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「前をむけ!」~2021.12.6 プレミアリーグ 第15節 エバートン×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■駆け引きができない!

 不甲斐なかったマンチェスター・ユナイテッド戦の反省はどこだっただろうか。一番目についた部分は人によって違うだろう。勢いのあるプレッシングに対してなすすべがなかったことか、あるいかハーフスペースに入り込み続けるフレッジへの対応が二度も後手を踏んだ結果取り返しがつかないことになったことか。

 4−4−2でフレッジのように中盤にプラス1ができる人材がいて、かつ守備の連動に難を抱えるエバートンはユナイテッド戦で露になったアーセナルの課題を再チェックするための格好の相手だと言える。

 だが、立ち上がり早々からアーセナルはボール保持において大きな問題を解決できていないことが明らかになってしまう。エバートンの守備は4-4-2がベース。アーセナルのビルドアップで言うとまずは2CB+トーマスでこの2トップとの駆け引きに勝つ必要がある。

 アーセナルの前進の手段の一つはトーマスに前を向かせるである。逆にエバートンとしてはそこは絶対に使われたくない。2トップの背後に位置するのが基本のトーマスがいる時点でリシャルリソンとタウンゼントはそこまでサイドの深い位置まで追いにくい。中央から離れれば離れるほどトーマスに前を向かれる危険性が高いからである。

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 と言うわけでアーセナルからすると必要だったのはこのエバートンの2トップの幅に対する駆け引きである。トーマスにパスを通したいならば、この幅を広げたい。そのために必要なのはCBが幅をとることである。CBが開けば2トップは開かざるを得ない。

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 両CBが開いた場合、トーマスは彼らから受けられるパスの角度が限定的になってしまう。そう言う時に使いたいのはラムズデール。アーセナルは中央縦のパスのコースをラムズデールから供給できれば、エバートンの2トップはさらに気にしなければいけないことが増える。

 だが、実際はアーセナルはこの駆け引きがほぼできず。エバートンが中を空けるならばトーマスが前を向けます!外を空けるならばCBがドリブルでボールを運んで列を越えることができます!と言う二択を突きつけることができれば、アーセナルはだいぶ楽に前進できただろう。

 アーセナルが解決策として提示したのはジャカが左サイドの深い位置に落ちること。確かにこのやり方でもアーセナルはエバートンに横幅を使わせる揺さぶりをかけることができる。だけども、こうなると全体の重心が下がってしまう。特に左サイドの前進は降りるジャカが左の大外の選手(マルティネッリorティアニー)で楔をつけるところから始まることが多かった。

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 ジャカが下がることで左サイドの重心が低くなると、左の高い位置での崩しはマルティネッリとティアニーの2人しか参加できる人がいない。これだと守備側は狙いが絞りやすい。ジャカが下がることで見合った利益が得られるとすれば、中盤を引きつれることができた場合。この試合で言えばドゥクレ。ドゥクレが出てきたスペースに縦パスを刺すことができれば、相手を誘き寄せた分のメリットを享受することができる。

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 例えばスパーズ戦はこれがうまくいっていた試合である。ジャカが自陣まで引き寄せたホイビュアとの駆け引きに勝ったことでアーセナルは前進からスムーズにゴールに迫ることができた。

 前に引き出せないならばやはり後ろが重くなってしまう問題に直面する。そういう試合でアーセナルがうまくいっていたのはやはりCBがうまく運べた時。ジャカは降りるときにエバートンの2トップの手前まで落ちてくることが多いので、ガブリエウが運んで前に出るルートと重なりがちになる。こうなると最終ラインから運ぶのも難しくなる。こうした感じで後ろに重くなるアーセナルであった。

■我慢してくれれば…

 それでもアーセナルにはまだ前進のチャンスがあったように思う。エバートンはドゥクレが2トップに追従して前からプレスに出ていくことが多い。相棒のアランも揃って前に意識がいくことも決して珍しいことではない。

 そうなった時に中央で受けて欲しかったのはウーデゴールとラカゼット。2分のシーンはウーデゴールの位置にフィードが出て来れば、前進できたシーンだったが、ガッツリとラムズデールがリシャルリソンに寄せられてしまったため、ここにつけることができなかった。

 この日のアーセナルはこのパターンが多かった。後ろがタラタラ回していると、ホルダーがいつの間にか時間がなくなってしまいとりあえず蹴っ飛ばすとか、パスがズレたり受け手のコントロールが大きくなったりするせいでエバートンの選手がプレスをかけやすくなったり。細かいミスでエバートンのプレスに苦しめられる隙を与えてしまっていた。

 リシャルリソンが利き足側を切りながらプレスをかけるのが意外とうまく、アーセナルのバックスの選手たちは彼のプレスに苦戦していた。

 話を戻すとウーデゴールは切れ目でなかなかボールを受けることができずに苦しんでいた。したがって、彼自身も低い位置に降りてボールを引き出そうとする動きが増える。それがさらに後ろに陣形が重くなる悪循環になる。

 例えば13分過ぎのホワイトが持ったシーンではウーデゴールは降りてくる必要がない。ジャカがリシャルリソンを引きつけてからホワイトにパスをしているため、ホワイトにはボールを運ぶ時間が十分にあった。ここで引いてくる動きはむしろホワイトの邪魔である。

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 ここで引いてしまった故に冨安はパスコースを見失ってしまった。ウーデゴールがもう一列前にいればボールを受けることが十分に可能だったはずである。

 実際高い位置をとることができた場面においては、この試合のウーデゴールのプレーは良かったように思う。特に左サイドの選手に裏抜けを促すようなサイドチェンジは精度も含めて見事。高い位置でのプレーさえ増えれば!というシーンであった。

■プレスとカウンターの厚みをますエバートン

 基本的にはエバートンの方が全体的にうまくいっていた試合である。エバートンがボールを持った時の最終ラインの枚数の駆け引きは2CBに加わる選手をコールマン、アラン、ゴドフリーとローテーションすることでアーセナルの選手を引き出すことができていた。

 プレスで相手を引き出した後はリシャルリソンのポストを軸に前進。特に前を向いてボールを運べるグレイや間受けで細かく角度を変えるのが意外とうまかったタウンゼントなどはリシャルリソンとの相性は抜群である。

 ちなみにアーセナルでこういう縦パスからのスピードアップが上手な選手はダントツでこの日いなかったスミス・ロウ。だが、この日のようにそもそも縦パスが入るシチュエーションがない試合では彼1人ではどうすることもできない。

   この試合と酷似している現象はバーンリー戦で見られているんだけど、その試合でもスミス・ロウはむしろ降りてきてしまい、後ろに重くなる現象を誘発していた側。繰り返すが、この日の最大の問題は縦パスを入れるまでのシチュエーションを出し手も受け手も整えることができなかったことである。

 トラップも後ろ向きでミスが多かったアーセナルの2列目に比べるとエバートンの攻撃陣は非常に精度が高い攻撃を見せた。苦しい試合をものにできる時のアーセナルは少ない攻撃機会を得点に結びつけることができるのだけど、その観点でもこの日はアーセナルよりエバートンに軍配が上がる試合と言えるだろう。リシャルリソン、グレイを筆頭にアーセナルの守備陣に対して最後まで前向きに立ち向かうことができていた。

 この日のアーセナルは非保持でも酷かった。特に2回目のオフサイドでのゴール取り消しのシーンでの守備。SBに寄せたものの選択肢を限定できなかったマルティネッリ、横へのパスを限定できなかったラカゼット、ボールの進む方向の予測に基づいて絞るのが遅れたウーデゴールと前線の守備が使い物にならなかったことが引き金。あとは晒されたトーマスが慌てて出ていったところを交わし、リシャルリソンにラストパスが送られた。オフサイドにかかるか否かはアーセナルからするとかなり運が関わるシーンだった。

 こういうパスワークを本当はアーセナルがやりたかったはずなのだけど、それをやられてあわや失点となっているのだからこの試合の出来は厳しいと言わざるを得ない。エバートンに勝つための準備はできず、彼らに自分たちがやりたかった形で苦しめられて負けてしまったのだから、アーセナルファンがこの内容に満足できていなかったのは無理もない話である。

 逆にまだ何も起きていないのに守備でトーマスが最終ラインに吸収されるせいで全体が下がる現象も頻発。献身的ではあるウーデゴールやラカゼットがバイタルを埋めることで助かるシーンが多いのは皮肉である。もちろん、その分ラインは下がってしまう。非保持におけるこの後ろ向きな方針もまた、アーセナルが重心を上げるのを妨げる重たいフタになってしまっていた。

 そんな後ろ向きなアーセナルを尻目にエバートンは後半に4-1-2-3にシフトチェンジ。プレスの噛み合わせを良好にし、ダイナモであるドゥクレを前に押し出すことで前進の際の迫力を増す。アーセナルのティアニー→タバレスの交代もこれに拍車をかけており、アンフィールドでアワアワしていたタバレスは同じマージーサイドのグディソンパークでも投入直後からプレスに苦しみアワアワしていた。

 結局はエバートンのこの前向きのスタンスが決勝点にも効いていたと思う。ゴメスの持ち運び、ドゥクレのフリーラン。グレイのスーパーゴールのお膳立てには2人のIHの黒子としての役割が欠かせなかった。

 決勝点のシーンで文句を言うならば、その直前のホワイトのクロス。せっかく、ボールを運びズレを作ることができるドリブルはできたのに、最後のクロスが数的不利なオーバメヤンに放ると言うのはあまりに乱暴。普通にサカかウーデゴールを使って前進して欲しかった。どうしてもクロスを上げるならば、せめてファーのエンケティアが間に合っている状況じゃないとダメだろう。

 ドリブルでタッチ数が多すぎて奪われてしまう場面もそうだが、ホワイトはうまいけども列を超えたあとの判断に難がある。その難が招いた2失点目のように思えてならない。

 エバートンは8試合の未勝利をここでストップ。アーセナルはユナイテッド戦の悪い流れを払拭できず、苦しい連敗となった。 

あとがき

■話は取り組んでから

 試合としてはエバートンもなかなか完成度の面で苦しんでいることがわかる内容だったのでまぁまかり間違えば勝てたのかもしれない。けども、それ以前にやるべきことをやらないのが不満である。CBからボールを運ぶことはできるはずだし、ラムズデールはビルドアップに組み込んでも問題ないほどの足元のスキルを有していることはすでに示している。

 なので、やってもらわないと困るのである。やった結果のミスなら仕方がない。けども、そもそも取り組んでくれないとどうしようもないのである。ラムズデールもホワイトも足元の技術は高い、ガブリエウも昨季よりも明らかに上達した。なのに、この試合で見られたビルドアップは昨季の悪い時にそっくりである。

 足元が上手いのとビルドアップの質が高いのは別の話。できるのだから資質をピッチ内でのプラスに還元しないと宝の持ち腐れである。後ろを向いて攻撃の機会を台無しにするアーセナルが見たいのではない、ファンは前を向いてボールを運び、相手陣への攻撃に果敢にトライするアーセナルを見たいのだ。

試合結果
2021.12.6
プレミアリーグ 第15節
エバートン 2-1 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:80′ リシャルリソン, 90+2′ グレイ
ARS:45+2′ ウーデゴール
主審:マイク・ディーン

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