MENU
カテゴリー

「火事場で見せた積み重ね」~2024.4.23 プレミアリーグ 第29節 アーセナル×チェルシー レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

理想的なチェルシー崩しの提示

 怒涛の中2日ラッシュもこれで最後。アーセナルにとって、今季最後のミッドウィークの一戦はチェルシーとのビッグロンドンダービーである。

 立ち上がりは縦に早い形で様子見の両チーム。ハヴァーツがバディアシルの背後をとったシーンはあわや!という感じだったが、オフサイドで不問とされた。

 序盤でボール保持で落ち着かせることができたのはアーセナル。後方3枚、インサイドに冨安が絞る形の3-2をメインにビルドアップを行う。

 チェルシーの守備基準は曖昧さが先行した。前に枚数を残してはいるのだけども、アーセナルの保持に対しての整理はあまりできていなかった。アーセナルの後方が3-2固定であれば、3バック+2CHに対して、3トップとエンソ+ギャラガーがついていけばいいのだろう。非保持の陣形はギャラガーが左のIH、エンソが右のIHという4-3-3っぽくなっていた。

 けども、実際のところアーセナルのビルドアップにはウーデゴールやトロサール、ハヴァーツも顔を出すし、後方ではラヤもボール回しに参加する。そうした状況なので、陣形は縦にコンパクトに圧縮する。その上でプレビューでも述べたようにWGはカウンターに備えて前に残すという基準をベースにブロックを組んでいたように見えた。

 アーセナルとしてはバックラインにはあまりプレッシャーがかかっていない状況なのでボール回しは順調。ビルドアップに関する枚数調整で、チェルシー相手に先回りすることができており、フィーリング良好な立ち上がりだった。

 あっという間に入った先制点は今季のチェルシー攻略のロールモデルになるようなものだった。右サイドからのサカの斜めのパスを起点にチェルシーの中盤を見事に横断。中盤に顔を出してエンソをホールドしたハヴァーツ、オフザボールでギャラガーを外す動き直しをみせたトーマスの2人の貢献度が高く、左サイドにボールが展開される。

 チェルシーの中盤は同サイドに圧縮してボールを絡めとる形が得意なので、中盤を交わして横断するということ自体がチェルシーの狙いを外すことになる。特に、WGが下がる動きもリアクション型なので、アーセナルは横断さえ成功すれば、サイドで1on1を作ることができる。

 この日の左サイドはトロサールとギルクリストのマッチアップ。さすがにこの2人の力関係はアーセナルに軍配。角度のあるところからの先制ゴールは意外性のある形ではあったが、そうでなくとも決定機に繋がるプレーは期待できる状況であった。

冨安抜かれすぎ問題における考え方

 チェルシーのボール保持はいつも通り、2人のCBが大きく開き、CHと連携しながらボールを前に進めていく形。アーセナルはこれに対して4-4-2をベースにプレスを仕掛けていく。プレスのスイッチ役がウーデゴールというのはいつも通り。中盤の構成の関係で縦パスのところのボールハント役はトーマスになっていた。ライスよりも捕まえるテンポが少し遅い感じはしたが、反転するところで奪えていたので特に問題はないだろう。

 右サイドの圧縮に関してはトロサールのスライドも地味に効いていた。左サイドから絞るように潰しに来るトロサールのボール奪取が決まるシーンもちらほら。プレスの旗振り役としてはハヴァーツ、ジェズス、ウーデゴールほどの力はないが、プレスバックによる守備の貢献度が高まったところはトロサールの向上した部分と言えるだろう。

 ただし、アーセナルは中2日での4連戦目。リードを奪っていることもあり、無理にプレスに出ていくシーンは多くはない。この辺りはウルブス戦に近いテンションだったと言えるだろう。コンパクトな陣形で相手にボールを持たせることになると、トーマスの潰し屋としての才覚はより発揮されることに。中盤に入ってきたボールを仕留めて攻撃に素早く繋げ、ハヴァーツのポストを出口にゴールに迫る。これがアーセナルの王道パターンとなっていた。

 チェルシーは速攻においてはジャクソンが頼みの綱。陣地回復という意味ではサイドの裏に流れるアクションがより効いていた。近頃は中央に陣取っての縦パスからのポストの動きも光るものがあるジャクソンだったが、守備時に押し下げられる中盤との距離が空いてしまうこと、縦パスに関しては受け手へのアーセナルの潰しが発揮していたことでこちらはあまり効果を発揮することはなかった。

 ただし、押し込むフェーズにおいてもチェルシーにはチャンスがあった。空中戦で先にボールを触っていたCB陣もそうだし、ブロックの外からピンポイントに差し込むクロスを入れるエンソも悪くなかった。中でも効いていたのはマドゥエケだろう。対面の冨安がスピードで振り切られる場面も多々あった。

 マドゥエケ周りの事象として「冨安、抜かれすぎじゃない?」という話がアーセナルの界隈の中で上がっていたので、一応そこについて自分の見解を示しておく。個人的にはおそらくある程度縦に抜かせることに関してはチームとして許容しているのではないかと思う。縦に抜けた後の低いクロスを防ぐアクションはガブリエウがセットで見せている。ニアが無理ならばファーに浮き玉が上がってくることにはなるが、弾道の高いクロスに対してはサリバとホワイト、そしてラヤを信頼するということだろう。もっとも、避けたいのはアンフィールドのサラーのように、大外からのカットインで速いシュートを撃ち抜かれることだろう。ブロックが整っていることもあり、確かに冨安はこちらのアクションは許していない。

 じゃぁ、縦に抜けられている対応が完璧かというとそういうわけでもないだろう。縦に抜けさせるといっても、そこからゴールラインを抉られるように入り込まれてしまうと、出し手はパスに角度をつけることができる。そうなると、マイナスに深くパスを差し込むことができるので、ニアを消すガブリエウだけではカバーすることは難しい。29分のエンソのミドルで終わったシーンくらいまでマドゥエケに行かれてしまうとおそらくアーセナルの想定外。マドゥエケに対して、ニアに待つジャクソンへのパスコースはわずかではあるけども空いている。

 バイエルンのキミッヒのゴールに繋がったシーンもアーセナルは後手に回っているし、この場面においてもそう。どちらも決定機や得点につながっている。

 この部分は単純に対面のアタッカーのキレが鋭いのと、冨安自身のコンディションの問題もあるのだろうと思う。まとめると、サイドラインと並行な方向で縦に抜かれるのであれば、ガブリエウのニア消し+ラヤ、ホワイト、サリバのクロス対応でカバーできるのでOK。やや内に入り込む成分が出てくるとガブリエウの絞りだけでは消しきれない角度が出てくるのでNGというイメージだろう。冨安が縦に抜かれた時は相手のアタッカーのドリブルの角度にも注目したい。

 速攻、遅攻いずれにおいても攻撃の手段があったチェルシーだが、守備でのボールの奪いどころがないのは同じ。よって、アーセナルの保持に対してはズルズル下がってしまうケースが多かった。20分台は盛り返しが見えたチェルシーだったが、30分が過ぎると再び試合はアーセナルペースに。ただし、シュートセーブはペドロヴィッチがさえており、アーセナルに2点目は与えないままハーフタイムを迎えることとなった。

後手に回ったチェルシーの中盤の守備がサカへの追い風に

 後半の頭、アーセナルはハイプレスに出ていくスタート。この辺りのギアアップはウルブス戦と同じゲームコーディネートである。1つ目のハイプレスはトーマスは捕まえるタイミングが遅い影響で抜けられてしまったが、48分にウーデゴールが周りを鼓舞しながらスイッチを入れると、ライスがバディアシルの甘いパスをカットし、ハイプレスを成功させるとここから一気に押し込んでいく。

 このプレスから一方的に押し込む流れを作ったアーセナルはセットプレーから追加点をゲット。ショートコーナーから右サイドをつっつきつつ、ライスのミドルのこぼれ球をホワイトが押し込んで2点目を決めた。

 このゴールでチェルシーの守備の規律は壊れてしまったように思う。中盤のプレスが諦めてしまったかのように後手に回ってしまい、守備は完全に後手後手に。前半は1つアーセナルにミスが出ればボールを回収できるような寄せ方で守ることができていたが、後半はこうした制限があまりかかっていない状況になってしまった。

 その象徴となっていたのは3点目だろう。確かにガブリエウとマドゥエケのコンタクトによってトランジッション色が強い展開であったが、あの位置でウーデゴールをフリーにしてしまえば、あれくらいのパスは飛ばすことはできる。裏に抜けたハヴァーツへのピンポイントパスが通ると、抜け出したハヴァーツはククレジャを腕でコントロールしつつ、見事なシュートで試合を決める3点目を仕留めた。

 チェルシーも速攻に出ていくことができればマドゥエケとジャクソンでチャンスを作ることができていたが、これをジャクソンは仕留めることができず。また、縦に速い展開に好機を見出したチェルシーのバックスが強引な縦パスをつけてしまうことであっさりと引っ掛けてしまい、ここからカウンターを食らう場面も見られた。

 前からの守備が機能しなくなることで割りを食った感じがあるのがククレジャ。彼の持ち味は背負って受けようとする相手への素早い寄せとそこからの深さのあるボール奪取。つまり、ある程度ボールの雲行きが見えることが前提になっている。しかしながら先に挙げた通り、2失点目以降はチェルシーの中盤は後手に回っていたので、ククレジャがボールを受ける前にサカにアプローチできる機会は減ってしまった。

 よって、アーセナルは右サイドのマッチアップで優勢に。サカをボールの預けどころにして、周囲を使う形からチャンスを作っていく。ハヴァーツの4点目もこの形である。それにしてもバディアシルの対応は後手に回りすぎと思うのだけども。

 チェルシーはこの失点を受けて5バックに移行。それでも失点に歯止めはかからず、アーセナルはホワイトが右サイドから直接ロブ性のボールでネットを揺らしていた。本人はめっちゃ「クロス顔」だったけども。

 マルティネッリ、ヴィエイラなどゴールが欲しい人材を前においたアーセナル。日程が苦しいのでフルスロットルというわけには行かないけども、相手が甘い餌を渡してくれるのであればゴールに向かう姿勢を見せていた。

 最後にはゴールに向かう心を折って勝利したアーセナル。中4日連戦の最後を勝利で飾り、リバプールとシティにプレッシャーをかけた。

あとがき

 試合の中でチェルシーに展開が流れる時間もあったが、試合を制御する握力のところはアーセナルが圧倒的に上だった。明らかに強度で圧倒できないコンディションの中でも、相手を崩すべきことをやることにフォーカスできたのは「物足りない」と言われながらも、今季積み重ねてきた静的な場面でのクオリティの賜物だろう。1年間の積み重ねが中2日4連戦という火事場で安定感に欠けるチェルシーに対して決定的な差になった試合だった。

試合結果

2024.4.23
プレミアリーグ 第29節
アーセナル 5-0 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:4′ トロサール, 52′ 70′ ホワイト, 57′ 65′ ハヴァーツ
主審:サイモン・フーパー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次