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レビュー
■現実路線で問いかけてくる
スティーブ・ブルースに代わりエディ・ハウが就任した新生ニューカッスル。前節のブレントフォード戦ではハウがコロナの陽性反応が出てしまったため、ベンチ入りを回避。エミレーツでのこの試合がベンチから指揮をとるデビュー戦となった。
ブレントフォード戦のニューカッスルに見られたのはポゼッション志向の高まり。全体で攻撃を組み立てながら、依存度が極端に高かったサン=マクシマンの負荷を下げるという方針。サウジアラビア資本を入れておいてサン=マクシマン頼り!というのは切ないので、この方針は理解できる部分である。本人も怪我が少ない選手ではないし。
だけども、ニューカッスルと対戦する側からするとロングカウンターからのサン=マクシマンの方がこわくない?と思ってしまうのも確かである。かつ、ニューカッスルの今の順位は最下位。リーグ唯一の未勝利ということで、目先の勝ち点をとにかく積んでいかなければいけない立場である。目指したいスタイルはあるが、現実としてどういう戦い方が今現在相手にとって嫌かも考えなければいけない。
ニューカッスルがアーセナルを前にした戦い方の決断は非常に現実に即したものだった。立ち上がりこそやや前から行く姿勢を見せたりしたが、彼らが見せた4-4-2ブロックはトップがラインを下げて、かつ2列目は自陣のスペースを埋めてという形である。
ニューカッスルのこの戦い方はアーセナルから見れば『ラインを下げた相手に何ができるか?』という問いかけをしているようであった。
マンチェスター・シティ、チェルシー、リバプールのいわゆる3強はもうただただラインを下げた90分間で守り切るのはとても難しいチームである。守る側からしてラインを下げた時に何が一番怖い部分か?というとブロックの外からのアプローチが直接ゴールに届く距離になるということである。攻撃側はミドルシュートだったり、クロスだったり、PA内に自らが入り込んだりなど後方の選手の攻撃の最終局面への参加がダイレクトかつ手軽にできる。
上に挙げたチームにはジェームズ、アレクサンダー=アーノルド、アロンソ、カンセロのようにタイプは違えどブロックの外や中に入り込んでの最終局面に関与できる選手。遠くからでも相手を打ち抜ける3ポイントシューター的な存在である。こういう選手がいればラインを下げ続ければOK!というわけには行かない。
今季ここまでのアーセナルはビルドアップで前進できなかったり、プレスが空転してしまったりなどの苦しみはあったが、ラインを下げた相手を崩し切らなければ!という状況は意外と問われていない。ニューカッスルの守備はこの部分への問いかけということになる。
■色を付ける両SB
ラインを下げた相手に対して難儀なのは中央のパスのスペースがないことである。序盤の攻撃でまず目についたのはウーデゴールがなかなか思ったように受けられないこと。トップ下のポジションでここ数試合使われていたラカゼットは右サイドに流れながら受ける意識が強かったが、ウーデゴールはライン間に止まりながら受けようとしていた。
だが、ウーデゴールは反転のタイミングでロストしたりあるいは次のパスがずれたりなど、相手を背負ってのパスを受けてからのプレーの精度に苦しんだ印象。立ち上がりはニューカッスルにまだプレスの意識があったため、ライン間で受けたところからスムーズな前進を決めて欲しかった。
時間が経つにつれてニューカッスルはライン間のスペースを狭めたのでい非常に難儀。ウーデゴールのパフォーマンスの問題もあるが、こうなってしまうとラカゼットでもライン間で受けるのは難しかったかもしれない。ウーデゴールは徐々に右サイドのブロックの外で受けるようになり、大外のサカや冨安を押し出す役割に専念するようになった。
ラインを下げたニューカッスルに対してはまずは大外を抉るような形で攻撃を行うアーセナル。キーになったのは両SB。左のタバレスは攻め上がりのタイミングで勝負。18分のシーンのように対面のフレイザーを自陣に引き寄せた状況で一気に攻め上がり、SBのクラフトの奥まで辿り着くという形。相手の陣形が整う前に一気に敵陣深くまで攻め込んでしまうパターンが彼の持ち味である。
逆サイドの冨安はボールと共に前進するスタンス。ホルダーに対して、1つ列を超えるような選択肢を提示し続けながらエリア内に迫っていくような形である。先に述べたように引いた相手をどうやって壊すか?についてはSBが非常に重要な役割を担うことが多いので、この試合の両SBのアプローチには満足。
特に冨安はこれまで以上に攻撃の色を意識的に強くした試合であり、試合の流れによって色を変えられるところは彼の賢さという長所に根ざした部分。PA内でのシュートも徐々に相手のゴールを脅かせる質のものに変わってきており、更なる成長が見込めるといっていいだろう。
■6人で分担する故の奥行き
両SBの積極的な攻撃参加以外にアーセナルが光を見出したのはサカに前を向かせる形である。ローラインで構えるニューカッスルのブロックに対しては1人あるいは2人抜かないとチャンスメイクができない状況。アーセナルがこの状況に立ち向かうならば、今ならばサカに前を向かせる形こそ最強!ということだろう。実際に相手の選手を剥がしながら独力でゴールに迫ることができたのはサカだった。
当たり前だが独力で剥がすことができる選手をサポートできれば尚良い攻撃の形が期待できる。パス交換で抜け出しながらゴールに迫ることができればニューカッスル側もラインが乱れながらの対応になり、より危うい状況でアーセナルのシュートを防がなければいけない状況になる。
サカがこの試合で見せたのは左サイドに流れながらスミス・ロウやタバレスと共にプレーすること。これまでは初期ポジションのサイドに傾倒することが多かったアーセナルの2列目だったが、この試合のサカは時折それにこだわらない形で攻撃に参加していた。
サカがサイドにこだわらずに攻撃に参加できた理由は2つある。1つはアーセナルが両SBを共に攻撃参加させることができるくらいラインを上げることができたから。アーセナルは5レーン色の強い攻撃が多く2-3-5と3-2-5の併用の形がベースになっているが、両SBが上がれば高い位置でプレーできる選手は1トップ+2列目の3人を合わせて計6人になる。
5レーンを6人で使うメリットは誰がどこに入るかという不確定要素を増やすことができることである。5人で5カ所を使うとなると、選手同士の入れ替わりが少なく、相手からすると誰が誰を見ればいいかを決めやすい。
6人以上で分担する場合は5レーンから抜ける動きが伴うため、前後も含めてどこまでついていくかという判断が守備側に増えることになる。攻める側はピッチの縦方向を使う攻めが使いやすくなる。
アーセナルの左サイドの攻撃がうまく行かない時のパターンとして、ティアニーがひたすら左サイドからクロスを上げまくるという状況が上げられるが、これも誰がどのレーンをどう使うかがバレている!という部分が大きいように思う。
タバレスはティアニーに比べて横移動の成分が大きく、守備側にとってはどこまでついていくかの判断の負荷が高い選手と言えるだろう。味方がどう動くかわからないような選手は相手からしても当然分かりにくい。このタバレスの資質がサカの攻撃の自由度が上がった2つ目の理由。横の移動が多い分、レーンの入れ替えが頻発し誰がどこに入るかのバリエーションが出てくるイメージである。
ティアニーに関しても能力を見れば別に大外専用機という感じはしないので、斜め方向の走り込みや他の選手とのレーンの入れ替えができれば左サイドの攻撃は問題なく循環するように思う。誰しもがタバレスほど自由に動く必要はないと思うけども。
話が逸れたが、この試合を分けたのは左サイドからのサカという攻撃のバリエーションをアーセナルは見出せたことが大きい。先制点のシーンはタバレスが中央に移動する分、サカが左サイドに流れた場面。上の図で指摘した奥行きを意識した大外とハーフスペースの崩しで左サイドからサカが抜け出すと、自らフィニッシュ。ファーサイドを撃ち抜く。
個人的にサカが出てきた当初に最も目についたスキルはボールの受け方の巧みさだったので、この得点は彼が出てきた当初のこの能力の高さを思い出すような懐かしいシーンだった。その後にクロスの精度などが磨かれた分、大外後ろ目のポジションで起用されることも多かったが、そうなるとサカ自身が最終ラインと駆け引きしながらボールを受ける場面は減ってしまう。なので、サカが高い位置でプレーできるメリットが引き出されたこのゴールは嬉しいものだった。
このゴールの前にスミス・ロウとオーバメヤンがシュートを外した決定機もサカが左サイドから抜け出している。アーセナルのチャンスは左サイドのサカから生み出される場面が多かった。
1点を取られてしまうとニューカッスルは引きっぱなしというわけには行かない。とりあえず引いておけ戦法!の弱いところはビハインドに陥った時にギアチェンジを強いられるところ。そして、その際にDFラインに不具合が生じやすいところである。
マルティネッリが最終ラインをぶっ壊した2点目を挙げることができたのも、1点リードという状況があったからこそだろう。オーバメヤンの引く動きと入れ替わるようにPAに侵入したマルティネッリへ冨安がロブ性のパスをピンポイントで合わせてのアシスト。見事なダメ押しゴールだった。オーバメヤンも黒子としての重要性を示した。いや、彼自身もゴールは決めて欲しいけどね。
ニューカッスルの撤退守備戦法に対してアーセナルからするともう一つ怖かったのはサン=マクシマンのカウンター。だが、これは冨安に加えてトーマス、ホワイトなどが早めに囲むことで加速する前にボールを刈り取る形で対処。ニューカッスルには勝てたけどサン=マクシマンには苦しんだというチームは結構見ているので、アーセナルはかなりうまくニューカッスルのカウンターに対応できたチームに分類できると思う。
やや引いた位置にロングボールの的として降りてくるジョエリントンに対してはトーマスが対処。攻撃面ではロコンガに比べると存在感はやや薄かったが、守備面では効いていたように思う。最終ラインのガブリエウ、ホワイトもラインアップした守備が光り、押し込んでの攻撃を続けるための下準備を整え続けた。
回数は少なかったものの、ニューカッスルが落ち着いてボールを持った際に前線に最も効果的なパスを出すことができるシェルビーをフリーにしてしまったのはアーセナルの守備で気になるところ。即時奪回以外のこの試合のアーセナルの守備はそこまでうまくいっていなかったように見えたのは改善していかなければいけない部分である。
とはいえ2点を守り切ってアーセナルは快勝。アンフィールドでの負けからうまくリカバリーを行うことができた。
あとがき
■先のフェーズに進めるのか?
『引いて守っておけばOK?』というニューカッスルの問いに対して、サカを中心に答えを出せたのはポジティブである。押し込んだ相手に対してキーマンになりうるSBも積極的な攻撃参加のスタンスだけでなく、数字としてアシストという結果を残せたので上々である。
それでいてアルテタから以下のような課題を指摘するコメントが出たのは興味深い。今までは比較的負けた試合や内容が乏しい試合でも意識的にチームに収穫はあったという発言をするイメージがあったので、チームが勝ちだけではない部分に目を向ける余裕が出てきた証左なのかもしれない。特にこの試合は大敗の後だったのでちょっと意外だった。
本当にチームとして先に進めているかどうかは遅かれ早かれすぐわかる。プレミアリーグはそれだけ厳しいコンペティションだからである。過密日程は年末年始だけでなく、ボクシングデー前に12月はミッドウィークのリーグ戦が2回。週1で戦えていたアーセナルはそのアドバンテージを失う日程に突入することになる。次のステップに進めているかどうかは否が応でもこの日程でバレることになるだろう。
試合結果
2021.11.27
プレミアリーグ 第13節
アーセナル 2-0 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:56′ サカ, 66′ マルティネッリ
主審:スチュアート・アットウェル