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「何のための設計か」~2024.8.11 J1 第26節 FC東京×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

FC東京はチャンスを多く作ったのか?

 2年ぶりに味の素スタジアムで行われる多摩川クラシコ。今季初の連勝を決めた川崎にとっては勢いを止めたくない一戦。9人相手にインテンシティを落とした展開となった4日前のスターターをほぼリピートしたことからも前節の流れを止めないようにしたい意図が伺える。

 立ち上がりはロングボールの応酬で様子見となった展開。そうした中で立ち上がりに明確な崩しの形を提示したのはFC東京であった。FC東京が狙い撃ちしたのは自陣から見て右サイド。おそらくは潰しの可動域に限界がある大島がCHに入るからという理由での狙い撃ちだろう。

 右サイドの攻撃のコンセプトはとにかく枚数をかけること。2トップがいずれもサイドに流れ、主にオリベイラが中盤に競りかけることでマークを乱して、右サイドでアウトナンバーを作り出し、抜け出した選手からDFとGKの間に速いクロスを上げて、ファーで詰めて決める。これがFC東京の攻撃の設計である。クロスに対してはファーの遠藤がメインターゲットになっており、サポート役(仲川か安斎が多かった)が遠藤より内側でクロスに合わせるか潰れる役をこなす。

 FC東京がこの形から放ったゴール前へのボールは人によってはチャンスと言えるものなのかもしれないが、個人的にはあまりゴールの予感がする形ではないなと思った。

 一番大きいのは右サイドの抜け出しがそこまでクリーンではないことだ。4分にニアに入り込んだ遠藤のシュートを例に考えよう。ここはぜひ映像を見ながら。確かにシュート次第ではゴールが生まれうるシーンではあったと思う。ただし、遠藤はゴールと角度がついている方向にかなり強度の高いダッシュをして速いクロスに合わせてシュートを打ってる。これだと、ソンリョンの位置は把握できないし、下手したらゴールに対してどの角度で打っているかも認知できないだろう。

 となると「チャンスは作れている」としていいのかが疑問である。シューターとなる遠藤はソンリョンやゴールの位置を把握したほうがシュートが決まる確率は上がるし、全力ダッシュでボールにミートせずともシュートできたほうがゴールは決まりやすいが、そこをサポートできる状況は作り出せていない。

 サイドからの抜け出しがよりクリーンで遠藤が全くプレッシャーを受けない状態でシュートを打てるならば「チャンスは作れている」という評価は妥当だと思う。だが、この試合ではファーが構える遠藤は多くの場合、ファン・ウェルメスケルケンに体を寄せられており、クリーンな状態でシュートを打てていなかった。11分手前のクロスに合わせるシーンは一番外せていそうだったが、これはニアで潰れる仲川がオフサイド。抜け出しとインサイドのタイミングが合っていない。

 6分の遠藤からの左サイドのクロスも同じ。クロスに合わせた安斎に対してボールがやや速く入ってしまったが、おそらくより遅いボールであればソンリョンがニアでカットできるはず。フワッとファーに流せばクロス自体は通るが三浦のカバーが間に合ってしまう。

 FC東京のサイドからのブレイクはほぼ全てこの形で集約されていると思う。サイドに枚数をかけた分、抜け出しまではいける。けども、クロスのターゲットがマーカーを外すことができておらず、解なしだったりあるいは合わせる難易度がとても高いクロスを放り込む形が続いていた。

 個人的にはマイナスの選択肢を用意すべきだったと思う。FC東京のクロスはGK-DFの間に速いクロスを入れる以外の選択肢が全くなく、フィニッシュの設計がガチガチ。「フィニッシュの設計がある」というのはいいこととされがちだけども、FC東京はフィニッシャーまでが単一ルートであり、川崎もそれがわかっているので、サイドから破られた後も最後のクロスが入ってくる場所に関してはある程度途中から慣れて対応することができていた。

 分岐がなくルートとしては択一というのは守る側としては絞りやすい。なので、それであればシューターはフリーになるというところまで持っていきたい。CHも右サイドに流れているので、おそらくはマイナスの選択肢を用意できなかった設計だったという方が正しいと思うのだけども、ゴールまでのルートを一択に突き詰めている割にはあまり効かなかったなというのが正直な感想だった。結局のところ、何のために設計するのかといったらシューターをより楽に打たせるためだと思うので、遠藤が寄せられている状況でしかシュートの状況を作れなかったのはチャンスメイクとしては不十分だったと思う。

 そういう意味では川崎のゴールは対照的であった。2得点目が顕著なのだが、サイドからボックス内に揺さぶりをかけられているわけではないけども、CBに挟まれているはずの山田がほぼフリーでシュートを打つことができている。サイドでの崩しは設計できていなくても、シューターが自由を得られていれば、難しいコースにシュートを打つことができる。ファン・ウェルメスケルケンのクロスも山田のフィニッシュも見事ではあったが、遠藤に比べれば楽な状況でシュートを打つことができたことが大きい。さすがにFC東京のCBはもう少し圧をかけたかった。

 1点目も川崎が構造的に動かせていないのは同じ。マルシーニョが駆け引きで右足でコントロールする隙を作り、ファーの山田が駆け引きから徳元を相手にフリーでヘディングを決めている。体の向きとしてはゴールから離れているので、難易度はかなり高めではあるが、プレッシャーはあまりかかっていない状況であった。マルシーニョに対峙した土肥は縦への仕掛けに滑ってしまったのが痛恨。左足で縦に行かせる分にはマルシーニョは質の伴わないクロスを入れることが多いし、野澤はクロスカットをするのが結構うまいので、切り返しをされて右足を使わせてしまったのは痛恨だった。

 構造的にサイドを外すことができているが、フィニッシャーにプレッシャーをかけられてしまったFC東京とサイドで相手を外してボックス内に揺さぶりをかけることはできなかったが、シューターが簡単にシュートを打つことができた川崎。両チームの攻撃は対照的だったし、結局のところ設計はシューターをフリーにするためのものだと思うので、そういう点で攻撃を相手に効かせることができたのは2点目までだけの流れを見ても個人的には川崎の方だったと思う。

狙うはプレス誘引→擬似カウンター

 得点は明らかに川崎の面々に対してポジティブな影響を与えた。この日の川崎は大島、橘田といったCH陣が最終ラインに落ちるなど、まずは一旦相手のプレスを外して落ち着かせるためのポゼッションをすることが多かった。

 この選択肢において大事なのは相手をプレスに引き出してひっくり返すためのきっかけを作ることができるかどうかである。押し込むところまでは行っても、途中でスローダウンしてブロック守備を壊していくことが求められるようになると、ゴミスなしでは未だに川崎は解を見つけることができていない。

 ところが2つのゴールがあれば、この構図は少し変化する。まず、FC東京はボールを奪う必要性が高まるので、前に出てくる。よって、川崎にとっては相手を剥がすチャンスが高まることになる。川崎はマイナスのパスでバックラインにプレスの矢印を向けさせつつ、ドリブルで相手のプレスの矢印をへし折るのがとてもうまかった。

 特に佐々木と高井の両CBは見事であった。ファウルを誘発するように入れ替わるのも見事だし、佐々木がボックス突入したシーンではオリベイラがついてきたので、仮にクロスを上げるところまで行けなくても相手のカウンターの起点を消す意義があった。

 全体のバランスとしても家長などが降りて保持を整える場面もあったが、列の上げ直しができていたので問題はなし。脇坂、大島、橘田にしても列を下げた後にもう一度上げ直すアクションを連続的に行えていたので、ビルドアップに人数をかけても後ろが重くなっていなかった。

 もっとも、仮に前の人数が足りていなくても2点のリードがあるのであれば、押し下げること自体が正解になりうるという側面もある。なので、仮にビルドアップでのフィニッシュまでが連続していなくてもブロック守備を手数をかけて構築していく形でも川崎としては問題はなかった。

 なので、川崎的には相手を引きつけつつFC東京の中盤を引き出して間延びしたDF-MF間にパスを打ち込むことができれば理想。いわゆる、相手のプレスを誘引して後方にスペースを作り、擬似のカウンターが打てるような状況を作り出せる状況を作る。27分の佐々木→マルシーニョのパスもそうだし、前半追加タイムの佐々木→家長のパスもである。

 ただし、川崎としては2点のリードがあるので、仮にこの擬似カウンターが刺さらずに押し込んでも問題はない。そうしたセーフティネットを持ちながら、チャレンジをするということが川崎はできていた。大島はこの辺りの舵取りは万全だったし、ホルダーのマーカーの背中を取りながらポジションをこまめに変えてフリーになることができていたため、かなり前を向いてボールを受ける機会も多かった。ホルダーの背中をとるオフザボールの動きは中盤の選手に備えてほしいスキルでもある。

 非保持でも川崎はペースを掴み直した。一向にFC東京はサイドの抜け出しからマイナスの折り返しを使う様子がなかった。そのため、バイタルの守備はある程度後回しにしてサイドの枚数を合わせてOKと判断したのだろう。大島、橘田、脇坂のうちから2枚がサイドに流れてこちらもサイド封鎖に枚数をかける。相手が枚数をかけたところに鏡で合わせるようにこちらも枚数をかける。バイタルはボールサイドの逆側のSHである家長が埋めるシーンもあるため、CHがボールサイドにスライドすることはチームとして共有済みと考えられるだろう。

 このように対策をすることでFC東京はサイドからクリーンに脱出する機会が減った。左サイドから攻めるルートを開通させようとしており、こちらの方が低い位置でのオリベイラの仕事が少なく、ボックス内で勝負を仕掛けられそうだったので、右サイドからの設計よりもベターだったかもしれない。

カウンターと前線の起点で無理なく反撃

 前半にゴールを決めることができなかったFC東京。HTに荒木を投入し、保持からゆったりと解決策を探っていく。荒木の役割は縦横無尽に動き回り、川崎にマーカーを受け渡させて混乱を引き起こすことである。

 カラーは少し違うが、前半にオリベイラが担っていた役割と近い。荒木の場合は背負うよりも狭いスペースで前を向くことに長けているので、フリーになるのは自分。かつ前を向ければそこから裏にラストパスを送ることができる。

 前半に感じたFC東京の課題は「オリベイラを動かしてしまいすぎることでフィニッシャーとして活用できない」ことと「仕上げのルートが右サイドのワンパターンのみ」なことというものだったので、ライン間の荒木の登場は理に適っていたように思う。ただし、相変わらず外循環からの仕掛けはGK-DF付近への速いクロス一辺倒だったし、繋ぎの局面では勿体無いパスミスが増えていたので、荒木の投入から一気にFC東京がペースを握るということはなかった。

 川崎はカウンターベースでの反撃が出てくるように。51分のマルシーニョがボールを持ちながら大島をどのように使おうか考えていたカウンターは「出し手と受け手が逆ならな」と思ったが、彼や交代で入った遠野のスピード、そして右に流れる山田には簡単にボールを預けることができたので、川崎はお手軽な陣地回復を実現できていた。

 後方での急ぐところとゆったり進めるところのコントロールもさすが。試合のテンポを制御しつつ更なる得点を狙うことを両立できていたといっていいだろう。川崎は終盤に交代した選手たちが空回り気味だったのは気になるところであるが、セットプレーから3点目を決めて試合としては勝負有りだった。

 FC東京は終盤に小柏が自ら抜け出してのシュートチャンスや、囮となって遠藤の決定機を作るなど、オフザボールの動きが非常に効いていた。個人的にはこの時間帯が一番FC東京が手応えがある攻撃ができていたように思った。

 しかしながら、ソンリョンのシュートストップをはじめとして三浦、佐々木、高井などバックスのハイパフォーマンスが目立った川崎がシャットアウトに成功。2試合連続の3連勝でトップハーフへの復帰に成功した。

あとがき

 山田が最後のところで違いを作り出していたので展開としてはかなり楽だった。逆に言えば、最後のところのギャップを作らなくてもゴールを生み出すことができたので、アタッキングサードのブロック攻略というところで進歩が見られているかはよくわからなかったりする。毎節山田がこれくらい違いを作れるならば話は別だけど。まぁ、負けている時期でも先制点は取れていたから、先制点を展開の優位に結びつけられるようになったことを考えればそれだけで十分なのかもしれない。

試合結果

2024.8.11
J1リーグ
第26節
FC東京 0-3 川崎フロンターレ
味の素スタジアム
【得点者】
川崎:14′ 20′ 山田新, 72′ 高井幸大
主審:西村雄一

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