9月の炎の3連戦シリーズ、第2ラウンド。
①スペイン×ジョージア
■アクセルを踏み、スピードに乗る
スウェーデンに敗れて首位通過に黄色信号。負けどころか引き分けも許されない状況のスペインであるが、正直言ってこの試合は彼らが冷や汗をかくような試合ではなかった。スペインの保持の局面が続くゲームであり、ジョージアは90分間それに耐え忍び続ける状況となった。
ジョージアの4-1-4-1の守備に対して、スペインはいつものようにサイドから崩しを狙っていく。サイドの崩しの基本的なイメージとしてはSB、IH、WGの3枚で4箇所のポジションを入れ替わりながら動く形。
1. ハーフスペースの手前
2. ハーフスペースの奥
3. 大外
4. 後方のサポート
この4箇所を入れ替わりながらポジションをとっていく
ここを3人でローテするのが基本。思うに、人にたいして場所が1つ余っているのがミソなんだと思う。初めからそこに人がいれば、守備側もその位置をあらかじめ埋めればいい話だけど、そこに人が入ってくるのならばあらかじめ人をそこに置くのは難しい。
4-1-4-1のジョージアはIHをスペインのIHにマンマーク気味につけているが、マンマークについていればいい状況からスペインは保持で揺さぶりをかけてくる。例えば、運ぶCBは放っておいていいのかとか。あるいは降りてくるCFは受け取らなくていいのかとか。ジョージアのIHがマーカーを離してしまう誘惑はスペインによって数多く散りばめられている。そういう中でフリーになったスペインのIHがフリーランで躍動する。そんなパターンが多かった。
スペインとしてはジョージアのCBからIHとWGの間を斜めに割るパスが通ると一気に局面が進む。このパスとハーフスペースの裏抜けがコンボで発動するとジョージアのDFラインはどうしても崩れてしまう。
ポゼッション型のチームの課題としてやり直しに備えすぎるあまりに、PA内の迫力が薄まることが挙げられる。その部分でもこの日のスペインは万全だった。ハーフスペースの裏抜けというアクセルを踏むと、ボールサイドではない選手がきちんとそれに応えてエリア内に雪崩こむ。スコアラーになったソレールやガヤはその仕事を忠実にこなしていた。
3点目を取ったフェラン・トーレスは、動き出してからフィニッシュまでの一連の仕事をやり遂げる力がメキメキついている印象。クラブでの好調をうまく代表でも還元している。
あまり見せ場のなかったジョージアだったが、この試合で目立ったのは右のWGであるズリコ・ダヴィダシュヴィリ。ルビン・カザンにも所属歴がありロシアリーグを主戦場として活躍する20歳。後半は何回か彼の突破からチャンスを迎えるシーンも。前節のコソボ戦でも同ポジションのツィタイシュヴィリが躍動するなど、ジョージアは右WGにはいいタレントが揃っているようである。
ただし、試合をひっくり返すような力はなし。後半にもサラビアのゴールで4得点。最後はGKを入れ替える余裕まで見せたスペインが危なげなく大勝を飾った。
Pick up player:ホセ・ルイス・ガヤ(ESP)
オーバーラップで攻撃の加速を促したり、的確なエリア内の進出が光るパフォーマンス。攻撃のアクセルを踏むこと、走り出した攻撃に厚みを加えることのどちらもこなした。オフサイドで取り消されたもののネットを揺らしたシーンでは飛び込みのタイミングもバッチリ。相手のレベルもある話ではあるが、アルバに対抗する存在であることを示した。
試合結果
2021.9.5
カタールW杯欧州予選 第5節
スペイン 4-0 ジョージア
エスタディオ・ヌエボ・ヴィヴェーロ
【得点者】
ESP:14′ ガヤ, 25′ ソレール, 41′ トーレス, 63′ サラビア
主審:チアゴ・マルチンス
②コソボ×ギリシャ
■ハイプレスに隠された事情
前節、ジョージアに競り勝ちW杯予選史上初の勝利を決めたコソボ。上位に食いついていくためには、ジョージア以外の相手からも勝ち点を奪い取れなければ厳しい。そういう意味ではこのギリシャ戦は試金石となる試合だろう。
一方のギリシャは開幕後2試合で未勝利。スペインはともかく、ジョージアに引き分けのは痛恨で出遅れをここから巻き返していかなければいけない立場となる。
局面としては互いに等しくボールを持つ時間を持てる展開となった。コソボの保持は前節と同じ。ハデルジョナイを片上げする、ややアシメな3バック化。ギリシャに対してサイドを押し上げる。ギリシャの守備はコソボの左サイドにボールがある時は若干厳しめでこちらのサイドからはボールを運ばせないという意思を感じた
コソボの左サイドはこれに対してIHのベリシャが外に流れるなどしてマークを乱しに。高い位置をとるハデルジョナイを生かすために動きをつけていく。逆に右のサイドからはズレを作れずに苦しんでいる感じ。ボールを進めるならば左から運びたいのだろうなと思った。
ギリシャは5-3-2の形をあまり変形させない形でのビルドアップ。これに対してコソボはワイドのCBに対してはWGがマーク、CFのムリキはアンカーを警戒する。ギリシャのWBへのチェック役はIHが出ていき、逆サイドのIHがアンカーのドレシェヴィッチとフラットに並びながら中央をカバー。前線と中央が連動しながらギリシャのバックラインに対してミドルブロックを組み、プレスをかけていく。
ギリシャはCBの中央であるツァベラスが最も時間に猶予を持ってプレーすることができていた。ここから幅を使ったフィードを飛ばせれば、コソボのIHが出てくる前に前進できるのだが、このフィードがどうも決まらない。
コソボは左サイドのズレ、ギリシャは数的優位のバックラインのところから前進のチャンスがありそうな状況だったが、なかなかミドルゾーンからゴール前まで進むことができない。
ズレを生かしてゴールに迫ることが互いにできず、拙攻が続く中でチャンスを得たのはギリシャ。ミドルプレスから引っ掛けたところで、この試合ではなかなか見られなかったカウンターを発動。最後はドゥヴィカスが仕留めて前半終了間際に先制点を獲得する。
後半頭から、リードを得たギリシャはよりタイトにコソボにプレッシャーをかけていく。これまでの時間帯においては最終ラインにあまりプレッシャーを受けない状況で進んでいったコソボだったが、プレスに晒され時間の余裕がないとミスが目につくように。プレス耐性にはやや課題を覗かせたコソボだった。
しかし、ギリシャにもギリシャでハイプレスに打って出る事情がある。撤退した際の守備の強度がどうも怪しい。EUROを優勝したイメージから堅守の印象が強いチームだが、このギリシャはエリア内の対応が結構怪しい。だからこそ、前から捕まえに行かないと守り切れないのだろう。
プレスが弱まったことで前進できたコソボはボールを左右に振りながらエリア内にハイクロスを放り込んでくる。その試みが実を結んだのは後半追加タイム。エリア内に飛び込んだハデルジョナイの折り返しからムリキが同点弾を決めて土壇場で勝ち点を確保した。
2節連続で勝ち点確保に成功したコソボ。次節はいよいよスペイン戦。ハリミが出場停止、ベリシャが負傷交代と厳しい台所事情ではあるが、チームは上昇気流で強豪に胸を借りることができそうだ。
Pick up player:アナスタシオス・バカセタス(GRE)
引き分けた試合はどちらから選手を選ぶか迷ったけど、本文がコソボの話が多めだったのでギリシャから選出。プレスに出た後半の立ち上がりはこの試合において最も力関係が片方に傾いていた時間帯だったし、IHは比較的長い時間ホルダーをチェイスしながらプレスを成り立たせようと奮闘していた。その中でも先制点のインターセプトに絡んだバカセタスをチョイス。
試合結果
2021.9.5
カタールW杯欧州予選 第5節
コソボ 1-1 ギリシャ
プリシュティナシティ・スタジアム
【得点者】
KOS:90+2′ ムリキ
GRE:45+1′ ドゥヴィカス
主審:フランシス・ルテクシエ