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「山場の手前の静けさ」~2024.3.4 プレミアリーグ 第27節 シェフィールド・ユナイテッド×アーセナル レビュー

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レビュー

2人いることに意味を持たせられるか

 今季のシェフィールド・ユナイテッドのすべてのリーグ戦を見てきたプレミアリーグ全部見るマンの端くれとして考えれば、今のアーセナル相手に勝ち点を取れる可能性は相当低いと考える。だが、「さすがに大丈夫だろう」というカードを落としてしまうチームは数多く見てきたし、ひいきであればその心配も増幅する。

 端的に言えばこの日のアーセナルは「大丈夫だろうけどちょっと心配」という多くのファンが持っていた感情をあっという間に吹き飛ばしてしまうパフォーマンスだった。90分間完全にアーセナルペースの試合だったと断言してもいい内容だった。

 立ち上がりのブレイズのフォーメーションは4-5-1。アーセナルのバックラインにはプレスをかける素振りは見せない。よって、試合はアーセナルの保持でスタートする。

 いつもレビューを読んでくれる人にはすでに飽きている話かもしれないが、4バックのリトリートベースで今のアーセナルと戦うときはまずは大外のWGに対してどのような対応を取るかがキーになる。ブレイズの対応方法としてはシンプルに大外はSBがケアする。そして、2列目からヘルプに出ていく形で最終ラインに落ちて5枚の形を作るという方法だった。

 左サイドはSHのハーマーが下がってトラスティの背後を埋めるイメージ。右サイドはアンカーのソウザがポケットを埋める形になっている。サカに対してダブルチームをつけない対戦相手はたまにあるし、そうしたチームがこのブレイズのように縦関係で2人がケアするイメージになることもある。

 問題となるのは2人で守る意味をどこに持たせるかである。非常に雑に分類するのであれば、ボールを持ったサカがドリブルをするとしたら選択肢は縦に行くか横に行くかの2択。よって、2人いる非保持側はその両方を切るために分担をしたい。

 サカに寄せているのはトラスティ一人ではある。だが、どうやっても抜く瞬間にはボールコントロールは大きくなるはずなので、そのタイミングで後方から寄せれば、実質2方向をケアできる。よってトラスティの仕事は抜かれる方向をある程度予測できる守り方をするということになる。

 だとすればトラスティが取らなければいけないのは縦を切る形。横を空けてこの部分はハーマーに寄せさせるという構図を作らなければいけない。だが、実際のところは立ち上がりのワンツーのシーンに代表されるようにトラスティは平気でサカに縦に抜けさせてしまった。こうなると、そもそも2人で守る意味があまりない。プレビューで触れたブレイズの守備の脆さは図解しにくいというのはこういうところの駆け引きがあまりうまくないからである。

IHとアンカーの配置によるスタイルの違い

 逆に言えば、アーセナルはサイド攻撃における駆け引きで完全にブレイズを上回った。先制点の場面はサイドに人数をかけながらの攻勢で、ブレイズの受け渡しがファジーになるようなオフザボールの動きからレシーバーが時間を作り、インサイドではハヴァーツの裏に忍んだウーデゴールが先制点を仕留めるという構図だった。

 ズレのきっかけに大外からインサイドに入ったマルティネッリとライスが2人同じハーフスペースに立ったこと。大外と後方でキヴィオルとガブリエウがそれぞれマークを引き付けるとハーフスペースに立つマルティネッリとライスはボーグルが1人で管理する形になる。

 こうなれば、どちらか1人はズレを作ることができる。5レーンの話をするときはそれぞれのレーン分けが前提になることが多いのだけども、このシーンはあえて重なることで守備側に迷いを与える形。リバプールで言えばジョタがCFに入るときはこの動きからズレを作るのがめっちゃ得意である。

 このゴールのポイントを一般化した話をすればアーセナルの攻撃のポイントは「サイドに人数をかけていること(=レーンを入れ替わったり重なったりする十分な人員を送り込めること)」と「ボックス内にクロスの受け手を複数用意していること」の2つに集約することができている。

 この2つの条件を達成するために関連する事象として述べておきたいのはビルドアップの陣形とIHとアンカーの人選である。今季のアーセナルは多くの試合でどちらかのSBがインサイドに絞ってアンカーの脇に人を置く3-2型でビルドアップを行っていた。

 しかし、ニューカッスルとブレイズと対戦したこの2試合、SB及びウーデゴールはほぼビルドアップのサポートに入っていない。プレス隊に人数をかけるチームではなく、リトリートでの4-5-1の陣形を組むというのがこの2つのチームの共通点である。

 プレスに圧力をかけてこないチームに対してはそもそもビルドアップに人数を割く必要がない。よって、SBもウーデゴールもジョルジーニョの隣に立つ必要はなく、前での仕事に専念できる。ホワイトがアタッキングサードでの存在感を増しているのは本人のコンディションもあるだろうが、こうした仕組みが絡む部分も大きいだろう。

 サイドの抜け出しに対してはボールサイドではないIH(ウーデゴールorライス)とCF(ハヴァーツ)の2人がクロスに入り込む形で待ち構える。この動きを求めるのであればIHはジョルジーニョではなくライスとするのが妥当だろう。立ち上がりのハイプレス攻勢もライスの方が迫力は出るし、逆にSBとウーデゴールのサポートがない状態でアンカー位置からゲームメイクを託すならライスよりジョルジーニョの方が適任といえる。

 ではジョルジーニョとライスの役割が逆だったリバプール戦はどのような戦い方だったか。リバプールはそもそも前からのプレスをかけてくるチーム。逆に言えば、前からのプレスをバラしてしまえば、前方には自動的にスペースができる相手。よって、狙ったのは先制点のように手数をかけて相手と駆け引きをするために、IHにジョルジーニョを置きつつ、ジンチェンコと組ませてスモールスペースの攻略に傾倒した形である。

 リードを奪った後の守備もミドルゾーンに構える4-4-2でのコンパクトなブロックがベース。IHには広い範囲での迎撃よりも前線の動きに伴ったプレスの連動が求められる。ポイントは行動範囲よりも判断になる。より、無理が効くライスをプレス隊として使うのではなく、後方にステイさせるのは相手の強力なカウンターを意識したものだろう。

 それぞれの試合でIHとアンカーに求めるものをまとめると以下のようになる。

リバプール戦において・・・

<IHに求められる要素>

  • ビルドアップ時のスモールスペースの攻略
  • ミドルブロック守備における適切な判断

ジョルジーニョ向き

<アンカーに求められる要素>

  • 後方でのカウンター迎撃

ライス向き

シェフィールド・ユナイテッド戦において・・・

<IHに求められる要素>

  • ボックス内に飛び込みクロスのターゲットになる
  • ハイプレスで制圧できる運動量

ライス向き

<アンカーに求められる要素>

  • SB、ウーデゴールのサポートなしでのゲームメイク

→ジョルジーニョ向き

帰路に着くブラモール・レーンの住人

 アーセナルの2点目はサカを縦に行かせてしまったトラスティのエラー。ボーグルが触らなければ、後方にライスが控えていたので触りに行くアクションそのものの判断は否定できない。

 2失点をしたのでブレイズはプレスに出ていく。3センターが同サイドに圧縮する形で縦に選択肢を制限したが、後方でトラスティが処理しきれずサカがボールを拾う。念のためいうが、やたらと具体名が出てきてしまっているが、トラスティ1人の出来がブレイズの中でとびぬけて悪いかといわれるとそういうわけではない。

 サカからボールを受けたウーデゴールが左サイドへの脱出から局面を打開。逆サイドで大外をとったキヴィオルとのコンビネーションからマルティネッリが3点目を奪う。ウーデゴールは前を向かせるとこういう相手のプレスを壊すようなパスを出してしまうので、相手からすると非常に厄介である。

 3失点をした時点でブレイズは選手交代。ノーウッドからオズボーンに選手を入れ替えて5-4-1をベースにする。リトリートベースで2失点、プレスをひっくり返されてさらに1失点というタイミングでワイルダーは4バックを諦めたことになる。

 オズボーンはサカに非常にタイトなマークを行っていたし、移動してもついていっていた。前半の終盤はサカが移動することで空いている大外のレーンにホワイトが顔を出すことが増えた。オズボーンはサカについていっていないので、このレーンは空白となる。

 アーセナルの4点目はトランジッションから。マルティネッリとハヴァーツでゴールを奪いきった。5点目は右サイドを切り崩す形。オズボーンにマークされていたサカだが置き去りにすることに成功。折り返しをライスが決めた。サイドでズレを作る×IHが飛び込むクロスの掛け合わせのゴールはいかにもという感じである。

 ブレイズの攻撃は右サイドに張るマカティーにボールが入り、ボーグルがオーバーラップを仕掛けた時にはわずかに可能性を感じさせた。また、結果的にオフサイドには終わったが、26分のハーマーの抜け出しはアーセナルがラインのコントロールに失敗し、幸運なオフサイドに救われたケースである。この試合一番のピンチといっていいだろう。逆に言えば、これ以外のシーンでゴールが脅かされるシーンは皆無であった。

 というわけでアーセナルは前半で5得点。得点を奪うたびにブラモール・レーンの観客を帰路につかせるという現象を引き起こし、あっという間に試合の行方を決めた。

途中交代組のコンディションは?

 後半はもう特にそこまで話すことはない。右の大外に体調不良気味だったサカがいなくなったため、大外レーンの活用は流動的に。オズボーンにとってはマーカーを見失いやすくなるという点でサカが交代してしまったことはありがたいことばかりではなかったように思う。

 右サイドはヴィエイラ、ウーデゴール、ホワイトに加えてハヴァーツが顔を出すようになりオフザボールの動きは活性化。加えて、トップに交代で入ったオスーラは特にジョルジーニョを管理することもなかったため、フリーのジョルジーニョから抜け出す選手に無限にパスが通る展開に。ただでさえ受け渡しがスムーズにいかないブレイズにとって、ジョルジーニョが後方から自在にパスを通す状況は地獄である。

 6点目はその右サイドのユニットを活用した形。大外に流れるハヴァーツによって、スペースの恩恵を受けたホワイトが左足を振りぬき、レフティー顔負けのゴールを決めてみせた。

 残る見どころは交代選手の出来だろう。この試合ではトーマス、ジェズス、ヴィエイラという3人の離脱明けの選手が起用された。

 トーマスはまだまだ本調子は先という感じ。ラマダンもあるので難しいが、代表ウィークで叩いて状態を上げられればという感じ。どっしりと構えて鋭いパスのチューニングを徐々に合わせていくという彼の特性に合った起用法だっただろう。

 ヴィエイラは右サイドのレーン交換によどみなく参加。相手の強度に懸念があるとはいえ、プレッシングにも問題なく参加し、時折持ち味である精度の高さを見せつけた。順調に調整が進んでいるといえるだろう。

 ジェズスはサイドの裏に抜けるアクションをこなし続けた。タイミング自体はオフサイドになることが多かったが、動きとしてはCLのポルト戦で足りなかった部分でもある。あと1週間できっちりと仕上げたい。

 基本的にはこの日出番があった15,6人(セドリックは負傷者が戻ればコンスタントな出番確保は難しいだろう)+ジンチェンコ、冨安でコアのメンバーを担うことになるだろう。この日出番がなかった負傷のない選手の立ち位置は現状では順番待ち。コアメンバーにアクシデントがあれば、選手に応じて出場の機会を掴むことになるだろう。

あとがき

 序盤から強度を上げて入り、試行錯誤を繰り返して複数得点を挙げて、早い時間に決着をつけて控えメンバーに長い時間のプレータイムを与えるという最近のアーセナル戦と同じ流れであった。ここまでの試合の中でベンチメンバーの序列整理とできることの確認ができたことは必ずここから先のフェーズで生きてくるはずだ。

 今はシーズン山場を迎える手前の静けさ。昨季より余力を残してタイトルを争うことができそうな手ごたえを十分に感じることができる試合が続いている。

試合結果

2024.3.4
プレミアリーグ 第27節
シェフィールド・ユナイテッド 0-6 アーセナル
ブラモール・レーン
【得点者】
ARS:5‘ ウーデゴール, 13’ ボーグル(OG), 15‘ マルティネッリ, 25’ ハヴァーツ, 39‘ ライス, 58’ ホワイト
主審:サム・バロット

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