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「押し下げる手段の独立性」~2024.6.29 J1 第21節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島 レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

根性第一主義の前進

 連戦を固定メンバー色の強いスタメンで過ごしている広島。今節も前節の新潟戦からの入れ替えはソティリウ→ヴィエイラの1枚だけ入れ替えるスターターとなった。

 一方で新潟戦と湘南戦という2つの試合をメンバーを入れ替えながら戦った川崎。この試合でも各ポジションを前節から入れ替えての勝負となった。

そうした中で目につくのは2試合連続の家長の不在である。プレビューにも書いた通り、今の広島に家長は相当刺さる可能性があった。というわけで立ち上がりは川崎は家長不在の前線のメンバー構成とどのように向き合うかが求められることとなる。

 まずは川崎の保持時の構成から見ていこう。ベースは4-2-3-1。ここは前節と一緒。少し特徴があるのはWGの振る舞い。絞って前線に張るマルシーニョとサイドの低い位置に下がる遠野の両サイドはアシンメトリーな役割を担っているのはこの試合のポイントの1つである。

広島の非保持はソティリウが川崎のバックラインに制限をかけつつ、大橋と加藤が川崎のCHを監視する。人基準で守る広島だが明確なマンツーではなく移動が多ければ受け渡すケースも多い。後方でマーカーを受け取る役割をしていたのは松本であった。

受け渡しが生じる分、不具合が出るパターンも。1:10の瀬古が浮くあたりなどは加藤と松本が揃って橘田に向かってしまっており、マークの受け渡しが失敗している。

 さて、先に述べた家長不在の川崎の前線の方向性が見えるのに時間はかからなかった。15秒で山田が数的不利の局面で敵陣に突っ込んでいくのを見る限り、根性で数的不利の状況をなんとかするのが仕事。山田とマルシーニョはこのミッションを託されたと言えるだろう。

 自陣からの保持でも川崎はかなり縦に急ぐ素振りが見られた。特に狙っていたのは左のハーフスペース。バックラインでボールを持つ高井は前に出てくる意識の高い松本の背後を狙うようにひたすら松本の背後の左のハーフスペースにパスを差し込んでいた。

 とにかく2トップに預けていってこい!作戦の効果は微妙なところ。2:40の場面では完全に脇坂も瀬古も橘田も遠野も自陣にいたので、山田と2人で残りをなんとかしてこい!という感じであった。こういう場面では2人がなんとかしなければいけない。

 マルシーニョは前に張っていたが、縦パスが抜けられるほど強くなかったり、あるいはマルシーニョにらスピードアップされないように間合いを開けて守られたりなどで対応された感があった。そのため、一見惜しそうに見えても、決定的にゴールに迫る場面はあまりなかった。広島からすれば完全に抜け出されなければ怖くはない!という感じなのだろうなと思う。

 山田はいつかの知念よろしく、縦横無尽に動き回りながら前線の起点として効いていた。序盤は収める前にカットされるなど怪しいロストもあったが、徐々にきっちり収めることができるようになっていたし、落としもできるようになっていた。ただ、試合後コメントで自ら述べている通り、独力でゴールに向かう動きが見せられなかったことは本人にとっては物足りないのかもしれない。広島のCB相手に収めて反転して加速できるようならば、それはもう超人な感じもするけども。

 ただ、広島はマルシーニョにしても山田にしても高い位置からガツンととって攻撃に転じることができる場面は少なかった。まずは背後に行かせないことを優先する分、ずるずると下がらされてしまい、結果的に川崎の攻め上がりを許すことで人数をかけた攻撃を受ける場面もあった。とはいえ、そうした場面も広島は川崎の攻撃に対して人数を揃えることができていたのだけれども。

 そうしたふわふわした状況で川崎は先制点を奪う。佐々木旭のボール奪取から始まったこのゴールも特に川崎は前に人を揃えられているわけではない場面だった。

広島の反省点としてはDFラインのスライドの遅れだろう。ロスト時に塩谷が前にいた分、中野が佐々木旭にスライドすることができれば、止まって仕掛け直さなければいけなかった場面だろう。クロス対応で広島が後手に回ったところで川崎は瀬古のミドルからのディフレクトをマルシーニョが押し込んで先制する。

 構造的にとてもうまく行っているわけではなく、それでも広島がズルズル下がって対応しきれないうちに、後方の選手が上がってきて攻撃をなんとか完結させるというやり方は前半の川崎の攻撃でそれなりに見た。そういう意味では前線の根性でなんとかした感があった。

 より、早い段階で中盤の選手が関わるように工夫ができれば良かったように思う。たとえば、脇坂が縦パスのレシーブ役として存在感を発揮して、山田とマルシーニョはもう1つ奥で勝負をさせるとか。あるいは、ファン・ウェルメスケルケンの横へのドリブルなどを活かして、後方から広くビルドアップしながらボールと共に敵陣に入っていくとか。それでも川崎はだんだん脇坂、遠野、瀬古あたりをセカンドボール回収要員で使うことで前に当てるなど、構造を合理的な方向に持っていこうという工夫は見えた感じはした。

 総じて、悪くはない。けども、構造の優位を作って楽にプレーしようとする痕跡はほぼなく、根性が全面に押し出された川崎の前半だったと言えるだろう。

ズレを防ぐと根性感が増す

 まず、広島の保持について前提としておきたいのは川崎に自陣までボールを運ばれることが多く、なかなかいいリズムで攻撃をスタートできなかったこと。高井を追い込んだ大橋からの立ち上がりのショートカウンターを除けば、広島は押し込まれた状態から始まることが多かった。

 広島の3バックに対して、川崎のプレスは4-4-2。2トップの脇坂と山田はアンカー的に振る舞う東をケアしつつ、バックラインにプレスに行く係となっていた。

 広島のバックラインの保持のキーマンになっていたのは中野。左右に広げる対角パスとインサイドに差し込むライン間への楔の使い分けが冴えていて、前進の助けになっていた。

 サイド攻撃からボックス内に迫っていくという広島のコンセプトは左右で出来にバラつきがあった。左の大外を任されたWBの満田は中野によって1on1ができる場面もあったが、なかなかここでボックス内に迫るための一手を見出すことができなかった。

 一方の右サイドは大外の新井が対面のマルシーニョを外して敵陣に迫ることができるかが鍵になる。マルシーニョを置き去りしたまま新井が敵陣まで攻め込むことができれば大橋との連携からサイドの深い位置に入り込むことができていた。マルシーニョは前に残って塩谷を気にしたり、新井にべったりとして5バックかのような対応をしたりなど左サイドの決まり事はその時々でまちまち。強いていえば、得点以降は5バック気味に下がる場面が多くなった。ちなみに逆サイドも遠野がサボった瞬間で同じようにズレを作られている。左右差は川崎の両SHのポジション設定に起因しているのかもしれない。

 マルシーニョが後方に下がるのであれば、塩谷がボールを簡単に持つ場面が増える。彼がボールを運ぶところから攻撃の出口を探っていく。ちなみに広島の失点シーンは塩谷の保持でのキャリーがひっくり返されたところからであった。

 広島の前半の攻撃は右サイドでズレを作り切れるかどうか。左サイドで不発だった満田が東とのポジションチェンジで右サイドに登場してから保持が整ったというのは興味深い。

 マルシーニョが自陣側に押し込まれる状況が増えた川崎は山田の根性によってなんとかする感がより強くなる。山田自身の根性は時間経過とともに冴え渡っていたが、それはそれとして構造的には川崎は前に出ていく逆風が吹いている状況になる。

「トータルで言いますと前半の点を取った後からボールをもっともっと握らなくてはいけないと思っていました。」という鬼木監督の試合後コメント踏まえると、前線の根性頼みになるという状況はまずかったということだろう。

 44:30の佐々木のロングキックは全体が押しあがっていないし、山田も2枚に囲まれていて抜け出すのはほぼノーチャンス。こういうボールが増えると、押し下げるのは難しい。40:40のように中盤が関与できても、マルシーニョが一つ前のポジションを意識できないところで詰まったりなど、チャンス構築の質はまだまだ低い。

 この前半を一言で言い表すのは難しいけども、人とボールを前進させつつチャンスを構築するというミッションは達成できていなかったし、不思議と優勢に進めた前半をうまくリードで折り返すことができたなという感じであった。そういう意味では新潟戦や湘南戦よりもより盤面を握れなかった前半だったということができるだろう。

「追加点を取る」と「押し下げる」は別物

 迎えた後半、展開としては前半の頭と近い流れ。自陣で引き寄せてビルドアップをする川崎が広島のプレスと正面からぶち当たる関係性。5分で川崎がロングキックを蹴り出すのも前半と同じである。

 ハーフタイムで選手交代に動いた広島は保持でのテコ入れを行う。ヴィエイラを下げて、中盤に中島を投入。満田は左シャドーに入るという玉突きポジションチェンジを行った。

中島は保持を安定させる目的での投入だろう。中盤でのボールロストが目立った前半に比べれば、中島が入ったことにより盤面は整えることができたし、この試合の広島の攻撃の肝である右サイドのズレを作るタメを生み出すことができていた。効果的な交代だったと言えるだろう。

 川崎は左サイドに人数をかけながら裏を取ることを狙っていた。この左サイドの狙い自体は悪くはないかなという感じではあったが、逆サイドでの崩しに可能性を感じない分展開は苦しかった感がある。家長不在の右サイドは誰もいないことが多く、基準がないことが悪影響になっている感があった。

 「家長がいない分、枷が外れて輝いている選手が多かった」というご意見が質問箱に届いていた。確かに基準がない分、枷は外れていたかもしれないが、いて欲しい時に誰もいてくれないし、人がいてもクリーンにサイドを抜け出せないしで、前半から自由さが裏目にで続けているなという印象だった。遠野が脇坂と均質的なインサイドよりのセカンドストライカー寄りのタスクを与えられていたことも影響しているだろうが、家長不在時に押し下げるというミッションについては完全にこの試合の川崎は失敗したと言っていいだろう。

 というわけでマルシーニョ、山田という前線根性部隊がいなくなった川崎は徐々に前進の安定性が低下。小林や宮城のような別部隊が入っても川崎は行ってこい!を繰り返していた。

 70分前後の川崎を見ていると「追加点を取りにいく」と「押し下げて攻撃を行う」という並列に並べられる要素に対するコミット感がなかった。「押し下げて攻撃を行う」ということは特にある程度時間が経っているリードしている局面においては、得点をとりにいくこと距離が遠くても遂行する意義がある要素ではあるが、行ってこい!が染みついた川崎は攻撃をやることにフォーカスし、全体を押し上げてゆったりと攻撃することを試みなかった。

 前者の「追加点をとりに行く」という要素に関しては根性部隊の2人がいなくなったことで執行力が低下。姿勢は見えたが、画を書くのがなかなかしんどそうな状況となっていた。広島はこの時間帯中盤が間延びしており、川崎同様あまりいい時間を過ごせていたとは言えなかったことを踏まえれば、もう一山作りたいなというのが正直なところだった。

 このままウダウダな状態になって困るのはビハインドの広島の方。WBに満田、越道、アンカーに中島、IHにマルコス、エゼキエウ、2トップにソティリウと大橋という目の眩むようなファイアーフォーメーションを採用。交代選手それぞれのプレーも含めて、あまりうまく行っていたようには思えなかったが、時間を作れない川崎を押し下げることには成功する。

 すると、広島は横のレーン移動で川崎の3センターを外した満田のミドルで同点に。大島が横断を阻害できずに逆を取られてしまったのがずれたところから。それでも5バックに移行していた川崎はジェジエウが素早くシュートブロックにいくが、逆にこれが跳ね返りのきっかけになってしまった。正直、この辺りは押し込まれた際に発生する税金のようなものなので仕方ない部分もあるように思う。川崎の先制点もディクレクションだったし。

 ジェジエウを前線にあげて4バックに再び移行する川崎。終了間際には数的優位の局面を迎えていたが、小林は宮城にラストパスを出さなかったことで、決定機を訪れることなかった。

 試合はまたしてもドロー決着。マルシーニョの連続ゴールを勝ちに結びつけられなかったのはこれで3試合連続となる。

あとがき

 前節から指摘している前半の内容のさらなるブラッシュアップはできなかったという結論だろう。前線の根性頼みで新潟戦や湘南戦に比べても人とボールを同じように前に送ることはできなかった。もっともこれは相手がある話なので仕方のないところではあるけども。

 選手交代の話をすれば、まずはマルシーニョと山田を同時に交代できなかったことが大きかった。広島はかなり前に偏ったパワープレーを仕掛けてきた。二段階の選手交代で対応できればもっと楽だったと思う。ジェジエウに不安があることを考えれば、あまり早い時間に交代カードを切ることも考えにくかったので、時間帯的にも回数的にもこれでかなり幅は狭まったように思えた。

 広島のファイヤーへの対応策は「自陣でのブロック強化+少人数でその背後を壊す攻撃」のコンボ。広島の選手交代は川崎にこの2つを両立するように迫っているようなものであった。その上で川崎はいかに保持で押し下げて広島に前進のコストを払わせる上乗せができるかである。

 ブロックに関してはそれなりにやれた気もしないでもないが、3センターが間を通されたり、背中を使われたりなど危ないシーンもちらほらだったので微妙なところ。少人数で背後を壊す攻撃は碌にできないまま、押し上げることは完全に蔑ろにされた格好だった。

 追加点をとりに行くというミッションは大事ではある。そして、多くの手段はこの得点を取るという目的をすり替わってはいけない。いわゆる目的の手段化である。だが、ある時点から相手を押し下げて時間を使うことは得点とは独立した価値を持つこともある。その意味合いを意識しないまま追加点という亡霊に取り憑かれていたのがこの日の後半の川崎だったと言えるだろう。

試合結果

2024.6.29
J1 第21節
川崎フロンターレ 1-1 サンフレッチェ広島
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:23′ マルシーニョ
広島:88′ 満田誠
主審:今村義朗

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