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「守り切った先の景色」~2023.12.9 天皇杯 決勝 川崎フロンターレ×柏レイソル レビュー

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レビュー

明白な序盤の主導権争い

 2023年のJリーグの終わりを告げる一戦は天皇杯の決勝。史上最多となる6万人を超える観衆が集まった国立競技場が決勝の舞台。国立のスタンドは冬晴れの空の下で水色の川崎と黄色の柏で二分され鮮やかに輝いていた。

 そうした豪華絢爛な雰囲気とは裏腹に立ち上がりの両チームの振る舞いは非常に慎重なものだった。ロングボールを中心とした落ち着かない展開できっちりと自陣からボールを敵陣に送ることを大事していた立ち上がりだったといえるだろう。

 特にこの傾向が強かったのは川崎。ボールを持てば猫も杓子もロングボールという感じで自陣からハーフラインを越えるパスはほぼ全部宙に浮いていた印象であった。今季に関して言えばロングボールを立ち上がりから集中的に行う試合もあった(33節の鹿島戦が直近の代表例となる)が、ここまで極端に長いボールに傾倒しているのは珍しい。山根の試合後のコメントにもあったが、ここはおそらく国立の芝の状態の悪さを考慮したものだろう。

 ロングボールという前進手段はこの日の川崎にとってはあまりいいものではなかった。CBとの力関係やターゲットとなるダミアンが左右に動くなどの工夫をしていたため、鹿島戦ほどにっちもさっちもいかない感じはなかったが、それでもあえてショートパスでの繋ぎではなくこちらを選んだという前向きな材料が見つかる感じはしなかった。やはり芝が悪いということに起因する消極的な選択と判断するのが妥当なように思う。従来のつなぐスタイルから逃げたことを嘆くのか、ほかのプランを選べるようになったACL仕様のスカッドを喜ぶのかはその人のセンス次第という感じだろうか。

 柏は一足先にロングボール以外の前進手段を見つけたようだった。ミドルゾーンでのパス交換から川崎の守備を動かしながらボールを前に進める。サヴィオが山根を釣りだして、左サイドを打ち壊した3分の場面を皮切りに、柏はスムーズに川崎の陣内に入り込む攻撃を見せる。

 立ち上がりでよく目立っていたのは山田康太。左のハーフスペースに降りてボールを受けるアクションを見せる山田を川崎は捕まえることができず。山田はこのスペースをサヴィオとシェアしながらうまく使っていた。

 ナチュラルに立てばこのスペースを埋めるはずの脇坂はサヴィオにダブルチームに行く意識が強いうえに、家長の背後のカバーのために片山に出ていく気配も強かったので山田はこの恩恵を受けて躍動することができた印象だ。

 構造的な問題だけでなく山田自身の動きも非常にキレがある。ターンからのキャリーは、および逆サイドへの持ち出しを使い分けながら川崎の陣内に入り込む山田は前半の柏の攻撃を牽引したといっていいだろう。

 左サイドのハーフスペースを取るのが山田やサヴィオであれば、右のハーフスペースを取るのは小屋松。右サイドは山村と登里の背後から裏を取る細谷のアクションが軸になっていたが、手前で受けるアクションを見せていた小屋松がボールを受けることで前後に起点を作る。ハーフスペースできっちり受けるという意味では左サイドの方が存在感を示していたが、奥行きを作るという点では右サイドの方が機能していた。

というわけで序盤の主導権がどちらにあるかは明白。ロングボールでしか手段を模索できない川崎よりも柏の方が先に前進の算段が付いたのは明らかな立ち上がりとなった。

バレていてもやる意義がある理由

 中盤に攻撃の起点となる縦パスを通せるか否かはひとえに相手の守備のユニットを動かせているかによる。柏は川崎の2列目を動かしてアンカー脇に縦パスを入れているのに対して、川崎は柏の中盤に影響を与えるボールの動かし方ができなかった。

 柏の攻撃の一例を見てみよう。28分のシーン、古賀から小屋松への縦パスが通った場面である。柏はパス交換をしながら川崎の中盤を引き付けている。古賀から小屋松に通る瞬間は川崎の中盤の腰を浮かせる形で柏は古賀からラインを越える縦パスのコースを作った。

 川崎目線から言えばこの場面でのエラーは2つ。高嶺に対して脇坂と橘田の2人が目線を向けてしまったこと。ラインを降りた椎橋に対して引っ張られるように出ていった瀬古が最終ラインからのパス出しを全く阻害できなかったことである。

 そのため、川崎はアンカーが持ち場を離れた上にインサイドハーフの片方は前方のプレスで自陣を完全に留守にしている。それでいてバックラインにプレスをかけられないとなると、縦パスは通ってしまうだろう。よく、「列落ちは悪」という一般論を見かけるけども、このように対面の相手に影響を与えて、局面を大きくパスを促すことができるのであれば、十分に意味はある。それ以外にも柏は家長の背後に入り込む片山から川崎の中盤にズレを作るなど、機能的な前進を続けていた。

 逆に言えば川崎が保持に回った時はこうしたアクションができなかったこととなる。柏は4-4-2で2トップがCBに加えてGKまでのチェイスとアンカーの管理までを担当する形だった。

 細谷や山田は2CBに対してフラットにプレスをかけに行くケースもあったので、20分を過ぎてボールを自陣でゆったりと持つようになった川崎だが、相手を思うように動かすことができない。プレッシャーをかけられている川崎のCBへのサポートとしてMFやSBがそもそもパスコースを設けられていない。

 瀬古が右のSBとCBの間に降りてくることもあるが、これは柏のアクションと異なり意味が薄いものになる。相手の中盤は瀬古を割り切って捨てていたし、2トップがスライドして対応すれば逆サイドのCBを放棄する形で柏はプレスで対応できる。

 瀬古が降りるまでもなく、川崎はCB間が距離を取りGKを絡めれば柏の2トップはタスクオーバーになるはずだった。CBが横幅を取り、バックラインで2トップに幅を守らせるように強いれば柏の2列目のプレスを引き出すことはできたはず。

 まぁ、これも国立のピッチの状態を考慮したといえばそれまでだが、安全策となっていたロングボールは柏が縦に速く攻める機会を与えていただけのように思うし、そもそも同じ条件で柏はよりスマートに川崎の中盤を動かすことができていると考えると切ない。

 さらにいえば、柏の2トップのプレスは非常に広範囲にわたる精力的なものだったが、MFとの連動が甘く、川崎に盤面を動かされなくても機能していない部分があった。具体例を挙げてみよう。22分のシーン、ボールを持っているのは大南。対面の山田はかなり近い距離でプレスを寄せており、大南の次の選択肢を右の大外に立つ山根に制限している。

 大南→山根のパスが想定できるので、パスが出る前の段階で山根の対面のサヴィオも厳しく寄せることができる。そして、山根から安全に出せそうなパスコースは真横に立っている橘田である。これも充分に予測ができる。

 柏はこの橘田へのマークに細谷がプレスバックする形で遅れて対応した。結果としては細谷が橘田にファウルを犯し、川崎ボールでのリスタートとなった。

 おそらく、基本的には柏はアンカーを2トップが管理するという守備の原則があるのだろう。この場面は原則にのっとっているので、チームのルールとしては問題がない場面かもしれない。

 だが、大南→山根→橘田とつないだ川崎のパスワークは柏のプレスが敷いた誘導の先に乗っかっているものである。それであれば、原則を破ってでも柏の中盤はスライドして橘田をとらえてもいいように思う。

 今季の柏の得点パターンとしてよく見られるのは相手の攻撃を低い位置で寸断してからのカウンター。細谷が戻って橘田からボールを奪うのは後ろ向きになる上に、前に残る選手は山田1人になる。仮に高嶺がこの位置に出てくるのであれば、ボールを奪って即パスを出す態勢が取れる可能性が高く、さらに高嶺は前方に山田と細谷という2つの選択肢から最適なパスを選ぶことができる。

 もちろん、中盤から選手が出ていくのは当然リスクがあるプレー。だが、2本連続でパスを想定内のルートに追い込むことができたのであれば、そのリスクを考慮してでもプレスに行く価値はあるように思う。むしろ、大南に精力的にプレスを行った山田の体力が無駄になる感すらある。今季のプレビューでたびたび触れた「前線からのプレスは精力的であるが、層間のプレスが連動しない」という柏への指摘はまさしくこの場面に当てはまる。

 さて、川崎に話を戻す。理想としては相手を動かしてのパスワークで主導権を握りたかった。だが、それは出来なかった。ただ、柏という相手の特性を鑑みると、相手を動かすことができなかったとしても自陣からクリーンにビルドアップを行うことができたという示唆もある。バレバレのパスでも通れば前進ができるという状況を選ばなかったことで川崎は自らを苦しめたといえるだろう。

 というわけで川崎がボールを持てるようになってなお試合は柏のペースという状況は変わらなかった。ビルドアップでは川崎の中盤のプレスをずらしながらの前進ができている感もあった。

 惜しむらくはやや山村と登里の背後を狙うプランにこだわりすぎてしまったことである。細谷のスピードは確かに脅威ではあるが、裏を取るとあらかじめわかっていれば怖さは半減する。特に登里の予測は非常に冴えていた。松村(鹿島)、アリフ・アイマン(ジョホール)、長沼(鳥栖)など彼が直近で対峙したWGはいずれもスピードでミスマッチを作れる選手ではあるが、先回りすることで決定的なピンチになることを防ぐことはできている。そして、この試合の柏の執拗な裏抜けも登里にとってははじめの15分を除けば十分に予測可能なものだったということになる。

 手前でボールを受けた小屋松がより存在感を発揮すれば、川崎のバックラインの動きに迷いを与えることができたかもしれない。だが、裏抜け一辺倒となってしまっていた柏の攻撃に対して川崎は少しずつ余裕を持って対応するようになる。

 柏の左サイドはややシンプルなクロスに傾倒しすぎな嫌いがあり、川崎のDF陣は余裕のある体勢でクロスを跳ね返すことができていた。川崎からすれば前半を通じて保持の局面での改善は見られなかったが、受けきるという意味での非保持局面での余裕は時間の経過と共にでてきたという45分である。

 つまり、前半をまとめると川崎はバレバレのパスを通さないことで苦しみ、柏はバレバレのパスにこだわりすぎてしまったことで仕上げまで至らなかったということができる。

業を煮やした家長からの悪循環

 時間が経過すれば国立のピッチにも慣れ、緊張にもほぐれて少しはプレーが改善するのではないかと考えていたのだが、この見立ては試合展開にはあまりマッチしなかった。後半になっても川崎の保持は苦戦続き。CBからのボール出しに関して、中盤やSBとの連携で相手のパスワークを揺さぶることができず、思うように前に進めない状況は前半と変わらず。

 こういう展開にも関わらず、家長は右の大外で長い時間立ち位置を守っていたのだが、業を煮やしたのか時間の経過と共に低い位置でのボールタッチが増えている。右の大外に立った家長は前半の川崎の唯一といっていいアタッキングサードでのすがりどころだったので、まったくもって家長には動いてほしくはないのだが、動かないのであればボールがちっとも来ないので、家長が動いてしまうこと自体は十分に理解できる展開だったといえるだろう。

 というわけでここからの川崎は列落ち、オーバーロードを繰り返しながら後ろに重くなり局所的に攻撃を偏在させながら、柏のブロックを崩しに行こうとする。川崎のこうしたシフトはボールを失った際のカウンター耐性を弱めるものであり、柏のロングカウンターは2CBと細谷のマッチアップが晒される場面が増えることになる。

 こうなれば、柏が細谷を目がけたロングボールを放り込むのは必然だろう。前半に紹介したFW-MF間のパスのように、というかそれよりもはるかにバレていてもやる価値があるシチュエーションである。実際にここからチャンスを作り出したが、細谷はコントロールが大きくなりいずれもソンリョンが落ち着いた対応で処理した。

 こうした一発狙いの状況以外にも、前進のフェーズでむしろ効果的な変更があったのは柏の方。細谷との縦関係でロングボールを落としたところからの攻撃も見られるようになっていたし、後半頭は細谷を囮に背後に抜ける小屋松が長いボールのターゲットになることもあった。リーグ戦では山田雄士がやっているのをどこかで見かけた気がする。前半よりもロングボールの引き出しは増えた印象だった。

ただし、それでもアタッキングサードでの淡白さが足かせとなっている感は否めない。細谷がクリーンに抜け出した場面以外にチャンスらしいチャンスはなく、大南があわや退場となってシーン以降はペースを握ったが、ボックス付近の攻略の詰めの甘さはぬぐえなかった。

 川崎は小林の投入でロングボールの退路を断ったかと思われたが、基本的な方向性としては変化がない。シミッチの投入で後方からのロングボール支給役を立てたことと、4-2-3-1への変更で中央のターゲットを家長と2枚揃えたことはわずかばかりの改善となった。瀬川にはマルシーニョのような斜めな裏抜けを求めていたが、パスを出すタイミングがよーいドン!になる分通用しなかった。

 延長の前後半も両軍なかなかチャンスを作れない展開に。セカンドボールでの回収が少しずつ両軍フラットになったことで90分に比べると柏サイドの優位は消えたように思えた。

延長後半終了間際のゴミスのシュートを松本がセーブしたことで試合はPK戦までもつれ込むこととなった。最後は両GK同士の蹴りあいという激闘にもつれ込んだPK戦は川崎が勝利。3年ぶり2回目の天皇杯の祝杯を掲げることとなった。

あとがき

 この試合に限らず、カップ戦の決勝戦ほどレビュワーとして無力感を感じる試合はない。レビューを読むよりも試合を何度も見返した方がいいなと思うし、レビューを書くことすら無粋に思えているのも事実でもある。内容に関してもいろいろ話はしたが、結果がすべてなので、どんな手を使ってでもこの日結果を出したことが重要だし、それを成し遂げた選手とスタッフには称賛こそあれ、注文など付けられるわけがない。良い思いをさせてくれてありがとうという気持ちだ。

 それでもいろいろ書いたのは、来季以降も向き合っていかなければいけないことをたくさん突き付けられた試合だと思ったからだし、天皇杯という晴れの舞台で「もうちょっとできたでしょ!」という思いも少しある。川崎はビルドアップが得意なチームではないが、さすがにこのピッチでももうちょいはできるだろう。この試合でだけ川崎を見る人はたくさんいるので、その「もうちょい」を見せてもらいたかったなという気持ちもある。TLに流れてきた川崎へのコメントを見ると、そういう贅沢な気持ちにもなる。

 鬼木監督の試合後のコメントで「自分たちから崩れなかった」という言葉があった。川崎の勝因があるとすれば自分はこの言葉に集約されている。タイトルをとったということに関しては「大事な試合は外さない」というリーグ戦で低迷しながらも要所で存在感を見せた要因が大きいし、「最後のところはやらせない」のはこのチームの最後の砦でもある。

 持っているものをギリギリで守り抜いたからこそのタイトルである反面、今あるものを守って得られるものは年々減ってきた実感もある。今まで突き進むことで手にしたタイトルというニュアンスだけど、今年はなんとか我慢しながらなんとかたどり着いたタイトルという点で今までのタイトルとはまた異なった感覚もある。

 我慢して手にしたタイトルの先にあるものは何なのだろうか。今以上にサイクルの終わりを実感することになるのか、それともチームは次のことを始めるエネルギーを手にしたのだろうか。まだまだ悩ましい部分は来年もきっと尽きないだろうが、この悩みは一度多くのものを手にしたからこそたどり着いているものだということだけはよくわかる。自分はその先に広がる景色を来年も楽しみたいと思う。

 川崎の選手、スタッフ、サポーターの皆様、本当に天皇杯優勝おめでとうございました。残り1試合頑張りましょう。柏レイソルの皆様、魂こもったいい試合をありがとうございました。僕は乃木坂ファンなので松本をこれからも応援し続けます。

試合結果

2023.12.9
天皇杯 準決勝
川崎フロンターレ 0-0(PK:8-7) 柏レイソル
国立競技場
主審:木村博之

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