェクを2トップの脇に下ろしながら前進を狙う。ワトフォードの2トップは最低限の守備をしつつ、ライスをケアしながら素早いサイドチェンジを阻害する。

 ワトフォードのSHの用兵の効果は出ていたと言えるだろう。SHは自陣深くまで戻りSBと挟みながら、ウェストハムのアタッカー陣を封殺。元々CHコンビは運動量が豊富で中央守備に集中することができれば問題なく中央封鎖は可能である。ウェストハムは低い位置でプレッシングに屈することはなかったが、PAに迫ることができない。アントニオがサイドに流れている時はウェストハムが前進に苦しんでいる合図なのだが、この日は早い段階でそれが見られていた。

 ワトフォードは2トップの直線的なカウンターか、SBの上がりを待つパターンで前進が可能。限定的な手段ではあるが成功率はまずまず。押し上げではクレバリーやクツカに期待するのは難しいが、デニスがこの部分では絶大だった。ライスを苦にせず、ターンを駆使して前を向くことができるため、SBを上がる機会も作れていた。SHを守備的にして2トップに任せるやり方は守備面での効果を考えればリターンは十分だろう。

 後半は立ち上がりからプレス強度を増したりなど見せ場はあったワトフォード。ウェストハムは後半もアタッカーがタイトな寄せに苦しむことになった。しかしながら一瞬中央のライン間が空いたところを逃さなかったウェストハム。反転したボーウェンが放ったミドルは跳ね返り、フォスターの届かないところからゴールにすっぽり入ってしまった。

 交代したジョアン・ペドロも1人で起点になれたり、フォスターの好守で試合の興味がつながったりなど、終盤まで追い縋ったワトフォードだが、この日もネットを揺らすことはできず。守備での向上は見られたが、2トップへの依存度が高まった攻撃面の問題は解決しきることはできなかった。

試合結果
2022.2.8
プレミアリーグ 第24節
ウェストハム 1-0 ワトフォード
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:68′ ボーウェン
主審:マーティン・アトキンソン

④バーンリー【20位】×マンチェスター・ユナイテッド【4位】

■決めきれなかった代償の積み重ね

 立ち上がりからボールとともに主導権を握ったのはアウェイのユナイテッド。ベースの4-2-3-1から4-3-3への変化でポグバとブルーノ・フェルナンデスを前に押し出しながら敵陣に攻め込んでいく。

 この試合のユナイテッドの決定機創出の形は主に2つに集約できる。サイドでIH、SB、WGのトライアングルを形成して抜け出す選手を作り出すのが1つ、もう1つはWGが相手を引き付けた隙にSBがフリーになるという2枚でサイドをこじ開ける形。

 ユナイテッドが目をつけたのは左サイド。ハーフスペースへのブルーノのアタックもさることながら、サンチョを引きつけてフリーになったショーからのチャンスメイクが目立った。上の2つで言えば後者の形での決定機創出である。先制点もサンチョを追い越すショウの形からだった。

 逆にバーンリーはサンチョによってラインを決められてしまい、そこを基準にショウに振り回されまくるという状況。ラインを下げて対応しようとすると、今度はマイナスのコースを開けてしまいバイタルからミドルを放たれるという状況に。撤退時の堅さはなく、バーンリーはいつ失点をしてもおかしくない形を作られ続ける。

 実際にユナイテッドには追加点のチャンスはあったものの、マグワイアやポグバのボールと関係ないところのチャージでフイにしてしまう場面が目立つ。後から考えるとこれが非常にもったいなかった。

 バーンリーの前半はチャンスメイクに苦心。ウッド→ベグホルストに9番が変わった影響は前進の仕方に現れている。ウッドは相手と競り合いながらロングボールで裏に抜けて他の選手にスペースメイクをするのだが、ベグホルストはライン間で相手を背負いながらポストをしながら味方と繋がる形で前を向かせる形がメイン。しかし、ユナイテッドはラインを上げてスペースを制限してこれをシャットアウト。なかなかよさが出ない。

 バーンリーは左サイドの細かいファウルからのセットプレーと縦横無尽にピッチを歩き回るマクニールにボールを預ける形からチャンスは狙うものの、ハーフタイムまでシュートは0。ポープのセーブとユナイテッドのゴール前でのファウルがなければ試合は前半で決着してもおかしくなかった。

 流れが変わったのは後半。バーンリーのボール保持に対して、ユナイテッドがラインを上げるのが遅れ出してから。よって、ライン間でボールを受ける余裕が出てきたベグホルスト。自身で反転するところまでスペースが出てくるようになる。

 同点ゴールはマグワイアの対応のミスだろう。ヴァランがオフサイドに取り残そうとしたロドリゲスに気を取られてラインを下げたせいで、ベグホルストへのチェックが遅れた上に反転を許すというミス。最終的にはフリーでロドリゲスに前を向かれてファーストシュートを同点に結びつけられる。

 ユナイテッドはやはり運動量の低下が気がかり。コンパクトな陣形もトランジッションで前に出ていく元気も後半は明らかになくなっており、バーンリーに押し切られそうになる時間帯もあった。ロナウドの投入で総攻撃の合図を出し、リンガードを入れることでサイド攻略のテコ入れを図るも、最後までポープ相手に勝ち越しゴールを決めることはできず。

 前半でユナイテッドが追加点を決め切っておけば明らかに試合結果は変わったはず。勝ち逃げできなかったユナイテッドは後半にバーンリーに捕まり、ドロー沼に引き摺り込まれてしまった。

試合結果
2022.2.8
プレミアリーグ 第24節
バーンリー 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
ターフ・ムーア
【得点者】
BUR:47′ ロドリゲス
Man Utd:18′ ポグバ
主審:マイク・ディーン

⑤マンチェスター・シティ【1位】×ブレントフォード【14位】

■パスがダメならドリブルすればいいじゃない

 ブレントフォードはいつものように3バック基調のフォーメーション。しかしながら、WBの守備の意欲はいつもに比べてだいぶ後ろ重視。どんな相手でも割と勇猛果敢に立ち向かっていく印象のブレントフォードだが、シティ相手には別。この傾向は前半戦とまるっきり同じなため、彼らとしてはシティだけはまともにやってはいけない相手ということだろう。ちなみにリバプールまでは強気にハイプレスのスタンスを崩していない。

 というわけでシティが挑むのは5-3-2のブロック破壊のチャレンジである。この日は右のSBにストーンズを起用したため、最終ラインは左右非対称のつがい型。カンセロ以外の最終ライン3枚とアンカーのロドリの4枚が低い位置のビルドアップに顔を出す。

 ラポルテが前を向いてボールを運べるということも踏まえると、特に左サイドはカンセロ、スターリング、ベルナルドなど高い位置に選手を置くことができる。フォーデン、ロドリなど配置上ではピッチの中央に位置する選手でもボールサイドに貢献できるような立ち位置をとることが多く、ボールサイドの人繰りには困らなかった。この辺は手慣れたものである。

 だが、ブレントフォードの守備ブロックもなかなか。3センターの強烈な同サイドへのスライドでシティのパスワークの連続性を奪う。プレスには積極的に行かない2トップもサイドチェンジの阻害のためのプレスバックでは貢献。シティの大きな展開を邪魔する。

 守備の部分では手応えがあったブレントフォードだが、攻撃の面では陣地回復に苦戦。ロングボールのターゲットとして優秀なトニーとムベウモはどちらもスタメンには不在。ようやく復帰を果たしたラヤも序盤はキックのフィーリングに苦しむなど、前進の手段はほぼなし。攻撃を防ぐことはできても攻めいるタイミングまでは作るのが難しい状況だった。

 パスでの解決が難しそうなシティはドリブルでの解決を増やすように。スターリング、マフレズというカットインも縦もあるドリブラーを軸にブレントフォードの最終ラインを揺さぶる。途中からベルナルドが右に移動することが多かったのは擬似的にマフレズと同じ役割ができるからというのもあるだろう。ストーンズを起用した右サイドにはいつもほど旋回でのチャンスメイクができていなかった。

 スターリングのPK奪取はこのドリブル特化作戦の賜物だろう。これをマフレズが決めてシティが前半のうちに先手をとった。後半も大まかな展開はなかなか変わらず。ブレントフォードは苦しい状況が続く。

 そうした中でやってしまったのラヤ。自身のキックミスから試合を決定づける2失点目を許してしまう。前半途中から安定していたように見えたフィードの精度だったが、後半に再びエラーを起こしてしまった。

 必死をこいてボールを取り返しにいくブレントフォードだったが、涼しい顔でパス回しをするシティの前ではできることがあまりない。彼らが立ち上がりからプレスに行かなかったことが逆説的に正しいと証明されているかのようなボール回しの安定感だった。

 前半にこじ開けて、後半に試合を決めたシティの完勝。ブレントフォードはこれでリーグ戦5連敗。強豪が多い日程の中での成績とはいえ、やや低調さが気になるところである。

試合結果
2022.2.9
プレミアリーグ 第24節
マンチェスター・シティ 2-0 ブレントフォード
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:40′(PK) マフレズ,69′ デ・ブライネ
主審:ダレン・イングランド

⑥ノリッジ【17位】×クリスタル・パレス【13位】

■ヒーローになり損ねたザハ

 落ち着く前にいきなり先制点が入ったこの試合。1分もかからないうちに先手を取ったのはノリッジの方だった。左サイドからラシツァがウォードを振り切りクロスを送ると、アイダとプッキが縦関係でギャップを作りシュート機会を創出。あっという間にグアイタの守るゴールマウスをこじ開けてみせた。

 先制点は即座に決まったものの、試合はゆっくりとした展開になった。特にパレスの保持時にはノリッジは無理にプレスをかけることをせずにじっくりと待つ様相だった。リードしたこともあるだろうが、5レーンを埋めるためにSHの意識が後ろ側に向かったことが大きかったと思う。SHの意識が後ろならば、CFが無理に追いかけまわすこともできない。必然的に重心は後ろになる。

 撤退気味のノリッジに対して、パレスは攻めどころを見つけることができた。右の大外でボールを持つオリーズから相手を引き寄せると、ここから逆サイドで待つザハの元にボールを届ける。パターン化した攻撃が通用したのはオリーズと同サイドでサポートする動きを繰り返すギャラガーがいたからこそ。オリーズとギャラガーというスライドをサボれば2人で壊せるコンビがいるからこそ、ノリッジがサイドに流れる動きを生み出せていた。

 ノリッジの前進の手段はパレスに比べて限定的。プッキの裏を狙う動き、ラシツァの対面の相手を振り切るフリーラン、そして背負えるアイダなど個人技によるものが中心。パレスがプレスでノリッジのCBに圧をかけると、安全第一でボールを蹴り出していたのも前進が個人技だよりになった一因である。リードしていることを踏まえれば悪くないのだろうけども。

 前進の手段も崩しの道筋も見えていたパレスがノリッジを押し込むことで優勢に時間を進める。前半終了間際のマテタの得点はオフサイドで取り消しになったが、ノリッジはいつ決壊してもおかしくない状況だった。

 後半も試合はパレスのペース。少しでも前に出たいとノリッジがラインを上げようとすると、パレスが裏を取ることですぐさま押し下げる。主導権を取り戻そうという動きを許さないパレスに同点弾が入ったのは60分のこと。お馴染みだった右から左への展開のザハのアイソレーションからスーパーミドル。崩しの道筋を得点につなげたエースはさすがである。

 その勢いのまま、2分後に得たPKを沈めていればこの試合のMOMは文句なしでザハだったのだが、軸足を滑らせてPKは力なく枠外に転がっていくことに。助かったノリッジはその後も苦しい展開を強いられ続けるも、なんとかタイムアップまでしのいで勝ち点1をゲット。ヒーローになり損ねたザハはチームに勝利をもたらすことができなかった。

試合結果
2022.2.9
プレミアリーグ 第24節
ノリッジ 1-1 クリスタル・パレス
キャロウ・ロード
【得点者】
NOR:1′ プッキ
CRY:60′ ザハ
主審:ポール・ティアニー

⑦トッテナム【7位】×サウサンプトン【12位】

■狙った形から得点が重なる撃ち合いに

 立ち上がりにいい入りをしたのはサウサンプトン。ボールを握りつつ、ライン間のトッテナムのアタッカーに対して厳しいプレッシングをかけながら前を向かせることを許さない。

 前回対戦のこのカードは10人のセインツがトッテナム相手に撤退守備でドローで凌ぎ切った試合だった。5レーンさえ埋めてしまえば、たとえボールを握られようと押し込まれようと致命的なダメージを負うことはない。それがサウサンプトンの前回対戦での学びである。

 というわけでこの試合のセインツの守備のポイントとなるのはSHである。プレス時にはCBにまでプレッシャーをかけたい。だけども、5レーンを埋めることは優先。ラインを下げられることを予知するとどちらかのSHが最終ラインに入り、トッテナムの使いたいスペースを埋める。

 SHが戻ることでトッテナムが得意な大外→大外のパターンは制限できるけども、戻りが間に合わなければ当然サウサンプトンは危険に晒される。15分のレギロンの決定機はその典型と言えるだろう。従って、トッテナムとしてはサウサンプトンがSHのプレスバックを間に合わせる前に攻撃を完結させたい。これができたときは少なくともファウルを得るところまでは行けることが多かった。

 それに加えて、最近のトッテナムは徐々にチームとしての攻撃の幅は広がっている。今までは横幅一辺倒だったが、この試合ではルーカスの降りる動きに合わせて右サイドの選手が続々と追い越す形で縦に揺さぶりをかける。幅を守りたがる5バックにはかなり効くやり方である。先制点はルーカスのタメからホイビュアが追い越す形でベドナレクのオウンゴールを誘発する。

 サウサンプトンは左サイドから反撃。トライアングルから左サイドを抜け出すと最後はブロヤが同点ゴールを仕留める。セインツは内外を行き来するエルユヌシのポジションが秀逸でエメルソンは終始振り回されていた。

 押し込まれることで増えるセットプレーもトッテナムの悩みの種。正確無比なウォード=プラウズのプレースキックにトッテナムはぎりぎりの対応を強いられる。ピンチ続きのハーフタイムまでのラスト10分はトッテナムファンには非常に長く感じたはずだ。

 後半は互いにプレスをかけながらの主導権の奪い合い。そんな中でも前半と同じく崩しのバリエーションを見せたトッテナムが優勢。ライン間、裏抜け、そして速攻とルーカスの貢献度は高かった。そして、そのルーカスの抜け出しから勝ち越し点をゲット。この試合で繰り返された崩しにおけるフリーランが実ることとなった。

 しかし、試合はまだ終わらず。サウサンプトンは右サイドからウォード=プラウズのクロスでエルユヌシの同点弾を呼ぶと、直後には全く同じ形からアダムスが逆転弾。前半にトッテナムを苦しめた彼の右足が後半も輝きを放つこととなった。

 終盤はレギロンに代えてベルフワインを投入し、ファイヤー気味に追撃を仕掛けるトッテナム。一旦はベルフワインの劇的な同点弾が決まったかと思ったが、これはオフサイドで取り消しに。前回対戦とは打って変わって火力の高い試合でトッテナムを制圧したサウサンプトン。前回対戦に続き、コンテに一杯食わせたハーゼンヒュットルだった。

試合結果
2022.2.9
プレミアリーグ 第24節
トッテナム 2-3 サウサンプトン
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:18′ ベトナレク(OG), 70′ ソン
SOU:23′ ブロヤ, 79′ エルユヌシ, 82′ アダムス
主審:デビッド・クーテ

⑧アストンビラ【11位】×リーズ【15位】

■オープンでスリリングな90分

 激しい攻守の切り替えの繰り返し、スリリングな展開が続いた90分、止まったほうが負けというトランジッションの決闘となった一戦だった。ボールが行きかう展開はリーズの得意分野だが、先に優勢に立ったのはアストンビラ。ボールホルダーを追い越すことで高い位置を積極的に取るリーズの攻め方を逆手に取り、カウンターで彼らがいないスペースから逆襲を仕掛ける。

 中盤が素早く前にボールを送ることでチャンスを得るアストンビラ。よって彼らも早い展開を望むようになる。となれば、試合がハイテンポになるのはとても自然なことである。

 構造的に攻略できそうな場所を見つけたリーズの方だった。ラフィーニャで対面のディーニュを引き付けるとその裏に走る選手を作ることでミングスを外に引っ張り出す。そうなると今度は中央が手薄になる。このメカニズムでロドリゴとクリヒが右サイドを攻略し、最後はジェームズが仕留めて先制する。

 この試合のジェームズは一皮むけた出来といってもいいだろう。縦横無尽に動き回り、ボールを後方から引き出すことに尽力。バンフォードのような多岐なタスクを彼なりのやり方で背負っていた。縦横無尽に動き回ることを許されるのはIHにロドリゴが入ったこともあるだろう。ストライカータスクを担える選手が他にいるのならば、ピッチを動き回りながら機動力勝負を仕掛けることもできる。

 ビラの中でパフォーマンスが際立っていたのはやはりコウチーニョ。マンマーク志向の強いゲームの中で相手を剥がすという部分では彼が別格だったといっていい。同点ゴールの場面はマイナス方向の動きをつけて浮くことでシュートのスペースを作り、その後の場面では今度は追い回してくる相手の動きを利用して反転して前進するなど対面での相手をいなしまくっていた。

 もう1人、圧巻の動きを見せたのはラムジー。こちらはトランジッションのフリーランで前線に顔を出すスピードが秀逸。先に挙げたコウチーニョのターンの場面ではクリヒを振り切って一気にゴールを陥れる。3点目の場面ではリーズの1点目のようにビラの左サイドを崩し切ろうとして前がかりになった、リーズの陣形を独走しこの日の2点目を決めてみせた。

 3点を挙げて試合をひっくり返したビラ。だが、リーズもジェームズが前半終了間際に意地を見せる追撃弾をゲット。後半に望みをつなぐことに成功する。

 後半もトランジッション重視の展開は変わらず。リードしているアストンビラも後方からミングスの持ちあがりなどでズレを作るなど攻撃的な動きを止めることはなかった。コウチーニョがいるビラの方がやや分があるかなと思ったのだが、得点を決めたのはリーズ。セットプレーからジョレンテが叩きこんで追いつく。

 終盤は前線のメンバーを入れ替えたビラが運動量を取り戻してプレスを敢行。勝ち越しゴールを狙う動きを止めない。スターターの動きが鈍ってきたリーズに対して主導権を握る。だが、余計だったのはコンサの退場。全く不要なちょっかいで2枚目のカードをもらい、勝ちに向かう勢いをそいでしまう。

 リーズにも試合を決めきる力はなく試合はドロー決着。オープン合戦となったスリリングな試合は勝者のいない痛み分けとなった。

試合結果
2022.2.9
プレミアリーグ 第24節
アストンビラ 3-3 リーズ
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:30‘ コウチーニョ, 38’ 43‘ ラムジー
LEE:9’ 45‘+2 ジェームズ, 63’ ジョレンテ
主審:ジャレット・ジレット

⑨リバプール【2位】×レスター【10位】

■横綱相撲の90分

 最初から最後まで完全にリバプールが支配したゲームと言っていいだろう。立ち上がりからハイパフォーマンスでレスターを全く寄せ付けなかった。

 まずはボール保持。外側でボールを循環させて問題なくボールを前に運ぶ。きっかけになったのはチアゴやファビーニョの中盤やバックラインのビルドアップ隊にレスターのSHを食い付かせたこと。中央のプレイヤーに対してなら、レスターのCHが出ていけばいい気がするのだけど、デューズバリー=ホールとスマレは重心が低く彼らを捕まえることができない。

 その理由になっているのがライン間でプレーするリバプールの前線。フィルミーノ、そして右のWGに入ったジョッタはライン間に位置して縦パスを受ける準備をする。レスターのCHは自分達の後ろ側にいる彼らを強く意識したポジションを取ることが多かった。そのため、前プレに出ていけなかったのである。

 狭いスペースで前を向けて、チャンスメイクまでできるフィルミーノを野放しにしておけない気持ちはわかる。この日のレスターのCBコンビならばなおさら。とはいえ、前プレに出ていく役割をSHにした代償をレスターはきっちり払うことになる。

 まず、SHがプレスに出て行くタイミングが遅くボールホルダーにプレッシャーがかからない。かつ、出ていったことで大外の低い位置のスペースを開けることになるので、リバプールは常に大外にポゼッションの安全地帯を作ることができる。そこからレスターのSBを引き出すことができればそこから一気に前進が可能。リバプールはレスターのSH起因から発生するズレを使って、安全でスムーズな前進をすることができていた。

 リーグデビュー戦となったルイス・ディアスはまるで昔からプレーしていたかのような馴染み方。ロバートソンとのレーン分け、大外でもインサイドでも問題なくプレーできるスキルなど高いレベルでのプレーを披露。静止しながらボールをキープして、周りの攻めを促す部分でいえば、マネを凌ぐと言ってもいいくらいである。FA杯で既にプレー済みとはいえ、冬加入でリバプールは期待できる新戦力を手にしたと言えそう。

 レスターは前進の手段も苦しい。ライン間のマディソンに前を向かせることができれば、スピード豊かな前線の裏にボールを送ることができるのだけど、如何せんそこまで持っていく動線がない。リバプールはネガトラも非常に早く、即時奪回でレスターからボールを取り上げてしまい、すぐさま自分達のポゼッションを始めてしまう。

 ざっくりいうとずっとそんな感じの試合だった。リバプールが安全地帯を作りながら前進し、レスターの攻め手はゲーゲンプレスで潰す。前半に先制点をセットプレーでゲットし、即時奪回で潰したカウンターから終盤に追加点。最小得点差で推移する時間も多かったが、危なげはない。まさしく横綱相撲と言える試合運びでレスターを全く寄せ付けなかった圧巻の90分だった。

試合結果
2022.2.10
プレミアリーグ 第24節
リバプール 2-0 レスター
アンフィールド
【得点者】
LIV:34′ 87′ ジョッタ
主審:クリス・カバナフ

⑩ウォルバーハンプトン【8位】×アーセナル【6位】

■悪癖健在も英断で逃げ切り成功

 レビューはこちら。

 立ち上がりからジリジリした試合だった。両チームともシュートまで辿り着かず、チャンスを作る場面はそう多くない。どちらかと言えば、前進の手段を持っていたウルブスの方が優勢だっただろうか。

 ウルブスが前進できたのは左右に展開ができるパサーに前を向かせる形から。最終ライン付近まで落ちて浮遊するネベスとライン間で反転して前を向くことができるポデンスの2人がフリーでボールを持てば、広く幅を使った展開が可能。

 WBが高い位置をとるという構造を考えると、ウルブスは常に高い位置に選手を配置転換されている状態。薄いサイドにボールを届けてからクロスを上げてチャンスメイクを行う。

    ウルブズはクロスに対しても前線に加えて中盤からデンドンケルが飛び込むことで厚みを増す。精度の部分ではそこまでではなかったが、押し込んでエリア内にクロスを入れるところまではうまくいっていた。

 アーセナルは4バックで幅を守るのに苦心。ジャカやトーマスが最終ラインに入りながらクロス対応に追われることになる。彼らが前半のうちにカードをもらってしまった要因は、多岐にわたる守備時のタスクも関係しているだろう。バイタルもサイドもPA内も守る必要がある彼らの負荷はこの日は非常に高かった。

 ボール保持に関してもアーセナルは苦労が多かった。気になったのは右サイドの前進のスキーム。冨安→セドリックに変わったという人選の部分というよりは、ラカゼットとウーデゴールがともにラインの手前でパスをもらいたがったという要素が大きいように思う。彼らが引き出したDFラインの裏を使う選手がいなかった。どちらかが裏を狙うランを増やせれば、もっとチャンスメイクは簡単だったはずだ。

 苦しい展開のアーセナルだが、先制したのは彼ら。CKからのワンチャンスをガブリエウが押し込んで一歩前に出る。リードしたアーセナルは後半にプレスラインを下げて試合をコントロール。保持でも時間を作りながら、押し返しつつ時計を進めるゲームマネジメントを行う。

 そんな状況が変わったのはマルティネッリの退場。短時間で2回警告を受けるという荒技を見せてあっさりいつも通り10人になってしまうアーセナル。慣れているからなのかは知らないが、素早くホールディングの投入で5バックに移行。割り切って逃げ切りパターンに動く。

 引きこもるには少し時間が長かったように思えたが、4バックのまま守ったら明らかに失点していたように思うので、アルテタのこの動きは英断と言えるだろう。入ったホールディングも難しい展開の中でよく試合に溶け込むことができた。

 青息吐息になりながら逃げ切ったアーセナル。退場者を出すという悪癖は直らなかったが、一安心することができる2022年初勝利を挙げたことで事態が好転することを期待したいところだ。

試合結果
2022.2.10
プレミアリーグ 第24節
ウォルバーハンプトン 0-1 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
ARS:25′ ガブリエウ
主審:マイケル・オリバー

第24節ベストイレブン

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