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「優位構築に重要な2つの視点」~2022.2.18 J1 第1節 川崎フロンターレ×FC東京 プレビュー

目次

Fixture

明治安田生命 J1リーグ 第1節
2022.2.18
川崎フロンターレ(昨年1位/28勝8分2敗/勝ち点92/得点81/失点28)
×
FC東京(昨年9位/15勝8分15敗/勝ち点/得点49/失点53)
@等々力陸上競技場

戦績

近年の対戦成績

 直近5年の対戦で川崎は8勝、FC東京は3勝、引き分けは2つ。

川崎ホームでの戦績

 直近10試合の対戦で川崎が5勝、FC東京が2勝、引き分けは3つ。

Head-to-head

<Head-to-Head>
・直近8戦の公式戦での多摩川クラシコで川崎は1敗のみ(W6,D1)
・リーグ戦では直近7試合川崎はFC東京に負けなし。うち6試合は勝利。
・直近10試合での等々力でのリーグでの対戦は川崎は4勝のみ。
・リーグ開幕戦での対戦は2019年以来3回目。どちらも等々力開催。FC東京は過去2回の対戦で得点を挙げることが出来ていない。

 近年の成績でいえば圧倒的に川崎に分がある対戦カード。直近8試合で唯一の敗戦は2020年のルヴァンカップの準決勝と特にリーグ戦に限れば4年ほど負けておらず相性がいい。

    リーグでの多摩川クラシコは5連勝中。これは同カードにおける最多連勝記録。川崎が最後に敗れた2018年の5月の対戦は等々力で橋本と森重の得点でFC東京が逃げ切った試合を最後に川崎はリーグのクラシコで敗れていない。

 等々力での戦績がやや振るわないのは川崎にとっては気がかりか。負ける試合は多くはないが、勝ちきれないことは珍しくない。2019年に今年と同じく開幕節迎えたクラシコも勝ちきれなかったカードの1つ。等々力ではロースコア、味スタでは撃ち合いというクラシコの傾向に沿ったスコアレスドローでの開幕戦となった。

    ちなみに2019年と2022年の川崎はスーパーカップで浦和と戦ってから等々力のクラシコで開幕という奇妙な一致を見せていたりする。近年で唯一優勝を逃した3年前と同じローテというのは嫌な一致ではあるが、それを吹き飛ばすくらいの快勝での開幕を見たいところである。

スカッド情報

【川崎フロンターレ】

・ジェジエウは長期離脱中
・コロナ罹患による離脱者が数名いる見込み

【FC東京】

・コロナ罹患による離脱者が数名いる見込み

予想スタメン

Match facts

【川崎フロンターレ】

<川崎のMatch facts>
・直近8年間開幕戦無敗(W5,D3)
・開幕戦で最後に失点したのは2015年の横浜FM戦。以降6年間連続でクリーンシート。
・2021年はホームゲーム負けなし。
・ホーム開幕戦は昨季9年ぶりに勝利を挙げている。
・レアンドロ・ダミアンは過去3回のJリーグ開幕戦でいずれも得点できていない。
・チャナティップが昨シーズンに挙げた唯一の得点はリーグ開幕戦のもの。

 開幕戦は直近8年間は無敗と元来相性がいい。特に目を見張るのは失点の少なさで開幕戦に限っていえば、なんと6年間連続でクリーンシートである。ちなみにこれはソンリョンの在籍期間とぴったり一致。ソンリョンが加入して以来、川崎は開幕戦で失点をしていない。

 ホームゲームは昨季は年間を通して負けなしと絶好調。最後に敗れたのは1年3カ月前の札幌戦とだいぶ前の話となる。8年連続ドローが続いていたホーム開幕戦も昨年9年ぶりに勝利を記録。ジンクス的には好材料が揃う。

 ただし、ダミアンは過去の開幕戦では得点を記録したことがない。MVPとして迎える2022年シーズンはいきなりのゴールから迎えたいところ。スーパーカップで先発デビューを果たしたチャナティップは昨季の唯一の得点が開幕戦。およそ1年ぶりのリーグ戦のゴールを開幕戦で決めることができれば、等々力のサポーターに対してこれ以上ないご挨拶になるはずだ。

【FC東京】

<FC東京のMatch facts>
・開幕戦は5年連続で負けなし。
・昨季リーグ戦で挙げた15勝のうち、14勝は自チームより下の順位の相手との試合。
・過去にリーグ開幕戦では3敗を喫しているが、いずれもホームゲーム。アウェイでは7戦無敗(W5,D2)
・等々力陸上競技場での勝率は19%。埼スタと並び10試合以上経験したスタジアムの中で最も悪い数字。
・アルベル監督は過去2年のリーグ開幕戦はいずれも勝利している。
・直近2年の開幕戦はいずれもレアンドロが得点を挙げている。

 川崎ほどではないが、FC東京も比較的開幕戦とは相性がいい。5年連続負けなしでシーズンを始めることが出来ている。その一方で勝ちきったのは8年間で2勝とやや寂しい数字になっている。

 昨年のチームの大きな課題は上位チームから全く勝ち点がとれなかったことに尽きる。自分たちより最終順位が上のクラブに対して勝利したのは神戸戦ただ1勝のみである。今年の躍進にはこの部分の改善が絶対条件となる。

 過去の開幕戦のデータを見てみるとホームでの開幕がやたら多いのがFC東京の特徴。2001年から10年連続でホーム開幕戦を割り当てられていたりする。過去7回のアウェイでのリーグの開幕戦は負けなしと相性は抜群。21戦で4勝と鬼門となっている等々力をアウェイ開幕戦という好データで打ち消したいところだ。

 新監督のアルベルはJリーグで指揮を執った過去2年で2勝と開幕戦との相性は良好。どちらも3得点以上でサポーターの心を躍らせるスタートダッシュは得意である。

    選手でいえば、開幕戦が得意なのはレアンドロ。直近2年はいずれも開幕戦で得点を挙げている。直近の等々力の勝利でも得点を挙げており、川崎に対していいイメージで臨めるはず。問題児の印象が濃くなってしまったが、開幕戦の活躍でチームを勝利に導き、いい1年のスタートを狙っているはずだ。

展望

■失われつつある3つの優位

 浦和に完敗を喫したスーパーカップで分かったことは、連覇の原動力となった優位が目に見える形で徐々に失われているということである。すなわち、2022年は川崎にとって新しい優位を再構築できるかのチャレンジの年になるといえそうだ。

 構築の話をする前にまずは現状把握から。昨年や一昨年のチームに比べて、どこの優位が失われたのかの話をしたい。陰りが見える箇所は大きく分けて3つである。1つずつ順番に見ていこう。

1.大外の優位

    シンプルな話なのだが、ここから話す3つのテーマは移籍でいなくなった人の分のダメージである。大外の話ということでいえば、ここで問題になるのは言わずもがな。三笘薫の退団だ。

 SBとのマッチアップで他を圧倒し、大外からアシストもスコアもできるという彼はまさに怪物。海外に行ってしまったから誰かを連れてきましょう!で簡単に穴が埋まる選手ではない。むしろ、昨季のマルシーニョの獲得で短期的な立て直しに成功したのはフロントのファインプレーといえそうである。

 マルシーニョは裏取りのスピードと、それを飽きずに繰り返すことができる実直さが持ち味。三笘のドリブルによって失われた陣地回復の部分はある程度目途が立ったといえそうである。

 その一方でスーパーカップの浦和戦ではマルシーニョの良さはあまり多くは出なかった。理由は単純で、彼が得意な裏抜けを繰り返すことができなかったからである。彼がこの試合で迎えた状況は止まった状態での酒井との正対や、インサイドに絞ってのプレーなどである。

 止まったり、周りのパスワークに溶け込みながらエリア内でラストパスやシュートに絡んでいくのはどちらかといえば苦手なタイプ。三笘に大きく劣る部分といっていいだろう。いわば、マルシーニョは三笘に比べると、裏抜けでのかけっこを仕掛るという、より限定的な状況で優位が取れる選手である。

 ではなぜ、昨季のように裏取りに専念しなかったのか。昨季の浦和戦では対面する酒井を後半においていったりなど、スピードに乗った状態であれば歯が立たない相手ではない。優位を生んでいたやり方を使えば、コンディションが整っている酒井とは言えもう少しまともに戦えたはずである。

 浦和戦でマルシーニョが大外に張りながら、裏抜け合戦を仕掛けられなかったのは個人的には理由があると思う。それは2つ目の優位の喪失が原因である。

2.中盤のデュエル

    2021年の川崎は攻守のサイクルを早く繰り返すことによって相手を圧倒するやり方が主流だった。3トップの持ち味を最大限に生かすやり方。それを成立させるには中盤の多岐に渡るタスクによる下支えが重要になる。

 プレス時のWG裏のカバーや、中盤のボール奪取。攻撃時にはサイドのサポートやハーフスペースの裏抜け、及びエリア内に飛び込んで得点に絡むなど非常に幅が広い。

 このタスクをすべてこなすには従来の川崎の中盤に求められる狭いスペースでのボールスキルだけでなく、高いアスリート能力が求められることになる。スタイルが変わったことで川崎の象徴である中盤のモデルが変化したといってもいいだろう。

 先に挙げたマルシーニョの縦の動きの繰り返しを推奨しづらいのはこの部分で優位を取れる人材がいなくなったから。縦に急いで攻守の切り替えを増やすということは、それだけ中盤のアスリート能力に負荷をかけるということでもある。浦和戦ではこの部分で明らかに後手を踏んでいた。大島やシミッチは強度の高い柴戸や伊藤に後手を踏み、それを操る岩尾を封じることがチームとして出来なかった。

 したがって、昨季のこの部分を支えていた旗手の移籍はマルシーニョの序列や求められる役割を変える可能性があるのではないかと思っている。マルシーニョの状況限定的な大外の優位を活かそうとするにより、逆に川崎の別の面の危うさ(=中盤のアスリート能力の低下)が顔をのぞかせる可能性があるからである。

 ただし、川崎は大外で個の優位が作りにくい状態においても中盤のアスリート能力が怪しくても解決策を持っているチーム。それは密集打開。左右どちらかのサイドに人を偏らせて数的優位を創出するという流れである。代表例が家長の左サイド出張だ。だが、これにも不安要素はある。それが3つ目の優位の喪失である。

3.最終ラインの質的優位

    家長のサイドへの出張や、浦和戦で垣間見えた大島やチャナティップの狭いスペースの連携での崩しは今のチームにおいても使えそうな武器の1つである。

 だが、それには副作用がある。全体のバランスの偏在化である。右から左に家長を動かすことでいびつな形でカウンターを受ける危険性は高まる。

 大島とチャナティップの連携は浦和戦では大島がアンカー、チャナティップがIHという後半の関係性の方がおさまりがよかった。マルシーニョ、登里という2人の選手が彼らのサポートにあらゆるところに動けるからである。しかし、これもアンカーがボールサイドに回っており、中央のプロテクトが甘くなっている。

 こうした時に怖いのはボールロスト後のカウンター対応。いびつな形で攻撃をすることで、局所的な数的優位を取れる代わりに、別の局所的な数的不利を受け入れなければならない。

    そのツケを払ってきたのが最終ラインである。その一角であるジェジエウが昨季の鳥栖戦で長期離脱となったことは川崎に大きな影を落としている。車屋や山村ももちろん悪くないはたらきを見せているのだが、広大なスペースのカバーとエリア内での強度の観点でいえばやはり谷口とジェジエウのコンビが最強。昨季のカップ戦で敗退が決まった試合はいずれも彼らが揃ってスタートできなかった試合。どこか示唆的である。

 もちろん、この部分はジェジエウが復帰すれば元通りになりうる部分である。だが、彼の怪我は後遺症を伴うであろうもの。持ち味であるスピードに陰りが見えても何ら不思議ではない。元の水準のパフォーマンスを期待するのはもちろんだが、そのアテが外れる可能性はもちろん考えなくてはいけない部分である。そういう意味では一時的な戦力の低下とはいえ楽観視することはできない。

■スカッドとの相性と大会に求められる要素

 以上が今の川崎のスカッド事情を元にした現状で危惧される優位の話である。ここまで話した川崎の今季の特徴を踏まえれば、目指すべきスタイルはこうであろうか。

『攻守の切り替えの頻度を減らすように制御しつつ、保持時はピッチ上のバランスを考慮しながらボールを握り攻撃を行うこと』

 これに必要なのは、全体のバランスを見ることができるポジション取りが出来る選手が増えること。大外で優位を取れないからといって、大外に誰もいなくていいわけではない。大外でボールを受けることにより、相手は広く守る必要が出てくるし、内外を入れ替わりながら大外を使うことで、相手にはついていくか行かないかの判断を強いるのである。ちなみにこうしたポジションの取り方は日本代表における守田や田中が抜群にうまかった。

 使うべき場所はある程度イメージで共有されていて、誰がどこのレーンをつかっていてもよどみなくボールを前に進めるサッカー。これが目標になってくるはず。そうして、相手の入れ替わりによって発生するギャップを巧みなボールスキルで壊しつつ、時間を前に送り出すように前進するイメージである。

   このモデルの実現にはCBやGKのビルドアップへの貢献が不可欠である。相手がGKにマンマークでもつけてこない限りは、噛み合わせのズレが最も生まれやすいのはCBとGKの3枚。ここから時間を前に送ることができれば非常に楽だ。浦和戦では足りなかったという『相手を見ながらのボール回し』が求められることになる。IHのポストやSBからの横パスなど、CBやGKを起点にアンカーに前を向かせるためのプレーブックは確立したいところだ。

 ただ、これはあくまで昨季までの3つの優位の維持に限界があるという現状のスカッドと照らし合わせた時の最適解である。例えば、ACLのようなより直線的に戦ってくる相手が多い舞台においては、最終ラインや中盤の強度が否応なしに晒される場合がある。

 リーグ戦でもそうだ。2019年の横浜FMを潮目に優勝チームは強度が高く、攻守の切り替えの連続に耐えうるチームばかり。一昔前の先行してしぶとく逃げるやり方でリーグ制覇するチームは近年出ていない。

   静的なポゼッションにおいては近年ではJトップクラスの完成度を誇るフィンクの神戸も、90分の中で攻守の切り替えの頻発を抑えきれない試合が多く、リーグで安定した成績を残せなかった。だからこそ、リカルドの浦和が強度の部分をめっちゃ意識しているのはウザいのである。

 そうした背景を踏まえれば、戦い方で隠そうとしている弱みを国内でも引きずり出される可能性は大いにある。結局、攻守の切り替え速い展開に耐えられなければ勝てないよね!みたいな。今の川崎に合っているどうこうではなく、Jリーグを制覇するために、あるいはACLを制覇するために求められる要素がそこなのではないか?という話である。そうなった時にスーパーカップでスタメンになれなかった瀬古、松井、遠野、知念、塚川のような選手がスカッドに絡んでこれるのか?は注目ポイントだろう。

 なので2022年の川崎に関してはチームのスカッドに目指すべき方向性はフィットしているのか?という内面的な見方と、生み出した優位はコンペティションを勝ち抜く上でふさわしいものなのか?という外部要因に関わる見方の2つで観察していかないといけないように思う。この2つの視点を両立させるやり方を見つけられたときには間違いなくチームとしての経験値が一段上になったと胸を張れる。そういうシーズンになることを願っている。

■局在化に頼りすぎると危険な相手

 さて、ほぼシーズンプレビューになってしまったが、最後に少しFC東京戦の話。コロナで誰が出てくるのかわからないのだけど、失われつつある3つの優位の側面に照らし合わせた時にFC東京という相手はとても面白い相手のように思う。

    マルシーニョや家長を軸としたサイドでの崩しで優位が取れるかは未知数。なにせ、どういうサイドバックの組み合わせで来るかがわからない。中盤の強度でいえばアンカーが予想される青木はともかく、安部や松木がいるIHでは川崎と互角以上に強度でやりあえるポジションのように思う。アダイウトン、レアンドロ、オリベイラなどのロングカウンターは言わずもがなである。

 そう考えた時にFC東京で最も怪しいのはプレッシングのフェーズのように思う。前線3枚は献身的なプレスを90分続けるのは難しいのではないか。IHの運動量はめんどくさいが、プレスに重要な全体の連携の部分はまだ最適化されていない可能性が高い。

 そういう意味で今季を占うはずのCBやGKのボール保持での貢献は重要。いきなりこの部分が試される相手になる。この部分で優位を取れず、密集打開による局在化の解決に走った場合は手痛いしっぺ返しを繰り出せるのがFC東京。その展開になれば、スーパーカップ同様に苦しい展開が続く開幕戦になるかもしれない。

【参考】
transfermarkt(
https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(
https://soccer-db.net/)
Football LAB(
http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(
https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(
https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(
https://www.nikkansports.com/soccer/)

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