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「冨安加入がもたらしたもの」~2021.9.11 プレミアリーグ 第4節 アーセナル×ノリッジ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■新戦力たちが見せたビルドアップ

 共に3連敗、得失点差は-9の逆天王山。立場を考えれば、特にアーセナルは危機的な状況。強いチームとの対戦が続き、負けがかさんだ8月の成績をひっくり返す必要がある。

 立ち上がりでまず目に付いたのはアーセナルのボール保持の局面である。上のスタメン表では4-2-3-1としていたけど、これとはだいぶ違う形。まず、大外を使う選手は右がぺぺ、左がティアニーとアシンメトリーな形。2列目のサカとウーデゴールがCFのオーバメヤンを挟むようにポジションをとる。なので前線的には5トップ気味。

 だが、サカやウーデゴールはハーフスペースを使うというよりも中央である程度近い距離感で短いパス交換でプレーしたいという意識が先行していたように見える。なので5トップ気味だけど、5レーンを強く意識した攻めをしているわけではなかった。オーバメヤンが明確に前のポジションだったので、5トップというよりは4-1の形だったといってもいいかもしれない。

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 バックラインは5人で人数を調整する形。人数の調整役となっていたのはCHの2人とデビュー戦となった冨安。ロコンガorメイトランド=ナイルズがDFラインの左、もしくは冨安が右に降りることでバックス2枚と3バックを形成する。

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 ここからボールを持ち運ぶ段階になると、冨安はCHと共に1列前で受ける形になる。バックが3-2から2-3になる形。冨安と逆サイドのCHの2人は大外のぺぺ、ティアニーへの先導役。前プレを交わしたCBからボールを受けて、勝負したいところまでボールを運ぶことになる。

 特に、アーセナルがこの部分で良かったのは右サイド。まず、CBのホワイトがきちんと相手が出てくるのを待ってからボールを進める選択肢を取れることがよかった。相手が出てこないうちに1列目から進んでしまっては、その先が詰まってしまいやすい。

 一方でホワイトがIHを引き寄せてから持ち運ぶことができれば、アーセナルはそこから先のスペースを使うのがスムーズになる。特に冨安がこのホワイトの意図を把握してプレーしていたことがアーセナルに取っては非常に大きかった。ホワイトは自身へのプレッシャーが少ないと躊躇なくボールを前に運ぶ。この時に、SBが高い位置を取ることを躊躇ってしまうと、ボールは前に進まない。

 アーセナルの右のSBは今季ここまでこの動きでCBをフォローすることが全くできていなかったので、ホワイトが持ち運んだ時に積極的に奥のスペースに移動する冨安の存在はアーセナルのビルドアップの助けになっていた。

 ノリッジは守備の局面においてマンマークの様相は強め。冨安が高い位置を取れば、対面のWGであるツォリスを押し下げることができる。プレビューでも述べた通り、この試合のアーセナル視点でのポイントはノリッジをきっちり押し込むこと。ノリッジは自陣からの陣地回復に苦戦しているチームなので、まずはラインを押し下げて彼らを自陣に釘付けにできるかは大事。冨安の存在は試合全体の流れを考えたときもアーセナルにとって大きかった。

 ノリッジにとって大きかったのはアーセナルの保持の終着点であるぺぺとのマッチアップでウィリアムズが大きな後手を踏まなかったこと。ツォリスやマクリーンのカバーも含めて、ぺぺのところでノリッジは決壊しなかった。

 アーセナルは逆サイドのティアニーも使えていたし、何より押し込んでいたので、保持の局面が悪かったわけではない。だが、サカとウーデゴールの距離感が近い中央の連携が薄かったことも相まって、ぺぺで優位を取りきれなかった時に決定打にかける要因になったという印象である。

■SHの守備の気になる部分

 アーセナルはプレスでも積極策を講じる。オーバメヤンと並行して前線のプレス隊に参加したのはウーデゴール。彼ら2人でノリッジのCB陣にマーク。加えて、中盤に対してはメイトランド=ナイルズがアンカーのルップのケアに出てくる。

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 アーセナルのプレスはやや前後分断気味なのは相変わらず。相手のビルドアップ隊から1人少ない状況で後方を余らせて受けることが多い。この試合で苦労していたのはサカ。アンカーのフォローに回るレース・メルと大外のアーロンズのケアに向かわなければいけない。

 前線への長いボールに対しては冨安の空中戦の強さが光った一方、ホワイトとガブリエウの処理はやや怪しく、高いラインのツケを払う役割としてはまだ途上の印象。この処理が甘くなってしまうと、アーセナルはハイラインに腰が引けるようになる。本当の意味での完成はルカクとかケイン、キャルバート=ルーウィン、ワトキンス相手にバックスで勝ち切ることができてから。そういう意味でウッドとマッチアップする次節は彼らにとって大きな試金石になりそうだ。

 アーセナルのビルドアップが苦しくなったのは、先に指摘した大外のスペースをクルルが使いだしてから。逆サイドのペペの裏と組み合わせて、アーセナルのSHの裏にビルドアップの脱出のルートを見出していた。

 アーセナルは自陣深い位置まで下がってしまうと、ブロックの守備の精度は怪しい。単純な空中戦が昨季より弱いというのと、サイドの守備の部分で危うさがある。

 サカはやや下がりすぎて、アーロンズを離してしまいクロスを上げられる場面が目立っていた。中で優位な昨季だったら、これでOKだけど、今はラインを回復させながらクロスを上げさせないことの優先度が高いので、まず後ろをケアする昨季の姿勢からは変えないといけない。その部分のアジャストがまだのように見えた。

 ぺぺはむしろ食いつきすぎてしまうのが問題。食いついていくこと自体はOKなのだけど、自分1人で取り切ろうとしすぎている感じが気になってしまう。正対している状態で飛び込むと交わされてしまう可能性は高まるし、リスクも大きくなってしまう。後ろが守るのを楽にするための守備をしないと、自らのところが穴になってしまう。両SHの守備の部分での修正は今後の要改善項目になってくる。

■CHに求められる要素

 アーセナルが苦しくなったのはアーロンズ、ウィリアムズの両SBでノリッジがボールを落ち着けられるようになったことに加えて、アーセナルの保持時の方針も大きい。

 前半からアーセナルはオーバメヤンが最終ラインと駆け引きをすることで多くのチャンスを生み出していた。しかし、35分以降は押し込まれた状態で裏に捨ててしまうようなフィードを出すことが多くなる。この局面でもう一度自陣からの保持でノリッジを押し込むことを選択できれば、アーセナルは前半の終盤をもう少し落ち着いて進めることができたはず。オーバメヤンが効いていた故に選んだフィードなのだろうが、まずは落ち着かせることを考えたかった。

 そういう部分ではCHの存在感が少し希薄だったかなと思う。ロコンガは左右に大きく振る展開はあまり出なかったし、左に落ちた時にできることがやや少ないように思った。

 より可変に適しているメイトランド=ナイルズは危険な位置での無理なターン、バイタルで飛び込んでしまうリスクを高い守り方等の問題点が露呈。何より致命的なのはパススピードが遅いこと。アーセナルのビルドアップ改善には中盤がジャカのパススピードを備えることが最低条件だと思っているのだが、メイトランド=ナイルズはこの部分で大きく見劣りする。

 可変要素が薄まり、縦パス勝負になった前半終了間際にはさらにメイトランド=ナイルズの難点が顕著になった。この試合に関して言えば、中盤で可変性をもたらしたり、前にプレスに行ったりできる機動力の部分よりも、そういったチームのスタイルを下支えするところでの力不足が目立っていった印象だ。

■違いを見せたトーマス

 スコアレスで迎えた後半、アーセナルは再度ビルドアップを丁寧に行うことで再びノリッジを押し込む。前半のパートで触れ損ねたのだけど、保持の部分で落ち着く時間を作れたのはラムズデールの存在も大きい。ホワイトと同じく、ボールを持った時の視野の広さとグラウンダーのパスを通す意欲、フィードの精度はレノよりも上だろう。ただし、過剰に相手を引きつけすぎてしまうシーンもあったので、GKとしてはリスクを背負いすぎかな?と思う場面もあったけども。

 いずれにしてもアーセナルのポゼッションが安定したのはガブリエウ、ホワイトに加えてラムズデールが問題なく保持に貢献できたからというのが大きい。後半もこの3枚を軸にしたビルドアップでアーセナルは前進していく。

 大外を使う頻度は前半よりは減ったけど、後半はサカも裏を狙うなど積極的なオフザボールの動きだしを披露する。前半のレビューを読むと裏抜けばかり使うのは悪!みたいな感じの口調に見えたかもしれないが、全体を押しあげられているかが重要。後半のアーセナルは十分にそこからプレスに移行できるだけの重心の高さが保てていた。

 ただし、縦に入れるパスのところの質がもう一味足りなかったアーセナル。その部分を補える選手としてアルテタはピッチにトーマスを投入する。この効果は絶大。投入後すぐに仕事をする。相手の逆をとるコースでサカに楔を入れるとそこからPAに迫るぺぺの攻撃から最後はオーバメヤン。エースがアーセナルの今季初得点を挙げた。

 非常にわちゃわちゃした形にはなったが、チャンスとしては非常に質の高いもの。この日、凄まじいセービングをこのゴール前後で見せていたクルルも、ぺぺに抑え込まれていたら流石にセーブをすることはできない。投入直後に縦パスの質を見せつけたトーマスからアーセナルは先制する。

 先制後、アーセナルはやや重心を下げながらノリッジの保持を受け止める方にシフト。本当はボールを回しながらクローズをしたかったところだが、まだその力はないということだろう。ノリッジはキャントウェル、ラシツァなどのレギュラー格の選手が続々登場。プッキもポストで起点となり、アーセナル陣内に攻め込むことができていた。

 その分、カウンターからチャンスを得ることができていたアーセナル。こちらも交代で入ったスミス・ロウの登場で縦パスの受け手を増やしていた。本当は彼から2点目が生み出されたら完璧だったけど、病欠も噂されていただけにコンディションが万全ではないのだろう。カウンターのプレーセレクションに難はあったが次に期待したい。ちなみにもう1人の交代選手であるセドリックも終盤は跳ね返しに貢献。前節のパフォーマンスを少しでも取り返そうと奮闘していた。

 保持でベースを作り、質を上乗せした終盤でなんとか先制。3連敗というトンネルを抜け出したアーセナルが今季初勝利をホームで迎えることに成功した。

あとがき

■スタイルは通用するのか?

 リバプール、マンチェスター・シティ、レスターと序盤からアーセナル以上に厳しい日程が続いているのは不運なノリッジ。本調子ではないとはいえ、今節は勝ち点を取りたいと思っていたはず。奮闘はしていたが、ゴールは遠かった。

 やはり、自陣からのショートパスを軸にするのならば、もう少しプレス脱出の成功率を上げないと難しい。狭いスペースを通す精度も足りていないし、長いパスも落ちた先でアーセナルのプレスに引っ掛ける場面を目立った。日程も懸念だが、それ以上に軸とするスタイルが通用しきっていないことは懸念。まずは自分たちのスタイルがプレミアでも強みとなりうるのか?のところから見つめ直さないと、出遅れが致命傷になる可能性もある。

■冨安は上々のスタート

 内容にツッコミどころが大量にあったのは否定できない。だが、まずはプレッシングに挑んだこと、そして落ち着きを持ちながら保持でプレーできたこと。敵陣に押し込んでのプレータイムが増えたことはポジティブである。

 しかし、個人的にはノリッジは今季のプレミアの中でも今のところかなりパフォーマンスが振るわない部類に入る。この日に通用したからといって即プレミアで通用するかといったら別の話だ。バーンリー、トッテナム(昨年、秋に悪夢を味わったチームたちだね)あたりにどの程度までやれるかは指標になりそうである。

 ただ、一勝するということはチームの中で大きな一歩であることは疑いの余地はない。ここから局面ごとのプレー精度を上げながら、強さを見せておきたいところではある。アルテタには特にプレスの押し引きの部分やクロスをより許容しない方針へのブロック守備の見直しをお願いしたい。やることは山積みのように思う。

 冨安は本文中にも述べたとおり、攻守ともに華々しいデビュー戦と言っていいだろう。セドリック、チェンバースに比べれば格の違うパフォーマンスを披露。開始数分で当面のRSBのレギュラーは彼のものと多くのアーセナルファンは確信したはず。連携面での磨きがかかれば、チームに不可欠な存在にのしあがる日もそう遠くないだろう。

試合結果
2021.9.11
プレミアリーグ 第4節
アーセナル 1-0 ノリッジ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:66′ オーバメヤン
主審:マイケル・オリバー

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