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「断ち切った悪循環の匂い」~2021.12.15 プレミアリーグ 第17節 アーセナル×ウェストハム レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■勝機を見出し偏重する

 アーセナルにとっては何よりも大事なのは試合の立ち上がりである。確かに前の試合であるサウサンプトン戦は内容も含めてよかった。しかし、前の試合がよかったとしても次の試合でいいとは限らないのがアルテタのアーセナルである。

 エバートン戦やマンチェスター・ユナイテッド戦は今シーズンこれまでできていたビルドアップのスキームを放置し、後方が重たくなってしまい前進がうまくいかなくなった。そうしたリセットがかかるかかからないかが第一関門になる。

 その第一関門をこの日のアーセナルはクリアすることができた。ビルドアップはよく8対6とか8対7の状況をクリアできるか?と言われたりしているが、アーセナルはこのフェースを綺麗に前進することができた。

 前節のサウサンプトン戦では中央のウーデゴールの降りる動きに加えて、両ワイドのマルティネッリ、サカにダイレクトにボールを預けながら縦に鋭く進む前進もバリエーションとして織り交ぜたアーセナル。

 だが、この試合では中央が降りる動きを使っての前進に集中したアーセナル。まずは中央の選手にフリーでボールを持たせる形を作ってからの攻撃にルートが偏っていた。この偏りの要因は大外でサカが地上戦での違いを見せることができていたから。この日のアーセナルの右サイドはマスアクとサカの1対1に勝機を見出していた。

 なのでアーセナルとしてはサイドにクリーンにボールを持たせるために中央を設計すればOK。サカが前を向いてマスアクと対峙できる状況を作るためにボールを動かす。

 理想としてはジャカかトーマスにボールを持たせることができればいいのだが、そこはウェストハムの2トップとソーチェクがきつめにマーク。その分、浮きやすかったガブリエウから大外のサカに列を越えながらのボールが送られることとなった。

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 ウェストハムはサカとマスアクのマッチアップにはカバーを使うことを決めた様子。ランシーニ、もしくはライスのどちらかがマスアクのヘルプに行くことにした。

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こ このウェストハムの決断によって恩恵を受けたのは冨安だった。ランシーニがマスアクに寄り添うようにラインを下げたことで、冨安のマーカーは実質不在になる。時間を与えられた冨安がその時間を有意義に使えたことも日本にとっては大きかった。

 例えば、サウサンプトン戦でも見られたようなファーサイドへの対角クロスはこの試合でも見られたし、切り返しての逆足のクロスもOK。かつ、同サイドの裏を使う選択肢も見せることができていた。欲をいえばもっと同サイドの3人目を使うことができればよりよかったのだけど。でも、冨安に選択肢を与えながら時間を使えたという意味ではこの試合でもできていたと思う。チームとして成熟しているというのもあるし、冨安ができることを一つずつ増やしているというのもあるだろう。

 サウサンプトン戦と比べればルートは限定的であったが、ウェストハム戦でもアーセナルは前半から効率的に攻めることはできていたように思う。サカに対してはウェストハムは1対1はもちろん、2対2や2対3においても厳しいマッチアップになった。数は揃っているけど、どうやっても破られてしまうみたいな。

 ウェストハムがサカに対してランシーニを下げるという2列目の重心をいじるやり方をしたため、アーセナルは中盤がより高い位置でボールをもつことができた。隙あらば縦に刺すことはできる、でも小回りは効かないというジャカとトーマスにとって重心が高い状態を維持しながらフリーで前を向ける状況は非常に恵まれているもの。これによってアーセナルはボールの保持の安定感がアップした状態でウェストハムを押し込むことができるようになった。

■攻撃の好影響が守備に及ぶ

 サウサンプトン戦のアプローチと比べて、この戦い方はサカの個の力に依存する要素が強い。その一方でより全体を押し下げながら攻めることができるので、試合を掌握しやすい展開になる。アーセナルは保持で敵陣に多くの選手を送り込むことができた恩恵でこの試合はネガトラが非常によかった。

 プレビューで触れたが、まずウェストハムの攻撃を交わすにはロングカウンターにどのように対処するかというのを決めていかなければならない。あわよくば前を向かせずに挟みながらプレスを行い、スピードアップする前に決着をつける。それがアーセナルの対ロングカウンターへの作戦であったようである。

 もう一つのポイントとなったのは前方への強気なプレッシング。4分のシーンのようにジャカなどの中盤の選手が『出て行き過ぎなのでは?』というポジションを取ることもしばしばだったのだが、この試合のアーセナルは攻撃を止め切って、ハイラインのリスクを顕在化することを防いだのだとも思う。

 ウェストハムのバックスにもやはり問題はあって、時間を奪われると正確にボールを繋ぐことができない。例えば、ここでタッチライン側の選手にボールを届けることができればプレスを脱出できる!という状況でことごとく繋ぐことができない。

 落ち着いてボールを持つ機会を得ても前節のバーンリー戦に続いて押し込んでからのソリューションが見つけることができない。攻めあぐねてしまいアーセナルのブロックを崩すことができなくなってしまう。

 30分以降、ウェストハムはアーセナルの縦パスを引っ掛けながら、カウンターの機会を得ることができるように。この時間帯はアーセナルのチャレンジの気持ちがやや空転気味だった時間帯である。とはいえ、この時間帯もパスの狙い自体は悪くない状況。10分も経てば再度アーセナルがボールを握り直せる状況だった。

 アーセナルにとっては先制点だけが足りない前半となった。

■悪の象徴からの先制点

 後半も立ち上がりから大きな流れは変わらず支配的だったのはアーセナルの方。そして、早々に先制点を決める。

 得点を決めたのはマルティネッリ。ラカゼットからのパスを受けて抜け出し、見事な先制点を決める。この場面でキーになったのはジャカの左落ちである。直近のアーセナルではビルドアップのうまくいかない時の象徴のようになっているCHの左落ち。確かに相手を動かせない場合は自分も悪だと思う。

 だが、降りる動きが相手を引っ張って動かすことができるのならば話は別である。この場面では左落ちするジャカにボーウェンがついて行ったことがトリガー。開きながら受けようとするマルティネッリにソーチェクがついていくと、彼が空けたスペースに入り込んだラカゼットにドーソンがついていくか悩んだ末に出ていったところが次のステップ。そして、そのドーソンが空けたスペースに裏に抜け出していったマルティネッリが先制点を決めている。

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 すなわち、悪とされている左落ちから数珠繋ぎで先制点は生まれている。人を動かせる+裏抜けを伴う場合は後ろに重くなる左落ちの移動も意味があるということである。

 もう一つ、個人の特性の部分に触れるとしたらマルティネッリの中央に絞りたがる属性。スミス・ロウに比べると、かなり速い段階でラカゼットの空けたスペースを使いたがりフィニッシュに向かいたがるのがマルティネッリの特徴。直後の場面ではサイドでボールを持ったティアニーとの距離が遠すぎてしまい、サポートがもう少ししてあげたかった感じを受ける。

 もっともマルティネッリのストライカー寄りのキャラクターを考えればそれでも問題ないだろう。スミス・ロウとは異なった形でSHとしての持ち味を出しているのはいい傾向。先制点の場面では彼のその縦方向への嗅覚がいい方向に転がったといえそうだ。

 流れを取り戻そうとウェストハムはアントニオを右サイドに流すやり方に打って出る。サイドでの打開策が見出せないので、とりあえず、ゴリゴリ押し下げることができるアントニオをサイドで勝負させて押し込んで壊し切る場所を作ろうということだろう。もちろん、これはゴール前の脅威とトレードオフになる。65分みたいにサイドから鋭いボールを入れることができれば意味がある。だけども、そういう場面はそこまで多くはなかった。停滞する押し込んだ攻撃の解決策をモイーズなりに模索したということだろう。

 解決策を見出そうと奮闘していたウェストハムだったが、コーファルが2枚の警告で退場してしまうというトラブルに直面する。ファウルに伴って獲得したPKこそラカゼットが決めることができなかったものの、10人という難しい状況で相手を追いかけることになる。

 3-4-2で中央を担保しながら大外をアントニオで押し下げる作戦に出たウェストハム。アーセナルはホワイトとラムズデールというレンジの広いキックが使えるを軸に散らしながら前進していく。相手が10人ということもあったかもしれないが、アーセナルはこれまでのリードしている状況と比べると保持しながら時計の針を進めようという意識が強かった。後半はウェストハムのプレスが強気だった分、アーセナルはCHが前を向いた状況を作ることができれば敵陣に迫ってシュートチャンスを作ることは容易だった。

 もう一押しが足りない!というウェストハムはアントニオをトップに戻す4-4-1にシフト。早速裏を取る意識からチャンスを作るアントニオを見て「トップのままでよかったじゃねーか!」とつっこみたくなった人は多かっただろう。

 PK失敗からアントニオがトップに戻ったことで引きこもりモードに入ってしまうかと思ったアーセナル。そんな中で前向きな守備を見せたのが冨安。高い位置まで出ていきボールを取り切るとカウンターへシフト。サカとスミス・ロウのランはちょっとラインが被り気味でうまくいかないかな?と思ったが、スミス・ロウの決め切る力は舐めてはいけない。正直、あまりミドルシュートは威力があるタイプではないのだけど、間合いが外されたタイミングで蹴られて、股抜きとか見えにくいコースから出てくるから決まるのだろうなと思う。短期間でメキメキ上達している感を感じられる得点だった。

 試合はこのゴールで完全に決着。1人少ないウェストハムに決定的な追い討ちを食らわせたアーセナルがホーム5連勝を記録。ウェストハムに代わって4位に浮上した。

あとがき

■この成功体験は大きい

 途中から10人だったとはいえ、ウェストハムに完勝したのは大きいだろう。ウェストハムは最終ラインのメンバーが入れ替わった分、脆さがあったのは確かだが相手の弱みを狙い撃ちして戦うことができるようになってきているのはむしろ誉めるべきポイント。

 特にロングカウンターを封じることができたのは大きかった。この部分が彼らの強みだし、ウェストハムホームとはいえチェルシーやリバプールもここに苦しんでいたことを考えれば、彼らのやりたいことを根っこから封じることができたと言っていい。

 個人で見るとマルティネッリと冨安のできることが増えているのは頼もしいし、サカがワンランク上の選手になりつつあるのも大きい。何より、終盤に悪い流れになりかけた時にもう一度前向きな攻撃のギアを入れて決着をつけれたのはデカい。悪い循環になりそうな流れに逆らい、試合を決めた成功体験はより強くなる時に役に立つはずである。

    年末年始は過密日程よりもむしろ無事に日程を消化できるかを心配しなければいけない状況になってしまったのは残念だが、内容的には進歩の跡は見られる。次は課題のアウェイだが、ここでも結果を残したいところだ。

試合結果
2021.12.15
プレミアリーグ 第16節
アーセナル 2-0 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:48′ マルティネッリ, 87′ スミス・ロウ
主審:アンソニー・テイラー

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