プレビュー記事
レビュー
大島による地産地消の課題解決
立ち上がりはC大阪が高い位置から川崎にプレスをかけていくスタート。レオ・セアラ、上門の2人が川崎の中央の選手たちに片側のサイドに誘導するようにプレスをかけて狭く守る形に持っていく。
狭い場所に追い込まれた川崎。3分までに左右どちらのサイドでもあっさりとハメられた感があり、低い位置でボールを捨てることを余儀なくされるシーンが見られた。
だが、C大阪のプレスは特に枚数を揃えるほど前がかりではなく、前の4枚の二度追いが中心でなりたっている。よって、川崎はボールを動かしているうちにフリーやプレスの緩い選手を見つけることができる。そうした選手が見つかればあっさりと状況をひっくり返すことができる。瀬古→マルシーニョへの展開から脇坂が開始早々の決定機を迎えた場面が実例にあたる。
というわけで序盤の川崎の保持は後方でボール回しの最中にフリーの選手を作れるかどうかがポイントになる立ち上がりだった。序盤はC大阪のプレスが優勢だったが、時間の経過と共にC大阪のFW-MF間で川崎のCHコンビがフリーになることが多くなっていくという展開だった。背後の脇坂を見るべきか、前の大島と瀬古を気にするべきかの奥埜の迷いがFW-MF間のギャップを生んだように思えた。
瀬古と大島がこの状況をうまく活かせたかどうかという評価はその人のサッカー観によるとしか言いようがない。この2人、特に瀬古のコンセプトはフリーになったら相手を固定するアクションがないまま、すぐに大きな展開でボールを逃がすという形であった。
こうしたプレーの選択は個人的にはあまり好きではない。なぜならば、全体を押し上げる助けにならないからである。相手に影響を与えることを無視して、まずは長いパスという選択が許容されるのは少なくともパスを出した後、1,2手以内にゴールが見えるシーンくらいである。なお、FWのポストを前提としたロングボールはまた別枠。基本的には前向きのベクトルを出してやり切りたい意思が見えるシーンにおける話だ。
この日の瀬古のプレーで言えば、16分のエリソンへのフィードは抜け切れればGKとの1on1もしくはDFとの1対1を制すればシュートまで持っていけるという公算が強いためやる意義はなくはない。しかしながら7:30の橘田へのパスは明らかに問題。前方がフリーにもかかわらず、リリースが早すぎる。瀬古からパスを受けた橘田が見える選択肢は実質マルシーニョ一択。だが、この場面ではマルシーニョにつながっても、C大阪のバックスの戻りが早くあまり明確なチャンスにはなっていなかった。
瀬古の改良点を挙げるとすれば田中のところ。せめてマルシーニョが受けた段階で田中が戻れていないのであれば、もう少し状況は川崎に傾く。であるならば、瀬古は橘田にパスを出すタイミングを遅らせるべきだった。ボールを受けたらドリブルをして、田中の方に向かい彼の足を止める。そうなったときにはじめて橘田にボールを渡す。これができれば田中の戻りはいくばくか遅れる。
まず裏を見るという行為は確かに状況をひっくり返すチャンスではある。マルシーニョというスピード的な優位が取れるアタッカーがいればなおさらである。しかしながら、そのままゴールに直行できない状況であれば、相手の帰陣も当然早くなる。
試合の序盤でまず裏を見るのは理解ができる。相手に裏を警戒させれば、手前がうまく使えるからである。だが、この日のように裏への戻りを警戒したC大阪に対して、自分の前に運べるスペースがあるにも関わらず、ボールを前に進められないのであれば、そこには伸びしろがない。この日の瀬古は相手を見て逆を取るボールコントロールでフリーになることができていただけに、その先でもったいないプレーが続いたのが残念だった。
瀬古に比べると、大島は左右に散らしながら味方を押し上げて前進することができており、この点では磐田戦から改善が見られたなと感じた。しかしながら、大島の問題点は他のところにある。
先に挙げた瀬古→橘田のシーンで運ばなかった実際のケースと瀬古が運んだ想定のケースを比べてみると、瀬古のボールを運ぶ意義の1つは橘田を押し上げられることにあることがわかる。後者にはマルシーニョにボールが渡った後に、橘田がボールに絡みやすいメリットがある。
大島の散らすプレーにも同様の効果があるといえるだろう。しかしながら、問題点として指摘したいのは大島自身が押し上げるアクションができないこと。おそらく、出て行った方がいいのはわかっているけどもフィジカル的に難しいのだろう。例えば、13分のエリソンのファーへのクロスはセカンド回収を見据えて、大島にはバイタル付近にいてほしかった。39分過ぎのファン・ウェルメスケルケンがボールを持っている時ももう数m前の立ち位置にいてほしい感がある。
4-2-3-1は4-3-3と比較すると、構造的には前方のサポートがショートする傾向が強い。そのため、時間を後方から作りながらCHが前方と後方をつなげる役割をしなければいけない。大島と瀬古はそれぞれ異なる切り口でそのつなぎ目としての役割ができず、川崎の攻撃は前後分断することとなった。
もっとも、大島には前後分断してもできることがあった。マルシーニョとのホットラインである。特に先制ゴール以降、大島はマルシーニョへの裏パスからチャンスを構築。裏へのダイレクトなパスは「パスを出した後、1,2手以内にゴールが見えるシーン」に明らかに該当するため、当然チャレンジする意義もある。
横からパスを受けて少ないタッチで前に蹴るモーションは相手にとっては対応が難しく、実質固定の一種と定義していいだろう。マルシーニョの動き出しを見逃さない視野と少ないタッチで前に正確なパスをコントロールしやすい球質で落とせる技術は見事。特に後者ができるのであれば、大島が起用される際の懸念は1つ取り除かれることとなる。
その一方で見逃せないのはこうした大島の輝かしい場面からのチャンスメイクはCHが間延びさせた川崎の攻撃の組織を何とかするための苦肉の策であるということ。先制点以降、瀬古は最終ラインに降りてバックスの枚数を増やす動きにこだわっていたし、大島もそれに釣られるように低い重心でプレーすることも。6-0-4のような分断の仕方をすることすらあった。
大島のパスはスペシャルではあるのだけども、C大阪はマルシーニョの裏抜けを確実に気にしていたし、そこを利用すればもっと全体を押し上げて厚みのある攻撃を構築することはできたはず。得点シーンのようにライン間の脇坂を使ったり、左右に動かしながら薄いサイドからのクロスにチャレンジしたりということと使い分けることができれば、個人的には終盤戦の戦い方ももっと違ったのかなと思ったりする。
ルーカス×橘田のマッチアップを連打しなかった理由
C大阪の保持についてみていこう。立ち上がりのルーカス・フェルナンデスへの対角パスは川崎にとって脅威であった。橘田にとってルーカスとのマッチアップはルーカスが札幌時代に厚別で完敗を喫している。川崎とC大阪のこの試合のメンバー表を見た時に真っ先によぎったのは橘田のサイドから大外を突っつかれる恐怖である。
しかしながら、C大阪は大外をルーカスに任せて突っつくということはあまりしてこなかった。なぜかという仮説を自分なりに考えていきたい。C大阪の目下の問題は登里、毎熊、香川がいなくなってから前と後ろをつなぐパイプ役がいなくなったことである。その結果、川崎と同じく前後が分断してしまうという難点が発生している。
川崎の4-4-2のプレスは良くもなく悪くもなくという感じであった。エリソン-脇坂の前の2人は少し前よりであり、おそらく彼らが管理すべきアンカーの田中にフリーでボールを簡単に受けられてしまう場面もあった。
だが、田中とつながれる選手はパッと見た感じではいない。よって、田中はとりあえず前に蹴っていくことで川崎のDFラインにつっかける。川崎からするとC大阪は手前を作らずに奥を取りにいくので、後ろにフォーカスするのはそれなりに簡単!という状況であった。
結果的に前半の内に田中を助けるということに関して可能性を感じられたのは21分手前のルーカスや27分手前のレオ・セアラ(この場面ではついていった佐々木の守備がスーパーだった)など、前の選手が思いっきり中盤に降りるケースだった。要はこれが大外ルーカスを連打できなかったC大阪側の事情である。
下がって受けるルーカスの外を回る奥田という関係性で右サイドをなんとか成り立たせていたが、大外の突破という意味では奥田はやはり力が足りていない感があった。
降りて受ける前線によって前後分断を抑制することの問題点は大きく2つで、1つはすでに述べたように本来求められるアタッキングサードでの役割が薄れてしまうこと。もう1つは前線の面々が色気を見せてなるべく高い位置でボールを受けようとすると、川崎の前に回られてインターセプトされてしまうことであった。
佐々木と橘田は特にC大阪が降りる選手へのケアはこの時間帯では十分にできていた。そのため、C大阪の前線がカットされないためには田中に近い位置まできっちり降りて川崎のバックスのマークを外す必要がある。
相手の管理を外すことを怠るとC大阪は一気にカウンターを受ける危険性が出てくる。川崎の得点シーンがその一例である。インターセプトした佐々木はそのままドリブルでキャリー。この動きが中盤で田中に足止めを食らわせて、ライン間への脇坂へのルートを開拓している。このシーンで佐々木が優秀だったのはボールを奪う役割と相手の中盤をフリーズさせて攻撃を成立させる役割を一連のプレーで両立させたことである。
前後分断前提で多くのチャンスを構築していた川崎が前半に唯一決めた得点が佐々木の前後をつないだプレーからというのは個人的にはどこか示唆的なものを感じる。
川崎のプレスの引き際
後半のこの試合の主軸となるのはC大阪が前後分断を解決するためのトライアンドエラーの物語である。前半の課題は前後分断を前線の選手を下ろして解決しようすると、ミスをした時に得点シーンのようなカウンターを食らいやすい状況になること。そして、大外にルーカスを置けないなど前線の選手がもっともやってほしいタスクから離れてしまうことの2つがある。
初手としてC大阪は柴山を投入し、SBの奥田を保持時に絞らせて、田中のサポート役にすることで3-2-5を形成する。確かにこの形であれば大外のカピシャーバとルーカスはある程度固定しやすい。
ただ、おそらくはこの3-2-5はあまり準備が入念にされている形ではないのかなと。後半の川崎は4-4-2を維持したまま、枚数的に不利な状況でC大阪のバックスにプレスをかけていく形ではあったが、それなりに中盤より手前でひっかけることができていた。前にボールをつける機会が限られているのであれば、C大阪の前の5枚はそもそも機能しない。
それが分かったところで小菊監督は次の一手を取る。奥田に代えて平野を中盤に入れることで異なる形での3-2-5を模索する。DFラインと中盤を行き来するのは田中で中盤に固定されるのは平野。今までは田中を誰がサポートするかを模索していたが、次は平野を田中が動きながらサポートする役割となった。
この交代で少しずつC大阪は保持での主導権を握る。ここまで述べているようにこの試合の川崎はFW-MF間の守備をコンパクトにできているわけではないし、数的にはどこかしらが必ず余るような枚数でしかプレスをかけていない。
ポジショニングと前を向いて散らすことに長けている平野の登場によって、川崎のプレスは怪しくなってくる。前半にC大阪のCHが出ていくか迷ったように、今度は平野に対して川崎のCHが出ていくか迷うようになる。
その後に投入されたブエノはクリティカルだった。平野-田中ユニットの登場で後方のサポートは不要そうなので、より前でスペースに対してアタックできるブエノを入れれば得点を取るところに迫れるという判断だろう。
川崎からするとプレスの押し引きの判断は難しい展開。前半に効いていたマルシーニョ行ってこい作戦は大島の交代による出し手の不在とC大阪の後方が3枚固定になったことで数的優位の状況で対応できることになったことで威力が半減していた。
鬼木監督は「後半は散らしながら押し返したかった」とコメントしていたが、言葉とは裏腹にその痕跡が見られるのは列を上げてルーカスの背後を取っていた橘田くらいで、ほかはポンポン前に蹴っていた。よって、先制点における佐々木や後半頭の展開を踏まえると、川崎がこの試合で人数をかけて効果的な攻撃を打てる唯一の手段はボール奪取からのカウンターだった。だからこそそれをやめてコンパクトな4-4-2にするのは難しい。
とはいえ、75分のブエノへのフィードが出た時点で川崎はプレスを店じまいし、脇坂と山田のトップはC大阪の中盤に守備の基準を移すべきであった。後出しやんけ!と思うかもしれないが、このシーンはリアルタイムで見ていて「まずいな」と感じた部分である。
しかしながら、飲水タイムを挟んだにも関わらず、この修正はなされないまま失点を喫してしまう。大南と高井がセアラ相手に被ったのはエラーではあるが、そもそも高井がああいう出て行き方をした時は遅らせられないまま彼の穴を使われるというのはよくある話である。そういうギャンブルのような守備を追うわけでもなくハイプレスに出ているでもない展開でする必要があったのかは相当疑問である。
特に瀬古はセアラへの縦パスのチェック(舩木には脇坂が右からコースを切っている上に、小林が外からカピシャーバを切っているのでセアラへの縦パスを予測するのは難しくなさそうな局面)と出て行った高井に代わる最終ラインのカバーの局面でこの場面を救うチャンスがあった。
バックスのカバーはできたらファインプレーの部類かもしれないが、セアラへの縦パスのチェックに関してはこの流れの川崎のCHにとってもっとも求められる行動に位置付けていいレベル。瀬古の動きもまた失点に大きくかかわるエラーといえるだろう。
以降はオープンな展開に。川崎にとって頭が痛いのは右サイド。試合直後には瀬川のクロスに関しての批判が多かったが、結局のところこの試合で右サイドを務めた山田、小林、大南あたりはみな相手を止めることなく、走った状態で「届いたらいいな・・・」という状況でしかクロスを上げることができていない。
この辺りは家長の不在はあるのかなと。もちろん、彼を使う上でのデメリットも普通にあるから、序列を下げていろんなテストをするのはわかるのだけども、この日出番がなかった遠野も含めて、家長抜きの現有戦力で右サイドの攻撃を形にするのはちょっと難しいかなというイメージを強めた試合になった。結局、2点目もどきのシーンも家長のいるサイド起点だった。右サイドはクロスの精度とか以前に止まってもう一工夫するという手段がないことに失望する終盤だった。
オープンな展開はどちらも制することはできないまま試合は終了。またしても川崎はマルシーニョのゴールを追いつかれる形で勝ち点を落とすこととなった。
あとがき
川崎とC大阪はどちらも前後分断していた感があるが、その状態に対する向き合い方が違ったなという感じであった。川崎は大島のスキルでごまかすこと、C大阪は選手交代を重ねて前後分断を改善するためのトライアンドエラーを繰り返すことで状況に立ち向かっていた。
川崎に関しては、おそらく試合後の選手の複数のコメントを読む限りは徹底して裏を狙うというのは、例えミスが増えたとしてもプラン通りということなのだろう。だとすれば、そもそものプランには疑問が残る。
前後分断を90分間許容できるほど体力のあるスカッドではない。初めから行ったり来たりをしたいのであれば、マルシーニョと同じようなランナーはもう1人欲しいし、家長や山本や大島などタメや足元スキルに特化した中盤は少なくとも減らすべきだし、SBに上がってナンボの攻撃力なんて必要はない。跳ね返して前に送れるストッパー型を優先すべきである。
よって、今のスカッドに照らし合わせた反省をするのであれば、全体を押し上げて攻撃が成立しそうな時間帯に保持で押し込むルートの模索を早い時間から怠るべきではないということだろう。そこをサボるから移動がきつく固定メンバー気味のC大阪に対してもバテ感が強い終盤を迎えるのだ。
「マルシーニョを残しておけば」というのはこの試合の展開だけを考えれば確かにわからなくはない。けども、前半に比べれば抜け出しのクリーンさは明らかに減少していたし、試合単位で見れば奥田よりもうまくマルシーニョに対応できるSBはそこらへんにゴロゴロいる。正直、これだけマルシーニョが止まった状態で優位を取れるSBは近頃では珍しい部類だろう。
それ1つでリーグを制圧できるわけでもないのに、飛び道具をメインストリームのように扱っていることが問題である。マルシーニョの抜け出しはそれ自体でゴールを脅かし続けるのではなく、フリにして間延びしたライン間を使った前進をするような活用の仕方ができないと、先がないように思えてしまう。なので、この試合の反省が縦に速い形で追加点が獲れなかったことに収束するのであれば、自分の中では不安が募る。
C大阪に関しては問題点に対する修正の意図は見えやすかったので、そこに関してはストレスなくこの試合を見ることができた。特に平野とブエノの2人の役割はクリティカルに川崎に対して効いていたように思う。ただし、毎熊の夏移籍、登里の離脱の2つのファクターは正直予見可能だったので、今になってプランBを模索しているという時間軸は問題視するサポーターもいるのかなとは思った。
気になったのは奥田。前半は大外で勝負、後半はアンカーサポートを分業しながら毎熊ロールを経験していた。どちらも同時に高いクオリティでやりましょうという毎熊道はどう見ても修羅の道だけども、成功すればSBとしてのキャリアが変わる最短ルートでもあるので、今後小菊監督が奥田にどのような役回りを与えていくのかは気になったところである。
おまけとして小林のノーゴール判定に関してコメントをするならば、ラインアウトに関しては明確なアングルが見えないけども、おそらく出ていただろうという肌感覚。APPに関してはどのリーグを見ていても、明確なAPPの線引きを経験則的に把握できないし、APPを定義する文言からイメージされる状況をこの場面が大きく逸脱しているとは思わない。Jリーグの他の判例を見た有識者がこの場面だけが大きく基準を外しているわけではないとコメントもしている。よって、ラインアウトの有無と遡ってのチェックの両面で審判団の判定を支持したい。
試合結果
2024.7.14
J1 第23節
川崎フロンターレ 1-1 セレッソ大阪
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:36′ マルシーニョ
広島:77′ ブエノ
主審:木村博之