MENU
カテゴリー

「外れ値の逆境」~2024.4.3 J1 第6節 横浜F・マリノス×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

あわせて読みたい
「オープンさの恩恵を独り占め」~2024.4.3 J1 第6節 横浜F・マリノス×川崎フロンターレ プレビュー 【Fixture】 明治安田 J1リーグ 第6節2024.4.3横浜F・マリノス(11位/2勝0分2敗/勝ち点6/得点6/失点6)×川崎フロンターレ(10位/2勝0分3敗/勝ち点6/得点10/失点9)@日産ス...
目次

レビュー

天候と上島に狂わされたプラン

 共に順位は2桁。浮上のきっかけを掴むためにもローカルダービーを蹴落として浮上したい両チーム。試合開始直後に見られた宮市のドリブルはチームとしても個人としても「こんなもんじゃない!」という現状への打開への意志が見えたプレーだった。

 この試合の内容について話す前に前提として触れておきたいのは日産の芝が雨によってやられてしまっていたこと。ピッチはかなりダメージを受けており、特にショートパスの転がりはいつもと異なる状況。

 そういう意味でリスクをあまり負わなかったのは川崎。バックラインからの繋ぎは基本的にはスルー。前線へのハイボールを軸に前線に当てる形が基本となる。自陣からの繋ぎで相手のFW-MFのスペースを駆け引きで壊すトライはほぼなかった。

 例外的に刺すようなパスをトライしたのは16分のソンリョンの遠野へのフィードなど。このシーンはシンプルに素晴らしいフィードだったのでいつでもできるようにして欲しいところ。このシーンでソンリョンがチャレンジングなパスを行うことができたのは受け手の遠野が完全にフリーな状態だったからだろう。

 川崎がこうしたパスにチャレンジできていたのは受け手が完全にフリーかもしくは明らかに次の一手のパスが周りに用意されている時くらい。横浜FMのプレスに真っ向から向き合うことはせず、ロングキックでのプレス回避を行うのがこの日の川崎の基本的なスタンスだった。

 むしろ川崎がリスクを負っていたのはプレッシングの方。FC東京との試合で見られたのは4-4-2でコンパクトなミドルプレスだったが、同じ陣形で挑んだ横浜FM戦では布陣は同じでもミドルプレスは跡形もなく、トランジッション上等のハイプレスを打ちまくっていた。

 おそらく、芝の状態的にショートパスは繋がらないだろうと判断し、さらにはそれでも横浜FMは繋いでくるという算段が川崎の中にはあったのだろう。実際のところ、そのイメージ当たっていたように思う。立ち上がりの3分の外切りのプレスから家長が畠中のミスを誘ってカウンターを受けるなど、横浜FMは危うい立ち上がりを見せた。

 攻守に芝のことを考えて無理をしないというリスクヘッジで試合をスタートさせた川崎。ここ数試合のトライの文脈とは明らかに異なってはいたが、川崎はより環境に適応することを優先したプランでこの試合に臨む。

 立ち上がりは感触が良かった川崎だったが、徐々に試合は横浜FMペースに移行。こうなったのにはいくつか理由がある。まず挙げておきたいのはエリソンが長いボールのターゲットとして思ったよりも機能しなかったことだろう。対面する上島はエリソンにボールを収めさせないばかりか、ボールを奪ってカウンターの起点にするシーンもあった。

 先述した通り、川崎にとってエリソンへのロングボールは本来であれば保険と言うべき確実に計算したい前進手段である。これが機能しなかったことにより、川崎はボールの逃しどころを失ってしまった感がある。上島のパフォーマンスは川崎のプランを個人で狂わせる素晴らしいものだった。ラインコントロールやビルドアップで存在感を示した畠中ともどもこの日の横浜FMのベストプレイヤーだったと思う。

 また、立ち上がりは多少プレッシングが機能していた川崎だが、こちらも横浜FMのプレス回避が徐々に抵抗に成功。外からパスコースを切るWGを越される形でプレスに来る川崎の前線に対して、選択肢を突きつけながら前進する。

 川崎のプレスで特に気になったのは脇坂と遠野のところ。インサイドで脇坂がパスコースを切れていないのに外から遠野がプレスをかけてしまう。インサイドへのパスコースを切れてこその外切りなので、その前提が成立しない状態での外切りは単に内も外も開けてしまうだけ。そう言う意味では脇坂と遠野の連携がイマイチであった。

 他にも畠中の列上げや喜田のターンからの展開など保持におけるポゼッションは上々。FC東京戦よりもリスクをとって高い位置からプレーした川崎のプレスは明らかに空転が目立つこととなった。

 オープンな状態でボールを持つ状態になった横浜FMはサイドの裏を狙いつつファストブレイクに移行。二人称でのポケット攻略に対しては瀬古と橘田が潰す(多摩川クラシコの守備の名残が残っている場面だ)ことで対抗。よって、横浜FMは完全にサイドを抜け切る形を作れればチャンスになる。

 中でも右のエウベルに対しては川崎は高井と三浦がギリギリの対応を強いられ続ける。エウベルの存在は非常に厄介。一度ここに預けることができれば、川崎の守備の布陣は広がるのでインサイドも活用しやすくなる。仕組みで言えば川崎における家長と一緒なのだけども、横浜FMの方がエウベルの引力を活用して次の展開にうまく移行していた印象である。

 こうした流れの中での展開以上に川崎の対応が不味かったのはセットプレー。押し込まれることで受ける頻度が増えるCKはほとんど横浜FMの選手が先に触ることを阻害することができず。ゴールを掠める場面も多く、クロスバーやソンリョンに救われる場面も少なくはなかった。

 エリソンへのロングボールとプレスを外しての前進。これに加えて、ポープの素早いリスタートも川崎の守備を素早く壊すための手段として君臨し、押し込む機会を増やしてセットプレーから決定機を作った横浜FM。時間の経過とともに主導権を握ったホームチームが決定機を沈められなかったため、川崎はなんとかスコアレスでハーフタイムを迎えることが出来たという印象だ。

局面での反撃が逆噴射に

 後半も川崎はまったりとハイプレスを継続。46分に横浜FMは見事にこれをいなす。三浦がプレスに出ていく背後を瀬古がカバーするという一連の動きは多摩川クラシコでも見られたものだったが、瀬古に管理されていた渡辺が止まることで簡単にフリーになる。

 このように相手のベクトルを見ての動き直しができるか否かがFC東京と違うところ。そもそも、ハイプレスに出ていく頻度が異なっていたという前提はあるが、先に挙げた瀬古のように自分たちが出した矢印を活用されたケースは横浜FMの方が圧倒的に多かった。

 クラシコの前の福岡戦を見る限り、こうした相手のベクトルの動きにはFC東京はそもそも無頓着なのだろうと思う。横浜FMはそうではないので、川崎のプレッシングが通用しないのは必然である。

 そういう意味では通用しなくなっていたハイプレスを取り止められなかったのが横浜FMの前進に歯止めをかけられなかった大きな要因。多摩川クラシコのミドルゾーンで我慢しながら4-4-2モードに移行できれば、また展開は違ったように思える。

 それでも局面でのプレーの精度が上がった分、川崎は前半よりも戦況は持ち直した。54分のエリソンの決定機を生み出した遠野の判断、佐々木のキャリー、脇坂のターン、家長のキープなどボールを奪った後のプレーの精度が改善したことで横浜FM相手に攻め立てる形を作っていく。

 盤面は変えることが出来ない川崎だが、局面でのキレを上げて行くことで対抗する。その最たる武器が後半から足を残したマルシーニョの投入だった。直後に佐々木のドライブから決定機を生み出すなど、早速その抜け出しからチャンスメイクを見せる。

 しかしながら、結果的に川崎はマルシーニョの投入が見事に逆噴射。サイドの深い位置を埋めにいったマルシーニョが松原へのタックルで一発退場。これで川崎は10人となる。

 横浜FMは加藤を投入した右サイドから攻撃を構築。エウベルが負傷交代してからはさらにこちらのサイドへの比重が高まった印象であった。天野や松原と連携して同サイド攻略からのハーフスペースの抜け出しとファーサイドのクロスを軸に川崎陣内に攻め込んでいく。

 川崎はニアを潰す高井とファーサイドに向かうクロスを跳ね返すジェジエウを軸にボックス内を塞ぎ続ける。橘田や脇坂、佐々木がスペースを埋める行為とカウンターで出ていく行為を両立したこともあり、山田や家長のキープ力を生かした反撃も構築することが出来ていた。

 川崎にとっては4枚でも守れているので反撃との両睨みのバランスを考えると、4-4-1を継続してもいいのかな?と思うような押し込まれながらも跳ね返すことがでいるという戦況に。が、それでも最終的には大南を投入した5-3-1に移行。クロスやミドルシュートへのアプローチとしてバックラインの誰かがボールにアプローチしやすい状況を作る。これまでの川崎がクロスの出し手やミドルシュートを放置して失点してきたことを踏まえれば極めて妥当な判断と言えるだろう。

 最後のところでパスが合わずに決定機を作り出せない横浜FMと千載一遇のチャンスとなった決定機で佐々木のシュートが枠に飛ばなかった川崎。互いに最後まで決定機を作ることが出来ないまま試合はスコアレスで終了した。

あとがき

 多分、川崎は準備してたことが何も上手くいかなかった日だった。おそらく悪天候という状況を考えての4-4-2ミドルブロックでの我慢と2人のCHを軸とした組み立てをほとんど放棄。さらには後半にマルシーニョの退場という逆噴射。自分たちから能動的に捨てた部分も含めて破綻しまくっていたのがこの日の川崎であった。

 でも、どうしようもなくなったという状況から踏ん張ったことは良かったと思う。そういうチームは応援したくなる。高井をはじめとして前節から好調の選手は高いパフォーマンスを発揮していたし、ジェジエウや脇坂などのコンディションもベースアップされていた感じもする。

 ただ、逆境に踏ん張る姿が美しかったというのは前提として、そもそも逆境に陥ってしまう今日のような展開が増えてしまうと勝ち点を積んでいくのが難しくなる。10人で引き分けてももらえる勝ち点が2になるわけでもないので、拙い試合運びになってしまったことは反省したい。

 あとはこの日棚上げにしたプレッシングでの我慢やビルドアップからの相手の剥がし方に再びレールを次の試合から戻せるかが気になるところ。いわばこの日の川崎は外れ値の逆境として、週末からはまた毛色の異なる試合を見せてほしいなと感じた。

試合結果

2024.4.3
J1リーグ
第6節
横浜F・マリノス 0-0 川崎フロンターレ
日産スタジアム
主審:木村博之

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次