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「まだひと呼吸」~2024.6.2 J1 第17節 川崎フロンターレ×名古屋グランパス レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

バラバラな名古屋の守備意識

 苦しい試合が続く川崎。今季ここまで1桁順位のチームには勝利がないなど特に上位チームに苦戦している。リーグ戦4試合ぶりの勝利を目指す今節はホームに5位の名古屋を迎えての一戦となる。

 立ち上がりにペースを握ったのは川崎。4-3-3から陣形を少しいじることでボール保持からリズムを作っていく。ポイントになったのは右サイドである。瀬川の負傷に伴い大南がスライドすることになった右のSBだが、立ち上がりから家長を追い越すなどフィーリングは良好。柏時代にWBを経験したことを存分に活かすスタートとなった。

 困ったのは名古屋の左のシャドーの倍井である。対面の大南はほぼビルドアップのタスクを放棄。家長を大南が追い越していくアクションが多いため、守備の基準点を見失う。右でボールを受ける家長のパートナーになったのは脇坂と瀬古。前に出て行けずにとりあえず後ろ重心になる名古屋の左サイドのユニットと前線に残る森島とユンカーの間に入り込み、自在にボールを動かしていく。

 川崎の保持の礎になったのはこの降りるアクションを見せる脇坂とサイドに寄るアクションが多かったアンカーの瀬古がフリーになったこと。特にボールに寄りがちな瀬古は名古屋の対応次第ではボールの奪いどころになってもおかしくはなかったが、前線がプレスバックすることも中盤が押し上げることもなかったため、フリーでボールを引き出すために動くことがこの試合ではいい方に転んだ。

 右サイドからボールを受けた瀬古や脇坂から左サイドの展開は少し攻めきれなかった感があるが、縦のゴミスがきっちりと選択肢に。中央でのボールキープ、そして右のハーフスペースへの抜け出しの両面からチャンスを作っていく。出し手の解放と押し下げルートを確保した川崎はセットプレーから早々に先制。家長が試合後に「練習していた形」と言っていた、高井のニアフリックをファーで家長が叩き込む形からゴールを生み出す。

 以降も川崎は安定した保持からペースを掌握する。基本的には先に挙げた川崎の右サイド側の混乱が非常に大きいように思う。倍井の守備基準の消失、空きまくっているFW-MF間の瀬古と脇坂がフリーになっていることが大きな要因である。

 この部分は正直に言えば名古屋の準備不足を感じる。川崎の最終ラインは多少メンバーが読みにくかったとは思う。ただ、絞るアクションが多い橘田が入った左SBはともかく、瀬川→大南となった右のSBは両者のキャラクターは違えど、家長との縦関係の交換からビルドアップに関与しないというタスクに関しては同じだったので、個人的には位置関係に対してちょっと混乱しすぎかなと思った。脇坂が降りて受けにくる動きにしても川崎の中盤の変形の一歩目という感じがしたので、こちらに関しても少し後手に回りすぎという感じがする。

 川崎対策の定番としては特にGKがソンリョンである場合はCBに持たせつつ、中盤をマークして選択肢を限定し、CBの出し手で奪うのがお決まり。名古屋の取ったプランはこのセオリーとは真逆。ユンカーと森島が前に残りながらも中盤が列をあげずに瀬古と脇坂をフリーにするという選択をするチームはあまり見ない。そういう意味では川崎の保持の安定感をこの試合の前半で図るのは難しい。

 名古屋の前線がプレスバックをサボっているのか、CHが列上げをサボっているのか、そもそもどちらも合っていてプランが非合理的なのかは名古屋のベンチしか知る由がない。12分に大南→脇坂のパスを通してしまった稲垣のように、CHには多少ゴミスのマッチアップに気を取られている感があるのはわからなくはない。

 ただ、そうした構造的なこと以上に、1人の選手に連動する意識が甘いのが気になった。15分前後に名古屋の前線が川崎のバックスにプレスをかけても中盤にプレスを通されてしまうあたりは少し名古屋らしくなさを感じてしまう。29分のユンカーが深追いしているのに合わせて森島が列を上げないとかは個人的には用意してきたプランとは関係なくやってほしい部分。この試合の名古屋は特に前半は前線と中盤の守備がバラバラだった。

前半の終盤に押し込まれた理由は?

 名古屋の保持に対する川崎のプレスは相対的にはまとまりを感じた。後方で空けてしまう部分ももちろんあるのだが、前が追えば中盤も追うという連動は少なくとも感じた。空けてしまう部分の代表格はプレスのスイッチ役となっていたWGの外切りの背後のスペースである。

 だが、特に家長と対峙する三國はWGの外切りワクチンである頭を越すパスを蹴れない様子。京都戦に引き続きプレスにバタバタし、家長のプレスに屈して2失点目を喫してしまった。家長、GKを交わして逆足で浮かさないといけないという状況はあまり簡単ではないのだが、難なくこなしてみせた。

 もっとも、名古屋に前進の手段がなかったわけではない。もっとも、有効だったのはハ・チャンレからのフィードである。右の大外の中山へのフィードは一気に裏抜けから決定機を演出するなど、かなりクリティカルなチャンスに。直接チャンスにならなくとも、右の内田に展開してから左の倍井の裏抜けを作るなど、自陣からの攻撃の基礎になっていた。

 対面の相手を考えると山内は家長と比べてはるかにハードなタスクを追っていたこととなる。GKを挟んで三國と左右対称に立つチャンレが自分の前に、3バックの右に立つ内田が自分の外にいる状況。加えて、チャンレはきっちりと山内の矢印が自分に向くまでボールをリリースしない。個人的に対人のイメージが先行していたが、きっちり運べるいい選手である。

 アンカーが空いていた川崎とはさすがに前進の頻度は異なっていたが、名古屋もチャンレを軸とした前進で敵陣に入ることができていた。敵陣まで入ればサイドで深さを作りつつ、ファーへのクロスもしくは遅れて入ってくるCHへのマイナスの折り返しからのミドルというシーンは作れていた。

 30分が過ぎた頃からは少しずつ瀬古の脇に立つ森島が空いてくる。少ないタッチで自在に展開することができる森島が空いてしまうというのは川崎にとっては好ましくはない。というわけでWGが外切りを自重し、川崎は4-5-1のようなフォーメーションで中盤の横幅を5枚で守る。WGの外切りプレスの背後のケアがなくなった分、遠野と脇坂はアンカー脇を浮遊する森島を捕まえやすくはなった。

 その分、前への圧力は低下した川崎。終盤はこの流れに乗って押し込んだ名古屋だったが、得点を奪い切ることはできず。試合は川崎が2点のリードでハーフタイムを迎える。

許容したオープンな展開で浮き彫りになる懸念

 迎えた後半。川崎は両サイドからの複数枚を使った攻撃で名古屋のゴールに迫る。前半の30分過ぎくらいから際立っていたのは川崎の山内。いつものように相手の逆を恐ろしいスピードと角度でつくボディバランスは健在。左右差がほぼないのも厄介である。左サイドからカットインからのシュートを放ったかと思えば、右サイドに出張してハーフスペースの裏を取る動きを出発点として多様な仕掛けを見せていく。

 後半もサイド攻撃で存在感を見せた山内。右サイドでの裏抜け要員と左サイドから幅を広く攻める役割をこなしつつ、輝きを見せていく。47分はその山内がいる左サイドから瀬古がクロスを上げての決定機。和泉の交代以降、家長をとにかくきっちりマークする意識を見せていた内田が、内側に進路をとった家長の動きを見誤ったことで明確なチャンスになった。

 ゴミスがいるとCBの視線はどうしてもゴミスに集まる。それを利用してファー側のWGの家長がクロスに飛び込むというのは非常に効果的なアクション。内に入っていった家長の外にはSBの橘田が飛び込む準備をしていたのもいい。

 プレッシングでは時折WGの外切りプレスがスイッチとなって高い位置から追い回すシーンもありつつ、WGが自陣まできっちりとスペースを埋めるリトリートを使い分けながら守ることを選択した川崎。前半にユンカーを抑えていたジェジエウが負傷交代したのは誤算だっただろうが、大南もまずはユンカーに競り負けない形からスタートする。

 明確なチャンスを引き寄せることができない名古屋は前線のメンバーをガラッと変更。永井と山岸を投入し、試合のテンポを変えにいく。

 名古屋の目論見通り、試合のテンポはアップ。川崎にとってはこれは良し悪しという感じ。ゴミスがオフサイドから2回ネットを揺らしたように相変わらずスペースのある中盤までボールを進めることができれば一気にゴール前まで迫ることはできていた。マルシーニョの投入もまたミドルゾーン以降からのスピードアップを促すことに一役買っていたと言えるだろう。

 良くなかった部分は自陣でプレッシャーがかかっている状態でも同じようにボールを無理に進めようとしたこと。スクランブルでハーフタイムから出場することとなった田邉は出ていくところ、チャレンジするところの判断がやや鈍っていた感がある。出ていく姿勢を見せることは悪いことではないけども、ビハインドなのかな?と思ってしまうくらい突っ込んでいくスタンスが全面に出たことにはギャップがあった。

 同じく左サイドでコンビを組む高井も苦しい体勢からの強引な縦パスからピンチを招き続けた。確かにソンリョンは上福元よりは足元の信頼を置けないかもしれないが、きっちり戻せばよりクリーンに蹴り出すことができた場面は明らかにあったはず。出ていくところの潰しきれない感も含めて、シーズン開幕の水準に戻ってしまったようなパフォーマンスだった。

 この2人とマルシーニョが組む左サイドのユニットはやや不安定で後手に回ることに。中山とのアイソレーションで田邉が悪くない対応を見せたのでなんとか踏ん張ることができてはいたが、パス交換をしているうちに誰かしらがフリーでクロスを上げることができていた。名古屋は逆サイドに山中を入れて押し込むフェーズで左右からの攻め手ができるように。クロスには永井や山岸がひたすら飛び込み続ける展開をソンリョンが凌ぐ流れとなる。

 後半AT直前の追撃弾はセットプレーから。チャンレに向けたクロスに飛び出したソンリョンにはややためらいが見られた。

 終盤は苦しい展開となったが、なんとか川崎は逃げ切りに成功。本拠地で4試合ぶりのリーグ戦の勝利を手にした。

あとがき

 前半は要所要所での試合を読む力は光ったように思う。ただ、雨というエクスキューズはあったにせよ、前半にこれだけ中盤がフリーになればもう少しスムーズにゴールに持っていってほしい。

 また従来よりは時間が短かったとはいえ、アンコンロラーブルな状況を終盤には生み出されてしまった。川崎としては乗っかって追加点は決めることはできず、終盤には追撃弾も叩き込まれた。乗るか制御するかのところで後半の試合運びを改善する余地はある。

 未勝利が止まって一安心というところだろうが、あくまでこれは一呼吸。勝ち続けるチームになるにはまだまだ足りないものが先立つなという試合だった。

試合結果

2024.6.2
J1 第17節
川崎フロンターレ 2-1 名古屋グランパス
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:5′ 18′ 家長昭博
名古屋:89’ ハ・チャンレ
主審:御厨貴文

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