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「光ったグラデーション調整」~2021.12.26 プレミアリーグ 第19節 ノリッジ×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■強気に出た分の連動の甘さ

 ディーン・スミス就任以降のノリッジはまずは4-5ラインを狭める撤退守備がベース。攻撃でも時間をかけた保持を増やし、攻守のトランジッションを抑制して失点を減らす方針で再建に取り組んできた。

 それだけにアーセナルに対して、4-4-2気味の強気のプレッシングに打って出たのは個人的には少々意外だった。ノリッジはプッキに加えて、トップ下のダウエルがプレスに加わり、アーセナルのCB2枚にプレッシャーをかけてくる。

 なるべく高い位置からプレッシャーをかけて、ショートカウンターに移行し、得点への最短ルートが欲しかったのか。それとも、アーセナルのCBが今季ここまで出場機会が限られていたホールディングだったため、高い位置からプレスをかけるリターンが見込めると判断したのか。いずれにしても、ノリッジのプレッシングはここ数試合に比べてアグレッシブなものだった。

 だが、これに対してアーセナルはそこまで苦労しなかったといえる。ノリッジは前からプレスにきてはいたが、方向は規定できていなかったので、2列目がアーセナルのSBやCHにプレッシャーをかけるタイミングが遅い。したがって、アーセナルはホールディングとガブリエウのボールの出しどころには困らなかった。

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 アーセナルが近い位置のCBの預けどころとして設定したのは2トップ間に鎮座するトーマスと冨安の欠場の影響でSBに入ったホワイト。2トップの間と2トップの外にそれぞれボールの預けどころを見つける。ノリッジはここにプレスが遅れるため、トーマスが長いボールをサイドに展開できたり、ホワイトがドリブルする隙があったりした。

 仮にCBが捕まりそうになったら、マルティネッリとサカに向けてアバウトなボールを蹴ればいい。少なくとも競り合うところまでは持っていけるし、力関係的にはキープもできる。アーセナルは保持の逃しどころには困らなかったように見える。彼らとしては直近で4-4-2の相手に対するビルドアップの練習ができていたことも大きかったように思う。

■ジャカが列を上げた効果

 この日のアーセナルの保持で特徴的だったのはジャカとトーマスの関係性だ。普段であれば2トップの間に立つトーマスに対して、ジャカはフラットな高さか場合によっては左のSBの位置まで降りてトーマスより低い立ち位置になるケースが多かった。

 けども、この試合のジャカはトーマスに比べて明らかに高い位置をとることが多かった。3分のシーンに代表されるようにジャカはトーマスからのパスをノリッジのMFラインとDFラインの間で受けるケースが散見された。

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 普段より高い位置をとった理由はいくつか考えられる。例えば、CBに積極的な持ち上がりがレパートリーにあるホワイトではなく、ホールディングが起用されたこと。攻め上がるホワイトがCBならば、ジャカはリベロとしての役割を気にして1列前に出ていくスタンスは自重したかもしれない。

 もう一つ考えられるのは単純にノリッジとの力関係。致死性に至るようなカウンターを武器にしているわけではないし、ジャカが高い位置をとってもビルドアップに困るほどプレスがきついわけでもない。というわけで理由はまだまだ霧の中。もう少し試合を見てみないとわからない。

 ただ、この日のボールの回し方のユニットの配置のバランスは結構理想的だった。GK+CB+トーマスの菱形、右サイドのサカ、ウーデゴール、ホワイトのユニット、左サイドのマルティネッリ、ティアニー、ジャカ。

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 これにラカゼットがどこかに加わる形。彼がどこに入るか次第でまた人数の掛け方のバランスは変わる。降りる動きで中盤付近まで下がるならば、マルティネッリが斜め方向に旋回し、CFの位置に入る。ジャカはマルティネッリを押し上げるように高い位置をとる。

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 右サイドに流れるならば、ウーデゴールがトップに入っていく形もできるだろう。いずれにしても彼が引く動きを基準に周りがどう動くか?については今のアーセナルはよく考えられている。以前のように、ラカゼットが下がってしまうならば、たとえボールを前に運べてもPA内に誰も人がいない!みたいなケースはだいぶ減った。

 むしろ、ある程度の不確定要素と移動を含ませることでアーセナル相手に守るチームはやりにくさを感じるようになっているように思う。欲をいえばラカゼット自身が裏に抜ける動きをもっと見せてもいいとは思うけども。

■ウーデゴール起点の攻撃の加速

 この日のアーセナルに対してノリッジが苦戦したのは2箇所。まずはサイドのアイソレーション。すっかりおなじみになったサカとSBのマッチアップである。ノリッジの左SBであるウィリアムズはどちらかといえば保持での役割を期待されての起用。サカとのマッチアップで守勢に回ると流石に厳しい。リーズ戦同様、対面で優位を取れており、アーセナルはここの1対1からチャンスを作り出す。先制点はサイドの1on1を制したサカのミドルだった。

 もう一つは中盤数的優位。アーセナルのジャカ、トーマス、ウーデゴールに対して、ノリッジは2CHだと恒常的な数的不利に陥ることになる。したがって、後方からのプレッシングが遅れてしまい、この3人がフリーになるとノリッジとしては一気に先に進まれてしまう。

 この日のキャロウ・ロードはやや芝が長いせいかボールが止まりやすかったけど、ジャカ、トーマス、ウーデゴールは浮き玉のパスを駆使することで比較的想定した速度で受け手にパスを流すことができる。彼ら3人がフリーでボールを持てればアーセナルは攻撃のスイッチを入れることができる。

 最終ラインからシンプルにずらしつつ運ぶパターンに加えて、アーセナルはサイドから内側にパスを入れるパターンも。サカ、マルティネッリなどサイドには背負えるプレイヤーもいるので、彼らがキープしつつ、マイナス方向で中盤のパスを入れるという形もみられた。

 中盤にパスが渡った後は、マルティネッリ、ジャカ、ティアニーなどが相手の最終ラインの裏を取るように走り出す。右から左へ。特にウーデゴールを介してのサイドチェンジは見事。中盤でフリーの選手が出てくると、左サイドにややフリーランを促すようなエンドライン方向に巻く角度でパスを繋ぐ。

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 アーセナルは中盤にフリーの選手さえ作ることができれば、左サイドへの展開およびノリッジのラインの後退が見込める。このパターンはこの日のアーセナルの鉄板。特にノリッジがウーデゴールに離した対応をすると、すかさず彼からの左サイドへの展開が飛んでくる。

 2点目のティアニーも理想的。プレスのかからない大外からミドルを仕留める射程圏内までボールを運び、仕留めてみせた。1点目や後半に決まった3点目のようにサカのアイソレーションが刺さった場面もその直前にサイドを変えるアーセナルのパスワークをノリッジが阻害できなかったのが大きな一因である。1点目はマルティネッリとラカゼットの連携からウーデゴールまで繋がれてしまったのがノリッジ側のミスである。

 ノリッジの守備がうまくいったのはFWが中盤の守備に参加した時。中盤の枚数が揃った時、すなわち従来のノリッジのように4-5ラインを圧縮されたような戦い方。人が詰まっているのに、アーセナルはスカスカな時のノリで中盤での短い横パスや強引な縦パスにトライしていた。この辺りは前節のリーズ戦と同じく、うまくいっていた時間帯と同じノリでプレーしてしまうというアーセナルの悪癖。

 ただし、ノリッジは守備がうまくいってもそこから先の攻撃までスムーズに移行できるほどではない。アーセナルの攻撃を堰き止めるのが精一杯。1点差で踏ん張りつつ、なんとかペースを明け渡さないように粘っていた。

 それだけにアーセナルが前半の終盤に手に入れた2点目は大きかった。各所で小競り合いが起きており、乱戦の様相を呈していた中でセーフティリードを得る2点目を手中に収めたティアニーのゴールはこの試合を決定づけたと言っていいだろう。

 後半はノリッジはよりリスクをとってペースアップ。だらっと両チームにチャンスがある展開が続く。だが、チャンスをより多く作ったのはアーセナル。中央でフリーの選手を作った時の展開力という明確な武器がある分、徐々に両チームにできるチャンスの量に差が出てくるように。

 先に述べたようにサカの3点目も中央を経由したサイドを変える流れから。ノリッジはサカのカットインに対して一番開けたくない中央のコースが空いてしまったのが誤算。前半の段階でウィリアムズがサカに手を焼いていたのは明らかだったので、せめて内側のカバーリングは欲しかったところだ。サカは大外からの得点がここにきて非常に増えてきた。明らかに凄みを増している。

 終盤はラカゼットのPK、そして再び途中出場のスミス・ロウの得点と終盤にもゴールを重ねたアーセナル。ペースを引き込めないノリッジを尻目に大量5得点で連勝を伸ばした。

あとがき

■戦い方の幅が広がる可能性

 相手との力関係を考えればここ2試合の過信は禁物である。とはいえ、力の差がある相手に対しても自分たち次第で苦戦してしまうというのはアルテタのアーセナルの悪癖なのできっちり勝ち切ることは当然大事。たくさん点をとって勝つこと以上にできることはない。

 この試合のポイントはやはりジャカの高い位置。時には前線で裏抜けするほどの前がかりな姿勢はこれまでのアーセナルではみられなかったもの。代表を見れば底に近い位置でしか活躍できない選手ではないので、新しい一面を出せたのは大きい。この日のように展開、相手に合わせたグラデーションをつけての役割の変化ができればさらにアーセナルは戦い方の幅が広がるだろう。

試合結果
2021.12.26
プレミアリーグ 第19節
ノリッジ 0-5 アーセナル
キャロウ・ロード
【得点者】
ARS:6’ 67′ サカ,44′ ティアニー, 84′(PK) ラカゼット, 90+1’ スミス・ロウ
主審:グラハム・スコット

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