スタメンはこちら。
レビュー
■縦並びの2トップの狙い
CLのグループステージの特徴は第3節と第4節がホームとアウェイを入れ替えた2連戦になっていること。スケジュール的に見ても、この2戦はインターナショナルブレイクを挟まずに2週間おきに行われるため、グループステージの中でも特に連戦感の強い並びになっている。
というわけで3戦目と4戦目は一連の流れになることが多い。2週間ではなかなかチームは新しいことに取り組めないし、大きな負傷をしている選手はこの2週間では帰ってこない。大幅な向上を見込むのは難しい。
2週間前の2チームの対戦の論点はどこだったか。ズバリ、チェルシーがマルメの5-3-2ブロックを壊せるか否かである。で、チェルシーは壊せてしまったのである。
したがって、この試合は普通にやればぶっ壊されてしまうチェルシーに対して、マルメがどのような振る舞いをするか?が最大の問題である。マルメは基本的には第3節と同じフォーメーションだった。唯一異なったのは明確に2トップを縦関係にすることである。
こうなることでなにが変わったか。イメージとしてはピッチの片側に相手を追い込むことが出来るという部分が大きかった。今まではCBにボールを持たせ放題だったマルメ。この試合でもプレッシャーはかけなかったが、ボールサイドに押し込むように内側から外に押し出す形でボールを誘導することが多かった。
マルメの2トップの前方の選手はバックラインにプレスをかけ、後ろの選手はCHにプレスをかける。ホルダーには自由はあるものの、安全な選択肢を奪われている状態を作る。横断で左右に振られることだけはどうしても避けたい!それがマルメの狙いだった。
この狙い通り、チェルシーは中央を使って相手を左右に振り回すという選択肢は取り上げられた。そのため、ジョルジーニョやロフタス=チークはやや仕事をするのが難しくなっていた。
だけども、これでお手上げなのだったらチェルシーは欧州王者になれていないだろう。チェルシーを自陣のサイドに押し込んでこようとしたマルメの狙いは半分だけは成功したが、もう半分はうまくいかなかった。
チェルシーはCHを活用することはできなかったが、奥行きを作って前進することはできていた。5-3-2の形を作るときに真っ先に数が合わなくなるのは大外である。加えて、この日のマルメは2トップが縦関係に並ぶ形で横断の阻害に集中。前線がボールサイドに流れてプレスをかけるのは通常の5-3-2よりも難しい。
ボールサイドのCBがしっかり持ち運びをする素振りを見せれば、同サイドのIHが動けなくなる。ドリブルは抜くためだけでなく、相手を動かさないためにも使える。なので相手に向かっていくドリブルも大事である。図でいうとリュディガー。
大外に2人、縦に並べる形になるとマルメは後手を踏むようになる。したがって、チェルシーは閉じ込められたサイドの先で前進するというところまではできていた。
構造的に前に進むことが出来たチェルシーだが、ライン間での受ける能力の高さを単純に生かす場面もあった。主役は1トップのハフェルツ。狭い隙間でも呼吸ができるスキルは一級品。相手の手の届かないところで受けるのがとにかくうまい。
ルカクやマウントなどレギュラー格の負傷やヴェルナーやツィエクなどプレータイムを得るのに苦しんでいる巡レギュラーを尻目に、ハフェルツは今季のチェルシーの前線の中で唯一コンスタントにプレータイムを得ることができている。万能性と器用さで相手を選ばないのも魅力である。
■過去比ではいけるが、チェルシー比では…
ただ、非保持の局面に限ればマルメが全然ダメだったか?といわれるとそういうわけでもない。左右に振られない!という半分の目標は達成しているし、左右に動かされない状況で縦に進まれたケースならば、どうしても出口はクロスになりやすい。
高さのないチェルシーの前線に攻撃の主体をハイクロスにさせることが出来ていたという意味では、マルメの守備は一定の成果があったといっていいだろう。
だけども、彼らには前に進む手段がなかった。深い位置まで押し下げられてしまうとそこから攻撃に転じる際に陣地回復をする必要がある。チョラクへのロングボールはそのための1つの手段だっただろうが、ここには全く持ってボールが収まらなかった。
したがって、マルメは反撃の手段をこしらえることが出来ない。前進という意味ではプレス意欲の高かったこの試合のチェルシーのWBが高い位置に出てきた際に裏に流れる選手を作ることで何とかなった場面はあったものの、そこから先の手段がない。
タメを作れる選手もいなければ高さやスピードで差を見せることが出来る選手もいない。そうなると、マルメの守備の成果である『同サイドには閉じ込められたけど、縦には進まれてしまう』という事象についての評価も変えなければいけなくなってしまう。
攻撃でタメを作れず、前進が難しいのならばショートカウンターを成功させなければいけない。ということはマルメの守備は『同サイドに閉じ込めて前にも進ませない』まで到達しなければいけなかったことになる。
好き放題やられていた第3節との比較という意味ならばマルメの守備は非常によくやっていたと思う。だけども、チェルシー相手に勝ち点をとるという部分から見た場合、マルメの攻撃陣のタレント性を加味してももっと守備において高いレベルを求めないと達成は難しいということになる。
互いに攻めあぐねつつ問題解決を狙う両チームだったが、解決策を見出したのはチェルシー。そして、主役は先に取り上げたハフェルツ。横のドリブルで対面の相手を止めて、裏のスペースをこじ開けることで先制点を演出する。これも相手を止めるための見事なドリブルだった。
マルメは終盤5-3-2に移行したチェルシーに対して攻めるチャンスが少しずつ出てくるが得点の匂いがするところまでは至らず。交代で入ったビルマンチェヴィッチはほんの少しアクセントにはなったが、それ以上にはならなかった。
1-0という結果を見れば前線のタレント性が勝負を分けた試合ともいえる。だけども、そもそも両チームが攻撃で抱える問題の重さが全然違ったので、そこの方が大きかった気がする。押し上げられなかったマルメに対して、仕上げを試行錯誤するだけでよかったチェルシー。かつ、タレント力も後者の方が上となればこの結果に帰結するのは必然といえるだろう。
あとがき
■首位奪還の機運は高まる
撤退型5-3-2に対して2試合連続で答えを出すことが出来たチェルシー。大外から圧をかけ続けて外から打ち抜いて見せた第3節と、よりミクロな解決策で高い移籍金をかけてタレントを取った正当性を示した第4節と切り口の違いもいい感じ。
おそらく80%くらいはグループステージの突破は見えてきた感触。次節は山場。最終節にゼニトにチャンスを与えないためにも、首位通過を引き寄せるためにも、同じ相手に二度やられないというプライドのためにも勝利は欲しいところだろう。からめとられた前節のリベンジにどのメンバーでどのように立ち向かうのかが今から楽しみだ。
試合結果
2021.11.2
UEFAチャンピオンズリーグ
Group H 第4節
マルメ 0-1 チェルシー
マルメ・ニュー・スタジアム
【得点者】
CHE:56′ ツィエク
主審:フェリックス・ブリヒ