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レビュー
■2トップ採用の理由は
まず、目を引いたのは徳島のスターディングメンバーである。プレビューでも述べた通り、徳島は割とレーンの使い方を大事にしているチーム。だが、この日のメンバーは一美と垣田の2トップを採用し、4-4-2で臨んできた。徳島のこの日の狙いを紐解くには、まずはこの2トップの意味を考える必要がある。
試合の頭からこの2トップを起用した狙いは見えやすかった。まずはプレッシングの局面において。2トップは川崎のCBを当然警戒するのだが、いきなり飛びつくことはしない。CHへのパスコースを利き足側から切りながらパスを外側に誘導する。SBには前を向かせずにSHが体を当てる。ここからCBやGKへのマイナスへのパスを誘発。これをプレスのスイッチとする。こうなるとソンリョンやCBはやや押し付けられた感が出てくる。
川崎はここから長いボールを蹴り、ロストするという流れに。特に新加入のマルシーニョのところがロストの温床に。体を当てて、正対させない藤田征也を前にマルシーニョは苦戦する立ち上がりとなった。
西谷がネットを揺らすもオフサイドになったシーンはまさにこの典型例。ボールを蹴らせて回収し、ショートカウンターで刺す。徳島の2トップの狙い通りの形だっただけにここは得点が欲しかったはず。
徳島の2トップの狙いはもう一つ。こちらは試合後会見でポヤトス監督がほぼ直接明言している部分。
── 先発した一美選手に与えた役割と、垣田選手との2人でどんなことを表現して欲しかったのか?
一美の役割はエリア内で力を出すところで、もう1人欲しかったので彼を起用しました。カキ(垣田選手)の動きで相手を引っ張って、その後ろで一美が動くことをイメージしていました。カキもチームを助ける動きをしてくれてチームに貢献してくれたと思います。
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/29.html
プレビューで触れた通り、徳島の問題の得点力不足。その理由は3-2-5で形が決まってしまい、ズレが作れずに個の力で打開することを強いられるからである。
垣田がサイドに流れる動きは春の時点でもアタッキングサードにおけるズレを作る手段として機能していた。しかしながら、彼をPAから動かしてしまうとゴール前にFWがいないという状況に陥ってしまう。だからこその一美との併用という試みなのだろう。垣田がサイドに流れるという状況でなお、ゴール前に人を置くことで得点を狙っていく。
特に、この試合の川崎はSBが高い位置を取ることが多かったので、垣田が流れるスペースは十分に用意されていた形。ちなみに、春の時点ではどちらかというと左サイドに流れることが多かった垣田だが、この試合では右サイドに流れることが多かった。おそらく、これは山村の方が外に引っ張り出した時の勝算があるからだろう。スピード面でも優位に立てる山村相手の方が、垣田はやりやすかったはず。
もう一つ別の視点があるとすれば、岸本の出場停止だろうか。右サイドで今季ほとんどの試合に出ていた岸本がいないことで、垣田が右の幅を使う部分を担う的な。逆サイドは大外で仕事ができる西谷がいるので、左右にバランスよく幅取り役を配置したかったのかもしれない。
まとめると2トップ採用の理由は
1. CBにプレスをかけ続けてショートカウンターを狙う
2. 垣田がサイドに流れても、エリア内にFWを用意できる
の2点に要約できる。
徳島のこの試合のビルドアップは2CBがある程度幅をとり、GKを利用しつつCHの片方と菱形を形成するやり方。プレビューでは3-2-5で来るかな?と思ったが、この形になったのは上福元がゴールマウスを守った影響も大きいかなと思う。後ろに人数をかけないことで、左サイドの西谷に福岡がフォローに行ったり、あるいは2トップをエリアに残した形でクロスを上げることができたり(16分の岩尾のクロスを一美がシュートをふかしたシーンとか)するようになってきた。
これだけ狙い通りの形も作れていたし、徳島は前半飲水タイムまでには先制点は欲しかったはずだ。
■体を張って道を開く
20分を過ぎたあたりから徐々に川崎は徳島のプレスを苦にしないようになっていく。理由としては何人かの選手が徳島の選手を背負いながらのポストができるようになってきたから。もっともこの部分で際立っていたのは知念。長いボールはほぼカカと石井に完勝で、CHに前を向く機会を与えられていたから。この試合は2ゴールに目が向く試合だろうけど、ゴールと絡んでいないシーンにおける貢献度も大きかった。彼がこの部分でもう少しできなければ、ダミアンが完全に休める展開にはならなかったかもしれない。
他にも遠野は競り合いに勝ち続けることで、インサイドに陣取る正当性を勝ち取っていた印象。旗手も同じく中盤で背負いながらプレーできる選手。これにより、脇坂や橘田など自らだけで前を向けない選手が前を向けるようになった。
こうなったことで恩恵を受けたのがマルシーニョ。中盤から前向きのパスが飛んでくることでようやく藤田と正対する機会を得ることができるようになる。
ここが先制点の決定打に。正対する機会を得たマルシーニョはスピード感抜群のドリブルでPKを奪取。早速自らの価値を証明してみせた。これを知念が沈めて川崎が先制する。
徳島が高い位置からプレスに行った理由の一つは、こうした自陣での守備の機会が増えてしまうとおそらく守りきれない公算が強かったからだろう。マルシーニョのPK奪取はやや皮肉にも徳島のこの試合の戦い方の正当性を証明しているように思えた。
ということで徳島に対してはまずは押し込む機会を得ることが大事。この点において山根も貢献度は十分。遠野が絞ったスペースに流れてガラ空きの右サイドから押し返すことで、川崎は波状攻撃の機会を得る。2得点目はこの山根のオーバーラップから。得点場面は山根を使った陣地稼ぎに加えて、橘田の回収、旗手のターン、そして脇坂のミドルなどいいところの詰め合わせでもあった。
ちなみに、この試合の川崎で気になった部分はIHがサイドの攻撃の手助けに行く機会が少なかったことがある。考えられる原因としてはCHユニットのネガトラ強度が普段より弱く、あまり動きたくなかったのか。あるいはWGとSBの縦関係で崩せるので、出ていく必要がないと考えたのか。ちょっとここから先の試合で注視していきたい部分だ。
川崎の2点目が入る前に徳島は噛みつき返す。長いボールを受けた一美がジェジエウをかわしてシュートを突き刺す。川崎に対して徳島のリーグ戦初めての得点であり、一美自身の移籍後初ゴールでもある記念すべきゴールとなった。
川崎視点でこのゴールを見てみると、ジェジエウがこの試合やや不安定なパフォーマンスだったことは気になる部分。この試合でいうと、風に左右された部分はあったが、それを差し引いてもややパフォーマンスが不安定。もともと使いづめするとパフォーマンスは落ちるタイプなので、使い続けざるを得ないこの状況はしんどいところ。川崎がCBのターンオーバーに気を遣っているのはこのジェジエウの性質によるところもあるように思う。
■雨漏り対応に追われる
後半、川崎は守備の部分を修正する。4-4-2気味で旗手がやや前に押し出すような形に変形。加えて、マルシーニョの位置を下げて左サイドの深めの位置を守ることになる。前半はマルシーニョが自由奔放なプレスを仕掛けていたことで登里がめちゃめちゃハードな思いをしていたので、そのための修正だろう。マルシーニョ自体の位置を下げるのに加えて、同サイドのCHがSBが出ていったスペースをフォローしやすくなるための二重の修正策だと思う。
逆に徳島はやや後半はプレスの強度が落ちたのが目についた。1stプレスがかからないケースが増えた分、中盤がボールホルダーを捕まえるのが遅れる場面が見られるようになった。元々徳島は最終ラインの押し上げはそこまでできていないので、川崎はライン間で受けて自在に運べることで、川崎が敵陣に進めるケースは増えていた。
そして、川崎はCKから追加点。上福元がハイボール対応に不安がある感じなのは前半のCKで分かっていた部分。それだけになんとかCKを与える機会を減らしたいところだったが、この場面では石井が知念をフリーにしてしまい、なす術がなかった。
だが、ここからは先は徳島が徐々に盛り返してくる。キーになったのは選手交代の部分。デビュー戦となったバケンガは中央で体を張って戦えるし、ロスト後の即時奪回の部分での貢献度は高かった。
左サイドに入ったジエゴは高い位置を取ることで反撃の一手に。さらには小西、藤田譲留チマ、渡井など攻撃的なMFを続々投入したことで曖昧なポジションを入れ替わりながら取ることができるようになったことも大きかった。
述べたようにこの日は川崎のIHが外に出ない分、SBが高い位置を取る機会が多かった。徳島が狙いを定めたのは川崎の右サイドバックの裏。77分のシーンは山根が戻るのが遅れたところを小西、西谷、藤田でジェジエウを引っ張り出しながら突っついた。岩尾も含めて、誰がどこに顔を出すかが読めないので川崎の面々、特に同サイドのCHである塚川は混乱気味。次々発生する雨漏りに対応しているかような立ち回りになった。
ゴール前のところでは徳島の精度に助けられた。ただ、徳島の選手たちは休みが十分にもかかわらず、あまりにも足をつったり痛めたりする選手が多かったので、ちょっとこの日のプランはそもそも負荷が高かった感もある。
終盤は苦しみながらもなんとか逃げ切った川崎。ACLとルヴァンカップ敗退の再起のきっかけを掴むための貴重な勝利を挙げた。
あとがき
■得点を取れるオプションは装備できた
4-4-2でのハイプレスも、終盤のレーンを意識しながら攻撃的MFを多く配置するやり方もそれぞれメリットを活かして川崎を追い詰められたことは徳島にとっては大きい。特に得点が取れた一美と垣田の併用は今後も出てくるか気になる部分。バケンガも含めて、どう点を取るかから逆算しなければいけない状況だけに残留争いに向けた舵取りが気になる部分である。
■4-2-3-1の熟成は必要
ACL敗退後、背中に横浜FMの足音を感じながらの一戦で勝ち切ったのは大きい。個人に目を向ければ知念の90分間の頼もしさは光った。おそらく鹿島戦はダミアンなんだろうが、似たような役割を鹿島相手に課した場合にどれくらいできるのかは純粋に気になった。ミドルが決まらなかった脇坂、新加入でいきなり結果をだしたマルシーニョなど個人の上積みが多い試合となった。
気になるのは塚川。徳島は割と複雑なやり方で混乱させられた部分はあるので、ある程度仕方ない部分もあるかもしれないが、4-2-3-1でクローズをするにはもう少し連携面を高めたいところ。シミッチと並び立つユニットが完成すれば、一つの武器になるだけにプレータイムを徐々に増やしつつ、完成度を高めていきたい部分だ。
今日のオススメ
2点目の直前の旗手のターン。本調子ではないだろうが、中盤での力強いキープや反転はここ数試合の川崎になかった要素。復帰は心強い。
試合結果
2021.9.18
明治安田生命 J1リーグ 第29節
徳島ヴォルティス 1-3 川崎フロンターレ
鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアム
【得点者】
徳島:38′ 一美和成
川崎:35′(PK) 52′ 知念慶,42′ 脇坂泰斗
主審:荒木友輔