ホームのアメックススタジアムはプチ要塞。直近11試合でわずかに2敗と健闘しているブライトン。堅守をベースに勝ち点を重ねている。今節は主将のCBのダンクを出場停止で欠く。最終ラインに不安は残るが、アーセナル相手に勝ち点を挙げることはできるか。
ついに控えメンバーからDF登録の選手が消えたアーセナル。怪我人!ここからアウェイ2連戦という厳しい戦いが続く。アメックススタジアムでは去年では敗戦。難所ではあるがなんとか勝ち点3を獲得して、アンフィールドに向けて勢いをつけて乗り込みたい。
スタメンはこちら。
【前半】
4-5-1を崩すために
試合は大方の予想通り、アーセナルがボールを保持する局面がメインで進む。ブライトンは4-5-1でブロックを組む。ブライトンはこの試合を通して4-5-1を維持をしており、アーセナルは90分間このブロックの攻略に挑むことになった。
4-5-1攻略のポイント
STEP 1 ブライトンの中盤5枚のラインを突破
STEP 2 最終ラインを越えてシュートに持ち込む。
というわけでこのレビュー中ではブライトンのMFより前をゾーン1、MF-DF間をゾーン2、DFの後方をゾーン3と定義して話を進める。
アーセナルの配置としては、CHの位置が特徴的。この試合はトレイラ、ジャカ、ゲンドゥージの3枚をCHとして起用。
3枚のCHの配置
① ゾーン1の中央部(主にジャカ)
② ゾーン1のCB-LSB間周辺の左サイドに位置(主にゲンドゥージ)
③ ゾーン2の中央部に位置(主にトレイラ)
トレイラがゾーン2に侵入することで、ゾーン2で受ける人の数を増やす。コラシナツとリヒトシュタイナーはゾーン2でパスをもらった選手の受け手になるべく、高い位置を取る。特にコラシナツは高い位置を取るため、ゲンドゥージが左寄りに落ちて、低い位置をカバー。
アーセナルの前線に目を向ければ、配置は同じメンバーだった前節(2トップ+トップ下)と異なり1トップ2シャドーのような形。ただし、役割としては左右対称ではなく、エジルがよりMF的にゾーン1に降りてくる役割、オーバメヤンがFW的にゾーン3に抜ける役割を担っていた。
エジルはゾーン2→ゾーン1に移動、トレイラはゾーン1→ゾーン2に侵入、オーバメヤンがゾーン2→ゾーン3の裏抜けの動き。ブライトンは序盤、DF-MF間での対応に苦慮していた。とりわけブライトンの最終ラインはゾーン2のアーセナルの選手についていくべきか、それとも放置すべきかが各人の判断に拠っており、DFラインは乱れるシーンが見られた。その隙をついたのはオーバメヤン。オーバメヤンがゾーン2→ゾーン3に抜ける斜め方向の抜け出しの効果は抜群で、これにはブライトンの最終ラインは対応できていなかった。
オーバメヤンの裏抜けが効果的なのは、序盤に紹介したSTEP1とSTEP2を一気にクリアできるから。3分40秒付近のオーバメヤンのループシュートのシーンはその典型。先制点もゾーン1のゲンドゥージからのパスをオーバメヤンがDFと競りながら受けることで、最終ラインを下げたことが引き金になった。ラカゼットの前からの粘り強い守備も先制点に大きく貢献したといえる。
【前半】-(2)
ライン間を使えなかった理由
このレビューをお読みのアーセナルサポーターの方には残念なお知らせがある。この試合でこれ以降アーセナルのチャンスは30分にトレイラのパスを受けたオーバメヤンが裏に抜けたシーンのみといっていいだろう。この画像のゴール期待値を見れば明らかである。
というわけでここからはアーセナルがうまくいかなかった理由を述べていくことになります。年の瀬に有給を使ってこんなつらいことを何でしてるんですかね僕は。悲しいね。
ブライトンの狙い
① ゾーン1の部分でひっかけてショートカウンター
② ゾーン2の部分で食い止め、アーセナルの進撃を阻止
優先順位としては当然①→②。2分50秒付近のジャカのパスをカットしてからのカウンター発動は①の理想的な発動例といっていいだろう。ただ①のようなシーンはそこまで多くはなかった。その代わり②は結構あった。裏を返せば、ゾーン2の選手を生かした攻撃はシュートに結び付けることができなかったということだ。上に挙げた決定機もほぼCH→オーバメヤンのラインばかり。アーセナルはこの試合でゾーン2を起点とした攻撃を不発に終わらせてしまったのだ。その理由はなぜか。
1. 最終局面のサイドバックの攻撃の質
ゾーン2で受けた選手がサイドにうまく展開できるシーンはあった。しかし、そこからパスを受けたサイドバックのエリア内でのパスの質が伴わなかった。この試合では主に間受けのタスクを担っていたラカゼットとエジルが右サイドよりでプレーする頻度が多かったので、リヒトシュタイナーが最後の仕上げになるシーンはたまに見られたが、残念ながらエリアに決定的なチャンスを供給することはできなかった。
2. 2列目のプレスバック
ブライトンの2列目のプレスバックは強烈だった。仮にゾーン2でボールを受けても2列目がすぐに圧縮をかける。22分40秒のシーンのようにゾーン2でボールを受けても時間がかかってしまえば、またライン突破を強いられることになる。時にはPA内までの後退もいとわないブライトンのMFラインにアーセナルは手を焼いたといえる。
3. アーセナルのCB
アーセナルのCBが持ち上がりをすることで、ブライトンの中盤をおびき寄せられれば、もう少しゾーン2へのパスの供給の頻度は増えたはず。もちろん、リスクを伴うプレーなのでリードしている時間帯に見られなかったのは理解できる。ただ、この試合では90分を通して見られなかった。
ブライトンがボールを保持していた時の狙いはアーセナルの左サイド側。比較的マークがはっきりしていた右サイド側に比べて、このサイドはモントーヤもマーチも空くことが多かった。ゲンドゥージ、コラシナツ、オーバメヤンの3人でうまくタスク分けができていなかった印象。ゲンドゥージがさあどにスライドすれば、中央に穴が空くし、コラシナツが中央に絞れば穴が空くのがサイドになる。互いにカバーリングの意識も質も低いため、ギャップができたらそのままになることが多かった。
ゲンドゥージのカバーリングの意識の部分は、失点にも直結した。もちろんヘディングでアシストをしたリヒトシュタイナーが第1責任者なのは言うまでもない。しかしながら、ゲンドゥージがハーフウェーライン付近でリトリートをやめなければロカディアの前に転がったボールはカットできる可能性も高かった。リヒトシュタイナーの技術的なミスはもちろんだが、ゲンドゥージのこういった認知やカバーリングの部分は改善を求めたい部分だ。
【後半】
「精度」を補う「頻度」?
息を吸うようにハーフタイムで選手を代えるエメリ。本日のメニューはエジル→イウォビなり。負傷復帰明けという部分で2試合長い時間は!ということかな。あとは左サイドの手当て。地味にジャカが左、ゲンドゥージが右と左右関係が変わっているので、エメリが左サイドの守備を修正したかった交代である可能性は高いと思う。ビルドアップはスクエア型もしくはひし形になる形も増えていたので、ブライトンの2列目をゾーン1側に引っ張ってゾーン2を広げる意図もあったかもしれない。
この日のアーセナルの選手交代はハーフタイムに行われたエジル→イウォビに加えて、
ラカゼット→ラムジー
コシエルニー→ナイルズ
の2つ。
エジルとコシエルニーは負傷明けであり、出場時間をあらかじめエメリが決めている可能性があったということは考慮に入れる必要がある。この日のアーセナルの問題はゾーン2で前を向ける「頻度」の少なさとゾーン2→ゾーン3に至るプレーの「精度」の低さが問題。エジルとラカゼットは「精度」の高さは、チーム内では1,2を争う。したがって、この2人を下げることは「精度」の低下につながる。したがって、交代が「精度」の低さを補う「頻度」を担保できるかどうかがこの采配の評価になると思う。
結論を述べれば「頻度」は上がったが、「精度」の低下を補うことはできなかった。ラムジーの投入でゾーン2で受ける「頻度」はある程度は増えた。しかし、そこから展開されることが多かったナイルズへの供給の「精度」の低さと、前線の右サイドへのフォローがない部分によるナイルズの孤立により、チャンスは増えることはなかった。ムヒタリアンとかいればね。
対するブライトンはマレイとロカディアのポストが前進の有効な手段に。ロングボールの精度も高かった。アーセナルとしてはトレイラがかわされて即ピンチになるシーンがかなり目立った。もともと1人がかわされると即ピンチになるシステムに無理があるのは承知だが、トレイラがかわされる頻度も徐々に上がっているのは気がかりだ。
そういうわけで後半もチャンスを作ったのはむしろブライトン。しかし肝心のシュートは枠に至らず、得点を挙げるまでにはいかなかった。試合は1-1のドローで終了。
まとめ
4-5-1のブロックでアーセナルをほとんどの時間で封じたブライトン。時間帯によって陣形を上下、いずれの陣形でもコンパクトに保ちアーセナルを苦しめた。特に中盤の面々のラインはとてもきれいで、パスコースの制限やコンパクトさの維持に必要な運動量を兼ね備えていた。ソリッドな組織をベースとした守備はどのチームが相手でも苦戦を強いられるはず。残留に向けて視界は良好だ。
3ポイントを逃したアーセナル。本文中ではコラシナツやゲンドゥージの守備における問題点を指摘した。しかしながら、ベジェリンを欠く中でコラシナツの推進力は必要不可欠であるし、ゾーン2やゾーン3への供給源としてゲンドゥージは重要な役割を果たしている。この日のスカッドは彼らを支えるのは難しく、短所が目立つ結果になってしまった。エジルやコシエルニーには出場時間の部分で制限があった可能性もあり、ケガ人も含めるとかなり選択肢が狭まっているのは間違いないアーセナル。「頻度」と「精度」の問題は解決できないまま、次節はより凶悪な要塞に臨むことになってしまった。
試合結果
プレミアリーグ 第19節
ブライトン 1-1 アーセナル
アメリカンエクスプレス・コミュニティー・スタジアム
【得点者】
BRY: 35′ ロカディア
ARS: 7′ オーバメヤン
主審: アンソニー・テイラー