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「チャレンジャーを孤独にしない」~2024.8.7 J1 第25節 川崎フロンターレ×ヴィッセル神戸 レビュー

プレビュー記事

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レビュー

圧縮させてからの脱出が機能

 後半戦のスタートは神戸との一戦から。川崎に課されたミッションは今季初のリーグ戦連勝と13年ぶりとなる神戸戦のシーズンダブルの回避である。

 立ち上がりは長いボールを使いながら様子見する両軍。長いボールといえばより攻撃の中枢に据えているのは神戸の方。立ち上がりに右サイドに駆け上がった菊池から空中戦を仕掛けるなど積極的にボールを入れていく。

 川崎もこれに対して右サイドの家長の抜け出しに合わせる形で対抗。アップテンポな立ち上がりとなった。

 前半は総じて拮抗した展開だったとは思うが、どちらかといえばペースを握っていたのは川崎だろう。国立での前回の神戸との対戦は自陣からのビルドアップがまるで機能していなかったが、今回は抵抗することができていた。よくなったと感じた点を1つずつ見ていこう。

 まずはシステムの話を少しだけ。前回対戦では4-3-3がベースになっており、プレビューにも書いた通り中盤に余った山口がゴミスへのパスコースを待ち構える門番の仕事に専念できる状況にしてしまったのが川崎のエラーの1つである。

 その国立での試合ではゼ・ヒカルドを投入し、対面の山口に手前で仕事を作りやすい4-2-3-1にすることでライン間のスペースを空けることができた。川崎ファンにとっては承知の通り、最近の川崎は専ら4-2-3-1ベースのため、井手口や扇原といったCHには後方を気にするだけでなく大島や橘田を監視する役割も担う必要があった。

 というわけで、川崎からすれば神戸の中盤を釣ることは前回対戦よりもやりやすい状況。自陣でクリーンにつなぐことができれば背後のスペースに縦パスを入れることができそうな状況である。よって、川崎にとってはクリーンに1列目を越えるかができるかが大事となる。

 神戸のプレスは後方から枚数を強引に合わせることはしないが、同サイドに圧縮するようにスペースを消しに来るアクションには積極的。例えば、川崎の右サイドにボールがある状態であれば、大迫は橘田を消すようにプレスバックを行い、川崎を片側サイドに圧縮しようとしてくる。

 神戸のプレスを回避するには彼らのプレスを同サイドに集約したうえでそこから脱出ができるかが大事なファクターとなる。その点で想像よりも機能したのは右サイド。中でもファン・ウェルメスケルケンの動きはプレス回避に相当効いていた。

 ボールを受けた後、インサイドにコースを取る方向性が神戸相手にハマったのが大きかった。武藤は縦を切る意識が高かった(後方の家長と初瀬のマッチアップを気にしてのことかもしれない)が、異なるコースを取ることでルートを切り拓くことができていた。

 9分手前の場面を例に見てみよう。ファン・ウェルメスケルケンがインサイドにつっかけに行くことで橘田を捕まえにプレスバックした大迫の動きがフリーズ。逆サイドの佐々木旭のカットに専念する。これによって、橘田を解放することができた。

 実際のシーンではファン・ウェルメスケルケンからボールを受けた橘田が前に向く動きからファウルを得るが、おそらくはファン・ウェルメスケルケン自身がリターンを受けても脱出は可能だったはず。

 脱出のきっかけをつくることが多かったのはファン・ウェルメスケルケンだったが、周辺の選手たちのリアクションも良好だった。大南はファン・ウェルメスケルケンを使うだけでなく、縦パスのルートが空けばライン間の脇坂や裏や外の家長、もしくは対角の三浦へのフィードを飛ばすなど多様な組み立てを披露。先に述べた橘田のようにCH陣も神戸のプレッシャーを感じつつも駆け引きをしながら前進する素振りを見せていた。

 逆サイドの佐々木旭は単独で持ち上がりつつ、列を上げたマルシーニョや三浦にパスを入れることでクリーンに前進をするケースが多かった。こちらのサイドは後方を佐々木旭に丸投げでOKだったので、全体の重心が高止まりしやすかったのが特徴である。

三浦と脇坂が支える佐々木のチャレンジ

 左右ともにビルドアップは良好。ライン間では脇坂が縦パスのレシーバーとなり、アタッキングサードでの解決策探しをするケースが川崎は増えてくる。

 しかしながら、敵陣に入ってからの攻撃には停滞感があった。大島はアタッキングサードにおいて広く幅を使いながら攻める司令塔的な役割を果たしていたが、サイド攻撃の3人目として走りこみながらのプレーだと無理が効かない感を露呈してしまう。4-2-3-1で3人以上のサイドアタックを仕掛けるならCHがこの仕事をサボるわけにはいかないので、やるっきゃない!のだけども。

 もっとも、大島の状態自体は少しずつ上がってきているのかなと思う。少ないタッチでのプレーの安定感もここ数年の中ではトップクラスに出てきているし、距離のあるキックにもパワーを感じる。リハビリがうまくいきつつあるのかなと思う。大島は45-60分のプレータイムでしばらくは問題ない(この日は展開が向いたので長かったけど)と思うので、このプレータイムの中で質を上げる作業に注力してほしいなと個人的には思う。

 マルシーニョ、三浦の縦関係であれば、左サイドは大島が3人目として働けなくてもなんとかなりそうではあるが、菊池と山川のスライドを前になかなかスピード面で優位に立てず。押し上げの良好さとは裏腹に決めに行くという点でこちらのサイドは物足りなかった。

 右サイドも決め手不足という結論は同じなのだけども、プロセスは少し違う。人数をかけつつ、表と裏の駆け引きを繰り返すことはできていた。ただし、神戸のサイドの守備がCHを動員しながら同数で合わせるようについてくる。特に裏に抜ける動きに関してはタイトにマークをしていた。

 川崎からすれば、裏抜けを囮にCHが本来いたスペース(上の図参照)を活用できればいいのだが、神戸は佐々木大樹のプレスバックで穴が空きそうなスペースを手当。ファン・ウェルメスケルケンが時折フリーでの侵入に成功していたが、ファーのクロスは菊池という壁に跳ね返されていた。

 相手を動かすということに関してはできていた右サイド。だが、ついてくることを徹底していた神戸に対して、身長的にミスマッチなファーのクロスだけではなかなか得点までつながらない展開が続くことになる。

 神戸の前進は3-2-5がベース。菊池は明確に大外レーンというわけではないのだけども、ビルドアップへの関与は少なめで、高い位置に出て行くことを優先していた。

 川崎は前回対戦と比べても無理なプレスは少なめ。プレスをかけられたら蹴られてしまうのはわかっているし、WGが出て行けば背後を使われるのは前回の対戦で学んだ様子であった。

 大迫へのロングボールに対しては大南と佐々木旭はどちらもよく対応していたといえるだろう。ロングボールを収めるタイミングできっちり相手にコンタクトをしつつ、ファウルを受けない線引きもばっちり。簡単に起点を作らせない。

 当然、大迫なのでボールを受けるために上下に駆け引きをする。この日の大迫の相手をCBに任せるのであれば、最終ラインの連動は重要になる。

 そういう意味では13分手前の三浦の絞るアクションも地味ながらとてもよかった。佐々木旭が下がって受けるための大迫に出て行った分、インサイドに絞ったポジションを取ることでボールをカットすることに成功している。

 また、佐々木旭がすれ違うように釣りだされてしまった16分のシーンはかなりやばい状況だったが、脇坂のプレスバックで事なきを得ている。こうした出て行ったときやすれ違われた時のバックアップがしっかりしていれば、佐々木旭も再び大迫にチャレンジしやすくなるという好循環を生み出すことができる。

 左サイドでは佐々木大樹や武藤が裏抜けを織り交ぜながらロングボールを引き出していたが、大南とファン・ウェルメスケルケンはこちらも冷静に対応。バック4はとてもクレバーに神戸のロングボールに向き合っていた。

 川崎がやられたら嫌だなと感じたパターンは相手から見て中央もしくは右でタメを作られて、左に大きく振られて、家長が戻り遅れたところをフリーの初瀬がクロスを上げるという形。だが、そうした場面は限定的だったし、そうなりそうであっても同サイドの武藤はあまり初瀬を使わずに自分でやり切りたいプレーが多かったので、あまり初瀬が活きる場面はなかった。

 逆サイドの飯野と菊池はやや攻撃が直線的すぎるように思えた。3分のシーンのように神戸の右サイドは時折抜け出す形からクロスまでもっていくことができるのだけど、タメを作ることができないまま進んでいくので、全体を押し上げることができない。

 神戸のサイドからのクロスの威力は逆サイドWGの絞りや中盤からの飛び出しによる枚数によって担保されている。だが、先に挙げた3分の場面ではクロスのターゲットは武藤しかいない。中盤に降りる大迫すらボックスに間に合っていないので、神戸のフィニッシュの形から逆算して考えるとこの右サイドの攻撃はいささか急ぎ過ぎのように思えた。

 というわけで神戸も川崎のバックスを崩す場面を多く作れない展開。そうした中で飯野がシミュレーションで警告を受けて神戸が10人になるという大きなターニングポイントがハーフタイム前に発生するという展開になった。

数的不利に陥った影響は?

 少ない人数で攻撃を完結できるという点では10人へのスケールダウンは何とかなりそうな神戸。しかしながら、前半を見てわかる通り、神戸のサイドの守備は人海戦術がベースになっている。特に川崎の右サイド側は2トップの一角である佐々木大樹を動員してまで人員を確保している。同じことを10人でやろうとすれば、サイドのケアをするのは大迫の役回りになる。

 だが、大迫に自陣のサイドの守備のタスクを背負わせてしまえばボールを持った後の預け先がなくなってしまうのは明白。よって、神戸は4-4ブロックで守り、大迫を一番前に置くことを選択する。ボールを奪ったら攻めあがれる人数で行ってこい!という攻め方。かなり手前からとっととボックスにクロスを入れる武藤からは前半と事情が変わった感を強く感じた。

 というわけで川崎は前半に比べて神戸の守りが手薄になった自軍右サイドからのクロスが上げやすい状況を確保する。大外にポイントを作りつつ、ハーフスペースの裏とペナ角付近のスペースを使い分けながら、前半よりもマーカーを外しながらクロスを上げることができるようになる。

 だが、神戸はボックス内の対空性能が強固。マルシーニョの飛び込む意識の高さは大事なのだけども、対面が菊池ではなかなかアドバンテージを取ることができない。

 DFをサイドにスライドさせるようなズレ方ができればいいのだけども、それができたのは家長がトゥーレルをぶっちぎったところくらいだろう。大島と家長を軸に左右から攻め手を探る川崎だが、なかなか数的優位をゴール前の攻略につなげるというところは苦戦をした。

 そういう展開だったからこそセットプレーでの先制点は大きかった。高さ的にアドバンテージを全く取れていないので、CKからは工夫をしないと難しいかなと思ったのだが、トゥーレルがかぶったことにより、家長がフリーで落ち着いて押し込むことに成功。11人の川崎が試合を動かす。

 すると、その直後にトゥーレルが退場になり神戸は9人に。こうなると、事態はさらに川崎に有利になる。そのはずなのだけども、なぜかしばらくは自陣で守るフェーズに突入する川崎。さすがにクロスは枚数的に落ち着いて跳ね返すことはできていたけども、割と好きに攻めてこい!みたいな時間帯となった。

 さらには保持に回っても川崎のバタバタは止まらず。わざわざ狭いところに突っ込んでいってはボールをあっさりと失うことで神戸からリズムを取り返せない。だが、家長がパスミスをしたところからボールを取り返して追加点のトリガーになるのだから、サッカーは難しい。三浦から山田へのクロスは見事ではあったが、最終局面だけを切り取ればまるで同数のカウンター完結であった。

 この2点目の試合への影響は甚大。神戸は大迫を下げるなど週末に向けて完全に切り替えるための運用に舵を切ったし、残されたメンバーもこれ以上失点しないことを重視するスタンスとなった。

 川崎はサイドからサイドに展開すれば多少時間はかかっても相手のバックスを裸にすることはできたので、こうなるともうビルドアップがとかの話は存在しないも同点。普通の状況であればU字ポゼッションになってしまうパスでもサイドから有効打を放つことができる状況になる。

 そうした中で生まれた3点目は中央をかち割った山田の裏抜けから。抜け出して左足で仕留めたゴールで今季の2桁ゴールに王手をかけた。

 後半戦のスタートは意外な展開からのワンサイド決着。退場者によって追い込まれた神戸相手に川崎が試合をコントロールしながら勝ち点3を手にした。

あとがき

 飯野のシミュレーションもトゥーレルの一発退場も川崎が神戸を何らかの形で追い込んで引き起こした事象ではないので、相手が人数を減らしたことはそれぞれの判定の正誤に関わらずラッキーだなと思った。連戦の頭なので展開に恵まれながら3ポイントを積めたことはとても大きい。

 その分、明らかに試合の負荷は下がったのでプレビューで述べたような後半戦に向けて現在地を測るような試合にはならなかった。押し込んだ際のブロックを崩し切るフェーズをやり切る前に難易度が下がってしまったし、90分のプランの持続性に関してはこの試合はほぼ不問だったといっていい。判断するには材料が足りていない。

 それでも国立で神戸と対峙した時に比べれば内容はよくなっている。不用意なプレスによる穴の空け方は減ったし、ビルドアップでプレスを回避することもできている。そうしたプレーで食らいついていけたからこそ、転がり込んできた勝利のチャンスをモノにできたともいえるだろう。

 中でもロングボール対応は抜群だった。佐々木旭自身の対人ももちろんなのだけども、三浦の絞りだとか脇坂のプレスバックとかそういう出て行く人に対してのカバーをする意識が周りに見られたのが良かったと思う。

 CBが持ち場から出て行って潰すという行為は極端な話、10回成功しても1回ミスって穴を開けてしまえばそれが決勝点につながることもある。実際に失敗につながると、無理をせずに潰しにいかない選択をした結果、起点を作ることを許すことは増えるだろう。だが、脇坂や三浦のように佐々木旭が出て行った後を周りでカバーすることができれば、チャレンジはより奨励されるものになる。

 今の川崎にはかつてほど対人で無類の強さを誇るスーパーなCBはいない。だからこそ、出て行くチャレンジをするDFを一人にしてはいけない。このサイクルを回すことができれば、谷口とジェジエウがいなくても川崎は守備でまだまだ踏ん張れるチームになれると思う。

試合結果

2024.8.7
J1 第25節
川崎フロンターレ 3-0 ヴィッセル神戸
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:57‘ 家長昭博, 71’ 85‘ 山田新
主審:笠原寛貴

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