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「差は決壊部分にあり」~2021.8.3 東京五輪 Semi-final U-24日本×U-24スペイン マッチレビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■強者の戦い方は捨てられるのか?

 ここまでの戦い方を振り返った時に、五輪の日本代表は強者の戦い方で先手必勝を狙いながら勝利してきたという話をしてきた。実際に日本の方が強いとかそういう意味ではなく、戦い方の話。

 単に個の力で優位に立てる南アフリカやニュージーランドのような相手の場合もあったし、フランスのように選考の段階で優秀な選手をそろえるのが難しかった相手もいた。メキシコ相手にはかなり危ない橋を渡った感もあったが、開始早々のプレスがハマったことで日本が主導権を握って試合を進めることができた。

 一方でスペインは日本が強者としての戦い方に光明を見せにくい相手といっていいだろう。EUROと兼任する選手が多く、疲労の部分では主力のプレータイムが嵩んでいる日本にとっては今大会で優位に立てるはず少ない相手ではある。しかし、それは五輪よりも明らかにコンペティションとして格上のEUROで結果を出したメンバーが出てくるということの裏返しでもある。

 強者で先制パンチを食らわせることを優先してきた日本がこの試合でスペインに対してどう立ち向かうか?それがこの試合の最も大きな注目点といっていいだろう。

■スペインの強みとは?

 試合が始まるとすぐにその答えは出た。日本はボールを握られる展開を受け入れながら戦い、粘りながらチャンスを待つというこれまでとは異なるアプローチを選ぶ。

 話を始める前に、スペインが日本に対して強みとなる部分はどこかを述べておきたい。個人的にはボール保持者に対してどのようなサポートをするかがスペインが最も日本に対して優位な部分だったように思う。保持者に対してどのような位置で受けることを狙うか、そして保持者はどのように動かしながらパスコースを作るかである。

 さらに展開としてはスペインの保持の機会が多い試合が予想される。となるとスペインの保持の部分をどのように日本が阻害するか、そして最もスペインの強みとなる中盤をめぐる駆け引きとどのように渡り合うかが日本が受ける選択をしたときにおける重要な局面といえる。

 1つ目の日本の対応は保持型のチームに取るやり方として非常にオーソドックスなものだった。スペインのアンカー+2CBを1トップ+トップ下(林+久保)で監視し、アンカーを受け渡しながらボールサイドのCBにチェックをかけるというやり方だ。

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 しかし、このやり方は問題点がある。久保と林の間で受け渡しが発生する分、どうしてもスペインにオープンになる選手ができてしまうことである。特にアンカーが空いてしまうと大問題。中央で3対2を作られると悠々とパスコースを作られてしまい、DF-MF間のスペースにパスを通すための選択肢が広がる。

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 アンカーのスビメンディは非常に優秀。前にボールを運ぶために必要なことをよくわかっている選手という印象だ。42分のシーンのように自分が前に運ぶこともできる。

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 そして、CBのパウ・トーレスも同様にフリーにすると危険な選手。38分の2つのパスでラファ・ミルの決定機を生み出したシーンのように、運びつつコースを作ることができる。

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 日本は田中碧と遠藤航が非常にシビアな対応を迫られていたが、押し込まれる展開において好パフォーマンスが光った。特に2人のCHの間に通されかけた場合の攻撃の閉じ方は見事。26分の例のようにパスを通されても絡めとる動きで攻撃を終わらせる。パウ・トーレスのパスは中央に寄った田中碧のスペースを逆手に取り、片方のCHの脇から中央を壊すアプローチ。日本のこの日の特徴をよく把握したうえでの攻略といえるだろう。日本はFW2人(このシーンでは林と堂安)の追い込み方が甘く、中盤のコース限定に貢献できなかった。

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 積極的な出足が持ち味(たまにミスるけど)の板倉も高い位置でつぶすことを許容されており、ここで前を向かせてボールを受けることは日本にとってとにかく避けるのが最優先事項だった。

 この狙いは比較的うまくいったように思う。その理由としてはスペインのプレー選択も一因にある。ライン間に侵入してからの中央にこだわりまくるのがこの日のスペイン。スイッチを入れることだけでなく、仕上げまで中央でやり遂げようとするスペインの方針はとりあえず中央を固める日本の守備の傾向に対してあまり相性のいいものではなかった。ラファ・ミルを入れたってことはもっと薄いサイドをクロスを上げるものかと思っていたけども。

 しかし、縦パスをつないで生まれたラファ・ミルの決定機や、押し込んた時に薄くなりやすいサイドを的確なポジショニングで狙い打ちできるペドリ(以下の図参照)の存在などを踏まえると、引いて受ける展開は日本としては良しとできなかったのだろう。

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 スペインも高い位置からの即時奪回が効いていたため、日本が自陣からボールを運ぶのが難しいのも難点。17分のシーンのように前で背負った林のサポートに誰も入らず孤立した結果、自陣までボールを下げた上で谷のフィードで決定的なロストにつながるという流れで保持がうまくいかなくなっていた。というわけで深い位置で守ることを日本は攻撃面まで含めてプラスに転じることができなかった。

■二の矢で差を埋めに動くが・・・

 そこで日本が放った二の矢が高い位置からのプレッシングである。これまではどちらかのCBには余裕があったスペインに対して、どちらのCBにも余裕がない状態を作る。林に加えて、トップの守備に左SHの旗手が入ることでCBに時間を与えない。その分、空いてしまうSBには田中碧がアプローチをかける。中央に1人、フリーのスペインの選手ができてしまうがそれは許容するというもの。そこにわたる前に決着をつける。

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 ちなみにこの旗手と田中の動きはまんま川崎のWGとIHの関係である。出ていったところをカバーするのが川崎のMFの宿命。日本としては引っかけるか、ウナイ・シモンに蹴らせればOK。なので、林が25分にウナイ・シモンにプレスをかけて、DFにつながれてしまったのはやりすぎである。

 当然、中盤も間に合わない場合はプレスに行ったらNG。田中と遠藤にはさらに縦方向にもシビアな判断が加わることに。本当にこの2人は120分よくやったと思う。

 プレッシングはうまくいき、日本はショートカウンターやポゼッションでの崩しの機会を得ることになる。しかし、ここからの崩しがだめだったのがこの日の日本。特に気になったのが堂安。先ほどの17分の林のサポートも堂安にはしてほしかったし、43分の久保とのコンビネーションも近くに寄りすぎて久保とうまくつながることができなかった。後半も味方と合わず、スビメンディのカードを引き出した以外はあまり持ち味が出なかった。自陣まで下がる守備は一生懸命やってはいたけども。

 日本がよかったのは34分の久保⇒旗手⇒中山⇒遠藤でパスが続いた崩しくらいのもの。プレスで足を使った分、好機をひきよせた日本だったが、それをシュートまで持ち込むことができなかった。

■縦ではなくワイドにシフトチェンジ

 後半の頭は酒井宏樹のオーバーラップを中心に日本は奇襲をかける。しかし、前半の終盤と異なり、スペインは日本を再び押し込み返す展開が主になってくる。

 そういった展開の中で際立っていたのは旗手。タメが効かなくなっている、直線的な攻めの展開の中で寄与できるSHとしては随一。林と見まがうようなポストで時間を作るシーンまで見せたのは川崎ファンとしても驚きだった。

 だが、後半もロングカウンターでの連携がうまくいかない。とりわけ、独力で持ちあがる選手と周囲の連携が合わない。48分の田中の密集からの抜け出しや、54分の旗手の単騎突破も誰ともつながれないまま終了。逆に久保がカウンターのボールホルダーになった際は、周囲を使わないせいでスペインの壁に阻まれた感がある。なんというか、久保は意識的に自分が点を取らないと批判が集まるようなプレーをしているように見える。特に決勝トーナメントでは。

 押し込まれる展開の中で直線的にゴールに迫ることができ、それを自陣での守備と両立できる旗手の存在は個人的には貴重だと思ったが、森保監督は比較的早い段階で相馬にスイッチを決断する。

 これにより、攻撃の直線性は減退。代わりに大外に一度開いてクロスを上げるシーンが主体になっていく。わかりやすいのが72分のシーン。この場面では久保が外に開く相馬を狙ったパスがカットされている。旗手がこのシーンにいたら、彼は久保に対してよりワイドではなくゴールに近い位置に立っていたと思う。したがって、久保のパスの選択肢はより縦方向になっていたはず。横に開くという選択肢は相馬がいたからこそである。

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 旗手は調子がよさそうだったので、個人的には直線的にゴールに迫る方が当たりが引きやすいかな?と思ったけど、相馬も相馬で展開にアジャストはできていた。対面のバジェホは戸惑っていたし、縦方向の動きからクロスを上げるシーンは生み出せていた。個の精度はニュージーランド戦同様でもう1つだったけど。

 対して、上田はやや存在感が薄かったか。ワイドに開く分、ボールを引き出しやすくはなったように思えるが、スペインのCBを背負えていた林に比べると、ボール運びにおける貢献度は低くなっており試合から消えがちに。ただ、この試合で言えば林も大外からオフサイドにかかったりなどオフザボールの効果がこれまでよりも低かったり、プレスのかけどころをあやまったりなど、相手のレベルが上がったことによって見える粗が目立つ試合になったことは付け加えておきたい。

 ゴールに迫る手段が見えない日本に対して、スペインも苦しむのは同じ。ラファ・ミルへの対応はすっかり慣れた吉田と板倉によって処理されるようになったし、サイドにCHがスライドして出ていく分空くバイタルにミドルを打ち抜ける選手はいなかった。

■最もやられたくなかったこと

 延長戦、日本は久保と堂安を下げて勝負に出る。前田の投入で直線性を再度増し、三好にタクトを委ねるというやり方にシフト。だが、三好は田中碧からの楔は受けることができるものの、そこから早めにつぶされがちに。上田と前田もお互いの動きを活かすことができず、結局は大外の相馬を使った形に頼る率が高かった。

 守備に置いては自陣深い位置まで戻るシーンが増える日本。SHはSBと共に深い位置まで戻り、サイド大外で挟み込む動きが課されている。スピードを活かしたい前田を最前線に置かなかったのは戻れるSHのタスクを他に託せる人がいなかったからかもしれない。スペインが大外に出した時は同サイドのCH、あるいはトップ下の三好がフォローに行く。

 CBはあまりサイドに出ていかず、ラファ・ミルを挟んで対応することと、抉られた時にニアのストーン役として低いクロスを防ぐ役割を託されていた。おそらく、これは決まりごとになっていたはず。どちらのサイドに出てもCBは動かなかったし、A代表においても同じ方針が採用されていることが示唆されている。

 やり直させるのはOK。そして抉られた時の低いクロスは対応できる。したがって、最もやらせたくないことはサイドに出ていった2人の選手の間を割られること。

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 勘のいいひとはもうわかるだろう。この一番やられたくないシーンを作られたのがアセンシオのゴールシーンだ。先述の通り、ボールサイドの板倉は中央優先である。遠藤も前半は逆サイドのカバーリングが間に合う位置にいたが、それはバイタルを後回しに出来るほどゴールエリアから遠いラインの高さを維持できたから。延長でラインが低くなった分、中央から動きにくくなったのは仕方ない。

 というわけで田中碧と中山の間を破られた時点で終了。あそこで離れながら受けられるのは文化のなせる業である。悔しい失点を跳ね返せず、スペインに屈した日本。自国開催で狙った初の決勝進出の夢は埼玉スタジアムで終了となった。

あとがき

■割り切りはひとまず棚上げに

 この試合単体で言えば、スペインを120分抑え込むのにあと一歩までいったのは事実ではある。だが、これまでと比べて今一つ噛み合わない攻撃陣の状態では、スペインへの金星は難しかっただろう。

 これまで丁寧にケアし続けた中央を割られての失点はシビアな対応が続いていたCH、CBの過負荷が決壊した結果。決定打になったのはオヤルサバルへのアセンシオの離れる形でのサポート。日本の守備機能を最後の最後で壊したのが、この試合で日本の攻撃陣ができなかったボールホルダーへのサポートという点はなかなか厳しい結末である。

 一方で大きな大会が終わったということは、スペインが日本に対して戦前の時点で優位に立っていた部分の差を埋めなければいけないということである。このレビューでここまで割り切りまくっていたことに手を付ける時間である。

 現状だと戦術で変幻自在の魔法をかけるのは難しいと思う。そもそも森保監督がそういうタイプではない(この試合では強者じゃない立場から対策レベルでの手打が見られたことは好材料だとは思うが)上に、EUROを見ても多くの顔を使い分けられるほど器用なチームは世界を見ても存在しないからである。その世界で数チームの枠に日本が入っていけるとはあんまり思えない。拘束される時間の少なさを踏まえても、もはや代表シーンはそういう時代ではないように思う。個人戦術を伸ばすのも代表活動の役割ではないだろう。

 一方で日本代表の各ポジションにどういう選手を求めるのかのディレクションは代表監督は必要なように思う。A代表においてどういうチームを作りたいのか、それを指し示すのが代表での活動。選手個人のレベルアップは各クラブで個人個人が武者修行し、集まった時にそれを発揮する。それしかないと思う。

 当然Jリーグのレベルアップも不可欠。数人の選手の部分的な武器は五輪で明らかに通用したことを踏まえれば、Jと世界の舞台(代表シーンならば)は少しは近づいたといえるように個人的には思う。自分たちが戦う日常のリーグ戦がもっと世界最高峰の舞台へとつながる道になるように、これからもJリーグと日本代表の戦いを見守っていきたい。その前に3位決定戦だけどね。

試合結果
日本 0-1(Ex) スペイン
埼玉スタジアム2022
【得点者】
ESP:115′ アセンシオ
主審:ケビン・オルテガ

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