これまでのはこっち。
FW
9 レアンドロ・ダミアン
寂しいが良き別れとなった
4月の札幌戦でおよそ8か月ぶりの実践復帰を果たしたダミアン。しかしながら、ブランクは非常に大きく、なかなかフィットネスが整わない時期が続くこととなった。シンプルに体の重さが抜けきるのには相当時間がかかり、1つ1つのプレーのシャープさを取り戻すまでにファンは辛抱強く待つ必要があった。夏にはライバルとなりうるゴミスの入団もあるなど、かなり激動のラストイヤーだったといえるだろう。
それでもシーズンが進むにつれてプレーは徐々にダミアンらしさを発揮。フィニッシュのフォームが整うのにはシーズン最終盤まで待つ必要があったが、後方のビルドアップ整備が進まない中でロングボールのターゲットになる選手が一番前にいてくれることは間違いなくありがたかった。
遊び心のあるポストプレーからのチャンスメイクでもにチームに貢献。こうした動きに対して呼応してくれる瀬川や宮代の存在はダミアンにとっては大きかった。一時期は遠野との連携もよかったし、近くでセカンドストライカー的にふるまえる選手と相性はいいのだろう。
復帰直後には「このフォームで戻ってこられるかな?」と思っていたが、蓋を開けてみれば最終的には山田や小林を追いやってのレギュラーに定着。後半戦はレアンドロ・ダミアンここにありという存在感をばっちり見せつけることができた。
まだまだいてほしい気持ちはあったが、一時期に比べると決定力の錆びつきが感じられなくもないというのが正直なところ。タイトルをとって惜しまれながらの退団という流れも含めて、ここでのお別れはお互いにとって幸せなのかもしれない。
ブラジル人にしては珍しくフィットに時間がかかったタイプではあったが、得点王とMVPにたどり着くことができたのは彼の才能と努力のたまものである。いたずらっぽい笑顔を懐かしく思う日々はまだまだ続くだろうが、またいつの日にか等々力に顔を見せてくれる日を待ちたいものである。
11 小林悠
研ぎ澄まされた瞬間の切れ味
リーグ戦での513分というプレータイムは加入した初年度に次ぐ少なさ。先発出場は全コンペティション合わせても9試合と今季はなかなか出場機会を得られずに苦しいシーズンとなった。
ダミアンの離脱とフィットの遅れによりあらゆる選手がCFを試されたシーズンだったが、小林はターゲット役としては衰えを露呈。ロングボールの送り先としてはさすがに厳しく、J1のCB相手となるとほとんどボールを収めることができなかった。
それでもラインの駆け引きをしながらゴールに迫っていくフェーズにおいてはそれなりにインパクトを見せたシーズンである。京都戦の劇的ゴールが一番の思い出になるだろうが、反撃の狼煙を挙げた福岡戦も捨てがたい。DFとの駆け引きで抜け出すアクションはこれが小林の生きる道という感じである。
いずれのゴールも、決め切れなかった決定機も相手を外してボックス内でフリーになる瞬間のアクションに関してはむしろこの年齢になって研ぎ澄まされているという風に感じるくらいである。そういう意味ではベテラン仕様にモデルチェンジしている感がある。本人はどう思っているかわからないけども。 押し込んだ時のジョーカーとしては十分に計算が立つだろう。
逆に、前進すら怪しい時においてはなかなかチームを牽引しにくいのも確か。ロングカウンターにおけるスプリントのところもなかなか往年のキレを見せることはできない。使い方は考える必要がある。プレッシングの舵取りなどの技術は錆びつく様子はないので、小林を使うときは自分たちのプレーエリアが敵陣中心になっているかどうかを精査する必要がある。
登里の退団を受けて改めて「川崎で引退したい」という思いを口にしてくれたのは素直にうれしい。自分は小林に関しては2016年のオフに残留を決意し、翌年にリーグ優勝をもたらしてくれた時点で、残ろうがいなくなろうが思うように生きてほしいという気持ちでしかない。
小林がまだ川崎でプレーしたいというのであれば、彼の気が済むまで川崎のユニフォームを着る機会を与えてあげてほしい。どこに行こうが彼の決断は応援するつもりであるが、いつかスパイクを脱ぐその瞬間に青黒のユニフォームを纏っていたのならば、また一段と思い入れがある選手になることは間違いないだろう。
17 遠野大弥
利き足を振りぬける状況をいかに作り出すか
なかなか持ち味を発揮しきれないシーズンが続いてしまっているなという印象である。開幕戦をスタメンで飾ったようにシーズンインは悪くはなかった。しかしながら、今季も確固たるレギュラーはつかめないまま1年間が終わってしまった。
ダミアンや小林といった選手たちの出遅れがわかっている時点で遠野に求められるのはIHからのパンチあるシュートをベースにしたスコアリング能力だろう。しかしながら、こうした部分は沈黙。むしろ、ターゲット役のFWがいないことで前の向き方がわからず、自らの持ち味が逆に消えてしまった印象だった。
かといって中盤の一角で使うとボールコントロール、パスの精度、そしてプレスといずれもレギュラーの選手に劣るというのは頭が痛い部分である。また、カウンター時の判断の部分も明確な向上があったかといわれると疑問符がつく。キャラクター的にはむしろこちらの方が火急で改善しなければいけない案件かもしれない。
こうした部分を完全に覆い隠す事ができるほど、フィニッシャーとしての機能を果たしているかといわれると、それは微妙。2023年の久しぶりのリーグ戦でのゴールを決めることができたが、コンスタントに活躍ができていたかといわれると迷いなく首を縦に振るのは難しい。
それでも年間を通して怪我無くプレーができる耐久性は大きな強み。公式戦の出場45試合はチームで3位タイ。彼より多くの試合に出ているのは山根と家長の2人だけである。丈夫さに関しては自信を持っていいポイントだ。
山本とゼ・ヒカルドの加入により来季は中盤の層が厚くなる。既存のシステムをベースに考えるのであれば、IHでカウントされているかどうかは怪しい。その分、チャンスがありそうなのはWGだろう。宮城の負傷の程度がわからないが、彼が出遅れるのであれば本職のライバルはマルシーニョ1人だけである。さらに大外を賄うことができる三浦がLSBに定着することができれば、WGにはよりインサイドでのプレーが求められる可能性もある。
そうなれば大外よりも遠野は得意な位置でのプレーとなるだろう。やはり、利き足を思いっきり振る状況をいかに作れるか。ポストプレーの落とし、こぼれ球などオフザボールを磨きながら、得点にこだわることで存在感をアピールする2024年にしたい。
18 バフェティンビ・ゴミス
ACLを左右する開幕時の仕上がり
鳴り物入りで入団した元フランス代表のFW。ド派手な見た目とは対照的に、多方面に気を遣う人格者、そしてめっちゃおしゃれというどう見ても周りを幸せな気持ちにしてきたんだろうなという陽キャである。
プレー個々のキレはそこまで悪くはないのだけども、川崎加入前にある程度ブランクがあったことと38歳という年齢からくる衰えからか60分以上のプレータイムは持たなそうというフィットネスであった。
それでもダミアンのフィットネス回復が遅れる川崎にとっては大きな戦力に。CFで相手のDFラインの位置が決まるあの感覚を思い出させてくれてありがとうという気持ちである。
ストライカーではあるが、独善的なプレーではなくチャンスメイカーとしても優秀。相手を背負いつつ、ダミアンよりも精度の高い足技で味方に柔らかくボールを落とすスキルは本物である。
非保持においてはプレスには出ていくことが少なく、中盤を消すことを優先する。中央を締める意識が高いのはダミアンとの大きな違いといっていいだろう。
流れの中での貢献度は高かった一方でゴールはなし。そこまでシュートの精度が明らかに湿っているとは思わないのだけども天皇杯では松本のファインセーブでヒーローになり損ね、ウイニングショットとなりうるPK戦でもミスなど流れがあまりにも悪い。
得点感覚とフィットネスがプレシーズンでどこまで整うのか。新戦力のエリソンは連携面で未知数の部分があるだけに、ゴミスにはACLで期待がかかる。半年の調整期間を経て2024年は開幕からフルパワーで暴れまわってほしい。あとあのゴールパフォーマンスを早く見たい。
20 山田新
猪突猛進モードとは異なる引き出しを作る
コロナ禍によるスクランブルな2022年のC大阪戦でのデビューを経て、ようやく本格的にプロ入りの初年度を迎えた山田。開幕2戦目となる鹿島戦では劇的な逆転勝利の足掛かりとなるなど、シーズン前半は順調だった。途中交代がメインではあったが、チームが攻撃の形を作れない状況の中、猪突猛進で敵陣に進撃していく形はゲームチェンジャーとしては非常に頼りになる存在であった。
しかしながら、シーズンが進んでいくにつれて徐々に課題も露呈。前半戦の川崎の試合終盤はほぼ例外なくオープンな展開であったが、先発の場合は立ち上がりからそういう流れになるとは限らない。背負っての反転や裏抜けなど突撃していくスタンスは立ち上がりからだとやや単調で味方との連携も甘くなってしまうこともしばしばであった。
非保持ではプレスで取り切りに行きすぎてしまう意識が強く、余計なファウルも少なくはない。さらにはセットプレーのストーン役としてもなかなかニアで跳ね返しに参加できず。CK時の守備においてもやや脆さを露呈した感のある初年度となった。
ダミアン、ゴミスがメンバー争いに参加してからはベンチにすら入れないこともしばしば。ターンオーバーとしてスポット的にリーグ戦で出場するなど、終盤の重要なゲームにはあまり絡めなかった。
逆に宮代の序列が上がったことから鑑みると、味方のフリーランやスペースメイクを生かしてプレーする部分で差がついたのだろう。背負う役としてはダミアンやゴミスの方がやれてしまうので、居場所を追いやられた格好となった。
ということで2024年の目標は明確である。オープンではない状況でもプレー時間を貰えるFWになること。ジョーカーとして十分に働けることはよくわかった。むしろ、そこができるのであれば大卒ルーキーとしてはノルマクリアといえるだろう。
だが、プレーモデルの中に自信を落とし込むというところではまだまだ向上の余地があるように見える。来季も川崎にはスペースを作ることができるそうなFWが何人かいる。彼らが作り出したスペースに飛び込めるかどうか。猪突猛進モードの初年度とは異なるスキルが求められる2年目になるだろう。
23 マルシーニョ
完結する裏抜けの重要さを再認識
今季は怪我での離脱が目立つ苦しいシーズンとなった。リーグ戦ではわずか1ゴール。離脱があったとは言え、昨シーズンの2桁ゴールに比べると明らかに寂しい数字であることは確かだ。
ダミアンほどではないにせよ、マルシーニョもコンディションが戻るまではブランクがあった印象。ボールタッチの部分は慣れるまで時間がかかったが、シンプルな裏走りという形は川崎の前線の攻撃には明らかに足りなかった部分。前線の裏抜けを生かすスキームはチーム側に足りておらず、独力でゴールまで向かうことができるマルシーニョの脚力は大いに助けになった。
少しに気になるのは来季以降も従来のプレースタイルを維持できるかどうか。少しずつ足のケガが増えているのは気になるところ。上がって下がってを何度もやってナンボというプレースタイルのため、瞬間的な加速と上下動の繰り返しが肉離れをまたしても誘発しなければいいのだろうけども。逆にそこさえ克服できれば、来季も重要な前進手段の一つとして十分に計算できるはずである。
対策を打つチームも増えてきた印象。対戦相手はこちらのサイドにいつもよりも守備的なSBを置くことで防衛策を張ってくることも珍しくはない。そういう意味ではある程度手の内がバレている選手ともいえる。天皇杯決勝でマルシーニョ対策っぽい土屋を柏がSBに入れてきたのに、メンバーに全く入っていなかったのは笑ってしまった。
守備においてはプレスの我慢は少し効いてくるようになった印象。同サイドを押し下げられるシチュエーションにおいては明らかにシーズン序盤よりもきっちりと戻ってスペースを埋める役割をこなしていた。この点は成長である。
なんだかんだ、2023年の川崎の総括は「マルシーニョとダミアンがあんまりそろわなかったね」になりつつある。もちろん、マルシーニョに頼りっきりではだめなのだが、この武器を有効活用するのは何ら問題ない。今年こそは健康で1年を過ごし、裏抜けの繰り返しで相手のSBの足に乳酸をためまくってやりたいところだ。
33 宮代大聖
無理は効かないがタスクワーカーとしては十分な活躍
リーグ戦では開幕戦からスタメンを奪取。だが、1トップとしては潰される場面が目立ち、なかなか機能しないまま終了。ダミアンとゴミスの復帰を待って、このポジションを明け渡すこととなってしまった。
2023年の川崎は後方からゲームメイクに挑んだ年ではあったが、結局のところ最終的には前線に時間を作ってもらう形に回帰。後ろからクリーンにつなぐことができれば宮代の1トップも充分に成立可能と思っていたのだけども、結局のところ今季の川崎はその領域までたどり着けなかった感がある。
山田とは生きるシチュエーションのイメージは真逆。宮代は攻撃のルートが見えてきている状態の方が得意で、山田は荒れ地をなりふり構わず進んでいく状況の方が得意。試合の展開がオープンでかつ川崎が明確な攻撃手段を持っていない前半戦の交代枠としては明らかに山田の方が適任。ダミアンorゴミスという相手のDFに強めの引力を働かせることができるFWを軸に据えてからは宮代の方がベター。ある意味当然の流れでもある。なんだかんだチームで2番目に得点は取っているし、期待されていた姿から考えるとそこそこのシーズンだったのではないだろうか。無理は効かなかったけども。
守備に関しては悪くはないのだが、戻りが甘かったり誘導が定まらなかったりなど、武器とまではなり切らなかったなという印象。この部分が明確な武器になれば、もう少し出番も多くもらえていた気がするが。
川崎のメンバー的には来季も後方から時間を前に送るようなアプローチが行われるかは個人的には怪しい部分があると思うので、海外に出ていくための実績を作りたいというのであれば、少し環境を変えてみるという今回のような決断もあり得るのだろう。来季川崎で続けても個人的には今以上のものをちょっと想像しにくい部分もあるのが正直なところ。俺は好きなタイプの選手なのだけども。何はともあれ、怪我には気をつけて頑張ってください。
これで2023年シーズンの川崎の記事は終わり!ようやく!良いお年を!