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「救い出せなかったロコンガ」~2022.1.9 FA杯 3回戦 ノッティンガム・フォレスト×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■時間をもらった両SBが苦しむ

 カラバオカップの準決勝1stレグが中止になった関係で日程的には一息つくことが出来たアーセナル。ただ、ここからのマネジメントは難しい。ANCで数名の選手が離脱する中、短い間隔で5連戦が始まる。間引きされた年末年始のスケジュールよりも、日程だけで見れば詰まっていることになる。

 固定してきたメンバーで戦うことで成績を伸ばしてきたアーセナルにとって、カップ戦の位置づけは非常に複雑。何よりもCL出場権を優先にしたい気持ちはありつつも、リーグ優勝が遠ざかった現状ではタイトル獲得が期待できる数少ない大会でもある。

 結果的にメンバーは強制ターンオーバーのANC組+出場停止のガブリエウを除けば入れ替えは半分強といったところだろうか。2列目のメンバーは継続起用する一方でジャカ、ティアニー、ラカゼット、ラムズデール、冨安はスタメンから外れることとなった。

 メンバーは入れ替わってもアーセナルが今日のイレブンに求めることは大きく変わらなかった。今のアーセナルの役割で特徴的なのはCHの2人がアシンメトリーな役割を担うことである。低い位置でアンカーのように振る舞うトーマス役と高い位置まで出ていきつつ、守備時には自陣の深い位置までカバーできるジャカ役の2つの役割をこの日もCHに課した。この試合において前者の役割を担ったのはロコンガ、後者の役割を担ったのがパティーノだった。

 いつも通りに振る舞いたいアーセナルに対して、フォレストはこれまでのアーセナルのチームと異なる対応を行う。ここ1か月、アーセナルと戦ってきた多くのチームは非保持時においてほとんど4-4-2を採用していた。個々人の立ち位置の距離や前へのアグレッシブさなどはチームによって異なってはいたが、ベースとなる形はどのチームも一緒だった。

 フォレストが異なっていたのは2CBを2トップでケアしつつ中盤に徹底してマンマークを付けたことである。シティのようにトーマスにボールが入ってきたタイミングで4-4-2のCHが出てきてつぶす形はあったが、この試合のフォレストはロコンガがどこに行こうとツィンカーナーゲルがついていく形でマークを行っていた。いわゆるデートの状態である。

 今のアーセナルのビルドアップの仕組みを考えるとスイッチになるのはアンカー役が前を向くことである。この試合でいえばロコンガが前向きにプレーすること。だが、ここにマンマークを付けられてしまうと前を向いてプレーすることはこれまでの試合よりも難しくなる。

 ではこの試合のアーセナルにおいて最も時間を得ることが出来た選手はだれだろうか。両SBだったというのが個人的な結論となる。3-4-1-2というフォレストのフォーメーションはその気になれば、全ポジションでアーセナルに対してマンマークを付けようと思えば付けられる噛み合わせになる。

やろうと思えばオールコートマンツーはやりやすい噛み合わせ

 だけどもフォレストはそこまで強烈なマンマークをしてこなかった。一番きつかったのはロコンガ、パティーノ、ウーデゴールの3枚で、あとのポジションは強度がまちまちだった。

 オールコートでのマンマークのデメリットは1対1で負けるポジションがあると崩壊してしまうことである。フォレストはこのデメリットを嫌がったように思う。彼らがこの試合で最も1on1を嫌がる場所はアーセナルの両SHだろう。サカ、マルティネッリはプレミアですでに1対1のデュエルで実績を残している選手。フォレストはここを同数で受けると崩壊する可能性があると踏んだのだろう。

 したがって、フォレストのWBがアーセナルのSBにチェックにいく速度が一番遅かった。アーセナルのSBにプレスに行くのはSHに行ける人数を確保してからということだろう。あるいは2トップがアーセナルのCBとSBの中間ポジションを取りつつ、SBに向かうかである。

中盤はタイトに、SHには複数人で!その分SBには時間あり!

 フォレストの動きから逆算をすれば、アーセナルが行わなければならなかったことは『サカ、マルティネッリと1対1を作られるかもという状況をフォレストに突き付けること』である。したがって、アーセナルのSBが行うべきは確実に自分にマーカーを引き寄せて、フォレストのバックラインに前に出てくるか否か?という選択をさせることである。

 アーセナルのこの試合のビルドアップがうまくいかなかったのはSBがこの役割を果たせなかったことが一因となる。セドリックは低い位置でしかボールを受けることをせず、相手からすると十分に放っておいてポジションを取ることしかしなかった。タバレスは内側のレーンを使いたがっていたが、この場所はフォレストの選手がそもそもいる位置。相手をズラすのではなく、相手がいる場所に飛び込む形となっていた。

時間を活かせないSB

 したがって、時間を得たこの2人は周りの選手のプレッシャーを緩めることが出来なかった。10分過ぎにセドリックからマルティネッリへのサイドチェンジが飛んだ場面。このパス自体は精度も含めて悪くはなかったが、効果的かは微妙なところ。サイドを変える目的はサイドを変えた先がより良い状況で崩しやすくなっていることが前提である。セドリックのこのパスは正確に相手にパスを届けることは出来てはいたが、パスを出す前の挙動も含めて相手をずらすことはできていない。

いいパスだけどズレない

 いつものサイドチェンジと違うのは変えた先のサイドの状況が良くないことである。この場面ではパスを受けたマルティネッリとパティーノの2人で崩さなくてはいけない状況だった。タバレスのフォローがせめて間に合っていれば状況は違ったのだけど。タバレスはチームの攻撃が縦に加速するタイミングで一緒に押し上げるのは得意だけど、タイミングを見計らったオーバーラップの精度はまだまだ。この試合では課題を露呈し、前半早々に交代することとなってしまった。

■押し込んだからいいというわけではない

 いつもと違ったのはSBだけではない。CBのビルドアップ時の間隔がやや狭いのも気になった。例えば、いつものようにホワイトがより幅をとったポジションを取れれば、セドリックが高い位置まで進出することが出来て、サカの手助けも出来たかもしれない。

狭いCB

 先に示したようにこの日の2トップはCBのマンマーク専門というわけではなかった。加えて2トップの片方であるデイビスは守備の規律に従順ではなかった。したがって、CBの受けるプレッシャーは中盤ほどきつくなく、時間は与えられていた。幅を取ることができれば、よりフォレストの2トップにはプレスに関してシビアな選択を突きつけることができたはずである。

 それが出来なかったのはなぜか。CB-SB間の連携などいくつか考えられる要因はあるので、1つに断定するのは難しいがGKがラムズデールからレノに変わったことが大きな影響を及ぼしたと予想する。

 この試合のレノのパフォーマンスはとてもよかった。コンスタントな出番が得られていないにも関わらず、セービングや飛び出しなどの判断もさえており、ゴールマウスを守るという意味ではチームを救う場面も見られた。

 その一方でビルドアップの局面に限れば違いを作れなかったことも確かである。ラムズデールのような正確な足元は彼にはない。もちろん、それが持ち味でないプレイヤーにそこを求めること自体が間違っているように思う。そもそもGKはゴールを守ることが本分であり、この試合のレノはそれを全うした。ただ、実際にCBが横幅が広い立ち位置を取れなかった原因の一つはレノからラムズデールにGKが代わったことなのではないかな?と思う。

 CBは幅を取れなかったため、SBを押し上げる役割は出来なかったが、CB自身が持ち上がることはできていた。ホールディングがスルスル持ち上がっていく動きは、この試合での数少ないボールを動かしながら相手がどう動くかを観察できていたアクションだと思う。スピードやパスの精度などガブリエウには及ばないが、個人的にはこの日出た普段の出番が少ない選手の中では最も信頼に足るパフォーマンスを見せたのは彼だと思っている。

 後半になると、このCBの持ち上がりを意識する方向にアーセナルのビルドアップはシフトする。具体的にいうと、ロコンガが高い位置を取り、CBから離れることでCBの持ち上がりのスペースを確保する格好である。

 マンマークで自分についてくるならば、持ち上がりの邪魔にならない位置に立つ。自分の良さも生きないけど、マーク相手の存在も消してしまう相討ちのようなやり方だったように思う。

相討ちのロコンガ

 後半にアーセナルが押し込む機会が増えたのはロコンガが敵陣側に立ち位置を取り、アーセナル陣内におけるマーカーを減らしたことが大きな要因。

 だが、押し込んだとて主導権があるとは限らない。この日のアーセナルはCBが持ち上がった後がうまくいかない。中盤より前が持ち上がりに呼応して動けなかったのもあるし、シンプルにホールディングやホワイトが持ち上がった後のパスをミスすることもあった。

 後半押し込んだのはアーセナルだったが、チャンスを作ったのはむしろロングカウンターから機会を得たフォレストの方だった。さらにフォレストは選手交代でプレスを強化。前線は3枚でアーセナルのバックスを監視、ロコンガのマーカーは中盤のガーナーに変更。5バックは高い位置に出ていって咎めるチェイスを解禁。高い位置からのプレスを行い、アーセナルのバックラインへの圧力を高めつつ、カウンター時に前にいる人数を増やすやり方に打って出る。

強気のフォレスト

 フォレストはハイリスクハイリターンの方に舵を切ったことになる。プレスをかいくぐり前に運べれば、アーセナルにはその分大きなチャンスがあることになる。だが、この賭けに勝ったのはフォレスト。ロコンガのターンを捕まえたところから発動したカウンターで貴重な先制点をゲットし、見事に逃げ切って見せた。

あとがき

■個々人の課題の総和がチームの課題

 先に本文でほとんど触れられなかったフォレストについて少しだけ。大外から単騎での陣地回復を見せたスペンス、ロコンガに添い遂げたツィンカーナーゲル、交代でプレス強化に貢献したグラバンが印象に残った選手たち。あとコルバックは普通に懐かしかった。

 アーセナルに関して。失点シーンのロコンガは判断の遅れからこうしたピンチを招くことが度々あり、これは本人の課題の1つでもある。と同時に、この日はビルドアップ隊や他の選手も彼に時間やスペースを与えてあげられなかったのも事実。普段から指摘しているように、トーマスは小回りが効かず、周りとの連携で前を向かせてもらってナンボである。

 ロコンガはトーマスに比べれば小回りが効くが、本文で述べたようにこの試合ではそもそもアンカー役へのマークがハードで、ターンをする余裕がある場面自体が少なかった。そうした時に他の選手がマークを外せる手助けができなかったのがこの日のチーム全体の課題となる。低い位置から時間を作ることを怠り、数人のマークが待ち構えているサカやマルティネッリに長いボールを出すだけでは崩しの難易度が上がるのも当然。

 本文ではほとんど触れられなかったが、守備の局面においても全員が少しずつ足りなかった。前線はボールの進む方向を誘導して、後方のプレスを楽にさせてあげられなかったし、中盤は無理な飛び込みが多くDFラインに多くの無理を敷いた。そのDFラインも最後の最後で体を投げ出すという部分では普段出ている4人に比べて割引だった。

 ここ1か月のアーセナルは強かった。そして強さの理由をとても説明しやすかった。この日のようにその部分が失われてしまえば、強さが失われてしまうのも当然である。レギュラーメンバーでさえ、ようやく噛み合って強さを発揮できたのはここ1カ月くらいである。これまでなかなか機会を得られなかった控え選手たちが同じことをできないのは自然ではある。

 だけども、自然であるからといって対戦相手はそれを考慮してくれるわけではない。出番を与える側はそうしたチームの弱みを理解しながら目標達成に進んでいかなければいけないし、出番を得る側は限られた時間の中でチームでの役割を理解しプレーしなければこうした試合は増えてくるだろう。

 誰が出ても強いといわれるアーセナルが最終目標。その目標にはまだ遠い道のりがあると再確認させられた2021-22のFA杯だった。

試合結果
2022.1.9
FA杯 3回戦
ノッティンガム・フォレスト 1-0 アーセナル
シティ・グラウンド
【得点者】
NOT: 83‘ グラバン
主審: クレイグ・ポーソン

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