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「未来の解像度」~2024.6.16 J1 第18節 ヴィッセル神戸×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

ゴミスが機能しなかった要因は?

 スーパーカップのリマッチは端的に言えば川崎にとっては試練の90分となった。どこにも勝てるところが見当たらず、川崎がやりたいことをプレスでもビルドアップでも神戸にやられてしまったということになるだろう。

 立ち上がりの局面で目立ったのは川崎のビルドアップに対して神戸でプレスでボールを奪い取るシーンである。まずはこの場面から見ていこう。川崎は4-3-3を採用。アンカーの橘田、CBのジェジエウと高井、そしてGKのソンリョンが後方のビルドアップ隊。SBの佐々木旭と大南は低い位置のサイドに張ることで幅を取る役割である。

 神戸は前からプレスにやってきた。大迫が高井、佐々木大樹がジェジエウにプレッシャーをかける。アンカーを監視する役割は井出。橘田をほぼマンツーで捕まえることをミッションとして命じられていた。

 2列目で言えば佐々木大樹と井出に関してはおそらく高い位置からプレスに来るだろうと個人的に想定していた。が、個人的に想定外だったのは大迫。高井を逃さないようにチェイシングすることで簡単に1列目の突破を許さなかった。

 佐々木旭は外に張り、遠野は前線でゴミスと繋がるために待機していた川崎の左サイド。おそらく、これは川崎としては高井のところからボールを運ぼうという算段だったはず。ソンリョンを絡めたパス回しもないこともなかったが、大迫と佐々木大樹の2枚のプレスを振り切れるほどのパス回しのスピードではなかった。

 よって、高井が1st プレスラインを超えることができなかった川崎。遠野は降りる素振りを見せない、佐々木旭も大外待機、橘田は井出に幽閉されているとなれば、バックスの次の選択肢はおそらくゴミスへのロングボールだったと予想する。しかしながら、川崎の二の矢と想定されるゴミスへのロングボールは機能しなかった。

 もっとも大きかった理由は山口の存在だろう。ゴミスへのパスコースを狙うように立ちはだかり、後方からの長いパスを手前でカットしていた。もちろん、これは神戸が山口に託していたタスクかもしれないが、山口がゴミスへのルートをカットできたのには川崎の配置にも要因がある。

 4-2-3-1の一角である山口はそのまま川崎の布陣と噛み合わせれば遠野のマーカーになる。しかしながら、この試合の遠野は前線に張ることに専念。おそらくはゴミスと繋がることを優先したポジションだったのだろう。もちろん、この遠野の動きは川崎のここまでの文脈で言えば十分に理解できる動きではあると思う。

 しかし、遠野は単独で裏に抜け出すスピードがあるわけでもないし、彼自身がロングボールのターゲットになるわけではない。基本的にはあくまでゴミスに繋がる役割として位置付けられる選手である。よって、ゴミスが機能しない限り山口はわざわざ低い位置に下がって遠野についていく必要性は低い。もし遠野めがけてボールが出てもゴミスを監視しない方のCBで対応すればいいからである。

 遠野は他に任せていい、橘田は井出が捕まえている、大迫の暗躍によって高井は1stプレスラインを超えてボールを運ぶこともないし、佐々木が内側に絞る様子もない。いわば左サイドでMFの仕事をこなす選手がいないのである。よって、山口の視点から見れば実質的にやることがない。大南のケアに扇原が出た時のスライドくらいだろう。というわけで山口は神戸の守備網における遊軍のように見えた。

 遊軍の山口がゴミスへのパスコース封鎖に専念すると川崎はグラウンダーの縦パスがグッと通りにくくなる。ゴミスを封じれば川崎はゴミスと繋がろうとする遠野も合わせて消されることになる。いわば共倒れである。そういう観点で言えばゴミスをマークすることが山口の元来の任務遂行の最短ルートだったかもしれない。

 もちろん頭を越すロブパスであれば山口のパスは超えることができるだろう。だが、バックスで唯一自由にボールを持てたソンリョンのフィードは空回り。ボールが左右にずれることでゴミスは収めることができる。ゴミスのロングボールの競り合いはまずポジションを取り、相手のCBをホールドする形が多いので、左右のズレは致命的である。ゴミスの存在感がなかった理由を聞かれたが、おそらくこれは山口という遊軍の存在と山なりフィードの精度不足が要因だろう。

適切な外切りプレスの方法

 神戸と同じく守備に回るとこちらも高い位置からプレスに行った川崎。仕組みとしては神戸と似ている。前線にプレスにいくのはゴミスと左WGの山内。WGの山内がプレスでCBの山川に対してスイッチを入れてボールを追いかけていく。

 しかしながら、このプレスはほぼうまくいかなかった。左サイドの山内を例にとってみよう。まずは1:20。このシーンでは山内のプレスを切る方向がまずい。おそらく川崎のWGは外切りのプレスを仕掛けることが設計なのだろうけども、この場面では山内は山川に正面からプレスをかけている。

 配置した時に山内のマーカーとして自然なのは本来は山川ではなく酒井。山内が山川にプレスをかけるのであれば、酒井へのパスコースを背中で消して(=外のコースを切って)プレスに行く必要がある。そのコースを消さずに山川にプレスをかけるのであれば、誰だってSBにボールをつけるだろう。山内のプレスは山川にパスを出すタイミングと方向を提示しているだけに過ぎず、神戸にとっては得しかないプレーとなっている。

 外切りの手本となるのは橘田が出場停止を受けたシーンだろう。中央へのパスコースを切っている状態で、大きく蹴る状況が難しい状態のまま外のパスコースを切って高井に寄せる武藤は山内に見習ってほしいプレーを見せた。

 4分のプレスは外から圧力をかけている。先に挙げたシーンとは異なり方向はOKである。しかしながら、山川に一つドリブルを挟まれてしまい、SBへのパスコースを作られてしまっている。

 確かにこの場面の山川はうまい。が、それで済ませるのは良くないだろう。山内がまずかったのは寄る速度である。これだけ速いスピードで相手に寄せたら、急には止まれない。ということは山川は山内が向かってくる方向と逆にステップを踏めばかわせてしまうのである。これは仮に山内が正面側から寄せていても同じ。スピードに乗ってプレスにいくのは方向転換には対応できない。

 もちろん、山川がボールを受ける前に距離を完全に詰め切れるのであれば、全力で寄せるべきである。しかしながら、ボールを完全にコントロールする時間がある状態で寄せていくことはホルダーからしたらもっとも逆を取りやすい状態とも言える。

 よくクロスを寄せきれなかった選手とかに「もっと速く寄せれば!」というコメントがあったりするが、状況次第では一発で逆を取られてしまい、逆にまずい盤面を招く場合もある。ましてや、山内のこのシーンは仮に山川にプレスが間に合わなくても得点やそれに準ずる場面にダイレクトに繋がるシーンではないので慌てて寄せる必要性がそもそも低い。

 だが、このシーンのように間に合わないのに無理に寄せて逆を取られればより危険な状態で前進を許すことになる。この試合で言えば遠野が後追いで酒井にプレスに行くせいで、扇原がとても楽にボールを持つことができていた。そうした状況を避けるため、山内は一気に寄せるのではなく、まずはきっちりSBを消してから距離をジリジリ寄せて山川の選択肢を減らした状態を作るべきである。

 このように左サイドの外切りプレスは山内のところが原因で外の酒井から簡単に運ばれるシーンが多かった。逆サイドの家長は無理にトゥーレルに寄せるシーンこそなかったが、こちらは後方の選手含めて誰がどこを消すかの役割が曖昧。おそらく、インサイドの井出を脇坂が消して、大外の初瀬を大南が見る役割だと思うのだが、まず家長が外を切るコースにたっても脇坂が井出を捕まえきれない。その影響か大南までマーカーがはっきりしない状況が連鎖。後方のジェジエウは前方の川崎の選手がどの神戸の選手を逃してくるかがわからない状態なので機能不全に陥っていた。

 外切りプレスを回避した後のメカニズムが機能していたのはむしろこの神戸の左サイドの方。右サイド側は酒井が持ち運んでもそこまで困らなかった。酒井から扇原や大迫を経由してこの左サイドに展開された方が困るという感じである。

 加えて、降りる大迫と絞る武藤への対策もはっきりしなかった川崎。降りる大迫には誰がついていくかが不明瞭であり、絞る武藤には同じく絞って佐々木旭がついていくが、反転から自由に展開を許してしまうことも多かった。特に武藤の方は絞った彼の外側にフリーランで山口か酒井が走り込むことがパターン化されており、佐々木の絞るアクションは狙い撃ちされていたと言っていいだろう。

 よって、神戸が保持でアドバンテージを得たのは以下のポイント。
1. 外切りプレス回避による酒井と扇原の解放
2. 左サイドのオフザボールの動きで先手を取り同サイドの裏にフリーマンを送り込む
3. 縦に動く大迫と横に移動する武藤で起点やスペースを作る

 裏を返せばこれらは全て川崎が保持でできなかったことである。外切りプレスを回避できずにパスを引っ掛け続けていたし、サイドにボールを運べても神戸と違って手前でギャップを作れていないから、ハーフスペースの裏に抜けるアクションも先回りして守備に封じられてしまう。前線の動きを使う以前に、彼らにボールを届けることができていない。

 先制点の場面にも上に挙げた要素は入っていた。ぜひ見返して確認してほしい。家長が外切りで寄せたにも関わらず、インサイドの扇原を脇坂も橘田もケアできておらず後手に回る。絞る武藤に対しては佐々木旭を含めて3人で寄せたが、ポストでボールを逃すことを揺らし、武藤の外側を回った酒井がフリーでクロスを上げている。そして逆サイドに動き直した武藤が押し込んでゴールである。

 神戸は決定力という点で冴えていたわけではないので、川崎の守備の不具合はかなり長い時間許してくれていた印象。それでもこれだけプレスからボックス内まで連鎖するように後手を踏んでいればいつかは失点するのは当然である。

家長の出張とゼ・ヒカルドに求められた役割

 話は前後して前半の途中に戻る。保持で川崎が立ち向かわなければいけないのはゴミスへのルートを塞ぐ山口。彼に対して仕事を与えることである。

 結果的に川崎は家長の出張でこれを解決した。本来であれば佐々木旭もしくは山内の絞るアクション、遠野の降りる動きなどから山口の手前に誰かが現れて同サイドで問題を解決することが理想である。しかしながら、20分が過ぎてもなんの対策も打てないまま時間が経過していたことを踏まえれば、家長が重い腰を上げるのは仕方ないだろう。

 このまま放っておいても改善が見られないのは間違いないのだから、左右のバランスが崩れても出て行かないよりはいい。そもそも、家長が右に張っていても手前で大南が縦を切られてアップアップになっており、ボールを家長に届けることができないのだから意味がない。守備で左右のバランスは崩れるが、左右のバランスをとっていたって好き放題前進されるのだから、家長一人どこか行っていたって今更さして影響は無いだろう。

 家長の登場で山口にマーカーの仕事が発生したことは効果覿面だった。この移動により仕事の範囲が増えるのは扇原。番人の山口がいなくなったことでアンカーの両脇にスペースが発生する。29分に遠野とゴミスにようやくライン間で受ける余裕ができたように、この時間帯は川崎が前半でもっともゴールに迫れた場面である。

 後半にゼ・ヒカルドを入れた理由は明白。山口がマーカーすべき選手役から家長を解放することだろう。低い位置で止まり、劣勢となっていたセカンドボール回収と山口の対面役の二役をこなすことがゼ・ヒカルドに求められていたことである。

 神戸が川崎の左サイドに閉じ込めるようなハイプレスで追加点を狙ってきたこともあり、川崎はかなり危うい立ち上がりになったが、ややギャンブル要素の強い脱出によってゼ・ヒカルドが神戸の薄いサイドまでボールを届けると、川崎は前進が見えるようになった。

 川崎はゼ・ヒカルドの投入によって4-2-3-1に変化。レビューを普段読んでくれている人ならわかると思うが、4-2-3-1によって懸念されることはサイド攻撃がWGとSBの二人称になるケースが多いことである。

そういう意味でゼ・ヒカルドによって解放された右サイドは物足りなかった。二人称の一人が大南ではちょっと厳しいなというのが正直なところ。持ち味である追い越す動きからフリーになってクロスを上げる動きは三人称よりも二人称の方が明らかに出しにくい。ボックスの手前からのクロスは満足いくものではなく、ボックス内の動きでは瀬川に明らかに劣る。ボールを運んだり、プレス耐性が高いわけでもない。

 先の項でも述べたようにこの日は非保持における対人でも後手。特に正対してからの横ドリブルに反応が遅れるシーンが散見されており、守備面でも持ち味が発揮できなかった一日となった。

 暑かったこともあってか、神戸は川崎の中盤にプレスをかけることなく撤退ムード。ゴミスが活用できそうなスペースを圧縮することを選んだ。よって、川崎はゼ・ヒカルドのアンカーでもゲームメイクには支障がなさそうと判断。負傷に伴う交代でCHに入った瀬古は右寄りにポジションを取り、サイドの3人目として振る舞うことが求められた。同サイドのSBに橘田がコンバートされたので、それなりに可変性がありそうな右サイドではあった。

 押し込めるようになった分、前半よりは良かったなとは思うけども、山田にはセンターにとどまって欲しかったし、大外キャラとして働ける家長は残しておきたかった感はある。そもそも、押し込むフェーズに安定してたどり着いた時にもっとも頼りたいゴミスはもう時間切れというのはなんとも切ないところ。撤退守備を容赦なく行う神戸を前に、ゴミス抜きの川崎は太刀打ちできず、逆にカウンターからピンチを山ほど迎えるという散々な展開だった。

 スーパーカップのリベンジをリーグ戦で果たした神戸。川崎はリーグ戦での連勝がないまま前半戦を終えることが確定した。

あとがき

 何も神戸に勝てるところがなかったのだから、勝てないのは妥当である。強いとか上手いとかそういう側面もそうだし、何より違ったのは次に起こる未来に対する解像度。

こっちのパスコースを制限したから次にパスが出るのはあった!とか、武藤が絞ったからその外のスペースは空くとか、保持非保持に関わらず、神戸の方が未来に起こる事象に対して起こるアプローチはきっちりしていた。決定力の部分には課題はあったが、総じてこの日の神戸のアプローチは川崎がお手本にすべきものだろう。

試合結果

2024.6.16
J1リーグ
第18節
ヴィッセル神戸 1-0 川崎フロンターレ
国立競技場
【得点者】
神戸:43′ 武藤嘉紀
主審:ダミアン・シルヴェストジャク

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