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「前向きのベクトルは欲しい」~2021.11.23 UEFA Champions League GS 第5節 チェルシー×ユベントス レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■いつもと異なる内外の分担

 グループHの決着はほぼほぼついたといっていいだろう。グループステージの突破はユベントスがすでに確定。チェルシーもリーチをかけており、ここから他のチームの逆転突破はなかなかに現実的ではない。

 残る興味はELのノックアウトラウンドのプレーオフに進む3位争い。そして首位通過がユベントスとチェルシーのどちらになるかということだろう。

 そして、この試合は首位争いの主導権を奪い合う一戦。第1ラウンドはユベントスが1点差で制しており、引き分け以上であれば同勝ち点でも彼らが首位通過。逆に2点差以上の勝利となれば今節終了の時点で首位がチェルシーに入れ替わり、同勝ち点で順位が上になるのはチェルシーということになる。

 チェルシーは3-4-3、ユベントスは4-4-2のフォーメーションが多い今季。この試合でも数字の並びを聞かれたとしたら、自分はこのように答える。だが、両チームともちょっとずつ起用する選手の特性を活用する形でアレンジを加えていた。

 いつもと比べて大きな変化があったのはホームのチェルシーの方。特徴的だったのは右サイドのエリアの棲み分けである。右のシャドーに起用されたツィエクはボールを持っている局面でも持っていない局面においてもかなり中央に絞ったポジショニングをとる。守備においては中央に絞りながらCHの一角を監視するのがツィエクの役割である。

 その分、右サイドをカバーする役割を任されたのはCHのカンテ。絞る左のSHであるラビオとSBのサンドロをジェームズと分担しながら監視する形。定常的にツィエクよりも右側にカンテがいるというケースが非常に多かった。

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 おそらく、これはカンテの守備範囲の広さと押し引きのバランスの良さの判断を買ってのものだろう。守備はおいまわせるけども、飛び出しすぎることによるエラーがかなり少ないカンテの資質に右サイドを任せた形である。32分のラビオを突っついてのカンテのボール奪取はこの試合のチェルシーならではの守備と言えるシーン。

 人基準というよりはエリア分担の色が濃かったこの日のチェルシー。サンドロをカンテが追い回すというよりはいつもよりシャドーを内側、CHを外側に移動させてカンテの能力の分のカバー範囲を広げたという感じである。

■前向きのベクトルで難を隠す

 その分、シビアなかじ取りになるのが中央である。ジョルジーニョがポツンと1人になるのは本来であればなかなか苦しい。彼自身はそもそも守備範囲の狭さが課題の選手であり、カンテとのセット起用のメリットはジョルジーニョの守備範囲の狭さをカンテの守備範囲の広さで賄えるからである。

 だけども、この試合の位置関係を見るとカンテの守備の意識は中央よりもサイドに向いており、ジョルジーニョの周りをケアする意識はこれまでの試合に比べると少なかった。

 その分、ジョルジーニョの脇をケアしたのはCBの面々。彼らが一列上げて前向きのベクトルの守備を行うことで、ジョルジーニョの脇をカバーする。リスクもある守備ではあったが、この試合のユベントスのスタンスを見ればチェルシーのこの強気のスタイルも理解できる。

 この試合のユベントスはチェルシーとは異なりかなり守備の意識が後ろ向きだった。SHに起用されたのはMF色が強いラビオとマッケニーである。彼らの役割はリトリートしながら自陣を埋めること。右に起用されたマッケニーは右の大外レーンに下がり最終ラインと共に5バックを形成。ラビオはCHとフラットになるように3センターを形成する。

 こういう移動自体は珍しいものではないように思うのだけど、この試合のユベントスはとにかく後ろ向きの矢印を強く出していたのが特徴である。とにかく迅速にリトリート。相手の前進がまだでもリトリート。CBにはボールを持たせるのは当然。プレスラインを自陣のハーフコート側に設定するのも当たり前。FWの一角であるモラタは時折左のサイドの深い位置を埋めることもあり、5-4-1のような形でチェルシーの攻撃を受け止める機会が多かった。

 チェルシーが強気に出ることが出来たのはこのユベントスの後方第一主義ゆえである。チャロバーとリュディガーが持ち上がる余裕があり、彼らはロスト時に高い位置まで進出していることが多い。かつ、モラタが2列目まで下がることもザラなので、最前線に残るのはキエーザ1枚だけ。数の論理でいえば、チェルシーは2枚CBがいれば十分に対応できるだろう。1枚のCBがジョルジーニョの脇を埋めることは難しいことではなかった。

 プレミアにおいてチェルシー、リバプール、シティが猛威を振るっている理由は彼らが引いた相手を壊せる武器を持っているから。とりわけSBがその役割を果たすことが多い。彼らはDFラインを極端に低く下げた相手、言い換えればブロックの外からでも自分たちのクロスやシュートを容易く打つことが出来る相手にはめっぽう強い。

 ユベントスが挑んだのは壊せる相手に進んでラインを下げるチキンレースだった。中の圧縮についてはユベントスはさすがの精度。ボールホルダーの周りから圧縮をかけつつショートパスを受けられる場所を狭めながら迎え撃つことが出来ていた。チェルシーがCBの持ち上がりからチャンスメイクをしたり、ツィエク起点のコンビネーションからの打開を挑んでも中央からの攻撃は水際で止めることが出来た。

 問題は外側である。特に厄介だったのは右のWBのジェームズ。内は圧縮できても、前向きのベクトルがない分、外へとプレッシャーをかけるのは得意分野ではない。外から壊せる選手の存在はユベントスにとって非常にめんどくさい存在であった。

 PA内でのシーンが増えるゆえに事故ってしまう確率が高いのも専制ローライン型の弱い部分である。セットプレーからこぼれ球をチャロバーが押し込むというややアクシデンタルな形の失点も、押し込まれているから起こりうる部分でもある。

 そして、ビハインドになった時に戦い方を変えなければいけないのもローライン型の弱みであるといっていいだろう。だが、この試合はなかなかユベントスは攻撃に意識を切り替えることが出来ない。マッケニーはいつまでたっても自陣の深い位置を埋めたまま。攻勢に出る様子はない。1-0ならばまだ首位通過の可能性を残ることが出来るからだろうか。

 ユベントスがこの試合唯一といっていいチャンスはモラタの抜けだしにロカテッリが裏へのパスを合わせたシーン。チェルシーとしてはかなり迂闊な場面だった。ロカテッリをフリーにしてしまうというのは中盤の守備の受け渡しがうまくいかなかった証拠だろう。しかし、そんなロカテッリが前を向けるシーンはこの試合の中でも数えるほどだった。

 試合は後半早々にチェルシーが得点を重ねて決着を迎える。2,3点目はどちらも右の大外からジェームズがユベントスのゴールを射程圏内に入れたからこその得点である。

 3点取られたところからようやくプレスに出るユベントス。しかし、チェルシーの3枚のバックスの数的優位と中盤と前線のプレイヤーのビルドアップサポートにより、チェルシーは難なく前進。ユベントスのプレスは効果を発揮しないままズルズルと試合は進んでいく。

 ユベントスはカンテが負傷交代した分、チェルシーの右サイドをもう少し狙い目にできたはずだが、そのアクションも特にはなし。大人しく終盤を過ごしながら、仕上げとしてヴェルナーの4点目を食らうことになってしまう。

 試合は4-0とワンサイドで終了。実力差というよりは相手に対する前向きさが如実にスコアに現れた試合だったといえるだろう。

あとがき

■差を分けた前への意識

 ユベントスの絡めとるスタイルを否定するわけではないけども、さすがにもう少しラインを上げるアクションを増やさないと厳しいだろう。突破が決まっている+各ポジションに離脱している選手がいるという事情も当然分かるけども、リーグの成績を見ているともう少し何かが足りないのは事実だろう。ノックアウトラウンドで別の顔を見せてくれることを期待したい。

 チェルシーはこれで首位奪取。ユベントスに代わってグループHの主導権を握り返した。かなり無抵抗な相手にはこれだけやれるというのはこの試合だけでなく、今季何度も示してきた部分。この試合でも同じように外からローブロックを打ち破れることを証明して見せた。これで決勝トーナメント進出は正式決定。首位をキープし、優位な状態で連覇がかかるノックアウトラウンドに臨みたい。

試合結果
2021.11.23
UEFAチャンピオンズリーグ
Group H 第5節
チェルシー 4-0 ユベントス
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:25‘ チャロバー, 55’ ジェームズ, 58‘ ハドソン=オドイ, 90+5’ ヴェルナー
主審:スルジャン・ヨヴァノビッチ

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