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「捨てる場所あれば、閉じる場所あり」~2021.9.29 UEFA Champions League GS 第2節 ユベントス×チェルシー レビュー

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■コバチッチを捨てた理由

 2強2弱と目されているグループHだが、その2強は今季ここまで明暗が分かれている印象。チェルシーは週末こそシティとの一戦に敗れたが、ここまでの道のりは順調。トッテナム、アーセナル等には格の違いを見せつけ、リバプール相手には10人で45分を凌ぎ切ってアンフィールドから勝ち点1を持ち帰った。内容的にも上々のスタートと言っていいだろう。

 一方のユベントスは開幕から苦戦が続いている。スペツィア戦でようやく初勝利を挙げたものの、リーグ戦では未勝利が続く大苦戦。アッレグリとの再会とロナウドとの別れという二つの大きな決断を下したクラブはリーグ戦で思うような結果を残せていない。

 そんな力関係もあり、試合の多くはチェルシーの保持の局面で進むことになる。シティ戦ではカウンター仕様の5-3-2を繰り出したが、おそらくあれは対策なのだろう。このゲームでは3-4-3の通常運転に戻した。

 まず、目を引いたのはユベントスの非保持の対応だ。一般的なチェルシー対策のやり方のスタート地点でCHにどのように時間を与えないかである。ジョルジーニョ、コバチッチを囲い込みながらまずはここの供給元を封鎖するというのが第一の方針になることが多い。

 立ち上がりのユベントスの基本的なフォーメーションは4-5-1。アンカーのジョルジーニョに対してトップに入ったベルナルデスキを当てる。ここまでは普通。ユベントスが他のチームと異なったのはもう1人のボール運びのキーマンであるコバチッチを放置していること。

 というわけでユベントスにとっては第一の方針で警戒する場所が他のチームと違うということだろう。ユベントスの狙いを考えるために、まずはもう少し他の現象も組み合わせて深掘りしていきたい。

 この試合のチェルシーの保持局面においてライン間の移動が多かったのはツィエク。2列目から降りてユベントスのMFの手前側でボールを受ける機会が多かった。この動きに関してもユベントスはスルー。完全に放置していたといっていいだろう。

 もう一つ考えたいのはコバチッチとジョルジーニョのキャラクターの違いである。コバチッチの最大の特徴はボールを運びながらスペースを創出し、そのスペースにボールを差し込むこと。対してジョルジーニョはよりミクロなスペースに正確なタイミングでボールを届けることに特化した選手。職人気質の選手と言っていいだろう。コバチッチは相手を動かしながら穴を作るのに対して、ジョルジーニョは他の人ならば通せない場所を穴にしてしまう選手である。

 コバチッチや降りていく選手を放置するということから考えると、ユベントスが最も避けたかったことは、チェルシーに動かされて穴を開けることということだろう。自分たちが想定する範囲でリスクを管理したいということ。手前のスペースで持たれる分にはOK。そりゃなるべく高い位置でボールを取りたいけどもそこは捨てる。動かされないように動かすのがコバチッチや動き回るツィエクも捨てる。でも、自分たちの気づけないようなナローな隙間を通せるジョルジーニョには人を当てる。それがユベントスの大枠の方針だろう。

 特にコバチッチに関しては彼によって中盤の腰を浮かされる場面を作られて攻略されてしまうチームを数多く見てきたので、こういうやり方もありだなという納得感があった。浮かされるくらいならば、動かない。それがユベントスの流儀ということだろう。

■サボりではなく前残し

 そうなった時にチェルシーで深さを作るのはルカクの役割である。彼によってラインを下げることができればライン間に選手が入り込むスペースができてしまう。

 だが、ここはデ・リフトとボヌッチが気合で完封。フィジカルで圧倒したというよりは、自分よりもパワーもスピードもある相手とわかっている一歩引いた対応が上手だった。特にボヌッチ。アスリート能力で上回られることに関してはもう慣れているんだろうなという感想。この試合のルカクのプレー範囲ならば、話すところや寄せるタイミングを自分の手のひらの中で制御できるという考えだったのだろう。特にルカクが裏を取ろうとした時のブロックのうまさは目を引いた。

 チェルシーが狙った通りに相手を動かせたのは25分に右サイドからハフェルツの侵入が成功した場面だろうか。この場面はDFが動いた分、中盤にポッカリと穴が空いた感じ。ハフェルツ、こういうスペースを見逃さないのはえらい。とてもハフェルツらしい侵入。

 チェルシーからすれば列移動の名手のマウントがいなかったのが痛かった。チェルシーの3-2-5に弱みがあるとすれば、旋回がないことである。ここはシティとの明確な違い。昨季のトゥヘル就任後のヴェルナー、ハフェルツ、マウントのコンビの時はもう少しアタッカーがレーンを越えながらの移動が多かったように思うのだけど、ルカクを中央においてからはそれぞれの持ち場で変化をつけていくイメージにしふとしている。もちろん、それで違いをつけられるから強いんだけど。

 チェルシーが恒常的にこの試合でスペースを作れたのは左サイドだろうか。WBのマルコス・アロンソのところでダニーロを引っ張り、そのスペースにツィエクが流れて最終ラインを動かす。だが、そこからの攻略のスピードアップができないチェルシー。穴は開けられたけど、そこから先に進むことができない。

 ユベントスは時間帯に応じて守備を細かく修正。まずはキエーザをトップに回せばチェルシーのバックスを1人で破壊できるということでキエーザを前残りさせる4-4-2に変形。実直にアンカーをマークしているベルナルデスキに比べれば、意図的に前に残るキエーザという関係なので2トップは縦関係といってもいいかもしれない。

 キエーザがイタリア人だなと思うのは、サボるスイッチと埋めるスイッチを使い分けるところ。まずは規定している守備のルールを成り立たせることが優先。アドリブ的に後方の選手が前に出て行った時はスペースを埋めるために最終ライン付近まで戻る。エゴで前に残っているのではなく、仕組みとして前に残っているのだなという風な感想を持った。

 そのキエーザが殊勲の先制弾を決めたところも含めて、前に残るように調整していったアッレグリの手腕が光る部分である。正直、定点攻撃でユベントスが点を取れる感じはしなかった。ベンタンクールが下がっての3バック化を伴いつつ、SBをチェルシーのWBに食いつかせるところまではできていたけども、そこから先にスピーディーに攻め込むところまでは行っていなかった。やはり、この試合のユベントスの見所は守備の局面だろう。

 そこからはクアドラードを低い位置まで下げることで最終ラインを5バック気味に変形。5-3-2の形で斜め方向の中央に刺すパスを牽制しつつ、先に挙げたマルコス・アロンソがらみのズレが発生しないように調整をかける。中央もサイドもできるラビオと、前も後ろもできるクアドラードのおかげでメンバーを変えずにフォーメーションを変えられるのは大きい。

 チェルシーは後半にリーグ戦での出場機会が少ない選手を次々と投入。一番わかりやすかったのはハドソン=オドイだろうか。5-3-2は比較的外にスペースを残しているチームなので、右のWBにおけるタイマンの状況は作りやすい。ここからのクロスでルカク!という得点パターンも十分にありえた。ここはユベントスが入らないように祈らなくてはいけなかった部分である。

 結局ユベントスの祈りは通じて、1-0での逃げ切りに成功。ハンマーで相手を壊しかける終盤には得点のチャンスはあったが、相手を動かしながら壊すという意味ではユベントスがチェルシーの一枚上を行った試合だった。

試合結果
2021.9.29
UEFAチャンピオンズリーグ
Group H 第2節
ユベントス 1-0 チェルシー 
ユベントス・スタジアム
【得点者】
JUV:46′ キエーザ
主審:ヘスス・ヒル・マンサーノ

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