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レビュー
■エネルギーが助けになる試合
川崎にとってはACLから続くリーグ5連戦の最後。FC東京にとっては1週間空いたリーグ戦でルヴァンカップに弾みをつけるための一戦となる。
立ち上がりから保持で時間を得たのは川崎の方だった。いつものお決まりの話なのだけど、4-3-3でスタートする川崎に対して、この日のFC東京のような4-4-2型の守備で向かい合う時に見るべきポイントは川崎のCB+アンカーの3枚をどのように監視するかである。中盤からヘルプにくるのか、受け渡すのか、それとも持たせる人を決めるのか?という感じ。
この日のFC東京は受け渡しが基本線ながらも、ボールを持つ川崎の選手に対しての対応を変えている感じ。車屋に対しては無理にプレスに行くことをせずに、ボールを受けるところをケア。ジェジエウに対してはディエゴ・オリベイラがパスコースを制限しながら寄せる。
ジェジエウに対しては内側を切りながら外の山根に出させるようなイメージで。こうすればアダイウトンもプレスのタイミングを探りやすい。ジェジエウのロストからアダイウトンが決定的なチャンスを迎えたシーンもオリベイラのプレスの誘導があってこそだ。
車屋に対しては場所を閉じることを優先することで、川崎を前進させない一方、ジェジエウに対しては選択肢と時間を奪いつつ、ボールを出させるところで自軍のプレスのスイッチとして活用しているように見受けられた。
2CBとアンカーとの対応方法を決めてしまうと4-4-2の後方は噛み合わせは気楽に考えられる。ダミアンだけ2人で見る形であとは目の前の相手を監視すれば収まりはいい。
ということで川崎側が保持の部分でズレを作らなければいけないターン。これまでだったらピッチを広く使いながら4枚で守る横幅を揺さぶるという手段が使えたが、サイド打破の強力なカードである三笘、どこでも+1になれる田中の移籍。そして左右への正確なサイドチェンジが可能なシミッチが不在ということで、このやり方を使うのは難しい。
そういう時に川崎が頼みの綱にしているのが家長。フリーマン化してピッチの低い位置まで降りてきて、中盤の数的均衡に風穴を空ける。これによって川崎はボールを落ち着かせて保持が出来るようにはなった。
しかし、ボールを落ち着いて持てることといい攻撃が出来ることは全く別である。家長が落ちてきて保持を安定させると、前線の選手がその分少なくなってしまい、アタッキングサードでの迫力が欠けてしまう。家長が自由に動き回る分、山根は右サイドの高い位置に積極的に顔を出してはいたが、サイドを破る決定打にはならない。
こういう後ろが重い状況でチームの手助けになっていたのはマルシーニョ。彼のいいところは有無を言わずに裏に走ってくれること。疲労困憊で足元でボールを受ける選手が多くいる試合においてはとにかく前線が裏に引っ張ってくれると非常に楽になることがある。
川崎にとってはこの試合はマルシーニョのエネルギーが助けになる展開だったと思う。ダミアンとマルシーニョのコンビである程度ラインを押し下げられたのは大きかった。課題のフィニッシュとラストパスというエリア内でのプレーでは輝けなかったけども。
■仕込みは上々だが
機会は少ないながらもFC東京の保持は割とうまくやれていたと思う。うまくいった最も大きい要因は川崎側のディエゴ・オリベイラへの対応が甘かったことだろう。そこまで低い位置まで降りてきたわけではなかったが、車屋もジェジエウもほぼついていかなかったので割と簡単にフリーになれていた。オリベイラのポストで起点を作れたことがFC東京の前進の頻度が少なくても押し込みながらボールを進められた理由となる。
ボールを供給するFC東京のバックラインへのプレスも不安定で、動きすぎてしまうマルシーニョとほぼ動かずに後ろを脇坂に任せていた家長の両WGを抱えていてはなかなか前線にプレスに行くことが出来なかった。
だが、その一方でFC東京にも課題が。この日の川崎のようなWGの相手には自軍のSBまで無事にボールが届けられてしまえば割と簡単にボールを運べてしまうのだが、そこに正確にボールを届けるスキルがない。
中央でオリベイラ、サイドでSBがボールを収められれば川崎としては相当困った展開になったはずだったのだが、FC東京がその手段を持っていないことは助かったといえるだろう。
そんな中でFC東京で輝いていたのは高萩。川崎は家長をフリーマン化することで数的優位を得てきたといったが、FC東京も高萩を左サイドに流すことで同じシステムを構築。定常的に左サイドで数的優位を作り出す。エリア内で向かうボールの供給は主にここからだった。
川崎の守備の部分で大きな貢献を果たしていたのは山根。オリベイラ以外、もう1人の前線で起点になりうる存在であるアダイウトンに厳しく当たることでここもサイドの起点を封じることになっていた。
その山根をしのぐ貢献度といってよかったのが橘田。左右のサイドやバックラインに空く穴をほぼ完ぺきに埋めて見せる活躍。もはやアンカーを任せられるとかではなくて、既にアンカーとしての資質でチームに上乗せをできるレベルになっている。
今季というかここ数シーズンの川崎はCBがチームの歪みのツケを払っていた感じだったが、この試合ではCBの2人が周りに助けられながら、なんとかFC東京に最後の一線を越えられないようにしていた。
田川やアダイウトンが決定機を決められなかったのもFC東京としては痛手。仕込みのところで不器用さは見せても、オリベイラのところまでボールを届けてPAまで迫ることはできていたから、仕上げが甘くなってしまったのは痛恨だった。
■ゴールにつながる3つの要因
この試合で両チームを通じて唯一仕込みから仕上げまでがうまくいったのが川崎の得点シーンだろう。ペナ角付近でボールを持ったマルシーニョからそれを追い越す登里が上げたクロスをダミアンが叩き込む。崩しからフィニッシュまで完璧なシーンだった。
実はその10分弱前の38分にも似たようなシーンがあった。けども、こちらは不発。このシーンとゴールのシーンの違いは大きく分けて3つあった。
1. ダミアンが直面する状況
38分のシーンでは守備に参加できていた田川だったが、ゴールシーンでは登里の攻め上がりに対して後手を踏んでしまった。そのため、サイドの守備には中村拓海と共に森重が引っ張り出された。
したがってダミアンが中で競りかける相手はオマリと長友になる。38分のシーンではクロスこそ上がらなかったが、上がったとしてもダミアンは森重とオマリに挟まれた形になっている。ゴールシーンにおいてはオマリとの駆け引きを制した感があったダミアンだったけど、38分のシーンでは同じようなクロスを上げられても2人のCBをいっぺんに出し抜くのは難しかったかもしれない。
2. 外の選手に対応するFC東京の選手の体勢
38分のシーンではマルシーニョが自身を追い込す登里にパスを出したところでつぶされて終わっている。ゴールシーンではこの時上げられなかったクロスをあげることが出来たことがポイントの1つとなる。
そのタイミングで着目したいのはマルシーニョ→登里にパスが出た時に、登里を監視する選手の体勢である。38分のシーンで対応した田川は登里が走っていくのに合わせてマルシーニョのパスの時点で並走を始めている。
その一方でゴールシーンで登里に対応した中村拓海は一瞬ではあるが、マルシーニョに対して正対で完全に体重がフラットになる瞬間があった。おそらく、マルシーニョが中へのカットインをチラつかせたからだろう。こうなると、後ろから最高速度でオーバーラップしてくる選手に対応するのは難しい。
中村にとってはそもそものマッチアップ相手がマルシーニョであったことや、田川が戻り切れていないことなど考える要素が多くなった分、判断が遅れてしまったかなという場面だったが、牽制しつつ外を使ったマルシーニョの勝ちだった。
3. 登里の攻めあがりのコース取り
38分のシーンではやや内側から追い越す形でマルシーニョより前に出ていった登里だったが、得点シーンではやや外に膨らむ形。本人もインタビューで『マルシーニョが内に入ると思ったから直前で進路を外に変えた』という旨の話をしている。
中村は外に膨らんだ分、登里に寄せ切ることが出来なかった。中村が判断が遅れてしまったというのはすでに説明した通りなのだけど、逆に登里は好判断でわずかなクロスを上げるスペースを作ったことになる。
まとめるとダミアンの中での駆け引き、中村を足止めしたマルシーニョ、そして登里のコース取りとゴールの流れに関わった選手がFC東京を上回ったからこそ得ることが出来た得点といえるだろう。
前半終了間際にビハインドになってしまったFC東京はハーフタイムに永井を投入。カウンターで直接最終ラインを壊すことが狙い。加えて、右に移動したディエゴ・オリベイラにクロスを上げて登里とのミスマッチを活用しようということだろう。前半のように左から作る形に加えて、雑に裏に蹴ってもOK!という状況がこれで完成する。
後半、プレスの強度を上げた川崎だったが、FC東京からボールを取り上げることが難しいのはなかなか変わらず。したがって、途中から現実路線にシフト。知念と家長の時間を作れるコンビを前線に置きつつ、サイドには守備で計算が立つ小林を投入。そして、谷口と山村を投入し最近はおなじみになりつつある『CB全部乗せ』で逃げ切りを図る。
雑なボールをCHの山村で回収しやすくすると、前線では知念と家長がボールをキープしつつ時計を進める。こういう鬼木監督の割り切り方と追加タイムの時計の進み方は褒めていい部分だ。
試合は川崎が逃げ切って終了。同カード史上初の5連勝で首位をキープすることに成功した。
あとがき
■起点がもう1つはほしい
攻撃機会と決定機が多かったのはFC東京だったが勝ちきれなかった。4-4-2でCHの対人で相手に主導権を渡さなかったのは大きなポジティブな要素ではある。だが、やはり保持の部分ではブラジル人選手たちに頼らなければ難しい。レアンドロの不在は大きなディスアドバンテージ。高萩が悪くなかったわけではないが、レアンドロにしかこなせない役割というものはある。
どちらかというとトーナメント向きなチームなのでルヴァンカップは期待できそうではあるのだけど、名古屋戦ではレアンドロ不在。ややパンチ力にかける前線に仕込みの部分から違いを見せられると面白いと思うんだけど。
■おつかれさま、ありがとうございました
よく勝ったに尽きる。勝てればなんでもいい!という試合できっちり勝つのは大事である。少々雑さはあるが、マルシーニョがもたらしてくれたものは大きいし、連戦が続く中で橘田や山根など存在感がもう一歩ました選手たちも頼もしいい。
中2日、中2日はただのレビュワーですらきついので、ACLから続く連戦を隔離の中で戦う選手たちのきつさといったらもう想像を絶するものだろう。コメントを見てみてもこれまでとは違う次元で疲労を表現している選手が多い。ひとまずゆっくり休んでください。
そしてクラシコと同日に開催した挙式は無事終わりました。クラシコの勝利も相まって素敵な一日になりました。多くの人からお祝いやコメントをいただいたので、ここで改めて感謝を述べさせていただきます。ありがとうございました。
今日のオススメ
左右で穴を空いた所を埋めまくる橘田。ダブルボランチにしなくてはいけない時間があそこまで遅く出来たのは彼のおかげ。
試合結果
2021.10.2
明治安田生命 J1リーグ 第31節
川崎フロンターレ 1-0 FC東京
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:45+1′ レアンドロ・ダミアン
主審:山本雄大