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レビュー
■シャドーで決める前進の方向性
開幕から続いていた3強によるマッチレースは12月以降に大きく差がつくことに。連勝に連勝を重ねたシティが過密日程に苦しんだ他の2チームを一気においていくことになった。シティへの挑戦者決定戦の様相だったリバプールとチェルシーの直接対決もドロー決着。シティの優勝を後押しする材料は徐々に揃いつつある。
というわけでチェルシーからすると優勝をかけたラストチャンスと言っていいだろう。一縷の望みを繋ぐための一戦という位置づけとなる。
試合はシティの保持、チェルシーの非保持の局面が多かった。チェルシーも基本的にはボールを持ちながら攻める試合が多いチームだが、この試合ではボールの奪い合いという展開にはならなかった。トップのルカクは前のラポルトやストーンズよりも背後のロドリを気にする。シャドーの2人は持ち運んでくるCBかSBの中間にポジションを取る形となる。
ただし、チェルシーのバックラインはある程度高さを維持しながら縦にコンパクトな陣形になることを意識していた。というわけでシティのチェルシーの攻略の最もシンプルなチャンスメイクはこのハイラインの裏をダイレクトに取る形となる。
一例となるのは3分のシーン。降りていくデ・ブライネを意識したリュディガーの裏をグリーリッシュが取る形。2列目が届かない位置をとったデ・ブライネを潰すことを優先したリュディガーからも、ラインを上げてコンパクトな陣形を維持したいスタンスからもまずは中の選手を潰したいというのがこの日のチェルシーの方針であることはよくわかった。
もう一つ、シティが壊せそうな形だったのはサイド攻略である。大外の選手を1人おいて、そこを基準にチェルシーのサイドを壊していく形である。大外に置かれる選手は左はグリーリッシュ、右はスターリングかベルナルドのいずれかである。
大外に預けてからのボールを動かすパターンは大きく分けて2つ。基準になるのはチェルシーのシャドーの守備である。チェルシーのシャドーがシンプルにサイドの守備の迎撃に参加した場合、シティが狙い目にしたのはワイドのCBの周りのスペースである。とりわけ経験の少ないサールの周辺が狙い目になることが多かった。
できることならば、サールに手前を食いつかせておきながらその背後を取るパターンが理想である。15分にフォーデンが抜け出した形や、22分にスターリングが抜け出した形などはサールの背後を利用した形。これにより、チェルシーの5バックを片側サイドに寄せておき、逆サイドの浮いたスペースにボールを届けての攻略に挑む。
チェルシーはこの逆サイドへボールを届けたいシティの思惑をなんとか寸断することでチャンスメイクを阻害。リュディガーやアスピリクエタにそう簡単に何かをさせてなるものか!という意地はさすがであった。
チェルシーのシャドーの守備が変われば、シティにはもう一つ異なる選択肢が現れる。チェルシーのシャドーが持ち運ぶシティのCBに食いついた場合、シティの大外の守備のフォローにはチェルシーのCHが出ていくパターンが多い。
こうなった時に狙っていたのが中央のロドリ。シティのCBがボールを持っているときはルカクが背中でロドリを消していたが、ボールがサイドにある場合にはルカクはロドリにはついていかずに前に残る。したがって、チェルシーのCHが動きさえすれば、ロドリには横からパスを入れることができる。
ロドリが前を向く形でボールを持てればある程度自在にシティは攻撃を行うことができる。裏に抜けるもよし、手薄な逆サイドに振るもよし。チームの攻撃のタクト役であるロドリにボールを自由に持たせるためにまずはサイドにボールを寄せて中央を空けることを狙ったシティであった。
■推進力とプレスに苦しむ
チェルシーの攻撃はロングカウンターから。ルカクが中央で背負いながら一気に攻め立てる立ち上がりの攻撃の形がシティにとっては一番厄介であったのは間違いないはずである。
空いているスペースを見つける能力も高く、13分のプレスの脱出のようにコバチッチとカンテが縦関係を作ったりとか、ツィエクやプリシッチがロドリの脇でフリーでボールを受けたりなど間で繋ぎながらの前進にはかなり安定感があった。
その一方でシティにとって怖い形を作り続けられたかは微妙なところである。ライン間で受けたシャドーの2人はそこからのプレー選択やオフザボールの動きが微妙。裏への動きをミスってオフサイドにしてしまったり、シティの帰陣の前に攻め落とすことができなかったりなど、シティが怖がるような形とは違うプレーを選ぶことが多かった。
特にこの傾向が強かったのはツィエク。そもそものスタイルが直線的ではないので、仕方ないと言えば仕方ない。ならば、トゥヘルが感情を露わにしたシーンなどではチームの攻撃を加速させるパスを正確に通したかったところ。間で受けるまではよかったが、そこから先にボールを運ぶ動きのところがやや物足りなかった。
逆サイドのプリシッチも微妙。普段と逆側のサイドで起用されたということはカンセロの背後をルカクが取る動きで空いた中央のスペースにクロスする形でプリシッチに走り込んで欲しかったのかな?と思ったのだが、そうしたルカクを横の動きを利用した崩しというのはあまり見られなかった。ここはチームの方針かもしれないけども。
ここまでのシーズンのルカクはどちらかといえば中央に鎮座して相手の最終ラインを押し下げながら、クロスを放り込むターゲットのような役割で活躍してきた。けども、ベルギー代表での動きを見るともっと横に動きながらのプレーも活用できるように思う。
今のチェルシーはルカクのいるいないでプレースタイルが変わる印象。いるときは9番のルカクを基準にした形、いないときは流動性マシマシな形。けども、いてもレーンの入れ替えに積極的に取り組む形を採用してもいい気がする。ルカク、動けるし。いる時にスタイルを変えるわけではなくて、いない時の形にルカクという個性を上乗せする形ができれば、もっとチェルシーは強くなる気がするのだけども。
チェルシーがこの日苦しんだのは前線のプレーだけではない。中盤もだいぶプレスに苦しんだ。シティはIHの2枚がチェルシーのCHを積極的に監視。まずはコバチッチとカンテのところを寸断する。すると、チェルシーのバックラインには外しか選択肢がなくなる。
チェルシーのバックスは空いているスペースからボールを運ぶのは上手だが、どの選手も精度の高いパスをビシバシ通せるわけではない。というわけで、出す位置がバレていると非常に捕まりやすい。
加えて、この日のエティハドはやたらグラウンダーのパスが止まる印象だった。シティの選手たちは低弾道のパスでも浮かす形を活用するなどして、パスが止まらない工夫をしていたが、チェルシーの選手たちはそこまでアジャストすることができなかったように見えた。よって、両チームのパスのスピードにはかなり差があったように思う。
このパススピードの差もチェルシーを困らせる一因となった。パススピードが遅いということはシティのプレスが間に合いやすい。よって、チェルシーのバックスは時間をもらって選択肢を吟味する余裕がなくなる。そして、コバチッチ等の貢献によりハイプレスを仮に脱出したとしても加速のところに問題があるという苦しい状態。
前半の中頃からは高い位置からのプレスを引っ掛けることでシティにショートカウンターのチャンスが到来するようになる。シティが年末年始の過密日程が明けたことでハイプレスに取り組むフィットネスを取り戻したこともチェルシーにとっては厄介だった。
■まさかの中央から!
プレッシングで手応えを掴んだことで、試合は徐々にシティペースに流れていくようになった。だが、前半の終了時点ではスコアレス。後半もシティが保持をしながらチェルシーのゴールをこじ開けるトライをする形が続く。
後半のシティはCBから中央に縦パスをダイレクトに入れるトライが非常に増えた。これがどこまで効いていたかは微妙なところ。チェルシーは前半に示した通り、中央で待ち構えるような守備を行っていた。したがって、サイドに動かす動きを事前に行わない中央への楔はチェルシーのカウンターのチャンスとなった。よって、後半はチェルシーにはカウンターのチャンスが出てくるように。
しかしながら、チェルシーのカウンター移行時の課題は未解決である。推進力をうまく出せない話。というわけでゴールチャンスが増えたかは微妙なところ。相変わらず、ルカクがダイレクトに裏に抜けたシーンが一番のシティの脅威となったシーンだった。
サイドか裏から狙えばあと一歩のところで壊せそうなシティが中央にこだわったことで、チェルシーは少なくともカウンターの機会を得ることはできていた。そのため、前半に比べるとやや試合は均衡したように見えた。
だけど、試合は意外なところから動く。決め手になったのはカンセロとデ・ブライネ。この2人でサイドからでも裏からでもなく、中央からチェルシーを壊して見せた。
カンセロのパスはスペシャル。中央のフィルターであるカンテが届かないところ、そして後方のリュディガーが前に出てこれないところにパスを置く。このパスがスペシャルなのは、中央を壊す条件である『人の切れ目にパスを届けること』と『ライン間でフリーで前を向かせる選手を作ること』の2つを一気に満たしていることである。
前を向いたデ・ブライネに対して、シウバは背後を気にしながらの対応を強いられた分、チェックが遅れてしまった。で、あの素晴らしいシュートである。中からでは崩しきれないかな?と思っていたのだが、自分の目は見当違い。見事にシティは内側から崩し切った。
先制点の直前からヴェルナー、ハドソン=オドイというスピード系アタッカーを投入したチェルシーは縦のスピードアップに舵を切る。だが、シティは先制点を得たこともあり、ロングカウンターで一気に裏をとられる形を警戒しながらチェルシーにボールを渡す場面も。もちろん、自分達がボールを持つときはゆったり。シティはハイプレスからの即時奪回からトランジッションが少ないスタイルに切り替えていく。
チェルシーのCBには精度が高く、速度も十分な裏へのピンポイントパスを通せるキャラクターはいない。なので、バレてしまっていると非常に厳しい。試合は終盤に向かうにつれて、徐々に得点の匂いはむしろ消えていく方向に。試合をクローズしたシティがチェルシーを沈黙させて決着。首位決戦はシティが制して、優勝にさらに勢いをつける結果となった。
あとがき
■選択肢を奪い、選択肢から選び取る
振り返ってみると、チェルシーにとっては前半の中程以降のプレスに捕まった時間帯がかなり厳しかった印象を受ける。あの時間帯でプレスに捕まっていたことでかなりチームとしての選択肢が狭まったかなと。ハフェルツやマウントなど、試合を後半に変える選手の活かし方が封じられたように思った。3バックは急造感のあるメンバーだったが、よく踏ん張れたのはポジティブ。
シティはチェルシーからそうした選択肢を取り上げて、自らは豊富な選択肢の中から最終的に敵陣を壊して決勝点を手にして見せた。デ・ブライネを初め、過密日程の解消でだいぶパフォーマンスは上がったのも朗報。プレミアはもちろん、念願のCLに向けてここから上積みを見せていきたいところである。
試合結果
2022.1.15
プレミアリーグ 第22節
マンチェスター・シティ 1-0 チェルシー
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:70′ デ・ブライネ
主審:クレイグ・ポーソン