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「特番ではなくレギュラーで」~2024.6.22 J1 第19節 アルビレックス新潟×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

逃げ道のない川崎が選んだ策は?

 共に勝ち点は20。なかなかサポーターの思いに応えられずにボトムハーフに沈む両チームの対戦である。それでも直近の両チームの成績には差がある。新潟が町田、鹿島と優勝争いをしているチームに1勝1分をマークする一方で、川崎は神戸に対してなす術もなく敗れている。

 スタメンにはそうした両チームの直近の流れが表れている。新潟は怪我人復帰が叶わなかった影響もありつつ前節のリピート。川崎は橘田の出場停止に加えて、脇坂、ゴミス、山内が不在。どこまでがコンディションで、どこからがタクティカルな話なのかはわからないが、ベンチメンバーを考えると少なくとも脇坂とゴミスは何らかのトラブルではないかなと勘繰りたくなる。

 メンバーが変わったことにより、川崎には克服しなければいけない課題がある。CFに小林が入るとなればやみくもにロングボールを上げるだけではボールを収めることはまずできない。逃げる場所としてCFは機能せず、後方から時間とスペースを構築することが半ば強制的に求められている。

 しかしながら、この日の川崎のバックスはソンリョン、ジェジエウ、大南のトリオ。細かいことはともかく、とりあえず跳ね返したらぁ!というメンバーである。プレスに出てくることが予想される新潟に対して、どこまで時間を前に送るアプローチができるかが重要となる。

 そのために川崎は組み立てを整理。攻撃時は3-2-5の形となる。バックスは佐々木、大南、ジェジエウの3人。瀬川は前に入り、ビルドアップへの関与はかなり薄め。家長と入れ替わって最前線に入ることも多かった。ビルドアップ隊のサポートは山本と瀬古という2人のCHに託される格好である。

 小林、マルシーニョは前線に固定。家長も全く降りてこないわけではないが、最前線に入る役割。3CB+2CHに加えて遠野or瀬川がヘルプとして降りてくる。遠野は中央、瀬川はサイドに降りることが多かった。こうなると少し後方が重たい感じがするが、そうなった場合は山本が列を上げて人数を調整する。これでボールだけが前に行くのではなく、人も一緒に前進ができている感が出てくる。

 攻撃のルートとしてボールを受けるのはまずは右サイド。ジェジエウと瀬古or山本のどちらかが自陣に大きく引いてパス交換を行う。CHが引いて受けることは新潟のCHを自陣側に引きつけており、これは後の工程で効いてくる。ジェジエウの縦パスを受けたCH2人と降りてくるヘルプの選手を活用してフリーの選手を作る。

 基本的には前を向くまではボールを動かすことを優先していたが、瀬古は後方を向いたままマーカーを背負いつつ、強引にサイドの奥にフィードを送ることもあった。この日の収支はプラスだったが、深い位置で安定したプレーを実現するためにはもう少し前を向くことを意識した方がいいと思う。

 この工程のゴールは中央で逆サイドへの供給役を作ること。瀬古が前を向いてフリーでボールを持つこと、もしくは前の小林や家長にボールを当ててライン間に入っている遠野が前を向いてボールを持つことのどちらかが成立すれば逆サイドまで展開ができる。

 中央でフリーマンを作ることにおいて、低い位置まで島田を引っ張る意味が出ている。後方で秋山が孤立すればフィジカル的に難がある小林でも挟まれることはない。CHを自陣側に引き付けることで新潟のDF-MF間にスペースを空けることで川崎は中央で前を向く選手を作り出すことができる。

 中央でフリーマンを作ったらボールは逆サイドに展開。幅を取るマルシーニョにボールを預ける。前半のマルシーニョといえば、とにかく裏抜け連打でゴールに直線的に向かうイメージであるが、この日はサイドチェンジのターゲットとして薄いサイドでボールを受ける役割となっていた。

 サイドに張ることにこだわっている分、マルシーニョは抜き切ることができるわけではないので、ヘルプを作ることが重要である。ここで登場するのが佐々木。マルシーニョを外から追い越すことで新潟のラインを下げながらクロスを打ち込んでいく。

 佐々木の役割は非常に多岐に渡っていた。左サイドからボールを進めるときは3バックの一角としてボールを運び、小見を相手に優勢に振る舞っていた。その一方で逆サイドからボールを受ける時はマルシーニョを外から追い越す役割。CBとSBの一人二役をこなしてみせた。山本と同様にシステムを機能させるための移動を高いクオリティで行っていた選手である。

 川崎のゴールのルートをまとめると
1. 3-2-5をベースに後方でボールを動かし、新潟のCHの片方を自陣に引き付ける
2. 中央でフリーマンを作り、逆サイドに展開
3. マルシーニョと佐々木のコンビで完結

 という流れになる。

 先制点を決めた場面もまさにこの流れの踏襲。降りる選手(瀬古)でCH(秋山)を釣って新潟の中盤を前後分断。家長が前で収めて逆サイドに展開する起点として遠野をフリーに。で、佐々木とマルシーニョのコンビでゴールまで辿り着く。この日の川崎がやりたかったことが詰まっているゴールと言えるだろう。

 逆に先制点のシーンの新潟はプレスの役割がぼやけてしまった感がある。初手として谷口と奥村でどのようにジェジエウと山本を追い込むかのイメージが作れていない。谷口と鈴木で山本を挟んだところで逃してしまう!というのもなかなか苦しかった。これ以降は川崎にミスが出なければ、決定機までは持っていかれてしまうだろうなという感じであった。

誘導型の4-4-2と奪いにいくプレスの二刀流

 川崎はプレッシングでも主導権をゲット。この局面で効いていたのは何といっても小林悠だろう。4-4-2で遠野とともに最前線を務めた小林はCBに対してコースを誘導するように制限し、後方の選手たちの狙い目をくっきりさせる。1:10がその一例。小林の追い込む動きからスタートし、そのまま川崎の後方の選手は一気に同サイドに閉じ込めてボールを奪っている。

 小林の守備のいいところは無理にボールを奪いに行かないことである。もちろん、高い位置で奪い取れるならそれに越したことはないが、普通に考えればCFがCBから何度もボールを奪うなんてことは1試合でそう何回も起きることではない。むしろ、スピードを上げて奪いにいけば、前節の山内のようにその動きを利用してマークを外されてしまうことがある。山内だけでなく、山田やエリソン、マルシーニョにも同様の傾向がある。

 そういう点で小林は唯一の無二である。パスコースを誘導して後方の選手がアプローチしやすく制限をかける。可動域に限界があるものの守備で読みを効かせることができる山本はこうした守備の方が相性が良さそうである。小林は相棒の遠野の手綱を握り、前に出て行きすぎず無理な時はコンパクトなブロック構築を優先。降りる選手に対するバックスの出足も良く、新潟の前線への縦パスは佐々木や大南に潰されていた。

 それだけではなく高い位置からのプレスも機能。ハイプレスで新潟のバックスを追い込み、ミスからのカウンターであわやというシーンを作ることもできていた。

 苦しかった新潟だが打開策がないわけではない。川崎は家長の外切りプレスの背後をどのように埋めるかが曖昧。後方が瀬川と山本という守備面では気掛かりなコンビだったこともあり、堀米がフリーになることが時折あった。ただ、デンをはじめとした新潟の左サイドのユニットはこの家長周辺の歪みを使い切れた感はなかった。

 敵陣に入ることはできても川崎を振り回すことができず、外循環からのクロスがほとんど。前半の終盤はボールを持つことができた新潟だったが、32分のCKからのチャンスを除けば川崎を脅かすようなシーンはなかなか作れなかった前半だった。

CH脇から始まる綻びを見逃さなかった新潟

 迎えた後半は前半の終わりと陸続き。新潟がボールを持ちながら川崎のブロックを動かし、川崎がボールを跳ね返して反撃を行うという流れであった。

 川崎の中で役割にマイナーチェンジがあったのはマルシーニョ。前半は佐々木とのコンビ結成のため、大外でボールを引き取る役割を見せていたのだが、後半はDFラインに張る位置に立ち位置を変更。大外は遠野や佐々木、出張した家長が務めることが多くなった。

 これによりマルシーニョに託されたことは抜け切って決定機を決めることにシフトする。この試合の鬼木監督の采配は個人的には今年一番レベルで納得感があるものだったのだけども、このマルシーニョの役割変化だけは少し議論の余地があるかなという印象。きっちり相手を押し下げて攻撃の機会を削ぐことを優先するのであれば、マルシーニョはワイドに張る役割を継続した方がいいように個人的には思った。

 佐々木のSBとしての役割が重たくなったことでCBは4バック気味にシフトした川崎。大南とジェジエウが距離を取れない分、新潟はかなり前線からコンパクトに守ることができていたが、川崎はなんとかボールをつなぐ展開となる。

 展開に変化があったのは55分過ぎ。前半の途中から秋山が最終ラインに落ちることでビルドアップを安定させるようになった新潟は縦パスからレイオフで前向きの選手を作ることで徐々に攻撃を加速させることに成功する。家長周辺の堀米はフリーから縦パスの出し手となり攻撃を加速させることができていた。

 何より怪しさが出てきたのは川崎の2人のCHの脇のスペース。59分のシーンでは瀬古の脇で奥村、山本の脇で鈴木がボールを受けており、徐々に川崎は中盤の守備の網にほつれが出てくる。この辺りは前線でプレスに貢献していた小林が足を怪我してしまい、制限をかけられなくなかったことも影響しているかもしれない。

 中盤の脇でポイントを作ることができた新潟はすぐに優位をゴールに繋げる。頻繁な位置交換で縦パスのポイントを作ろうとしていた谷口と奥村の貢献により、川崎はマークを定める事ができず。谷口をつぶしに行ったジェジエウは結果的に交わされてしまい、新潟の左サイドに奥を取られてしまう。

 右サイドの守備で後手に回ったことにより、押し下げられてバタバタとした対応が続いた川崎。その流れから攻め上がってきた藤原に豪快なシュートを許してしまう。

 失点シーンの川崎のポイントとしてはやはりジェジエウが釣り出された事だろう。ジェジエウが右のCBの位置を守ることができていれば、奥村の折り返しは他の場面のようにジェジエウが跳ね返すことができていた。ただ、ジェジエウからすれば直前に山本はスペースを潰しきれなかったので、前に出て行きたくなる!というのもわかる。そういう意味で新潟が蒔いた種がきっちりと実ったシーンのように思う。

 瀬川、山本の対応の遅れが徐々に目立つ右サイドを新潟は集中的に攻撃。川崎はしばらくまずい時間帯が続くことになる。この日の川崎が良かったのは保持でもう一度巻き直そうとテンポを作り直せたことである。非保持にまわれば苦しいのは新潟側も同じな分、保持から主導権を互角なところまで引き戻せた。

 新潟も川崎と同じく終盤は高い位置にプレスに出て行くことはできず、中盤にはスペースができている。山田にとってはとても得意な展開と言えるだろう。押し込んだ局面においても大外からの佐々木のクロスは可能性を感じるものとなっていた。

 マルシーニョの戻りが目立つようになった川崎は宮城とヴェロンを投入。こうなると試合展開はさらにカオスになっていく。エネルギーは注入できたが、展開の統率は取れなくなっていく。

 明らかに不慣れな連携の川崎の守備を攻略に成功した新潟。舞行龍の攻め上がりから右サイドに穴を開け続けて川崎の守備を振り回し最後は鈴木がゴール。後半追加タイムに前に出る。川崎は瀬古周辺の連携がぐちゃぐちゃだったが、このメンバーだと同じ絵で守りきれないのは致し方ないなというのが正直な感想である。

 しかしながら、カオスな試合の最後に川崎は劇的な同点ゴールをゲット。ソンリョンからのFKを根性で繋ぎ、最後は山田が押し込んで勝ち点1を呼び込むことに成功。ギリギリで引き分けに持ち込んだ。

あとがき

 この18人でできることは全てやったと思える試合だった。特にビルドアップでの取り組みは大きな意義がある。跳ね返しに自信があるこのメンバーでこの日くらい自陣から時間に前を送ることができれば、それなりに強度と前進の安定感を両立することができる。そうなれば、メンバーさえ戻って来れば順調に勝ち点を積むことができるだろう。

 ただ、川崎は得てしてこういうパフォーマンスが続かない。個人的には多摩川クラシコ以来のいい内容だったなという感じであるが、逆に言えば勝ち負けに関わらずあの日以来はこうしたコンパクトさと時間を前に送ることの両立はできなかったということでもある。重要なのはこれを突然変異のお祭りにしないこと。3ヶ月ぶりのいい内容というのはテレビで言えばもはや特番ペースである。できれば、レギュラー放送のクオリティを安定して担保してほしいところだ。

試合結果

2024.6.22
J1リーグ
第19節
アルビレックス新潟 2-2 川崎フロンターレ
デンカビッグスワンスタジアム
【得点者】
新潟:61′ 藤原奏哉, 90+7′ 鈴木孝司
川崎:17′ マルシーニョ, 90+11′ 山田新
主審:笠原寛貴

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