苦しかった9月シリーズを振り返りましょう!
招集メンバー
▽GK
川島永嗣(ストラスブール)
権田修一(清水)
谷晃生(湘南)
▽DF
長友佑都(無所属)
吉田麻也(サンプドリア)
佐々木翔(広島)
酒井宏樹(浦和)
山根視来(川崎F)
室屋成(ハノーファー)
植田直通(ニーム)
中山雄太(ズウォレ)
冨安健洋(ボローニャ)
▽MF
原口元気(ウニオン・ベルリン)
柴崎岳(レガネス)
遠藤航(シュツットガルト)
伊東純也(ゲンク)
南野拓実(リバプール)
守田英正(サンタクララ)
鎌田大地(フランクフルト)
板倉滉(シャルケ)
堂安律(PSV)
久保建英(マジョルカ)
▽FW
大迫勇也(神戸)
古橋亨梧(セルティック)
※板倉がケガのため途中離脱し、DF昌子源(G大阪)を追加招集(9/1)
※酒井がオーバーワークを考慮し途中離脱(9/2)
※南野がケガのため途中離脱(9/4)
※FWオナイウ阿道(トゥールーズ)を追加招集(9/4)
第1節 オマーン戦(H)
■優位性の担保が外れたことが招いた敗北
中央とサイドにバランスよく人を置いた日本の4-2-3-1に対して、オマーンが採用したのは中盤ひし形の4-4-2。中央に極端に人を置いたやり方だった。
展開としては、中央に密集するオマーンの守備陣を日本がサイドチェンジを交えながら分解できるかどうか?というものになっていくのだろうなと予測できた。そういう展開に実際になった時に気になったのは柴崎の存在。柴崎の持ち味はトランジッション局面における状況把握の早さとそれを活かした縦パスで一気に局面を進めるカウンターを発動できることである。
しかし、この試合においては中央に人が多い陣形になっているオマーンに対して、一撃必殺スルーパスは相性があまり良くない。柴崎自体のコンディションは悪くはなさそうだったが、持ち味と展開がミスマッチになりそうなプレイヤーだなと思った。
もう1つ、柴崎は守備においてニアのハーフスペースを埋める意識が希薄で、左のペナ角付近で相手に前を向かせる頻度が多かった。この試合においてはオマーンのアタッカー陣が中央から外まで自在に流れながら攻撃を繰り返していたので、対応しにくかったかもしれないが、3分のシーンのように割と埋めるのが簡単そうな場面でもオマーンの選手にノープレッシャーで前を向かせているのは気になった。
オマーンの守備の目的は明らかに同サイドでの封鎖。ボールサイドのFWは自陣の低い位置まで下がっていたし、トップ下やアンカーなど盤面上はピッチのセンターラインにいる選手もボールサイドに流れることで密な状態を作っていた。
それでも、日本は吉田を主体として対角にパスを送ることで徐々にペースをつかんでいく。広いスペースがある方のサイドに振るパスはもちろん、特に効果的だったのは右のWGの伊東の裏抜けに合わせたフィード。オマーンの最終ラインを縦に突っつくこのやり方は試合を通して最も効果的だったといえるだろう。
逆に、大外のサイドでボールを持った時は手詰まり感があった。DF-MFのライン間の内側で原口のサポートをする先週や、ハーフスペースの裏に走り抜けることで、原口にカットインのスペースを作る動きがなかったことが停滞の要因。そうなると、原口がドリブルで相手をちぎって投げ続けなければ活路は見いだせない。
オマーンの攻撃はその日本が出来なかったサポートが非常に上手だった。大外でボールを持つ選手を内外から追い越すように同サイドの裏抜けを挟むことでSBをピン止めしつつ、CHやSHをどかしてしまうフリーランは効いていた。後方からのビルドアップもアンカーが浮いたり、インサイドハーフがサポートのために降りてきたりなど日本のプレスにつかまらない工夫を披露。高い位置においてはサイドチェンジを減らす代わりに、エリア内に飛び込む人数をかけてクロスに威力を持たせるやり方に専念していた。
そういう時にこれまで何とかしていたのは日本のバックス。大外で持たれた場面でいえば酒井と長友にボールホルダーが食い止められてしまえば何もできはしない。しかし、この試合ではアジアで敵なしだった両者の絶対性は見られず。酒井に関しては試合後離脱したようにコンディションの部分がおかしかったし、長友も本来であれば置いていかれないところで置いていかれてしまう場面が目についた。吉田も離脱こそしていないが、コンディション的にはぎりぎりだろう。
アジアで優位性を保つために不可欠だったバックスがツケを払えないとなると、いよいよゴールを脅かされることになる日本。抜け出しから大外に柴崎を引っ張り出すと、クロスするランで手前に入ってきた動きで植田を翻弄したアル・サブヒがフィニッシュ。試合終盤に先制点をゲットした。
後半の日本は今、最も旬なタレントである古橋に左サイドを託すが、原口の焼き直しの役割では難しいだろう。もっとスピードに乗った状態でボールを渡したいプレイヤーだ。個人的にはこういうことをやらせたいなら三笘が一番向いている気がする。ちなみに前線の裏抜けも裏へのフィードもなかったことを踏まえると、チームとして奥行きを使う考え方はあまりなかったはず。そうなると仮に古橋を中央で起用していたとしても厳しかったように思う。
アドリブで何とかしたい!という前提に基づくのならば、交代で入った久保と堂安を併用するアプローチが最もシンプルで効果的だと思う。けども、そのやり方がオマーン相手に通用しなかった以上は、前提を考え直さなければいけないのではないだろうか。バックラインの優位という安定性がなくなったこの試合は、日本の厳しい現状が見えてくる90分となった。
試合結果
2021.9.2
カタールW杯アジア最終予選 第1節
日本 0-1 オマーン
市立吹田サッカースタジアム
【得点者】
OMA:88′ アル・サブヒ
主審:モハメド・アブドゥラ・ハッサン
第2節 中国戦(A)
■苦しみの程度が違う
共に初戦の敗戦で厳しい最終予選のスタートとなった中国と日本。中国はオーストラリア戦の4-2-3-1から5-3-2にシステム変更。脆さを見せたバックラインを固めるために形を変えてこの試合に臨んできた。一方の日本はフォーメーションは維持。離脱組や合流組の顔ぶれの変化も相まって久保、古橋、冨安、室屋の4人をスタメンに新たに起用してきた。
日本のオマーン戦の課題は中央に固まる相手を攻略できなかったこと。中国が5-3-2を採用しているのは、オマーンに形だけでも近づけて日本を初戦と同じような手詰まりに追い込もうとしたのかもしれない。
同じ形で臨んだ日本だったが紐解いてみるとやや変化があった。1つは左サイドに起用された古橋がPA付近の前線に張るケースが増えたこと。動き出してもらいやすいインサイド寄りの立ち位置の方が、前回のような大外に貼る使われ方よりもやりやすそう。
オマーン戦に比べれば大迫が中央でボールを収められたのも大きい。前線はエリア内のスペースにおける動き出しで勝負できており、前回よりは持ち味を発揮できていたように思う。欲を言えば、外を使う長友と古橋の関係性を構築できなかったのは痛かった。内から外への斜めのランを使えれば久保や柴崎が飛び込めるスペースはもう少しできたように思う。
右サイドにおいては久保が崩しに加わったことが大きかった。オマーン戦では酒井と伊東という2枚の関係でヨーイドンの裏抜け一発勝負だったが、このサイドに久保が加わることでボールも人も動きが出るように。伊東や室屋がボールを引き出すためのフリーランで中国のDFラインを下げることができていたし、久保自身も中国の中盤の隙間に入り込むカットインを織り交ぜながら内外を使い分けることができていた。中の守備がスカスカだった相手の力量の問題もあるが、レパートリーとしてはオマーン戦よりも増えたように見える。
しかし、当然まだ問題もある。1番気になったのは攻撃時に左サイドで長友が孤立しまうこと。オーバーラップするのは大事だとは思うが、彼が1人で持ち上がったところでできることは限られている。インスイングでクロスを上げるのが一杯で、高さの面では分がある中国の最終ラインに対しては効果的ではなかった。
もっともこれは長友のせいだけではない。彼がそういうプレイヤーだというのは今に始まった事ではないし、サポートがいない中でも輝けるSBはそもそもなかなか日本にはいない。
むしろ気になるのは中盤のポジションバランスの方。特に柴崎はどうバランスを取ったらいいのか悩んでいるように見えた。行動範囲広くフリーダムにボールを持ち運ぶ嫌いがある選手なのだが、右サイドでは久保が下がってボールを運ぶところからトライアングルの崩しまでは担当できる。そういう中で柴崎は持ち味の棲み分けには困っていた印象。
むしろ彼には孤立する左サイドの手助けをして欲しかったところ。右サイドですでに人数がいるところで浮遊していてはネガトラの際の対応にも効かないし。オマーン戦では中央を固める相手とのミスマッチさを指摘したけど、中国戦では味方との相性の部分が気になった。コンディション以上にミスマッチ感がどうしても気になってしまうのが今の柴崎である。
30分を過ぎたあたりから日本は徐々にボールは足元から足元につながる形が増える。こうなると停滞感が出てくる。それでもある程度崩せてしまうほど、中国の中央密集の守備は脆かったけど。それでも受けてから考える感の強い崩しは気になる。
このメンバーでの崩しならば、伊東と古橋をまずどう抜けさせてスピードに乗った状態で敵陣に迫るか?から逆算してもいいのではないか。ラインが低くても初速で逆を取れるランができる彼らならば、動き出しで違いは作れるはず。
なので、日本はこの2人にボールを届けるレパートリーを見せて欲しかった。徐々に足元に収束していくのは少し残念だったし、得点シーンのように独力で伊東がスピードに乗りながら加速できることを許す相手が本大会に多く存在するとは思えない。大迫のキープ力が弱まる中で、彼らの動き出しをどう活用するかは最終予選を通しての日本の課題になりそうだ。
一方の中国はより厳しい状況だった。エウケソンは吉田、冨安はもちろん、室屋を相手にしてもロングボールのターゲットとしては機能せず。陣地回復の方法を見つけることができず、ローラインからの脱出方法がなかった。
後半の4-4-2の変形でのマンマークチャレンジはやけっぱち感が否めない。確かにアタッカー陣は攻撃の機会を得れば強力かもしれないが、ボールを取り返すのに特化した面々ではないし、日本代表は局面での対人勝負に限ればアジアではそもそも非常に優位な立ち位置にいる。日本の得意なフィールドで、かつボール奪回の機会を増やせない設計となれば、びっくり箱以上の効果はないのは当然だと思う。
案の定、彼らのプレスが脅威になったのはせいぜい10分程度。なんか、 ONE PIECEのルフィに負ける前のモリアみたいだなと思った。監督は解任危機も叫ばれていたし、仕方ないのかもしれないが。
試合はそのまま終了。互いに苦しみが見える一戦だったが、下馬評通り日本が勝利。局面での質の差が勝敗を分けたと言っていい試合だろう。
試合結果
2021.9.7
カタールW杯アジア最終予選 第2節
中国 0-1 日本
ハリーファ国際スタジアム
【得点者】
JAP:40′ 大迫勇也
主審:ナワフ・シュクララ
雑感
■悩ましい両サイドと柴崎
日本にとっては苦しい9月シリーズとなった。
オマーンの攻撃は狙うサイドに目星をつけての同サイド攻略。もちろん配置的にやられた部分は非常に大きいのだが、気になるのは両SBのパフォーマンス。残念ながら日本が配置的にやられるというのはさして珍しい話ではないのだが、そういった歪みを取り除いていたのがバックス。とりわけ両SBが大外で攻撃を食い止めることでそういった部分の不利を強引に覆している印象は強かった。
しかし、オマーン戦では長友も酒井もアジア最強レベルのパフォーマンスが見られず。酒井に関しては勤続疲労を含めたコンディションが主要因だろうが、10月もここでアドバンテージが見込めないのならば、一気に日本は余裕のない戦いに追い込まれることになる。
2試合を線で見ると、中国戦では古橋の役割の変化、及び久保の投入により右サイドの活性化が図られるなど、オマーン戦の反省はある程度活かされていたように思う。
ただし、対策の完成度としては十分かは不明。中国はオマーンと比べると攻守にスケールダウンしている相手であり、内容が向上したことに相手のレベル差が大きく寄与していることは否定しきれない。
加えて、中国戦においても左サイド攻撃で孤立する長友など気になった部分も大いにある。2試合を通して個人のパフォーマンスで最も気になったのは柴崎。コンディション以前に、トランジッションで一発を狙う持ち味がオマーン戦ではかみ合わなかったり、自由なポジショニングの弊害で中国戦は久保との共存が難しかったりなど、相手や味方とのすれ違いがやや多い気がしてしまう。
元々、柴崎はトランジッションの頻度が上がるほど、持ち味は出やすいタイプだとは思う。なので対戦相手のレベルが上がる10月シリーズは期待できる可能性はある。だが、広いスペースを守る際の対応の不安を考えると楽観視ばかりはできない。守田、田中碧、川辺、橋本など試せる人材は多いポジションゆえに、10月の2試合にこのポジションをどういった構成で臨むのかは気になるところである。
気になるポジションでもう1つ挙げられるのは両WG。大迫の凄みがやや割引の状態が続くならば、伊東と古橋のスピードは今後の代表の生命線となる武器になりうる。彼らがスピードに乗った状態で渡すパターンをどのように構築するかは、9月で不満だった部分でもあるし、今後の注視していかないといけないだろう。
しかし、10月シリーズの話に限れば問題はそれ以前の部分。伊東がサウジアラビア戦は累積警告で出場停止。負傷交代した古橋や今回コンディションが整わなかった南野の出場が危ういとなれば、このポジションに誰を据えるかから考え直さねばいけない。
10月の2戦はトライしている余裕がある相手ではない上に、勝ち点的にも日本はがけっぷち。どちらにも勝てないとなれば、本大会ストレートインではない3位争いに回ることが現実味を帯びてくる。不安要素と試さなくてはいけない部分が混在する中で難しい宿題を残してしまった9月の戦いぶりになってしまった。