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レビュー
ライスとジョルジーニョを入れ替えた理由は?
中2日、しかも直近の試合はポルトガル遠征でのCL敗戦という心身に大きなダメージを負う一戦。ホームとは言え、ニューカッスル相手の一戦は肯定的には非常に厄介なものである。
しかしながら、そうした不安を払拭するように高い位置からのプレスに出ていくアーセナル。前の2枚となるハヴァーツ、ウーデゴールは積極的に深い位置を取るニューカッスルのCHに対して非常に厳しくプレッシャーをかけていく。
高い位置からのプレスに加えて、感じられたのは絶対に中盤より前で食い止めるという強い意識。ウーデゴールが早々に受けた警告はわずかに間に合わなかったが、そうしたアーセナル側の意識が色濃く反映されたシーンといいだろう。
ライスをIH、ジョルジーニョをアンカーという配分にしたのはおそらくこの高い位置からプレスをかけてボールを奪いきるというプランゆえだろう。IHにジョルジーニョをおいたリバプール戦は先制点以降、非常にコンパクトな4-4-2を敷いたが、この試合ではよりハイプレスからボールを奪うということを直接的にゴールに向かうプランとして位置付けていたように思う。
よって、この日のアーセナルは4-4-2の2トップと連動する形でライスが高い位置にプレスに出ていくことが非常に多かった。アーセナルがハイプレスで仕留める際に、いつも脱出しそうになるコースを封鎖するのはライスである。この日はそうしたプレッシングにおける前向きな役割を行いやすいポジションに置かれた。
もちろん、無理に出ていって後方を使われればまずいことにはなる。しかしながら、潰せてしまえば問題はない。アーセナルからすればハイプレスで潰し切ってしまおうというのが立ち上がりの算段だったのだろう。だからこそ、ウーデゴールが警告を受けたのである。
ならばとライスのいないアーセナルに人を集めるニューカッスル。しかしながら、ここも降りていくゴードンやマイリーに厳しくチェックをかけていくアーセナル。抜かりなさでこちらのサイドにも脱出口を与えない。
ボールを前に送るのが難しいのであれば、ハイプレスからリズムを掴もう!となるのはニューカッスルにとっては自然な流れである。しかしながら、アーセナルはこれも回避。特に外切りを仕掛けてくるアルミロンの外側のスペースから前進。SBとしての正立ち位置である大外になっていたキヴィオルがボールの逃がしどころになっていた。左右の揺さぶりによりハイプレスで仕留めきれなかったニューカッスルは中盤が晒される格好になる。
アーセナルの主な攻撃プランはハイプレスで相手を引っかけたところ、もしくは自陣でニューカッスルのハイプレスを回避したところから素早くライン間に縦パスを差し込んでのカウンター。ライス、ウーデゴール、ハヴァーツの3人はこのエリアを積極的に狙っており、縦パスからのポストであっという間にライン間にフリーマンを作り、ラストパスからのシュートのシチュエーションを作っていく。
この日はジョルジーニョがアンカーだからなのか、ウーデゴールのビルドアップのサポートの負荷が軽めだったのが特徴的。ホワイトも絞る機会がかなり少なかったように思うので、おそらくプランなのだろう。その分、ウーデゴールはアタッキングサードの仕事に専念していたように見えた。
ニューカッスルの保持に感じたギャップ
高い位置に出ていくためのどのプランもダメそうだったため、ひとまずはローブロックとロングカウンターにフォーカスすることにしたニューカッスル。10分過ぎから少しずつ自陣に引きこもるように。4-5ブロックをコンパクトに敷き。ライン間の圧縮を行っていく。いわば、ポルトが見せた方向性と一致する形である。
だが、こうした4-5-1ブロックはアンカーをどのように抑えるかが難しい。イサクのようなCFが下がってケアするのであれば、ロングカウンターの反撃の目はさらに薄くなってしまう。かといってIHやアンカーが抑えに出てきてしまうと、後方のスペース圧縮とはトレードオフである。
結局のところ、この試合ではそういった「出ていこうかな?やめておこうかな?」というニューカッスルのスタンスとジョルジーニョのわずかなスキを見逃さない精度はアーセナルにとって相性が抜群。ジョルジーニョはニューカッスルの中盤に対して駆け引きで優位に。ニューカッスルが後方にブロックを組んでなお、アーセナルはライン間にパスを差し込み、ウーデゴールやライスが前を向ける頻度をキープすることができた。
サイド攻撃も充実。特に右サイドはジョルジーニョのサポートのタスクが減った影響でホワイトもウーデゴールもサカへのサポートが手厚いものに。大外WGへのマークはきつかったが、周りに負荷を分散することでボックスへの侵入ができていた。
その流れでアーセナルは先制点をゲット。押し込む流れで増えたセットプレーからのガブリエウのシュートがオウンゴールを誘発。前半の内にリードを奪う。
リードするアーセナルは強気のスタンスを継続。ハイプレスの手を緩めずに引き続きニューカッスルのバックラインを追い込んでいく。すると、追加点はあっという間に。押し込むフェーズでフリーになったジョルジーニョから斜めに走りこんだマルティネッリのランでニューカッスルのDFを翻弄。ボットマンを巻き取り、シェアの役割が宙ぶらりんになったところに侵入したハヴァーツが追加点を仕留めた。まさしくジョルジーニョ起点の連携というゴールを演出したマルティネッリとハヴァーツには拍手を送りたい。
ニューカッスルはなかなか前半を通して苦戦を脱することができなかった。ギマランイスを解放することができれば、ここから大きい展開を見せることができるのは間違いない。降りてくる前線、IHがポストからギマランイスをフリーにすることでアルミロンへの縦パスが通り、ここから直線的にイサクまでつなごうとする場面は何回かあった。
ギマランイスをフリーにするかどうかは両チームにとっての大きなポイントだったのは間違いないだろう。アーセナルの2トップの管理からギマランイスが外れてしまったタイミングでサカがファウルで慌てて潰すといった39分のプレーからはアーセナルもこのポイントに重みを置いていることを読み取れる。
しかしながら、アーセナルからするとギマランイスからの縦パスがアルミロンに入った時点でイサクがフィニッシュに入る以外のルートはないので十分に先回りしての守備は可能。ニューカッスルはなかなかこの一本やりのルートからの解決策を見つけることができなかった。
個人的にギャップを感じたのはニューカッスルが保持時に3-2-5に変形することでゆったりと押し込むフェーズを狙っていたこと。もちろん、アーセナル相手に保持でリズムを変えたいというのであれば、そうした保持時のポジション取りも理解できる。
けども、かなりニューカッスルのフィニッシュ設計はライン間のアルミロンから縦に急ぐ形の方が多かった。このフィニッシュ設計は3-2-5に変形することとちょっとギャップがある感じがする。急ぐことを念頭に置くなら、例えばゴードンは外に張らずにアルミロンが盛ったタイミングでイサクと並んでボックスにガンガン入っていくとか、あとはギマランイスと同じ高さだったロングスタッフをマイリーと入れ替えて前に置き、ボックス内にガンガン突撃させていくみたいな形を組んでもよかったように思う。
基本的にはアーセナルが非常にソリッドな前半を過ごしたので、ニューカッスルにとっては難しかったというのは前提。そのうえでつなぐための布陣でつなぐハードさからのロングカウンターを選択していたという手段と目的の乖離を少し感じる前半だった。
ハイプレスから試合を決める流れを作る
後半もアーセナルはハイプレスでスタート。前半の流れのまま、後半も立ち上がりから押し切るスタンス。後半の早い時間に3点目を仕留めて、一気に試合を決めようというバーンリー戦と同じ流れだろう。
ニューカッスルもハイプレスでアーセナルを咎めに行くが、前半と同じくアルミロンの裏から運ばれてしまうことで今回も不発。ハイプレスをひっくり返す形でアーセナルはハヴァーツが抜け出す決定機を作り出す。
それでもニューカッスルは前半よりは後方のボール保持からの前進ができる場面が出てくるように。左サイドのゴードンを軸に攻撃を仕掛けていく。左の大外に陣取ったゴードンはアーセナルにとっては非常に厄介。ホワイトが苦戦する場面もあったが、サリバやジョルジーニョがカバーに入ることで事なきを得ていた。
ニューカッスルはやや左傾倒になっていたのが苦しいところ。アーセナルがゴードン対策をきっちり組んでいたので、逆サイドからも光があるといいのだが、そちらのサイドからアーセナルは明確な攻め手を作り出すことができなかった。
ニューカッスルが後半に攻められるようになったメカニズムはギマランイスをフリーで解放できる頻度が増えたことと直結している。だが、アーセナルはこれを逆手にとって3点目をゲット。ギマランイスへのパスをカットしたハヴァーツからカウンターを発動すると、サカが右サイドの角度のあるところからこれを仕留めて追加点。この試合で強調していたハイプレスからゴールを生み出す。闇雲に出ていくわけではなく、抑えているところを明確にしているからこそのゴール。前線の素晴らしい貢献が結果に結びついたシーンだった。
畳みかけるようにアーセナルは追加点。得点パターンとして確立されているセットプレーからキヴィオルが4点目を決めて試合としては決着する。
アーセナルは75分にエンケティア、ネルソン、スミス・ロウを投入し前線を総入れ替え。大量得点で終盤を迎える試合が増えてきた故にアーセナルで毎試合見られるようになった交代組のヘイルエンド3兄弟の品評会はこの試合でも見られることとなった。
正直、ハイプレスでのハメこみがうまくいかなかったのは仕方ないだろう。アーセナルのハイプレスをほぼ完ぺきにこなせるのはジェズス、ハヴァーツ、ウーデゴールまでだと思うので、その1人もいない状況ではプレスの精度はガクッと落ちる。4-0というスコアを考えても、無理に前に出ていくことを控えるという判断自体は仕方のない部分はある。
それでも失点シーンのようにサイドを素通りさせてしまったネルソンの守備は甘い。加えて、ポジトラからはもう少しエネルギーが欲しかったところ。スミス・ロウのボールタッチなど部分的にいいところは見えなくもなかったが、短い時間で攻撃のギアアップが図れることを証明できなかったのは不満が残る。前がかりになるニューカッスルという状況はポジトラからのギアアップを発揮できる環境だったと思うので、その部分のインパクトが薄かったのは率直に残念な気持ちもある。
あとがき
そもそもCL後の中2日というタフな状況でヘイルエンド3兄弟の出来について一喜一憂できる状況まで持って来た時点でアーセナルとしてはこの試合は大成功。タフな日程の中で自分たちの強みをきっちりと押し出してこじ開けるという内容も非常に地力を感じさせるものだった。
品評会の内容自体はあまり芳しいことばかりではなかったが、この会を開催できる頻度が上がっていることは前向きにとらえていいだろう。それ以前の時間帯で試合を決められているので、プレータイムという数字以上に主力は強度を調節しやすくなっているし、こういう状況が続けば若手が出てきにくいというアーセナルの今の環境は緩和の方向に向かいうる。主力のプレータイム管理はもちろん、ユースタレントの流出が続いている状況を抑止したり、怪我人を試運転から復帰できる状況を整えたりするためにも、品評会を開催できる余裕を持った試合展開は終盤戦に向けてなるべく増やしていきたいところである。
試合結果
2024.2.24
プレミアリーグ 第26節
アーセナル 4-1 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:18‘ ボットマン(OG), 24’ ハヴァーツ, 65‘ サカ, 69‘ キヴィオル
NEW:84‘ ウィロック
主審:ポール・ティアニー