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「点の移動速度勝負」~2021.10.12 カタールW杯アジア最終予選 第4節 日本×オーストラリア マッチレビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■IHに課されたタスク

 オマーンに続いてサウジアラビアにも敗戦。グループ上位2チームが順調に走っていることもあり、日本はW杯出場の道が徐々に狭くなっている感。2強の一角を直接切り崩すチャンスであるオーストラリア戦は是が非でも逃してはいけないチャンスである。

 出場停止で欠場していた伊東の復帰を除けば、日本のメンバー構成で変わったのはトップ下の鎌田とCHの柴崎を外して、田中と守田の川崎セットを組み込んだことである。ただ、前節もトップ下+CHの2枚でサウジアラビアのマンマークでの守備を行っていたので、守備の局面の形としてはあまり大きく変わらないかもしれない。前節は課題となった攻撃面での組み立ても含めてもどのようにサウジアラビア戦から修正したのかを見ていきたい。

 まず、目についたのは日本のWGの守備である。内に絞って外を切る形でのプレッシングで制限をかけていく。CBにはボールを持たせつつ、パスコースに立ち塞がる形。これはサイドの選手がシンプルに人についていく意識が強かったサウジアラビア戦とは明確に異なる部分だった。

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 日本の中盤がマンマークで相手を捕まえる原則なのはサウジアラビア戦と同じ。加えてWGの守備と連動して中盤3枚に課されたタスクは、WGの裏のスペースのカバーである。4-3-3の外切りの守り方において最も怖いのはWGの裏にいる相手のSBにボールを通されること。

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 ちなみにこのWG裏のスペースをインサイドハーフにカバーさせるやり方は川崎での頻出パターン。特に川崎でIHを務めることが多かった田中は懐かしい役割だった。中盤の3枚は並びの上ではアンカーが遠藤になることが多かったが、動きながら相手を捕まえるという意味では均質的な要素が強かった。入れ替わったとしても中盤中央のスペースを埋められるという意味ではその部分は織り込み済みだったかも知れない。

 トップ下がいないということでIHは攻撃面においては前線に出ていく必要がある。そうしなければPA内の枚数が足りなくなり大迫が孤立してしまう可能性がグッと高まる。それをサボることなく遂行したのが先制点の場面における田中碧。ベヒッチの対応の拙さが目立つ場面ではあったが、ゴール前では非常に落ち着いてボールをコントロールし、逆サイドにボールを撃ち抜いてみせた。川崎時代を彷彿とさせる過負荷な役割だったこの日のタスクだったが、早い時間に結果を出せたのは本人にとっては大きかったように思う。

■穴は届かないところに

 というわけでビハインドになったオーストラリア。とはいえ、オーストラリア的には日本のWGの裏にボールを届けてしまえば簡単に前進できる状況が整っていた。だけども、どうやらオーストラリアの守備陣にはWGの頭をロブパスで越すというプレーがレバートリーにない様子。4-3-3外切りプレス破りの定跡と言っていいWGの頭を越すパスをこの試合でオーストラリアはほぼ実践できていなかった。

 ただ、オーストラリアは何も用意していなかったわけではない。第3節のオマーン戦でも見られたが、彼らはビルドアップに仕掛けを持たせて相手を破壊する意識の強いチームである。ちょっとだけ彼らのオマーン戦のアプローチを復習する。

 日本も苦しんだオマーンだったが、オーストラリアはまずCHを自陣の深い位置に落とすことで、オマーンのIHを釣り出す。オーストラリアのWGは前線にとどまり、対面のオマーンのSBをピン留め。これにより、オマーンのIHとSBの距離が空く。これでSBがボールを持てるようになる。

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 オーストラリアの得点パターンの一つはサイドからのクロス。数的優位から空いている選手が積極的にクロスを上げる。この形でオマーンをノックアウトしたのが前節のオーストラリアだった。

 で、日本戦の話に戻ってくる。この試合のオーストラリアの用兵のポイントは左サイドハーフにWGであるメイビルではなく、MF色の強いムーイを最終予選で初めてスタメンに抜擢したこと。彼らの狙いは明確にここにあった。日本が起用してきた選手のキャラクター(鎌田、柴崎ではなく田中、守田)はオーストラリアの想定外だったかも知れないが、中盤がマンマークでくることはサウジアラビア戦を見れば簡単に予見できる。

 したがって、MFタスクができるムーイをサイドに置くことで中盤にアウトナンバーを作る。これがオーストラリアの狙いだったはずである。

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 オマーン戦もそうだけど、オーストラリアのビルドアップのアプローチは中継点を増やしながら壊すというアプローチ。オマーン戦は余計な点を1つ噛ませることで相手の陣形を引き伸ばした。日本戦は数の面で余計な点を1つ増やして相手の中盤のマンマークに迷いを与えたいというイメージである。

 というわけでCHが縦関係になりながら日本の中盤を引き出そうとするオーストラリア。だけども、この中盤数的優位創出作戦はうまくいなかった。彼らにとって邪魔だったのは日本のWGである。外切りで内側にプレスをかけることで日本の3トップの立ち位置は相対的に中になりやすい。したがって、中盤のプレスがズレた場合に前線がヘルプに行くのが容易になる。

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 縦横無尽に動くムーイの存在のおかげで案の定、日本はマンマークできっちりついて行ききれない場面はあった。でも受け渡しができるので特に困らない。そもそも、日本は南野と伊東がオーストラリアの横幅を制限しているので、オーストラリアは狭いグリッドの中でしか数的優位を得ることができない。グリッドが狭いほど受け渡しの移動距離が短くなるので、日本としてはマンマークを外されつつも受け渡しながら中盤中央でフリーマンを作らせない難易度が下がる。オーストラリアが中継点を増やすイメージならば、日本はエリアを狭くしつつ早く移動できる点(守田、田中)を入れて無効化するイメージ。

 先制したこともあってか、CFの大迫も中盤のカバーに参加する頻度が高かったのも大きかった。オーストラリアの狙いの一端である、中盤中央のマンマークを乱すという現象はピッチには現れてはいたが、かといって前を向ける選手ができるわけではないという状況に。

 日本のプレスにはWG裏という穴はあった。だけどもそこを使わせなければ問題ない。オーストラリアの狙いとは異なるところに穴を作ることで、日本はオーストラリアに機能的な前進をさせずに試合を進めることができた。もっと、ボイルが長友とのミスマッチで何かができれば違ったのかも知れないけども。

■急ぐか否かのジレンマ

 日本の保持は前節に比べれば落ち着いていたと言えるだろう。オーストラリアの4-4-2ブロックに対して、日本のアンカー脇にIHが降りてフラットな関係を作りながら攻撃を組み立てる。アンカー脇に降りるIHはどちらかといえば左が多かった。

 おそらく、左が降りることが多いのは全体のポジションのバランスによるものだろう。WGの南野が内に絞りライン間に入り込む機会が多く、SBの長友がその外を回って高い位置を取ることが多い。逆サイドは伊東が幅を取りがちなので、SBの酒井が攻め上がるのは長友に比べると控えめ。その分、IHが高い位置を取るためのスペースが空いていた。

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 攻撃においても比較的ポジションを入れ替えることが多かった日本の中盤だが、前半は田中碧が左を務めることが多かった。先制したこともあり、ゆっくり組み立てたい意思はバックパスを多めに指示する田中から読み取ることができた。やはり保持で休める時間を作れるならば休みたい。

 だけども、その意思とは裏腹に比較的急いで縦パスを入れるシーンもちらほら。ただ、ここの是非は難しいところ。何しろ、広いスペースでの機動力勝負ならば、この試合は圧倒的に日本に分がある。背負えない試合も珍しくなくなってきた大迫もこの試合では久しぶりに起点として機能していたし、南野や中盤の選手たちも体を入れ替えながらドリブルで前に運ぶことができていた。伊東のスピードは言わずもがなである。

 その上、日本はアタッキングサードにおける崩しの手段はあまり豊富だったとはいえない。ライン間に入る動きと大外での長友の連携を駆使する南野は前節よりは良かったが、他の武器が結局伊東のスピードになるならば、ブロック攻略よりももう少し手前のオーストラリアがラインをまだ高く設定している状況の方が攻め落としやすいと考えるのは自然だろう。

 休みながら保持をしたい、でもオーストラリア相手に点を取るには手早く動かした方がいい。急げば急ぐほど崩しやすいけど、急げば急ぐほど運動量の多いWGやIHに負荷がかかる。ゆっくり進んだり、あるいはブロックを崩したりする事があまり得意ではないことも相まって、日本はジレンマに悩まされている印象に見えた。

■畳めなかった風呂敷アゲイン

 サウジ戦のポイントになったのは個人的には店じまいのタイミングだと思っている。柴崎のマークが甘かった序盤戦は『頼むぜ柴崎岳作戦』はそれなりにうまくいっていたと思う。でも失点シーンの少し手前の場面から、明らかにプレスで狙い撃ちにされて孤立する場面が増えていた。森保さんの日本代表はここで作戦を切り上げるのが結構苦手だったりする。

 というわけでオーストラリア戦は盤面は違えど似た状況である。先制点はあるけど、1点差は怖い(サウジ戦は『引き分けでも悪くないけど、できれば勝ちたい』)。前半は守備はうまくいっているけど、WGの裏を使われたら怖い(サウジ戦は『柴崎が潰されたらどうしよう』)。という感じ。

 この試合の日本のポイントは点の動く速度をどこまで維持できるか?という話である。特にプレスにどこまで行くかの指揮権があるWGとそれに追従するIHはそこのコントロールがシビアになってくる。

 オーストラリアは22番のアーヴァインが非常に周りを気にするようになった。おそらく自分を経由してワンタッチで外に出す手段を探っていただろう。背中でマーカーを消す日本のWGのプレスを脱出するには角度を変える手段というのは非常に有効である。

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 加えて、オーストラリアのバックスはグラウンダーであればSBにボールを繋ぐことができる様子。特に南野のサイドの外消しの角度がズレることが増えたことで、オーストラリアは徐々に日本を引き出しての前進ができるようになる。

 南野や伊東としては、CHを経由して外に繋がれてはまずい。ということで前半は距離をとりながら対応していたCBへのプレスを強めるようになる。となると当然、後方はそのスペースを埋める頻度が多くなる。大迫が足を痛め気味になってなお伊東と南野は最終ライン深い位置までプレスをかけていたので、相当焦っていたのだろうなと思う。

 IHがWG裏を埋める機会が多い日本だったのだが、間に合わなければSBが出てくる決まりになっていたようである。失点につながるFKの場面もそうだった。南野が出て行ったら長友が出て行く。ただし、長友が出て行く条件は南野が越されてしまい、かつ守田のカバーが間に合わない場合のみ。となるとなかなかに判断の材料が多い。しかも、南野は深追いをしているため、物理的な距離も遠い。

 失点シーンにおいての長友の追い出しはほぼ無理筋だった。長友のインタビューを聞く限り、この試合での原則はCBのスライド(場面によっては非常に現実的な原則だと思う)による解決だったのかも知れないが、この場面では冨安が長友に追従せずにプレスに行かない判断をしても仕方ないと思う。遅れたプレスは重ねるほど傷口は大きくなる。

 というわけで深追いで南野が踏み込みまくったアクセルに、ついて行った長友と、ついていかなかった冨安でギャップが生まれてしまいそのスペースを使われて最後がファウルというのが失点の流れだろう。

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 ちなみに56分でも似たように南野の背中を使われるシーンがあったのだけど、この時はIHの守田のカバーが間に合っている。失点場面との差はアーヴァインをCFに受け渡せているか否か。失点場面では古橋がCBにさらに追い出しを図ったため、守田はアーヴァインについて行くしかなかった。56分の場面ではマーカーを大迫に受け渡せているからサイドのカバーに間に合っている。こうなると長友は飛び出してこないので少なくとも縦に穴が開くことはない。

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 さて、追い込まれてしまった日本。幸運だったのはオーストラリアが引き分けでよしという姿勢を見せなかったこと。大迫を失った日本にはもう前に進むための手段がひたすらアタッカーのスピードを生かした奥行きありきのやり方しか残っていなかったので、浅野の投入も彼らを生かせるパスを出す柴崎のリベンジ投入も理解できる。

 中盤はガバガバ。それも上等。オーストラリアに作られる決定機。それも織り込み済み。何しろ、それがこの日一番点が取れるやり方である。攻め込まれる頻度が多く、分が悪い賭けになった終盤の日本だったが、なんとかこの賭けに勝利。首の皮を繋いだ大きなオーストラリア戦の勝利となった。

試合結果
2021.10.12
カタールW杯アジア最終予選 第4節
日本 2-1 オーストラリア
埼玉スタジアム2002
【得点者】
JAP:8′ 田中碧, 86′ ベヒッチ(OG)
AUS:70′ フルスティッチ
主審:アブドゥラフマン・アルジャシム

10月雑観

■90分には足りていない

 結果は勝ちと負けという対照的なものにはなったが、日本がぶち当たりやすい問題はだいぶ見えてきた印象。プランAで前半は悪くない手応え。ただし、そのプランには当然相手からすると狙い目がある。そのうえ、そのプランはプレッシング強度に依存する場合が多く、強度が下がりやすい。

 例えば、今回は川崎のエッセンスを活用したIH過負荷のプランになっていたが、Jの川崎に比べるとアジアの日本はボールを持って休める頻度が少ない。従って、プレスを主体としたプランは長持ちしにくくなっている。この試合でもプレスは後半頭には怪しさを見せており、失点の前兆は十分にあったと捉えるべきだ。本戦ならば大会が進むごとの勤続疲労も懸念になる。

 この試合ではエンドプランがスピードスターによるカウンターの応酬なのだとしたら、川崎エッセンスの外切りが機能しなくなってから、締めのプランに繋ぐまでの空白の時間を埋められていない。これが最近の日本の問題だなと思う。ちなみに、この試合の締めのプランも点の移動速度を大事にしたもの。日本は点の位置勝負のオーストラリアを移動速度で振り切った感じである。

 おそらく、オーストラリアやサウジアラビアは世界基準で見ればその日本の怪しさを露呈させてから仕留めるまでの速度も、怪しさを露呈させる速度も比較的遅いように思う。本戦で手合わせする相手は日本の外切りプレスは前半のうちに対応されているはずだ。

 そういうわけでプランを次々盤面によって組み直して行く必要があるのが今の日本だ。この日見せた形一辺倒だけでは厳しいだろう。ちなみに浅野を筆頭にアタッカー陣は試合の閉じ方が下手だったので、エンドプランの中身にも改善の余地はありそう。他にできることといえば、保持の時間を増やすこと。休むことができれば体力消費が激しいプランは比較的延命しやすい。

 確かにオーストラリアは早く攻めたほうがいい相手だった。だけども、ゆったりと進むことをあえて選ばなかった!と言い張るには日本代表の保持はこれまでの積み上げがなさすぎる。保持の時間を増やすためのアプローチはもう少し欲しいところ。この日のスターターならそういう新しい引き出しのトライをしてみても面白いと思うのだけども。

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