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「エメリが負ったリスクがもたらしたもの」~2018.12.2 プレミアリーグ 第14節 アーセナル×トッテナム レビュー

プレビューも書いてるからそちらも参考に。

スタメンはこちら

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目次

【前半】
ハイプレスのための3バック 

 プレビューにも書いた通り、この試合のポイントは両チームが初動プレスを回避できるかどうか。アーセナル目線でいえば、トッテナムにはチェルシーを封殺した前線からの組織的なプレスがある。翻ってトッテナムの不安要素は最終ラインの足元の技術。

 それぞれの懸念がある中で、序盤の主導権を握ったのはアーセナル。とにかくこの日のアーセナルは人に強く当たるのが特徴。CBが大きく両サイドに開くいわゆる「観音開き」を使い、GKからつなぐ形で前進したいトッテナム。オーバメヤン、イウォビ、ムヒタリアンのトリオはCBにガンガンチェックに行く。オーバメヤンは時にGKまでプレスに行っていた。そしてトッテナムのSBにはアーセナルのWBが高い位置からあたる。DFラインだけでボール保持が安定しないのならば、MFが手伝いに行くのは当然の流れ。ただ、この日のアーセナルはここも一味違った。トレイラとジャカも含めてかなり前がかり。降りていくアリにもトレイラがとにかくついていき、高い位置でのボール奪取を目的とした動きを繰り返していた。そうなるとケインへのロングボールという手段が出てくるわけだが、これにもアーセナルは人で対抗。ケイン番を任されたムスタフィが前を向かせてボールをキープさせまいと積極的なマークを敢行する。
 
 簡単に言えばアーセナルのプレスの目的はとにかく人を捕まえる。そして、足元に不安のあるトッテナムのDFラインになるべく厳しい形でボールコントロールをせざるを得ない状況に追い込み、ショートカウンターから決定機を生み出そうというものだろう。そのためのオールコートマンツーマンの敢行。そのためにはトッテナムの前線の3枚に対して数を合わせる必要があるからこそ3バック。ムスタフィがケインにチャレンジしても、アリとソンをケアできる2枚は後ろに控えている。つまりはハイラインプレスを敢行するための3バックだ。WB裏にスペースがあっても走りこむ選手を捕まえておけば関係ないやんけ!みたいな。

【前半】-(2)
アーセナル的前半の影のMVP

 アーセナルはビルドアップも3-4-3の配置をそのまま使っていた。トッテナムの決まりごととしては、アーセナルのWBの撃退にSBが出ていかないこと。トッテナムはインサイドハーフがスライドしながらパスコースを切る動きで対応するという流れになっていた。エリクセンはやばいと思ったらベジェリンを捕まえに行く!っていう判断が割とできていたけど、シソコは上がっていくコラシナツどうしたらいいねん!って感じだった。たぶんあんまり決まってなかったんじゃないかな。ハンドでの先制点につながるFKを得た場面では、フリーのコラシナツに対して、シソコはSB?にマークするように指示出していたし。指示を出されていたオーリエは全然前に出てこなかったけども。

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 トッテナムのインサイドハーフがアーセナルのWBに気を取られているということは、アリが中盤のケアをしなければいけないということ。アーセナルの3枚のビルドアップに対しては、ケインとソンの2枚で見る形がメイン。アリはボールサイドのCHを気にしつつ、機を見て前線のプレスに参加しつつという形だった。アーセナルのCHには逆サイドのCHやダイアーが出て行って対応することで、少なくともアーセナルの中央からの侵攻は食い止めていた。特にエリクセンとダイアーはよく対応していたと思う。アーセナルはいつもよりも3バックの間隔を横に広げることで、数的不利のスパーズのプレス隊を振り回していた。

 というわけでアーセナルの攻めはシソコの対応が遅れがちな左サイドを使った形と、トッテナムのビルドアップミス起因のショートカウンターの2つがメインだった。特に素晴らしかったのはコラシナツ。フリーになっても局面を前に進められなければ意味がないけれども、この日のコラシナツにはそれができていた。裏や斜め方向へのパス、さらにはオフザボールでのフォローといい、この試合前半の隠れたMVPといっていいだろう。ヴェルトンゲンのハンドを誘発した場面もそうだし、19分のベジェリンのシュートがはばまれた場面もそう。オーバメヤンも上手くサイドによりながら、トッテナムの陣形をスライドさせて、エリア内のフリーになったファーサイドも利用する形だった。

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 この場面はダイアーがフォイスのカバーに入ってたので、中央のムヒタリアンも空いているというおいしいシーンだった。みんなオーバメヤンみてた。

リスクを負ったツケ

 先制点を挙げるまでの流れとしては完璧なアーセナル。しかし、このシステムは明白なリスクを背負っている。トッテナムの強みといえば、前線のユニットだろう。アーセナルのこの日のシステムはこの前線の3枚との同数でのマッチアップを受け入れることになる。ムスタフィはよくケインを抑えてはいたものの、マッチアップ完勝!とまではいかなかった。ケインがムスタフィとの競り合いを引き分けたセカンドボールをトッテナムの2列目やエリクセンが拾って前進!というのがトッテナムの攻めの形のメイン。特にソンの抜け出しには手を焼いていた。同点に追いついたダイアーのゴールを呼び込んだFKは、ソクラティスがソンを倒したところから。そして、トッテナムの2点目のシーン。ケインの背負ったポストから、追い越していくソンに見事な受渡し。アーセナルは人数はいたものの、後方からスピードに乗ったソンの抜け出しを許してしまった。バスケっぽいなって思った。ケインがセンターでソンがスコアラーでとかでああいう動きはよくある。私、ちなみに大学時代はバスケットボールサークルだったので、バスケをかじったことはある。

 逆転した後のトッテナムはアーセナルのWBを消しに来る。具体的にはボールサイドのインサイドハーフがアーセナルのWBを捕まえにくることが徹底された。トッテナムが4-2-3-1に変更した!って割とみんな言ってたけど、これは出て行ったインサイドハーフをサイドハーフと見立ててたってことなのかな?どちらのサイドもインサイドハーフがアーセナルのWBの迎撃をしていたので、4-3-3のままスライドを徹底しただけにも見えたけど。

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 とにかくこの変更に合わせて、アリはより積極的な前線でのプレス参加を行う。トッテナムも賭けに出た形だが、ハマれば懸案の後方からのビルドアップをしなくても、ショートカウンターで攻めに転じられるし、いいサイクルが続くと考えたのだろう。ただ、スパーズの中盤のスライドは逆サイドを明確に捨てた形。43分のシーンはプレスを脱出したボールを受けたイウォビから、トッテナムの選手のいない左サイドを攻略して生まれたシーン。オフサイドだったけど。

 第三者から見ればとても面白い前半だったはずだ。優位を示したアーセナルに手を打った上に限られたチャンスから逆転したスパーズ、それに殴り返せるところまで手段を見せることができたアーセナル。前半は1-2でアウェイのトッテナムリードで折り返す。

【後半】
求めるものは間と奥行き

 後半からアーセナルはラムジーとラカゼットを投入。シャドーの2人を下げて布陣も3-4-1-2っぽく変更。気になるのは布陣変更の理由ですよね。自分にも宿題っぽく課したツイートしたけども。

 アーセナルの前半を振り返ると、攻撃の狙いはフリーになりやすいWB主体でスタートし、トッテナムが可変式4-2-3-1で対応してきた後は逆サイドへの大きな展開でチャンスを作っていた。ラムジーは自らの投入の意図を「ライン間でプレイしてチームを前に引っ張ること。」と述べている。これはチームの狙いがサイドからトッテナムのMFの後方にシフトしたということではないか。そのため引いて受けてよし、裏にぬけて良しのラカゼットを投入。
同時に投入されたラムジーの役割はラカゼットが空けたスペースを使ってフリーランを行いDF-MF間を間延びさせること、そしてその広がったDF-MF間で後方からのパスを受けることではないか。ラムジーの方が交代した2人よりも、フリーランの質量が高く、ピッチのあらゆる部分で顔を出せると判断したのではないか。

 というわけでハーフタイムの2枚替えの狙いについての私の見解は

1. サイドではなく、裏に狙いをシフトさせる
2. フリーランに長けたラムジーの投入でトッテナムのDF-MF間を広げる
であると推察。

 トッテナムが前半の流れを継続するのならば、陣形は左右に可変しつつスライドする。当然スライドが間に合わなければ隙ができる。同点ゴールのシーンはまさにその典型でこのシーンはトッテナムの中盤のスライドが不十分でベジェリンにはプレッシャーがかからなかった。そしてこのシーンではラムジーは後方にフリーランし、アシストを決めている。余談だが、オーバメヤンはこの試合も含めて10本連続で枠内シュートを決めている。割と今季決定的なシュートを外しているイメージも多いオーバメヤンだが、常に難しいコースを狙っているからこそ枠外シュートorスーパーゴールみたいなになるのかなと思いを巡らせたくなるような素晴らしい同点ゴールだった。

 ラムジーはこの後もフォイスからボール奪取し、逆転ゴールのおぜん立てもこなしている。ハイリスクな2枚替えだったが、それに見合うリターンは手にすることができたといっていいだろう。逆にトッテナムは試合前の懸念が的中してしまう格好になった。

【後半】-(2)
怪我の功名?

 時間軸としては、逆転ゴールと前後するがトッテナムは61分にはダイアーを最終ラインに組み込んだ5-2-3にシフト。後方で人を捕まえやすくした。選手交代なしで素早くこういう修正ができる監督っていいよね。交代しないトッテナムとは対照的に3枚目のカードを切ったのはアーセナル。ムスタフィが負傷に伴いゲンドゥージと交代した。他のベンチメンバーを見てもCBタスクが可能な選手はいないし、致し方なしの4バック移行だったかもしれない。けがは仕方ないけど、その前に息が止まりそうになったパスミスをしたベジェリン、馬鹿野郎。
ゲンドゥージ投入でアーセナルは4-3-1-2の中盤ダイヤモンドに変化する。ネガティブなポイントは後方CB2枚の状態で、トッテナムの3トップを受け止める必要があるところ。ポジティブなポイントはインサイドハーフがエリア内に突撃しやすく、不確定要素を作り出しやすい部分だ。そして、アーセナルの4点目を生み出したのはまさしくこのポジティブな部分。ダイアーを出し抜いて、裏に抜けたのはトレイラ。元ストライカーということもあり、シュートまでの持っていき方も滑らかだった。嬉しい初ゴールはノースロンドンダービーの勝利を決定づける4点目。

 試合はこのまま終了し、アーセナルがノースロンドンダービーで勝利を飾った。

まとめ

 上位陣追走を阻まれる痛い1敗を喫したトッテナム。チェルシー、インテルとタフな連戦が続いたことでプレスは快勝したチェルシー戦よりも鳴りを潜めた印象だった。この時期のCLの後って難しいよね。もう2年前だけど。それでも限られたチャンスからリードを奪う試合運びのうまさは見せられた。ヒートアップしがちな試合の中で氷のような冷静さを持っていたエリクセンとケインはさすがであった。
 CBの序列はどうなっているんだろう。ヴェルトンゲンの負傷中にフォイスが台頭したみたいだけど復帰したし、何ならダビンソン・サンチェスが戻ってきたらどうなるんだろうとか。CBってそもそも過密でもそこまでローテーションはしないはずだけど、フォイスがCLに出れないのもあってメンバーぐるぐる回してる形だろうか。最適解をどのコンビにするのかは気になる。
選手層を考えると、2足のわらじで両方とも!っていうのはきつい気もするが、年明けにかけて各コンペティションの優先順位が定まってくれば、成績は安定して高く維持できそうな印象を受けた。

 アーセナルはまたしても逆転での勝利。ビック6相手に初めての勝利となったエメリは胸をなでおろしたことだろう。序盤の思い切ったプレスと後半の2枚替えでの戦略変更。カメレオンのように変化するアーセナルは間違いなくエメリが新たにもたらしてくれたものだ。リスキーな采配の賭けにとってポジティブなことの1つは、次の大胆な作戦をファンが許容しやすくなるということ。
 今節も上位チームは揃って勝ち点を挙げている。リバプールやマンチェスターシティはCLでも奮闘中にも関わらず、アーセナルより多く勝ち点を稼いでいる。現段階では彼らの方がアーセナルよりチーム力が高いのは認めざるを得ない。そんな中でエメリとアーセナルがチャレンジできない雰囲気がファンの中で蔓延すれば、アーセナルは悪循環に陥る可能性もある。トッテナム戦の勝利がエメリとアーセナルにもたらしたものは、アーセナルがさらなる高みに上るための次なるチャレンジの権利といえるのではないだろうか。

試合結果
プレミアリーグ 第14節
アーセナル4-2トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 9’(PK) 56’ オーバメヤン,74’ ラカゼット, 77’ トレイラ
TOT: 30’ ダイアー, 33’(PK) ケイン
主審:マイク・ディーン

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