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「何年分のPK戦を見ただろう」〜川崎フロンターレ シーズンレビュー2021

 2021年シーズンが終わって1か月とちょっと。ようやくまとめ記事に取り掛かっております。遅くなりました。

 実は今季はまとめ系の記事を書くのは3回目である。中間報告、ACLグループステージとたまに振り返ってチームの方向性を見てきた。

 というわけで今回はACLのグループステージ以降の話にスポットを当てて、川崎がどのような2021年の秋冬を過ごしてきたか、そして来季はどうするねん!?という話をいくつかのトピックスに分けながら見ていきたい。

1. 三笘が旅立った前線の話

■新レギュラーを決定づけた実直なタスクワーク

 まずは前線のユニットについて。言わずもがなであるが夏から秋にかけての前線の最も大きな変化は三笘薫がいなくなったことである。というわけで彼がいなくなった後の試合を川崎がどのように過ごしてきたか?という点についてまずは話していきたい。

 まずは三笘について。彼が川崎で担っていた役割は何か?真っ先に思い付いたのは以下の3つである。

・得点力
・最終局面における崩しの切り札
・ドリブルによる陣地回復

 逆に言えば彼がいなくなってしまったことでこれだけの機能が前線から失われたということである。三笘と田中がいなくて大丈夫なの?と他サポによく聞かれたけど、普通に大丈夫なわけない。アーメン。

 とはいってもサッカーは続いていくのでいつまでも三笘がいなくなった悲しみにふけっている場合ではない。ポジションでいえば彼の役割は左サイドである。このポジションを後半戦で争ったのは宮城天とマルシーニョだった。

 2人のうち、結果的に出番が多かったのは夏に加入したマルシーニョだった。彼が定着した最も大きな理由は三笘がいなくなって失われた機能を部分的に補うことができるからである。

 マルシーニョの能力のうち、今季もっとも重宝したのは裏抜けによる陣地回復。オフザボールでの走り出しの鋭さ、スピードに乗った時の最高速は非常に脅威。川崎相手に押し込んでやろうと高いラインを取っても、彼が裏を取ることで一気に川崎がカウンターに移行するという場面もかなりあった。

 マルシーニョのプレーについて特筆すべきは実直さである。川崎の前線の選手のあるあるとして、うまくいかない時に内側に絞ってゴールに近い位置でプレーをしたがるというものがある。ちなみに三笘もこのあるあるにあてはまる選手である。

 だが、マルシーニョは非常に愚直に幅を取りながら裏を取る動きを繰り返すことができる。運動量も豊富で国内屈指の存在である酒井宏樹相手にも、後半頭から徐々に走り勝ちだすなど強度の高い動きを繰り返すことができる。タスクワーカーとして幅を取りながら大外から陣地回復が出来る。これが宮城よりもマルシーニョが優先された理由だろう。後方の登里がマルシーニョの使い方をすぐに理解し、サポートできたのも大きかった。

 こうしてマルシーニョはダミアンや家長とは異なった形での前線の起点として目途が立つように。宮城は特にマルシーニョが苦手な止まった状態でのプレーや狭い局面の打開などで違いを見せたかったが、決定的な働きをコンスタントに披露することはできなかったといっていいだろう。

 マルシーニョ、宮城どちらに関してもスコアに関する部分は前任者より劣る。ラストパスの質、判断もそうだし、シュートも非常に素直。したがってGKとの駆け引きがあまり得意ではない。宮城の今季の代表的な活躍である鹿島戦のゴールやマルシーニョの今季初ゴールとなったC大阪戦のゴールはどちらも『打つならこのタイミングしかない』という状況で打ったもの。そういう状況におけるシュートの方が現状では得意なのだろう。

 昨季の出来を見る限りではマルシーニョの方が優勢なレギュラー争いだが、得点関与の部分でクオリティが出てくればまだまだ宮城にもチャンスはあるとみるのが妥当。今後のプレーによって十分序列はひっくり返りうる。

2. 田中が旅立った中盤の話

■成長、固定、抜擢。三者三様の3センター。

 田中碧の川崎での役割を一言で言い表すのならば、質と量の両立を高次元でなしえていたことだろう。攻撃ではビルドアップ関与、中盤でのターンやドリブルでの前進、サイドのフォローにPA内の侵入。守備では前プレ、WG裏のカバー、シミッチが機動力的に間に合わない部分のフォロー。攻守に非常に多岐に渡る仕事量を涼しい顔で高水準でこなして見せていた。

 この膨大な仕事量をこなしていた田中の不在を川崎はどのように賄ったか。ここは現有戦力の上積みが非常に大きかった。IHとして後半戦にメインを張ったのは脇坂泰斗、旗手怜央の2人である。川崎としてはこの2人の大卒生え抜きの働きが大きかった。

 パフォーマンス面で大きな成長を遂げたのが脇坂だろう。前半戦は序盤から飛ばしていき、60分を目安に体力的に行けるところまでという起用が多かったのだが、後半戦はプレータイムが増加。60分だったプレータイムが70分、80分になっていくのは個人的には非常にうれしかった。

 プレータイム増加は攻守に非常に多くの局面での貢献が認められてのことだろう。プレッシングの貢献度は明らかに落ちなくなったし、自らがゴールに絡んでいく意欲が向上。後半戦は目に見えてシュートの機会が増えたように思う。

 おそらくだが、代表に選ばれたあたりを境にパフォーマンスのギアがワンランク上がったので、日本代表の練習で突き付けられた部分を課題として持ち帰ってクラブで消化しているのかなと思う。いずれにしても攻守のプレーの質、及び強度は後半に連れて尻上がりによくなったシーズン。来季は通年でのさらなる大活躍が見込まれる。

 序盤戦はSBだった旗手だったが、登里が後半戦はフル稼働したことでIHに固定された。降りてボールを引き取り、ドリブルでボールを前に運ぶという要素は脇坂よりも彼が担当。中盤での深い切り替えでのターンや細かいタッチや方向転換を繰り返すオフザボールの動きで相手を置き去りにする。もちろん、対人も強く、体を当てられても簡単に止められることはなかった。脇坂とはまた違った形でチームに貢献した。

 そして、後半戦の中盤の主役はアンカーに入った橘田健人。個人的には田中碧不在後のIHの主軸が彼になっていくのかなと思ったけども、彼が主体になったのはアンカーだった。ACLで橘田のアンカーがテストされた時の記事で書いたのだけど、前半戦の主軸だったシミッチが務めていたアンカーでの役割は以下の3つ。

1. 最終ライン前の高さの防波堤となること
2. 縦への刺すような楔のパスを入れること
3. 前線のプレスが同サイド圧縮をかける素振りを見せた時にサイドに動きプレスで出口を塞ぐこと

 このうち、橘田にとって物理的に無理なのは1つ目の高さの部分。ここは山村や谷口の終盤のワンポイント起用で凌ぐことで解決した感じ。橘田を起用したのはそれ以外の部分でメリットがあったからである。

 もっとも違いを見せたのは非保持における機動力だ。シミッチよりも明らかに優れているのは行動範囲の広さ。アンカーだけど、動き回れるという部分で橘田の存在は非常に大きかった。シミッチの非保持における長所の1つであるボールの行方を予測する部分も橘田は日に日に向上。シミッチに対して早さで比肩する存在になり、速さで凌駕する存在となった。

 物理的なリーチの短さはあるが、逆に言えば彼が届く範囲であればボールを奪い取るコンタクトはうまいし、保持においても当たり負けはしない。スマートなボール奪取は橘田の強みといってもいいくらいだ。

 田中碧のタスクの中にシミッチのフォローというものがあった。いわば動ける人が動けない人をカバーする関係。けども、橘田は動ける。後半戦は動ける3人の選手がより均質的にピッチをカバーしつつボールハントのタスクを分割したような形である。

 保持においてもシミッチと異なり、特定の利き足やボディアングルにこだわることはないため守る方は決め打ちしたプレスのかけ方をしにくい。列落ちせずに我慢し中盤に留まれる部分もシミッチとは異なるいい部分である。

 攻守において橘田のアンカーはシミッチとは異なる理想形を固めて、後半戦の川崎を担うところにまで昇華できたといえるだろう。

 1,2のそれぞれの項で見てきたように前線と中盤は夏前までと比べて人員がガラッと入れ替わった。従来の戦力の穴を埋めるべく、再構築にトライして一定の成果を得たといっていいだろう。

3. ビルドアップの課題の話

■ソフト面とハード面の両方で上積みが欲しい

 中間報告の記事で『川崎の倒し方』という項を設けて、どのような戦い方をしてくるチームが嫌か?という話をした。戦う上で嫌な相手として以下の3つのパターンをあげてそれぞれを具体的に説明している。

・自分たちの時間に猛チャージする
・IHをオーバーフローさせる
・ボールを取り上げる

 川崎が今季苦しんだのは3つ目の川崎からボールを取り上げるチームである。この記事を書いた時にイメージしていたのは、一昔前の神戸とか保持のところで川崎からボールを取り上げるチームだったのだけど、今年川崎が苦しんだのはプレッシングで川崎の保持の時間を奪ってくるチームである。

 代表例として挙げられるのはルヴァンカップで敗退に追い込まれた浦和、そしてアウェイの地で早々に失点を重ね続けて敗れた鳥栖である。川崎のビルドアップは2CB+アンカーを軸に行われることが多いが、この部分を消して来ようというのがこうしたチームの狙いだ。

 浦和は江坂、小泉というプレスの強度と質を伴う2トップでマーカーを受け渡すことで前進を阻害していたし、鳥栖はさらにリスクを高く完全にマンマーク気味プレッシャーをかけてきた。

 2020年を見ても大分や札幌など負けたチームはこの前線からのプレッシャーはかなり上手だった。2021年の天皇杯の大分はこれまでに挙げたチームに比べればアグレッシブさに欠けてはいたが、2CBとアンカーにプレスをかけるというエッセンスは取り入れていた。ビルドアップの起点となる部分にプレッシャーをかけるというのは川崎を倒すための最低条件となりつつある。

 プレスが効く理由は両CBのスタイルに拠るところが大きい。谷口はパスを出すよりも先に体がパスを出す方向に向く。縦だけでなくあらゆる幅方向にボールつけるアンカーでのプレーを見ると顕著なのだが、体を先に回さなければパスを出す方向を動かせない。

同じ向きで出す方向を変えるのが理想
体が向いてからボールを出す

 図にするとこんなイメージ。よって、特に左サイドに蹴るときにはバックラインの狙いは絞りやすい。冨安のインタビューで言うところの『ハメパス』というやつである。



「なぜトミヤスにパスを出さない?」アーセナル英代表DFの“疑惑”に冨安本人が見解!「田中碧にも言われたんですけど…」(SOCCER DIGEST Web) – Yahoo!ニュース


 アーセナルで躍動する冨安健洋が、日本で話題となっている“疑惑”について、見解を示した。


news.yahoo.co.jp

 単純にハメられやすいパスな上に、谷口の体の向きでプレス側は早い段階での予測が可能。受けた登里が時間がない中で選択肢に迷う場面は川崎サポならば見覚えがあるはずだ。逆サイドのジェジエウも利き足とサイドが重なる分、谷口ほど狙いが絞りやすいわけではないが、中盤に刺したり対角にパスを出すなどのバリエーションが豊富なタイプではない。

 相手の守備を動かすために運ぶ、動いて相手の組織に縦パスを刺す、近場に出せるパスがないとなれば大きく蹴るなど個人個人のスキルのアップは必至。その上で必要なのはGKを活かしたビルドアップを増やすことだと思う。

 ドリブルで運べる車屋とミドルパスのスキルに長けている山村ならば、ボール保持の部分の課題はいくばくか解消されそうなものだが、先にあげた今季最もプレスに苦しんだ試合である鳥栖戦はその車屋-山村コンビである。なので、スキルアップというソフト面だけでなく、仕組みというハード面も大事。

 川崎の保持で気になるのはCBの距離感が比較的近いことである。状況にもよるが、もっと幅を取りながらビルドアップをしてもいい。ただし、それにはGKを経由点として活用することが大事である。

 CBが幅を取る、かつアンカーは中央にいる、そしてGKを積極的に活用するビルドアップは昨季の浦和のように2トップがアンカーを受け渡しながら守るプレッシングに効果抜群である。2トップは外に開くCBについていくか、真ん中を締めてアンカーを消すか迷うからである。

 ここの幅が狭いと、守備側は受け渡しにかかる距離が短くスムーズにできる。しかしながらCB間の距離が広がれば2トップが網羅しなければいけない横幅は増える。

よって、GKを活用できるかは重要。仮にCBが外すぎてFWがプレスにしに来なければ運べばいい。アンカーの橘田に前を向かせるのを容易にするためにもCBは相手のプレス隊と横幅の駆け引きをしたい。

 そしてソンリョンはグラウンダーの速いパスを中央に刺すスキルの習得に励んでほしい。これができるとできないとではGKへのビルドアップの信頼度が段違いになる。信頼できないと感じればCBが取れる幅は限定的になってしまうだろう。

4. カップ戦での敗戦

■大島を投入時のプランの策定は?

 本戦で負けないけどPK戦やアウェイゴール差で敗れ続ける。それが2021年の川崎のカップ戦だった。どんなに惜しい負け方にせよ、負けは負けでありそれが3回続いているのだからたまたまではないだろう。

 基本的に先行逃げ切りがうまい川崎なのだが、天皇杯とルヴァンカップは追いつかれる形で敗退に追い込まれているのは気になるところである。

 敗れた3つのカップ戦の共通点はいたってシンプル。谷口とジェジエウのコンビが揃って出場している試合が1つもないことである。天皇杯ではジェジエウが、ACLとルヴァンでは谷口が欠場していた。

 ビルドアップの部分ではやいのやいの言われがちなコンビだが、今季勝てなかった16試合のうち、彼らが揃わなかった試合は12試合である。揃って勝てなかった4試合の内訳をみても、1試合はジェジエウが負傷でピッチを一時的に退いている間に点を決められた神戸戦、そして1試合はスコアレスドローの柏戦である。いかに揃うと頼もしい2人であるかがわかるデータだろう。いない時こそありがたみがわかるコンビである。

 もう1つ、カップ戦で気になったのは交代選手のマネジメントである。基本的には2020年は交代選手の投入はここからギアをさらに引き上げて、攻撃で畳みかけることがパターンが鉄板だった。2021年の後半で悩ましかったのはベンチから大島が出てくるケースが多かったこと。

 この大島を組み込んだ途中交代からのプランに結構苦労したように思う。大島は今季のこのチームのIHの役割とはカラーが違う選手。ハイプレスは比較的できるが、距離のあるスプリントを繰り返すことやフィジカルコンタクトは得意ではない。その上、負傷が多いため、こうしたプレースタイルにおけるリスクが大きい選手である。

 そのため、大島が入った際にはチーム全体を保持の時間を増やしながら落ち着かせるとかそうしたプランを熟成させて90分をマネジメントしていくのかな?と思っていた。だけども、残り数カ月でそうしたプランの存在は自分にははっきりとわからず、大島は従来の仕組みの早い展開の中で起用されているように見えた。

 もちろん、速い展開の中で試合を決めることができればそれでもいいのだが、今年の川崎はその部分には結構苦労していたように思う。三笘、田中がいなくなった後はなおさら。だとしたら、大島の特性にチームが合わせるようにトランジッションを減らすことに主軸を置いた時間帯があってもいいように思った。

 残り数分をうまくしのぐことの重要さを身をもって学んだシーズンだけに、チームとしての幅はどんどん広げていきたいところ。大島をどのように生かすかはその課題を解決するヒントになりうるのではないだろうか。

目次

あとがき

 課題や展望もやや混じっているが、ざっと今季の後半戦で感じたことはこんな感じである。来季の課題の部分は新戦力にどのようなタスクを任せるのか、そもそもチームとしてどのような方向性で取り組むかで大きく変わる部分であるのでそこはまた開幕してから検証していきたい。

 特に後半部分は課題の記述が多くなったがこれだけ勝ち点を積んでの連覇は見事。それも夏に2人の超主力を引き抜かれての連覇である。昨今のJ1においては、夏以前と夏以降で2つチームを作れることが優勝の最低条件といってもいいくらいだ。もはや主力は引き抜かれる前提で臨む必要がある。

 それだけに2021年の優勝は大きい。チームの精神的支柱のレジェンドの引退に加えて、初めてシーズン途中に主力が複数流出しての優勝を掴んだのである。1年で2回チームを作りながらの優勝の経験はきっと外からチームを見ているよりも大きいはず。大目標である3連覇にはおそらくこの経験は大きなアドバンテージになるだろう。

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