プレビュー記事
レビュー
ハメパスだけは最低限避けたい
2試合で8失点という散々な結果でアウェイ連戦を終えた川崎。しかしながら、内容は結果ほど悪くはなく、特に保持においてはそれなりにいい面が出てきたのも事実という定点観測者的には難しい流れとなっている。連敗にも関わらずスターターには大幅なテコ入れがされなかったことが象徴的と言えるだろう。
立ち上がりは木下、マルシーニョとそれぞれの前線が裏に抜け出すアクションを見せてのスタート。困った時に前に前にというのは序盤だけでなく、中盤以降も頻繁に出てくるので少なくとも迷ったら蹴るというところの選択肢は持っているチーム同士の対戦と言える。
試合が落ち着くとボールを持つのは川崎。柏は4-4-2のプレスで対抗する。この局面は少し込み入った話をしたいので、先に大枠から話していく。アンカーの橘田は一貫して細谷と木下が管理。戸嶋と白井のCHコンビが列を上げることはせず、彼らは遠野と脇坂を気にする。
柏のSHは列を下げて守る意識が強め。川崎のSBがオーバーラップをしていないにも関わらず、家長やマルシーニョをマークしていることもあった。
かと言って前からプレスに全く行かないわけではない。サイドに相手を閉じ込めることが出来たら、CHのスライドと2トップのプレスバックからバックパスを誘発し、二度追いを敢行。スイッチがあり、そこが発動すれば一気にプレスにいく形である。
川崎からすると、まず狙い目になりそうなのは柏のDFラインの裏。川崎のバックスにはそこまでマークがきつくなく、柏のSHはやや後ろ寄りの傾向。それでいて柏のDFラインはMFとのライン間を圧縮するアクションを見せるのでライン設定はそれなりに高め。フリーの出し手と裏抜けのスペース、そして狭いライン間という「とりあえず裏に蹴ろう」セットが整っていることとなる。
裏を蹴るために川崎が持っておきたいプランは柏にプレスのスイッチを入れさせて、手前のスペースを意識すること。いわゆる裏へのパスが「よーいドン」にならないためにバックスで相手を動かすことができればより裏抜けは効果的になるし、攻守に前後分断はしにくくなる。そのために後ろのパス回しでどこまでリスクをかけるかが川崎にとってはポイントになる。
この日の川崎のDFユニットである大南、ジェジエウ、ソンリョンは保持から相手を動かすことに関しては少し厳しい。一番最悪なのは長いレンジのパスを恐れたり、GKをビルドアップに組み込むのを避けてしまった結果、橘田と両CBをともに細谷と木下が管理できる位置に立つこと。こうなってしまうと、川崎のショートパスはズレを作れずに詰んでしまう。
しかしながら、この試合のCBの立ち位置はその最悪を回避する場所を守ることが出来ていた。常に柏の2トップにとって楽に管理できる位置にいるわけではなかった大南とジェジエウはそれなりに自分たちをマークさせるコストを払わせてはいた。
細谷と木下からするとCBとアンカーの二択を着き蹴られる格好になる。細谷と木下の優先順位は橘田にライン間でボールを持たせないこと。大南とジェジエウの自由になった時にできることを考えればこの順序整理は当然と言えるだろう。となると、川崎のCBはオープン。彼らが2トップじゃない選手を引き寄せることができれば最高である。
もっとも、マークを引き寄せるプレーがリスクが高いことも確か。大南とジェジエウのスキルを考えれば、中盤に繋ぐことが出来なくとも前線に蹴っ飛ばす保険は必要。そのためのゴミスであり、家長であり、マルシーニョである。
2トップの管理から外れる。外しきれなかった時は蹴る。これがバックスに与えられたノルマ。左サイドはこれで問題がなかったのだけども、少し気になったのは右サイドバックの瀬川の動き。ジェジエウが開く場合、中盤から引き出すターゲットになるのはサヴィオになる。
だけども、右サイドでは瀬川が必要以上に降りてきてしまうことが多かった。瀬川が降りて受けたがっていた場所は本来であればサヴィオを引き出すためにジェジエウが使いたいスペース。ここにあえて立つのであれば、瀬川は少ないタッチで次のプレーをするイメージを持っている必要がある。例えば、アンカーの橘田にワンタッチで叩くとか。
ただし、橘田は細谷の献身的なプレスバックによりフリーになっているかは怪しかった。少ないタッチで盤面を好転させる次の一手がイメージできないのならば、ここには立たないほうがいい。
ジェジエウ→瀬川のパスはいわゆるハメパスである。柏はこのパスが出ると、サヴィオが瀬川を潰し、戸嶋のスライドと細谷がプレスバック、木下が二度追いに備える流れとなる。
よって、降りて受ける瀬川はこの試合ではプレスの狩りどころになっていた。彼自身の特性を考えても低い位置でのタッチは少ないほうがSBとしては効くように思える。もっとも、ジェジエウが運び切れないなというシーンも普通にあったので、ハメパス発動は瀬川一人での責任ではないのだけども。
利他的なオフザボールの動きが欲しい
逆に、瀬川が高い位置を取れば川崎の右サイドは攻めのポイントになっていた。瀬川が上がった場合は家長が少し低い位置で受けようとするのだが、そうなるとサヴィオの注意は家長に向く。サヴィオが低い位置を意識するようになると木下の脇やサヴィオの前は空くようになる。ここのポジションから裏へのパスを展開することは可能である。
瀬川、脇坂のうち低い位置に関与しなかった選手はハーフスペースの裏に抜け出していく。こうなると、古賀は中央のゴミスか抜け出すハーフスペースのケアかを迷うことになる。17分手前の脇坂が抜け出した決定機などはゴミスの引力で古賀を吸い寄せたシーンからだった。
実際のところはうまいこと行くばかりのシーンではなかった。全体の重心が下がりすぎてしまい、柏のプレスの圧力をもろにくらってしまったり、中央でターンを決めようとすれば細谷のプレスバックに挟まれてしまったりなど、柏にカウンターを受ける場面も多かった。中盤だけでなく、降りるゴミスも餌食になっていたのが印象的だった。
柏はプレスを奪った後のポジトラの鋭さはリーグ屈指だなと思った。前の4枚が一気に攻撃に出ていく時の迫力と役割の棲み分けは見事。自陣からのビルドアップでボールを運んだ古賀が家長の背後を取り、そこから一気に裏を取った木下がジェジエウと1on1をする場面や枚数をかけた右サイドの崩しも悪くはなかった。川崎視点で言えば戸嶋に対するプレスバックをサボってフリーにしてしまうゴミスはやはり守備だと明らかな難が見える。だが、やはり柏の攻撃の主戦場は川崎のビルドを閉じ込めてからのカウンターになる。
強力な2トップに対して川崎は同数での対応を強いられたこともあり、柏はチャンスに準ずるシーンをそれなりに作れていた。だが、特にソンリョンと大南の最後のところの根性は流石であった。前半のジェジエウはちょっとバタバタしてたけども、中盤の遠野と橘田、佐々木のプレスバックでカバーをしてみせた。
欲しかった先制点を手にしたのは川崎。プレビューでイメージした以下の図に近い形でニアのCBをピン留めし、ゴミスによって押し下げられた最終ラインを遠野と脇坂を蹂躙した形からゴールを決めた。端的に高いスキルのゴールと言っていいだろう。
こういった形はもっと増やしていきたいところ。ニアからポストするゴミスの形ももっと使いたいし、ファーサイドにゴミスが流れる場面も活用したい。16分のシーンではマルシーニョが外に流れるのではなく犬飼と古賀の間に入り込むようにクロスに飛び込んで欲しいところである。
ファーのゴミスを利用して飛び込むアクションはマルシーニョだけでなく、遠野ももっと活用したい。この試合の遠野のパフォーマンスは非常に難しいところ。ネガトラでの切れ味は他の追随を許さないが、ビルドアップでは降りるアクションの後、高い位置を取り直すのが遅れる場面があり、それがサイド攻略とフィニッシュの両面で枚数が足りないことにつながっていた。
遠野に限ったことじゃないのだけども、川崎のオフザボールは少し「自分がボールを受けること」が先に来すぎている感がある。動くことでパスを受けられなくとも、相手を動かすことはできていることはそこそこにある。または、受けられなくてもそこにいること自体が重要なこともある。自分が触るために降りて受けるプレーばかりが増えれば、全体のバランスが成り立たなくなる。裏抜けに関しても同じことは言える。
前半の川崎を見ると、得点シーンをはじめとして光るところはあった。だけども、ゴミスを生かし切るアタッキングサードでの崩しはまだ物足りないし、ビルドアップでの降りるアクションがチームの助けにならず、ロストから柏のチャンスに繋げてしまった感もある。バックスの安定感は悪くなかったので、底を抜けるのは防げたが、いい前半として片付けられるかは微妙。どちらかといえば、提示されたフレームの中でもう少し上手くやって欲しいなが先にくる45分だったかもしれない。
ピンボールのような後半で差をつけられず
後半、川崎は左サイドを軸にライン間を進む前進が活きるスタート。佐々木と遠野が前半とは少し異なるボールの動かし方を生かして、前進を狙っていく。
ただし、柏のポジトラの強度もさすがである。ボールを奪ったら最後の裏を軸に一気に背後まで駆け上がっていく形からカウンターを発動。やたらを川崎の選手が足を滑らせていた場面では中盤で柏がボールを奪うとそこから決定機まで。
川崎は前半以上にソンリョンの活躍が目立つ展開だった。ミドルシュートを止めることはもちろんのこと、ファーサイドのクロスへの対応のところの安定感は抜群。失点シーンはファーでのクロスから失点していたが、GKが出てくる出てこないの議論にはならなさそうな対応。セービングはもちろんのことクロス対応でのクオリティをソンリョンはきっちり見せることができていた。
失点は跳ね返し切れずに一方的に押し込まれる展開が呼び込んだものだろう。プレスに出ていけば後方に穴を開ける場面がかなり出てきてしまうのは事実だけども、出ていけなかったらいけなかったでこういう一方的に押し込まれるシーンが増えてしまうのだからバランスは難しい。
60分付近のセットプレーからの木下のゴール以降、10分ほどは柏のペースが続く。しかしながら、この時間を川崎がソンリョンを軸とした守備で凌ぐと、展開はフラットなオープン合戦に。山内、エリソン、山田と前線に次々と交代選手を投入した川崎はエネルギー的には優位を手にしていた。特に、カットインからのボックスへのパスワークという他の前線にはない持ち味を発揮した山内はいいアクセントになっていたように思う。
しかしながら、山田とエリソンはもう一声。それぞれがフリーランから相手を出し抜こうともがいていたのはわかるのだけども、それぞれの動きを活用しようとする意志はもう少し欲しい。柏のバックスは裏抜けのアクションに対して、完全にラインを上げて置き去りにするのではなく、ラインを下げる瞬間がある。その瞬間はDFラインが綺麗に揃っていないので、1人目の裏抜けから遅れて2人目の選手が裏抜けをしてみたりすると面白いと思う。
後半追加タイムにジェジエウがネットを揺らしたが、これはオフサイドにより取り消し。松本がひとまず命に影響するような大きな怪我がなくて何よりである。終盤のピンボールのような展開はどちらのチームにもゴールを生まないまま終了。ホームで連敗を止めた川崎だが、またしても先制点を奪いながら勝ち点を落とす結末となった。
あとがき
やろうとしていることの方向性は悪くないし、まだ突き詰められるところはあるとはいえゴミスを中心にしたアタッキングサードの崩しは得点という形で結びついている。ただ、この日でいえばまずは「柏のDFラインの背後を狙う」というコンパクトな相手を揺さぶるところはいいとして、そこから徐々に間延びしたスペースから中盤を繋いでいきながら前進するという第二形態と言えるフェーズに移行できなかった。前線で持ち味を発揮できるのは相手も同じなので、中盤がきっちりここで存在感を出さないと差はつきにくい相手だったように思う。
この日の柏相手という意味では後半の交代選手の出力でも差を出すチャンスはあった。ゴミスにタイムリミットがあるのはもう明らかなので、後半はエリソンと山田が根性を見せるしかないのだが、本文でも触れた通り今はそれぞれが個人で勝負をしている。ゴミス以降の「第二形態」の軸はこの2人にかかっているのは明らか。早い段階で答えを出して、90分間勝負できる状況を早く整えたいところだ。
試合結果
2024.5.25
J1 第16節
川崎フロンターレ 1-1 柏レイソル
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:30′ 脇坂泰斗
柏:59′ 木下康介
主審:木村博之