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「チャカチャカは捨ててゆけ」~2024.4.7 J1 第7節 川崎フロンターレ×FC町田ゼルビア レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

全て家長の独断専行だったのか?

 2試合連続クリーンシートと徐々にいいリズムが出てくるようになった川崎。3連戦の最後は首位に君臨する町田との一戦である。

 この試合の川崎の保持のプランは個人的には理解に苦しむものだった。主にファンの中でやり玉に上がっていたのは家長である。フリーダムなポジションをこれまでもたまに起こしていたし、この試合でもそうだった。で、効果的ではなかった。それは自分も間違いないと思う。

 ただ、立ち上がりを見る限り、左のオーバーロードは家長の独断専行であったかというと怪しいところがあるように思う。「もっと配置を決めるべき(=この試合では裁量があった)」という試合後のコメントを鵜呑みにするのであれば、序盤に左に流れた脇坂も左サイドに人数をかけて崩すという判断をしたということになるだろう。

 「脇坂は家長のプランに合わせただけ」と考えることもできなくはないが、37分に右サイドで脇坂のみポジションを守っていたシーンでのパスワークを見ると、家長と共鳴するように左に流れなくても、別にいいのでは無いかと言いたくなる。

 もちろん、このシーンでも家長が左に流れる意義があるかは怪しいところではあるし、家長が左に流れるデメリットはこの後に都度述べるのだけども、少なくとも家長以外がポジションを守るようになった藤尾の先制点以降は左サイドでのポイントを増やした崩しは41分の山内のフリーランでのインサイド侵入のシーンなどそれなりに機能したと言えるだろう。

 いずれにしても瀬川とジェジエウ以外が左サイドに集結するこの試合の川崎の立ち上がりのプランは町田との食い合わせが最悪だったと思う。この試合の川崎の保持における左サイド集結以外の特徴はナローなスペースで局所的な数的優位を作りたがるところである。

 ボールに近寄って次の受け手になろうとする動きは多い反面、ホルダーに選択肢を与える動きになっておらず、次の次のパスの受け手として機能する動きになっていない。一例をあげよう。8分の藤尾の決定機につながるシーン。高井→山本のパスからのリターン(もしくは相手のカット)が定まらなかった場面である。

 この場面で問題視したい動きは高井が山本に寄るアクションである。おそらく、山本からリターンを引き取り、ドリブルしながら列を上げて進撃していくイメージだろう。

 しかしながら、この場面ではまず山本へのパスが背後に忍び寄る柴戸にカットされるリスクがある。さらには、山本がワンタッチでボールを落とす先としてはゼ・ヒカルドがあるため、無理に高井が選択肢になる優先度は高くない。加えて、背後の状況を確認しながらパスを受ける山本から動きながら正確なリターンをもらえるかどうかは賭けになる。

 これだけの懸念を抱えながらCBが自分の持ち場を離れて列を上げる意味があるだろうか。自分にはないように思う。山本への縦パスとリターンという一連のプレーの成否よりも、こうしたリスクを拡大させる動きがこの場面ではピンチの火力を上げている。

 さらにこの日の川崎は相手を引きつける意識がなく、次のホルダーを楽にすることができていない。例として挙げたいのは7分の脇坂→山内のパス。この場面自体は綺麗にパスがつなげた場面なのだけども、脇坂が山内にパスを渡すタイミングが早すぎるように思う。もっと自分にドレシェヴィッチが近づいてから山内にパスを出すべきだ。

 より引き付けてから出すことができれば、山内→エリソンへのパスコースは空くはず。

 もしくはエリソンの位置を利用して山内への斜めのランに合わせてもいい。先の攻撃手段を楽にするためにもどれシェヴィッチを引き寄せることはより意識したかった。

 こういうことを意識せずに密集すれば当然スペースは無くなるし、ホルダーも周辺のオフザボールの動きも基本今ばかりを意識している。その結果、ホルダーはミスが増える。全部想定できる流れだし、何よりミスがあればそこに飛びついてむしゃぶりつくことが強みの町田に対して、なぜこのプランを採用したのかの理由は今の自分には全く思いつかない。この試合の反省点が狭いスペースを繋ぐパスの技術を向上しましょう!に帰結するのであれば、今季の川崎が苦戦から脱するのはまぁ難しいだろうなという印象を持っている。

ロングスローは手段に過ぎないという仮説

 町田の保持に対して川崎は4-2-3-1のブロックを組む形で対抗する。町田はCBに加えて、ある程度仙頭に自由に動き回る裁量が与えられているというこれまでの試合の文脈に沿ったプランだった。

 この試合の町田の保持は自軍から見て左サイドを集中砲火。瀬川周辺をロングボールで狙っていく立ち上がりとなった。橘田をSB起用するなど、この試合以外にも右のSBに高さの不安を抱える座組が多かった今季の川崎。ここをケアするのは右のCBというのが相場であった。

 というわけでこの試合も川崎の右サイド側に流れてくるセフンの担当はジェジエウというのが丸い。だが、コンディション不安を抱えているジェジエウの負荷を減らすためなのか、それともそもそも高さの部分を多少なりとも期待されて投入されたのかはわからないがゼ・ヒカルドもロングボールの競り合いに参加することが多かった。

 だが、ゼ・ヒカルドが出てきても結局ジェジエウが前に出てきており、タスクの割り振りがよくわからなかった。2人の動きは被ったり、同じ方向を制限する場面もあり、この辺りは連携とタスク割りの両面で効いていなかったと言えるだろう。

 川崎の右サイドの守備の難点の1つはもちろん家長の出張により、ネガトラで林が完全にフリーになること。ただでさえ狙い目のサイドのSBが自在にボールを持ち運べる状況を作り出してしまうというのは完全によろしくない。家長の左サイドの出張は基本的にはこのデメリットをメリットが上回るかがポイントになる。この日は下回っていたという感覚だ。

 ただ、これも家長だけのせいにしていいのかは怪しい部分がある。藤尾の得点シーンの守備を見てみると、崩されたのは川崎の右サイドではあるのだけども、家長の守備はオーソドックスにSBの林を捕まえてはいる。

 しかしながら、右サイドの守備は崩壊した。キーになったのは仙頭である。家長の矢印の根元をとる形で脇坂とゼ・ヒカルドの切れ目に侵入し、瀬川の背後に入り込む藤本にラストパス。この折り返しを藤尾が仕留めた。瀬川の背後はジェジエウが万全ならば潰したかもしれないが、切れ目に入ってくる仙頭が崩しの起点になっていることは違いない。

 ちなみに仙頭は11分すぎにも保持での列上げで川崎の中盤の切れ目に侵入している。サッカーマガジンの記事を読む限り、川崎の右サイドをどう崩すのかのイメージはだいぶ持っていた感じがするので、ここの切れ目への侵入はイメージしていたのだろう。

 川崎の哲学で言えば、失点シーンはゼ・ヒカルドが仙頭を引き取るのが妥当ではある。だけども、4-2-3-1のCHはバックラインのカバーに入りやすい反面、4-3-3に比べると前線のプレスのフォロワーとしては機能しにくい。ましてやこの日は背後のジェジエウのコンディションに不安があり、SBの周辺は狙われている。試合勘と連携面が怪しい上に元々広い範囲をカバーする潰し屋というわけでもなさそうなゼ・ヒカルドに脇坂と繋がれなかったのは仕方ない部分もある。

 「守備の部分でアグレッシブに行けなかったというのは、ロングボールを蹴られるとか、そういうイメージが少し先行しすぎてしまって、最初から少し間延びをした状態でつながれて、その中で押し込まれるという展開が非常に多かったと思います」という鬼木監督の試合後コメントはまさしくこの場面から来ているように思う。結局のところ、町田にはショートパスから切り崩されているのである。左サイドの山内、佐々木、山本のラインも含めてこの試合の中盤とSBはずっと怪しさがあった。

 ロングボールとかロングスローというプランのイメージが先行している町田だけども、結局それは哲学ではなくて単に勝つための手段の1つに過ぎないんだろうなと思う。川崎相手に効くと分かれば、普通に自陣から繋いで崩しができている。空中戦重視のプランを単に1つの手段に矮小化することが出来るのであれば、今後も町田は安定して勝ち点をとっていくのだろうなと思う。

前と後ろを両方作れるか

 後半、川崎は遠野と瀬古を投入。布陣には変化がなかったが、家長は明らかに右サイドに張るケースが多くなった。かといったオーバーロードを川崎がやめたわけではなく、左に入った遠野が縦横無尽にボールに吸い寄せられていた。

 前半以上にオーバーロードは効果があったと言えるだろう。理由の1つはオーバーロードのターゲットを右に変更したこと。このサイドは家長がロングボールのターゲットとして林に完勝している。なら、前半からこっちでロングボールのターゲットをやっていれば良かったのではないかと言いたくなってしまうのであるが、少なくとも後半は右に張ることで前半よりは家長は効果的な働きをしていた。

 遠野は右サイドに寄る動き自体の効果がどこまであったかはわからない。けども、狭いスペースでのボールタッチはそこまで悪くなかったし、オフザボールの量と守備におけるホルダーを捕まえる速さなど要所でキレのある動きを見せた。

 エリソン、家長へのロングボールで守備のベクトルが後ろ向きになる町田。中盤だろうとサイドだろうと、町田はバラバラにされるとデュエルの強度が怪しいところがある。前半よりも明らかに間延びした町田の中盤の守備に対して、山本が列上げでのポジションの取り直しやターンから前進を促すことができていた。

 家長という押し込む起点ができたこと、即時奪回で出ていくことに川崎のイレブンが迷いがなくなったこと、そして自陣からのキャリーで中盤がボールを運べるようになったことで川崎は主導権を掌握。藤尾の幻のゴール以降、町田は全くといっていいほど前に出ていくことができなくなってしまった。

 67分に登場した小林は裏抜けでの一発退場で早々に数的優位の状況を演出する。2列目に守備の強度を与えたことと前線のオフザボールの増量に貢献し、等々力にエネルギーをもたらしたことはこの試合における彼の功績である。だが、ボールタッチの跳ね方などを見るとコンディションがいいとは言えないのだろうなと思う。

 よく、終盤の数的優位は方向性をはっきりさせるだけで役に立たないといったりするが、この試合の数的優位は純粋に川崎に試合の主導権をさらに渡す流れになったと思う。町田はすぐに5-3-1に切り替えたが、IHにプレスに出ていく自由を与えるなど、特に自陣を固めることを専念する様子はなかった。

 5バックを切り崩すときに意識したいのは、5バックに対して前と後ろの両方を見せることである。普通は5バックの前を使われることを防ぐために3センターがいるので、川崎は町田の3センターを左右のスライドで外せないといけない。だが、町田の3センターはプレスで前に出てきてくれるので、5バックの手前を空けるという段階は川崎は割と簡単にクリアすることができていた。町田がここのスペースを迷いなく埋めていたら、個人的には川崎はその時点で詰みだったと思う。

 しかしながら、川崎はこの町田が明け渡してくれた5バックの手前のスペースをうまく活用することができなかった。これによって死んでしまったのが山田のハーフスペースへの裏抜けである。大外の瀬川から裏抜けの山田に直接ボールが渡されることが多かったが、これでは意味がない。3人目のCBとして投入された昌子はこの動きを潰すために投入されたといっても過言ではない。町田の思うツボというプレーである。

 山田の裏抜け自体が悪いわけではない、5バックに対して後ろを意識させる動きとしては有効である。後ろを意識している相手に後ろの選択肢しか提示できず、後ろを素直に使っているから問題なのである。86分の瀬川→山田のパスのシーンは間違いなく脇坂を使うべき場面である。後ろにズルズル下がる町田のDFラインに対して、脇坂にここでボールを渡せばシュートもラストパスも自在である。

 このように5バックの前と後ろの両面待ちを効果的にできれば、町田の撤退守備を崩すのはそんなに難しくはなかったと思う。ただただ人数をかけた状態でクロスを上げるのは、スクランブルのデビュー戦でありながらハイボール対応が安定していた福井に対しては悪手だったと言わざるを得ない。

あとがき

 チャカチャカという言葉をあえて自分の中で定義するのであれば、時間とスペース創出を意識しない間を繋ぐショートパスの連打という感じだろうか。すなわち、30分手前までの川崎である。この定義で行けば間違いなく川崎は今季一番チャカチャカしていた。

 得点シーンを見る限り、黒田監督がショートパスで崩していくというプラン自体を否定していないことは明白なので、チャカチャカというのは繋ぐこと自体で相手に影響を与えられないプレーということなのだろうなと思う。本文でも述べたけども、川崎がチャカチャカの枠内でトメルケルの技術を上げていきましょう!となるのであれば、今後も勝つのは難しいだろうなと思う。チャカチャカなんて捨てていい。けども、ショートパスでボールを動かすことが悪ではない。チャカチャカを捨てたところで川崎の理想とするスタイルに辿り着くことが難しくなることはないと個人的には思うのだけども。

試合結果

2024.4.7
J1 第7節
川崎フロンターレ 0-1 FC町田ゼルビア
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
町田:32′ 藤尾翔太
主審:山本雄大

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