①ウェストハム【4位】×チェルシー【1位】
■修正から得た主導権が生んだ脈絡なき決勝点
今、ロンドンで最も高い順位にいる2チーム同士の対戦。チェルシーの対戦相手になるのはアーセナルでもトッテナムでもなく、ウェストハムである。
フォーメーション的にはチェルシーに噛み合わせた5-4-1に挑むことにしたウェストハム。しかしながら、マンマークに行くかと思いきや、プレッシングは控えめ。むしろ、遅れてプレスに行くケースが多い分、ジョルジーニョやロフタス=チークには縦にパスを入れる余裕が十分で、パスで前を進めるのは難しくなかった。
サイド攻撃においてもハーフスペースから裏を取る形でウェストハムの最終ラインを動かしながらクロスを上げることができていたチェルシー。ウェストハムのプレスの遅れと、サイドの攻撃からラインを押し下げられたことでウェストハムを釘付けにする。セットプレーからチアゴ・シウバで先制したことも含めてチェルシーとしては理想的な展開だった。
しかしながら、これで終わるようではウェストハムはこの順位にはいない。今年の記事でも繰り返しているように、隙あらばラインを上げられるのがウェストハムの強さである。プレッシングからジョルジーニョのバックパスを誘発すると、選択肢が消えたメンディが対応をミス。ボーウェンを倒してPKを与える。
だが、前半終了間際にチェルシーはマウントのスーパーボレーで勝ち越し。ウェストハムはとりあえずラインを下げるという選択肢が呼んだ失点となってしまった。
後半にウェストハムは5-3-2に変形。ロングカウンターの比率を高め、前半のような中途半端なチェイシングを減らし、メリハリのある追い方に変更する。
実ったのはまたしても高い位置への押し上げから。アントニオへのロングボールの落としをコーファルが粘って繋ぎ、最後はボーウェンがダイナミックなゴールを叩き込む。股抜き、そしてあのスピードでなければメンディをあの位置から撃ち抜くのは難しかったはずだ。
そこからはウェストハムがペースを握る。チェルシーはルカクが入ってから流動性が低下。PA内のパワーとスピードの上乗せができれば、収支は合うのだが、ウェストハムの守備陣がそれを許さない。
ウェストハムはロングボールからのセカンドボール回収で主導権を握る。中盤のフィジカルで言えば、圧倒的にウェストハム。中盤の枚数を増やした分、ソーチェクが高い位置に出れるようになったのも聞いていた。
さらに終盤、4-2-3-1に移行しクロスに飛び込む枚数を確保したウェストハムは攻勢を強める。だが、決勝点を決めたのはそんな脈絡の外側の話。ウェストハムは左の大外からメンディの虚をつくシュートでマスアクが技ありのシュートを決める。2失点目直後のアントニオもそうだけど、かなりエリアの外からシュートを狙う意識が高かったウェストハム。メンディはゴールマウスをあけた強気のポジショニングが多い!というスカウティングでもあったのだろうか。
チェルシーは終盤にプリシッチとハドソン=オドイの左サイドからこじ開けにかかるも、これ以上は失点を許さなかったウェストハム。リバプールに続きまたしても大物食いを達成。ここ数試合の取りこぼしを吹き飛ばす会心の逆転勝利を決めてみせた。
試合結果
2021.12.4
プレミアリーグ 第15節
ウェストハム 3-2 チェルシー
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:40′(PK) ランシーニ, 56′ ボーウェン, 87′ マスアク
CHE:28′ チアゴ・シウバ, 44′ マウント
主審:アンドレ・マリナー
②ニューカッスル【20位】×バーンリー【18位】
■幸運な先制点と新たな選択肢がもたらした初勝利
リーグ唯一の未勝利チームとしての居残りが続いてしまっているニューカッスル。エディ・ハウ就任後もコロナ感染や退場者など想定外のことが起こり続けている感があり、思うように言っていない印象に見える。今節の相手は同じく残留が目標になるであろうバーンリー。ここを逃すと上位勢との対戦が続くだけに、なんとか未勝利を脱出したいところ。
試合は立ち上がりからニューカッスルが支配的に進めていく。互いに4-4-2チックな形なので、保持側がズレを作らないといけない状況だったが、それを担当したのがシェルビーである。ニューカッスルの前方の選手がライン間に入っていく意識が増したこと、バーンリーの4-4-2のライン間へのケアが緩いことなど、ニューカッスルはつなぎながらボールを前進させていくための土壌が十分にあったと思う。
特に前線の選手で頼りになったのはジョエリントン。ライン間で受ける意識が最も高まったのは彼で、ボールの預けどころとしてサン=マクシマン以外の新しい選択肢になりつつある。4-4-2だとやや気になるCHコンビの守備の際の軽さもトップ下のジョエリントンがカバーに入ることで補っている部分は大きい。
一方のバーンリーはウッドのポストからグズムンドソンの攻め上がりを促した立ち上がりこそいい攻撃が見られたものの徐々に沈静化。ニューカッスルが前線からのプレッシングが強くなかった分、自由に時間を与えられた最終ラインから左右の幅を使うことができていたが、大外で何かができるタイプのWGはバーンリーにはいないので、そこからゴールに迫るための選択肢に乏しかった印象だ。
前半終了間際に先制したのはニューカッスル。セットプレーからのニューカッスルにとって幸運な形でポープのファンブルが発生。最後はウィルソンが叩き込んで先制した。
後半になってもニューカッスルペースは変わらない。ライン間においてサン=マクシマンが前を向ける頻度が上がったことで、エリアに迫る迫力が増加する。
バーンリーは昨季機能していたウッドへの放り込みからのキープという前線の攻撃のパターンが今季あまり見られなかったのが気がかりではある。相方のコルネも得点力は申し分ないのだが、筋肉系のトラブルが頻発している印象でこの日も途中交代。攻撃のパターンが定まらない。終盤にありったけのFWを投入してなんとかゴールに迫るシーンが見られるが、ロドリゲスがネットを揺らした場面はオフサイド判定に終わる。
結局、終始優勢に試合を進めたニューカッスルが押し切っての勝利。終了時のエディ・ハウのガッツポーズは多くのニューカッスルファンが待ち詫びた今シーズン初勝利の重みをよく表していた。
試合結果
2021.12.4
プレミアリーグ 第15節
ニューカッスル 1-0 バーンリー
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:40′ ウィルソン
主審:ポール・ティアニー
③サウサンプトン【16位】×ブライトン【9位】
■苦しい試合を再び救ったモペイ
ボール保持で言えば一日の長があるブライトン。3バックベースのフォーメーションでサウサンプトンの2トップをいなし前進していく。で、ゴール前までボールを運びチャンスを量産•••というのがブライトンのいつものパターンである。
しかしながら、この日はそううまくいかなかったブライトン。特にミドルレンジのパスの精度が低く、パスがずれてしまうケースが頻発する。そうなるとカウンターが飛んでくるのがサウサンプトンというチームである。
サウサンプトンは近年ポゼッションへの取り組みが目立っているチームだけど、この日は直線的なスタンスが全開。ウォード=プラウズからの縦パスが入ると、一気にカウンターのスイッチが入るサウサンプトン。縦に早い攻撃から活路を見出す。
それだけでなく、この日のサウサンプトンは保持でも攻め所を見出す。5-3-2のブロックに対して時間が与えられるSB。サウサンプトンの攻めのストロングポイントである。特にリヴラメントのカットインは威力が抜群。周りの合わせる動きもこの日はサウサンプトンは冴えており、1人が動くとそれに合わせて他の選手がポジションを取り直す。
一方のブライトンはややボールを足元に求めすぎるきらいがあったように思う。スペースに入り込む動きやいつもより少なく、相手を動かせない。それでいて動きをつけようとするロングパスを出すとなると、この日は精度が伴わないという状況である。
というわけでミドルゾーンからのカウンターで優勢に立つサウサンプトン。アタッカー陣を中心にブライトンのゴールに迫る。先制点をこじ開けたのはブロヤ。リヴラメントといい、本当に今季のサウサンプトンはチェルシーに頭が上がらない。パレスと一緒に菓子折りを持っていくべきである。
終盤もなかなか事態が好転しないブライトン。加えて、崩しの切り札であるトロサールを負傷で失ってしまう。苦しむブライトンを救ったのはまたしてもモペイ。前節に引き続き、最終盤での同点弾を叩き込む。
内容的には厳しかったブライトンだが、なんとか勝ち点1を確保。終始、優勢に立っていたサウサンプトンだったが、最後の最後で勝ち点を逃してしまうというほろ苦い結果になってしまった。
試合結果
2021.12.4
プレミアリーグ 第15節
サウサンプトン 1-1 ブライトン
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:29′ ブロヤ
BRI:90+8′ モペイ
主審:アンソニー・テイラー
④ウォルバーハンプトン【8位】×リバプール【3位】
■しつこさ×ミラクルボーイの掛け合わせ
プレミアリーグのレベルが上がっているなと感じる自分が感じる理由の一つは中堅チームのレベルが高くなっていることである。代表格はここ数年のレスターであり、ウェストハムであるのだが、今季で言えばウルブスも侮れない存在である。
この試合もその中堅チームの侮れなさをリバプールが存分に味わう結果となった展開だった。互いに前線からのプレスは控えめで攻守の切り替えは比較的少ない。その分、中盤とバックスの戻りが遅れることが少なく、堅い守備陣を攻撃側がどげんかせんとチャンスにすら辿り着かない!という流れだ。
両チームとも後方の選手たちの努力のもと、非常にゴール前のシーンが少ない試合となった。チャンスらしいチャンスが生まれたのは28分のアレクサンダー=アーノルドのエリア内の侵入まで待つ必要があった。やはり、強固なブロック守備を壊すならばSBからである。
中は固めてあるという前提があるので、ゴールを奪うにはまずは外を壊さないといけない。外を壊すという部分ではやはりリバプールの方が上。ウルブスは中央の最終ラインの強度は高かったが、DF-MF間のスペースは空いていたので、リバプールはまず縦パスを入れてライン間でのパス交換で前を向く選手を作り、中に相手を誘導した後で外に展開することができる。この外から壊すスキルはリバプールの方が上。
ウルブスもヒチャンやトラオレでヨーイドン!はできるものの、リバプールのバックスの戻りが早く、陣地回復後にもう一度サイドから崩しきれないといけない状況に陥ることが多かった。前半終了間際にアイト=ヌーリがアレクサンダー=アーノルドを出し抜いたタイミングが一番ゴールに近づいた瞬間だろうか。
後半はリバプールがさらに攻勢を強める。中央からのプレスを強化してショートカウンターを狙う形もバリエーションに入れた形。とはいえなんと言ってもしつこく狙っていたのはサイドの裏。WB-CBの切れ目の部分とボールサイドの逆側(=逆サイドのCBの背後)からの斜めのランを合わせてサイドを壊してから内側に折り返すパターンをしぶとく続ける。
リバプールのこの執拗な最後からの裏の攻撃にウルブスの守備陣は体を投げ出して対抗。ウィリアム・サの飛び出しが失敗し、ジョッタが無人のゴールに向かったシーンはまさしくリバプールのしつこさが実ったシーンかと思ったが、ここはコーディが最後の砦となり死守する。
前半よりもかなり苦しい展開になるウルブスだったが、ロングカウンターが出せるトラオレがいる限りは希望の光が消えないのは大きかった。
4-2-3-1にフォーメーションを変更したリバプールの意地が実ったのは終盤も終盤の94分のこと。ファン・ダイクのフィードを大外からトラップひとつで中に進路をとったサラーがまずはお見事。中で合わせたのは絶対数こそ少ないが、やたら価値の高いゴールを生み出すオリギ。
最終盤でようやくこじ開けたリバプール。同じく手強い中堅に屈したチェルシーを交わし2位に浮上した。
試合結果
2021.12.4
プレミアリーグ 第15節
ウォルバーハンプトン 0-1 リバプール
モリニュー・スタジアム
【得点者】
LIV:90+4′ オリギ
主審:クリス・カバナフ
⑤ワトフォード【17位】×マンチェスター・シティ【2位】
■早々に押された烙印、のびのびと完勝
マンチェスター・シティと戦って勝ち点を得る上の最低限のノルマは全員が任された仕事を全うすること。その上で漏れてしまい作られたチャンスをシティのアタッカー陣が外してくれることを祈る。そして神様が微笑めばようやく勝ち点を取れるという算段である。
4分の失点はこの日のワトフォードにはシティから勝ち点をとる資格はないという烙印を押されたようなもの。ローズがスライドをサボったという失点の直接原因はこの場面で仮にスターリングが外しても、この後どこかで決壊を迎えるという確信を持つには十分だった。
シティは我慢強いポゼッションができるチーム。この日の彼らの狙いはIHの裏側、CFのキングのサポート役としてプレス隊に出てくるクレヴァリーとシソコの背後である。だが、彼らのモットーは何よりも安全第一。チャレンジしてみれば通りそう!というタイミングでも、確実にパスを通せないと判断すれば、再びズレを作ることにチャレンジする。
ワトフォードのIHは出ないとジリ貧、でも出過ぎてもいけない。さらには数的同数で構えると決壊する左サイドを気にしないとダメという苦しい流れ。ジョアン・ペドロとかカスカートとかがローズのカバーにいかなければ、左サイドは話にならないのでこのアンバランスさを孕んだ守備になるのはこのメンバーでやる以上は仕方がない。
ワトフォードはデニスを軸としたカウンターの精度が上がってはいるものの、やはりこのIHの背後を使われるか否かのチキンレースにエネルギーをだいぶ使う羽目になっており、反撃の機会を得ることができない。
後半、ワトフォードは選手交代に伴い4-2-3-1にシフトチェンジ。アンカーのロドリを消しにかかる。だが、相手の陣形のオーダー通りに前進できるのがシティなので『OK。ロドリ抜きのビルドアップね』という感じだろう。後半はまだプレータイムが安定しないデ・ブライネの投入など伸び伸びした攻撃に舵を切った感じ。
その分、ワトフォードが攻める時間が前半よりは増えた。だが、カウンターから殴り返せば問題はなし。ベルナルドがローズとの1対1を制し、試合を決定づける3点目を決める。
終盤はカンセロ周辺のスペースを重点的に攻めることでチャンスを得たワトフォード。崩しの主役となったクチョ・エルナンデスの反撃弾で1点を返すところまでは辿り着いたが、そこがいっぱい。終盤に見せた緩みも含め、無理のない力の入り具合での勝利で終始伸び伸びしていたシティが印象的な試合だった。
試合結果
2021.12.4
プレミアリーグ 第15節
ワトフォード 1-3 マンチェスター・シティ
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
WAT:74′ クチョ・エルナンデス
Man City:4′ スターリング, 31′ 63′ ベルナルド・シルバ
主審:ケビン・フレンド
⑥リーズ【15位】×ブレントフォード【12位】
■帰還の号砲が呼ぶ勝ち点1
立ち上がりから早い攻守の切り替えで試合は非常に目まぐるしい展開になった。どちらもハイプレスが基軸のチームの中で先に引く選択をしたのはアウェイのブレントフォードの方だった。『とりあえず、落ち着きましょう!』と撤退守備で流れを切る動きをみせた。
そんなブレントフォードはこの試合ではショートパスを基軸に前進を挑む。ブレントフォードはたまにこういうチャレンジングなプランを選ぶことがあるんだけど、高い位置からプレスにくるマンマークを志向するリーズ相手にこの取り組みをするのは少し意外だった気がする。
けども、フィードができるラヤがいない。ターゲットになれるトニーもいないという自軍のリソース視点で考えれば理解できるトライでもある。だけども、トライの理由がいつものロングボール主体の展開ができないという消極的な理由だと少し厳しい。相手を押し込んだ後に何もなくなってしまい、攻めあぐねる展開になってしまう。
そんなブレントフォードを尻目に先制したのはリーズ。得意なオープンな展開の中からラフィーニャのクロス連打で先制する。得点シーンはロバーツのエリア内の動き出しが秀逸。DFとの駆け引きに完勝である。ブレントフォードは見た目に反して放り込みには弱い。これも彼らがハイプレスに出る理由でもある。
体を相手にぶつけられることができれば強いのはブレントフォード。だが、リーズはフリーのホルダーが左右にボールを大きく展開することで肉弾戦を避けていた。ブレントフォードは体を当てる展開になれば彼らに風が吹く形。
後半途中に左サイドの突破からバプティストのゴールで追いつくと、その勢いをそのままにカノスが逆転ゴール。直前に決定機逸をバカにされたのか、スタンドに喧嘩を売りまくっていたのにはめっちゃ笑った。だけどもゴールシーンは止まることで相手をホールドしつつ、裏抜けの選手に合わせるという動きを2回繰り返すという非常にテクニカルなもの。勢いの中で見せた技ありのゴールで一歩前に出る。
だが、終盤の主役はカノスではない。ビハインドを追いかけるためにありったけのアタッカーを投じるリーズ。徐々にオープンな展開を引き寄せていくと、メリエまで上がってきたCKを叩き込んだのは復帰戦となったバンフォード。エースの帰還を華々しくホームのファンに知らせる終盤の同点弾はリーズに勝ち点をもたらす貴重な1点となった。
試合結果
2021.12.5
プレミアリーグ 第15節
リーズ 2-2 ブレントフォード
エランド・ロード
【得点者】
LEE:27′ ロバーツ, 90+5′ バンフォード
BRE:54′ バプティスト, 61′ カノス
主審:デビッド・クーテ
⑦マンチェスター・ユナイテッド【7位】×クリスタル・パレス【11位】
■新体制のキーマンが初勝利をプレゼント
前節のアーセナル戦はビザの発給が間に合わずにスタンド観戦。ようやくベンチに入れたラングニックが就任初陣を迎えたマンチェスター・ユナイテッド。クリスタル・パレスをホームに迎えての連勝を狙う。
前節のアーセナル戦で見られたラングニック就任発表後の唯一の特徴である守備時に逆サイドのSHが大きく絞るという挙動はこの日も健在。ボールサイドの逆側のSHがパレスの中盤にプレスをかける役割を任されているようだ。
SHが中央に絞ることでCFはプレスにおいて前に押し出される形になるユナイテッド。パレスは変形を伴っての保持に力を入れているシーズンではあるものの、CBのアンデルセンの不在が大きい。保持における核がいないとなると、元々高くないプレス耐性の懸念が露わになってしまう。
高いインテンシティでプレスをかけるユナイテッドに対して、自陣から脱出できないクリスタル・パレス。ハーフコートゲームに押し込まれてしまう。前節は枠組みの中で浮いていた感のあるザハだったが、こういう試合に降りて頼りになるのは彼に他ならない。圧力に対する慣れは必要だったが、存在感は十分にあった。
優位に試合を進めたホームチームだが、ユナイテッドには押し下げた状況から素早く仕留められなければ攻撃の手段がない。ファーのロナウドへのクロスという狙いは徹底されていたものの、引いた守備に対しては攻めあぐねてしまうという課題に手がつくのはまだ先の話になりそうである。
クリスタル・パレスの守備の手法を見ても、ユナイテッドはSBを中心にボールを持たされており、自陣からの前進に改善が見られるのはまだこれから。保持の時間がフラットになると、試合の展開も均衡したものにシフトするようになる。
後半になると両チームのプレスのタイミングが少し遅れるようになり、ファウルが頻発するように。セットプレーからのチャンスを両チームは迎えることになる。パレスは今季もセットプレーの守備は大の苦手なのだが、前半の押し込まれた時間帯も含めて、この試合のセットプレーは珍しく粘りが効いていた。
どちらに転んでもおかしくない展開において、勝利を決定づけたのは前節も大活躍したフレッジ。グリーンウッドのドリブルでラインを押し下げると、下がったことで空いたバイタルからミドルを叩き込み先制。ノっている選手なのだろうなというのが正直な感想である。
いかにもラングニック体制でなじみそうなフレッジが指揮官に就任初勝利をプレゼント。まずは連勝という幸先のいいスタートでラングニックの英国での挑戦は幕を開けることとなった。
試合結果
2021.12.5
プレミアリーグ 第15節
マンチェスター・ユナイテッド 1-0 クリスタル・パレス
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:77′ フレッジ
主審:クレイグ・ポーソン
⑧トッテナム【6位】×ノリッジ【19位】
■異なるソリューションで同じ課題に立ち向かう
両チームとも3バックのフォーメーション。それに対して前線から厳しくチェックをかけていくという立ち上がりとなった。ともに内側を閉じながら相手を外にプレッシングをかけていくのが特徴的な試合だった。
ノリッジはそれに対して純粋に従うようにボールを迂回させて攻撃を行う。狙いは外からボールを循環させて、高さを維持する最終ラインの裏への抜け出し。プッキとアイダの2トップをWB-CBの間から抜けさせる形でチャンスを狙っていく。
一方のトッテナムは相手の守り方に逆らうアプローチ。5-3-2のノリッジは3-4-3のトッテナムよりも内側をより固める形なのだが、インサイドのルーカス、ソンにパスを入れるトライをすることで固めている中を純粋に破壊するというやり方でゴールに向かう。
互いに異なるやり方の中で先にゴールに辿り着いたのはトッテナム。反転からのワンツーによる前進で一気にシュートまでこじ開けてしまう。やや強引ではあったが、狙い通りの形で先制点を得たのはスパーズの方だった。
その後も愚直に外から裏を狙うアプローチを続けるノリッジ。内側にボールを入れるトライは失敗してしまうと被カウンターのリスクがあるため回避するのは理解できる。とはいえ、できれば大外で戦えるマッチアップは欲しかったところ。そこで勝負できないとなると流石にトッテナムは守りやすい。
この日の守備で際立っていたのはサンチェス。後半のノリッジは徹底的に左サイドから裏を狙っていたが、早めに潰してくるサンチェスを越えるのにかなり苦労。数回無事に越えることができてはいたがアイダやサージェントといったアタッカー陣がガッカリなシュートで台無しにしてしまう。
そんな守備での貢献が光ったサンチェスが2点目を取ると試合はほぼ決着。内を固めていたノリッジに脆さが出るようになり、最後はそのインサイドをソンにきっちり破壊されて試合を仕上げられてしまう。
3バックに対して外に押し出すように守るという同じアプローチに対して、異なるルートで解決策を見出した両チーム。相手の狙いに逆らうような形での解決を目指したトッテナムが3ポイントを獲得した。
試合結果
2021.12.5
プレミアリーグ 第15節
トッテナム 3-0 ノリッジ
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:10′ ルーカス, 67′ サンチェス, 77′ ソン
主審:ジャレット・ジレット
⑨アストンビラ【13位】×レスター【10位】
■二度と見れない逆転勝ち?
シティによって就任からの3連勝を阻止されたジェラードのアストンビラ。今節はレスターとのホームゲームで再起を図る一戦である。この試合のビラの特徴は3トップが極端に狭い配置を取ること。大外へのケアはシャドーよりもIHが担当し、レスターのボール保持において内側を使うのを阻害する。
しかし、奥行きを使えるこの日のレスターには関係なし。先発に抜擢されたデューズバリー=ホールは縦方向にチームを素早く進めるパスを出せていたし、ダカもポストプレーからのエリアに走り込む動きで速い攻撃を手助け。
そしてなんと言ってもバーンズ。先制点のシュートは間を外しつつコースを狙った技ありゴール。こういう外すプレーができるようになるというのはだいぶ心に余裕が出てきた証拠なのかなと。コンディションは戻りつつあるようである。
一方のビラは直後にセットプレーからコンサが押し込み追いつくものの試合としては劣勢。縦に早い攻撃をレスターの早いプレッシングで潰されてしまい、早い展開の中でなかなか主導権を握ることができなかった。
この日のビラはどことなくブレントフォードみが強かった。ファーへのクロスをやたら狙っていたし、そのこぼれ球を押し込むという肉弾戦大歓迎!というスタンスも彼らそっくり。この2試合と全然キャラ変したビラにちょっとみていて戸惑い気味だった。
後半はそのビラのペースに。肉弾戦大歓迎!のスタイルで徐々にレスターをフィジカルで圧倒。カウンターから相手を薙ぎ倒して(結構ファウルを取られていたけども)ゴールに猪突猛進していくというここ2試合と全然キャラが違くないか?という形で主導権を握る。2点目のCKもファーへの競り合いを再びコンサが押し込むという肉弾戦全開の物だった。
一方のレスターは押し込んでからの手詰まり感が目立つようになり、後半に入ると徐々に攻めあぐねるようになる。攻撃を完結させられずにカウンターでしっぺ返しを喰らう!という流れでビラに危険なシーンを作られる。
同点のチャンスは74分。しかし、これはマルティネスがスーパーセーブ。今季はやや低調気味だったが、この場面は見事に試合を救って見せた。押し込まれている様子を受けたジェラードはトゥアンゼベを入れて5バックにシフト。
劣勢の前半に、後半に迎えた同点のピンチを凌いだビラ。『コンサの2ゴールによって逆転勝ち』という二度と使わなさそうなフレーズでレスターを下した。
試合結果
2021.12.5
プレミアリーグ 第15節
アストンビラ 2-1 レスター
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:17′ 54′ コンサ
LEI:14′ バーンズ
主審:マイケル・オリバー
⑩エバートン【14位】×アーセナル【5位】
■自業自得でドラマティックな逆転劇
レビューはこちら。
8試合勝利がないエバートン。今節の相手はユナイテッドに敗れて再起を図るアーセナル。過去の戦績でみればアーセナルが優勢だが、直近2試合はエバートンが連勝中の一戦である。
ボールを握ったのはアーセナルの方。だが、復帰したジャカのプレースタイルやボールを受けられないウーデゴールの関係で全体の重心が下がりに下がる。ビルドアップに人数を割きすぎてしまい、前進がままならない状態に。
結局、出すところに迷っては蹴っ飛ばすの連続でアーセナルは満足に前進ができず。元々できていたことができなくなるというアルテタ政権になってからのアーセナルでよく見られる『リセット』現象が起きてしまったかのようだった。
エバートンも特段復調した感じは受けないのだが、後ろ向きな人数の掛け方をするアーセナルのスタイルのおかげで、前がかりになりすぎて後方がスカスカになりやすいという欠点が炙り出されなかったことが大きかったように思う。前進が許してもマイナス方向のプレー選択があまりにも多いアーセナルに対してならば、プレスが無理でものんびりと4-4-2を組むリトリートを選択してしまえば間に合ってしまう。
攻撃においても、最終ラインの枚数調整や前線のボールの収まり方はエバートンの方が上。リシャルリソンの収まりの良さを利用した連携はアーセナルを苦しめた。単独で運べるグレイや意外なオフザボールの巧みさを見せたタウンゼントとのコンビネーションでアーセナルのゴールを脅かす。
前半終了間際に決まったウーデゴールの得点はむしろ試合の流れに逆らうゴールといえる。リードをしたことでさらに消極性を増すアーセナルに対して、エバートンは4-3-3にシフト変更してプレスの噛み合わせ+強度をアップ。加えてダイナモであるドゥクレが攻撃に絡む機会が増えたことで攻め上がりの迫力も増すことになった。
ショートカウンターからの雪崩こみでゴールを脅かすことができるようになってきたエバートン。そもそも、この日は前線からの守備がピリッとせず、何度もリシャルリソンにネットを揺らされている(オフサイドだったけど)アーセナルにとってはこの状況を打開できる策はない。
結局、3回目の正直でゴールが認められたリシャルリソンの同点弾と終盤に魔法の一振りを見せたグレイの得点で終盤にエバートンは逆転。9試合ぶりの勝利と後半追加タイムの決勝点はエバートンファンから見れば劇的だろうが、当事者以外からすればクオリティの低さと後ろ向きな姿勢のアーセナルが自ら呼び込んだ自業自得のストーリーにしか見えなかった。
試合結果
2021.12.6
プレミアリーグ 第15節
エバートン 2-1 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:80′ リシャルリソン, 90+2′ グレイ
ARS:45+2′ ウーデゴール
主審:マイク・ディーン